「説明しよう」
俺におはようを言う人間の顔を記憶の中を漁ってピックアップしたが、こんな眼鏡面の女はいなかったはずだ。
その為俺は質問した。
「誰ですか?」
女は人がぶっ倒れているのに良い笑顔をして答える。
「探偵さ、君が依頼者だろう?すまないが依頼は失敗だ」
俺は段階的に思い出し始めた。
診断幽霊、ピーカー、バカ死亡、平均40以下、巨乳、探偵、遅刻……
しかしここで引っかかる。
最後の記憶は俺の背中の気色悪い感触。
(……で?何がどうなってこんなことになるんだ?目の前の女の顔が意外と良いこと以外、今日の俺には良いことが起きてないが?と言うかちゃっかり「人じゃなくなった」とか言ってたよな?)
マジで意味不、今日は理解不能の権化だ……何がどうなっているのか俺には何も分からないのに、目の前の女は多分分かってる。
世の不平等はいたる所にあるのだと感じた。
「意味分かんねぇ、つまり俺はどうなったんだよ?」
女は表情を変えるそぶりも見せないまま、皮の無いような笑顔から嫌な音を出す。
「一旦事務所行こうか?」
——
矢戸田サーキットと書かれた看板を見るにここでは無さそうだなと思っていた場所に入って行った女に付いて行くと、そこには確かに探偵事務所があった。
開いていない扉が左右に2つずつあって、目の前には横に長い窓とその窓の目の前にはオーク材のオフィスデスク。
デスクの前にあるのは大手家具屋に置いてありそうな安っぽい机と、向かい合うように置かれる右のソファーに左の椅子二つ。
いかにもな探偵事務所だ、胡散臭ささえ感じる。
そんな胡散臭い事務所の胡散臭い探偵はソファーに座ると、手で向かいの椅子を指した。
当たり前のように楽そうな方へ座った探偵への疑念は止むところを知らないので、俺は立ったまま話すことにした。
「……で俺が人じゃなくなったってどういうことだ?」
探偵は態度の悪いことに足を組みながら話す。
「覚えてないか?猫の事を」
言われて思った。
(確かにいたな!猫)
「実はそれって猫というよりか人間の持つ猫への概念が実体化したものなんだ」
俺は言っている意味が分からなかったので頭を傾げた。
「猫への概念が実体化?変な薬とかやってんでしょ」
「そう思う気持ちもわかるが時に現実は違法薬物よりも奇なものだ、『人間の持つ〇〇への概念が実体化』したものを私たちの界隈では『〇〇の怪』と呼ぶ。君はさっき『猫の怪』に襲われて心臓を奴のと交換されてしまったんだ、じゃぁそれについてもう少し詳しく説明しよう」
パリィン‼ガシャァン‼
探偵がそう言った瞬間、突如今朝の巨乳大学生が窓ガラスと事務所の机を壊して俺と探偵の間に入ってきた。




