「WATER~水~」
振り向いたらそこには暗闇があった。
暗闇と言うのが一番手っ取り早い。
もっと正確に言えば暗闇とは、明るい場所がある前提で使われる言葉だ。
ならばこれは暗闇では無い。
俺が振り返った先にあったのは、黒。
それが空間になっているのかすら分からない程の表面的な黒だ。
そんでもって俺はその黒に恐れて、変化を求めてもう一度振り返った。
するとそこにはまた黒があり、その上に一匹の猫が存在してた。
猫は俺の事をいやらしく見つめながら、「ニャー」と鳴いている。
なぜ俺はこんな黒の中に居て、そんな黒に猫が居るのか、まったく意味が分からなかったがそれに関してどうこうする気力も湧かなかった。
なぜかって?そんなことは宇宙が存在する前から決まっている。
「っ!なんだよ!なんなんだこれ!はぁ~くそ!めんどくせぇ!」
グシャリ……と鳴った、視界の端で赤い何かが弾けた。
「あ、あぁ?あれ?」
俺の胸にはなぜか穴が開いていてその内側には何もなかった。
バタン!
(菜納……子……)
もちろん俺は黒の中に落ちて意識を失った。
——
子供の頃の話だ。
俺は銭湯が好きな子供で、特に家からチャリで10分程のスーパー銭湯によく行ったものだった。
俺はその頃、銭湯の中でも特段サウナにハマっていた。
サウナに意識が飛ぶ直前まで入って、水風呂に浸かった。(その後外気に当たるとかはしてなかった)
そのループは一週間に1回ペースで行われていた。
ある日、いつも通りサウナで汗と意識を流してから、水風呂に入ろうと思った。
しかしその日はいつものループから逸脱していた。
普段なら水風呂に入る前に掛水をして体を流していた。
しかしその日は掛水が大人に占領されていて子供の俺には使う勇気が湧かなかった。
仕方なく俺は掛水をせずに水風呂へ飛び込んだ。
そして俺は10分24秒間心不全に陥っていた。
その10分24秒間と言うのは面白いことに俺には時間という認識すら発生しない程、ひたすらに俺の人生の中で一番虚無な時間だった。
なぜ今そんなことを思い出したか。
なんでだろうか。
強いて理由を付けるなら、今がとても落ちつくからだろうか。
深い水の中で、揺れ動く水面をボーと眺めた事はあるか?
その時感じる落ち着きに似ている。
でもそのまま沈んでいけばいずれ底に着くものだ。
俺はまだ底に着いたことはないが、こんな浅瀬でこんな落ち着くんだ。
さぞ……心地が……
——
「おはよう、結論から言う。君は人ではなくなった」




