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50cs 「靴下の距離」
朝、靴下までの距離が、やけに遠く感じた。
朝、靴下をはこうとして、止まる。
「……っ」
手は届いているのに、届かない。
触れた瞬間、体の奥で何かが拒む。
それだけの動作が、続かない。
顔を洗う。椅子に座る。振り向く。
そのたびに、一拍ずつ遅れる。
世界が、薄くなっている。
触れたら、自分の方が壊れそうだ。
触れられるはずの距離にあるのに、触れない。
夜になると、さらに世界は狭くなる。
寝返りを打とうとして、途中でやめる。
やめたはずなのに、遅れて痛みだけがやってくる。
さっきの自分から届いたみたいに。
「……っ」
声にならない声が、喉の奥で引っかかる。
目が覚める。
また、覚める。
朝までに、何度も同じことを繰り返す。
眠る、という行為がどこかに落ちてしまったみたいだ。
失くしたのは、大げさな何かじゃない。
ただ、何も考えずにできていたこと。
それだけが、きれいに消えていた




