59cs 「六月はいつも雨」
六月。 カーテンを開けると、雨。
頭の中で突然、あの声が鳴り響く。「君に逢う日は、不思議なくらい雨が多くてぇ~♪」
TVからもラジオからも、街のスピーカーからも、文字通り「流れまくっていた」あの頃のチャゲアスだ。 細かいこと言うとASKAだ。
イントロが鳴った瞬間、引きずり出されるのは単なる懐かしさだけじゃない。 あの全盛期の圧倒的な熱量とセットで、当時、抱えていた根拠のない不安と、へんてこな自信が、奥を突き刺してくる。
これからどうなるかも分からんのに、何者にかなれると信じていた、あのヒリつきの時代。 それとも、ただ、テレビドラマダイスキっ子だった頃。
それに比べて、今はどうだろう。 傘のバランスが悪くて右肩が濡れても、「まあいいか」とやり過ごす。 すっかり丸くなって、あの頃のエネルギーなんてどこにもない。
いや、心の片隅には燻ぶっている。
駅のホームに立つと、ずぶ濡れの若い会社員。 スマホをじっと見つめる学生たち。 次々と電車に吸い込まれていく。
綺麗な服を着て、澄ました顔をして歩いている彼らを見て、ふと思う。
同じなんじゃないだろうかと。
涼しい顔をしてスマホをいじりながら、胸の奥では「この先どうなるんやろ」という底なしの不安と、「でも負けたくない」という根拠のない自信の間で、引き裂かれそうになりながら、満員電車に耐えているんじゃないか。
頭の中のASKAは、まだ大音量で歌っている。
電車が揺れる。雨はまだ降っている。
頭の中では、まだあの声が鳴っている。 はじまりはいつも雨。
窓の外を見ている人もいるし、スマホを見ている人もいる。 ただ、たぶん誰も、自分が「ちゃんとできている側」だとは思ってない気がする。
電車は次の駅に着く。 ドアが開く。
誰かが降りて、誰かが乗ってくる。 その繰り返しの中で、たぶん今日も、何も大きくは変わらない。
はじまりはいつも雨。




