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64cs 「まだ、やってる?」
深夜二時。
店の看板を半分落とした頃だった。
客が入ってきた。
「まだ、やってる?」
酒の匂い。
雨。
少しだけ、疲れた声。
「一杯だけなら」
客は笑った。
「優しいねぇ」
カウンターに座る。
肘をつく。
灰皿を探して、
今どき置いてないことに気づく。
「禁煙ですか」
「一応」
「真面目だ」
「何にします?」
少し考えてから、
客は言った。
「……強めのジンリッキー」
氷を落とす。
乾いた音が、
静かな店に小さく響く。
グラスを置く。
客は、まだ飲まない。
「……ちょっと、やらかしてきた」
「そうですか」
「驚かないんだ」
「ここでやらなければ」
客が笑う。
少し嬉しそうだった。
「最低だって言われたよ」
「でしょうね」
客の目が止まる。
たぶん、
否定されると思っていた。
「でも、向こうも最低だった」
「それは別の話です」
氷が鳴る。
しばらく黙って、
それから、小さく息を吐く。
「……また来ても?」
グラスを拭く。
「店なんで」
「いや、そういう意味じゃなくて」
雨の音が、少し強くなる。
客は何かを続けかけて、やめた。
代わりに、
ジンリッキーを一口だけ飲む。
「……そっか」
少しだけ減ったジンリッキーが残った。




