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田中 ― One-Cut-Story ―  作者: MMPP.K
7cp

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70/76

69cs 「境界線」

 昼休みの休憩室。

 冷蔵庫のドアが開いて、誰かが弁当を取り出す。


「そのまま辞めてくれていたら経費削減になるねんけどな。ははは」


 振り向く。


 療養明け、出社してきたばかりの人に向けて、あの人が笑っている。


「冗談や、冗談」


 その人も笑う。


 口だけで。すぐに視線を落とす。

 近くの誰かも、つられて笑う。

 周囲の口角が、機械のレバーみたいに一斉に上がる。


 苦笑い、というやつだと思う。

 笑い声が、湿った空気になって肌にまとわりつく。


「まあでもさ、ハラスメントには気をつけなくちゃね」


 同じ口が、同じ調子で言う。

 間を置かない。続けて、自然に。

 誰かが「そうですね」と返す。さっきと同じ声で。


 スマホを取り出す。

 メモアプリを開く。


 日付:2026年6月3日

 場所:休憩室

 室温:24.5度

 脈拍:82


 発言:——辞めてくれていたら経費削減になるねんけどな。ははは(12:22:45)

 発言:——ハラスメントには気をつけなくちゃね(12:23:22)


 打ち込んで、保存。

 訴えられた人間を、実際に二人見ている。

 あとは、又聞きでいくつか。


 また笑いが起きる。

 同じ顔で、同じ温度で。


 奥歯の裏側で、鉄の味がした。

 もう一行、足す。


 同じ形式で、同じ距離で。

 何のためかは、よくわからない。

 ただ、残している。


 注意できない。

 そのことも含めて、境界線、越えている。


 時間:12:24

【文学フリマ大阪14】 出店参加します!

 ブース:【な-10】

 開催日:9/13(日) 12:00〜開催 

 開催地:インテックス大阪 2号館

     入場無料


 詳細はこちら → https://bunfree.net/event/osaka14/

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