65cs 「冷蔵庫のビール」
仕事を終えて、家に帰る。
今日の仕事は、そこそこちゃんとやったと思う。
思うだけで、確証はない。
帰り道で「まあええか」を、3回くらい唱えたので、たぶん大丈夫や。
ドアを開ける。
靴を脱ぐ動きが、だいたい雑になる。
誰も見てへんのに、ちゃんと脱ぐ理由も特にない。
冷蔵庫を開ける。
ビールがこっち見てる気がする。
いや見てないけど、こっちが見てるからそうなる。
缶を取る。
プルタブを起こす。
プシュッ。
この音だけは、毎日ちょっとだけ信用できる。
中身をグラスに注ぐか一瞬迷うが、やめる。
今日はそこまで丁寧な人間にはなれない。
そのまま飲む。
「グビッ」
喉を通る瞬間だけ、急に仕事のことを思い出す。
あのメール、もうちょい丁寧に返せたんちゃうか、とか。
いや今さら遅いわ、とか。
そういうのが一瞬だけ通り過ぎて、また消える。
ソファに座る。
テレビはついてる。
内容は一個も入ってこないけど、消すほどの気力もない。
この状態を「省エネ」と呼んでいいのか、「放置」と呼ぶべきかは分からない。
ただ、たぶん生きてる。
そこでふと、次の小説のことを考える。
真面目に考えてるわけじゃない。
むしろ現実逃避に近い。
でも気づいたらちょっと形になってる。
主人公が何かをしている気がする。
たぶん仕事してる。たぶん疲れてる。たぶんどうでもいいことで悩んでる。
今の自分と大差ない。
ビールをもう一口。
「グビッ」




