最悪の幕開け
その後、滞りなく全員の演説が終了した。
教室に戻ってから各自投票、翌日の朝に結果発表という流れだ。
全校生徒が先に教室に戻る中で立候補者は先生から諸連絡があったため教室に戻るのが少しだけ遅くなった。
そして教室に戻った時にはすでに全員が着席しており、腰を低くして自分の席に着こうとする。
教室の入り口から自分の席に向かう道中で、友達から小さな声で「お疲れ〜!」「俺絶対一真に投票するわ〜」など口々に嬉しい言葉が飛んでくる。
ってあれ・・・?マズくないか?
どうやら演説は好評だったようだ。もちろん、知り合いの贔屓目もあるかもしれない。クラスを代表して立候補してくれた友人の演説に対して「クソだった。もはやクソが綺麗に見えるレベルのドブカスみたいな演説だった」みたいな言葉は吐けないだろう。
だからきっとこれはあれだ。出された料理の感想を聞かれてどれだけマズくても美味しいとしか答えることのできないアレと一緒だ。
つまり本当はドブカスみたいな演説をみんな気遣って褒めていてくれただけだと納得した。
ただ、ことは念入りに一真は投票用紙に浦木姫乃ではなく、2位候補の田嶋陸の名前を記入した。
あとは神に祈るだけだ。贅沢を言えば3位、ここまでくれば最下位でも別に構わない。とにかく生徒会に入部が決まってこれ以上の負担が増えることだけは絶対に避けたい。
それから一夜が明け、翌朝。他の生徒は昨日の選挙のことなんてすっかり忘れ去ったかのように朝のHR前の時間に会話を楽しんでいる。
結局、自分の学校の生徒会長が誰になるかなんてみんなあんまり気にしてないんだなと少しだけ寂しい気持ちになってしまう。
まあでも確かに、生徒会長が誰になろうと確かに学校はあんまり変わらないのかもしれない。結局のところ学校の運営主体は生徒会ではなく先生だ。学生が携われる範囲は少ない。
そんなことを考えながらぼーっとしているとあっという間にHRの時間を知らせるチャイムが鳴り響いた。
昨日の選挙結果はHR後の8時40分に掲示されることになっている。あと20分だ。
こうして時間を意識していると時の流れが長く感じてしまう。先生の話そっちのけで時計の秒針の一挙手一投足を見守っている。秒針は常に重力に逆らいながら上下に絶え間なく針を動かし続ける。別に機械なのだから当たり前なのだが、ずっと秒針を見つめているとそんな事を勝手に妄想して秒針の登り下りを応援したくなる。
そしてその秒針が20回回った時、ようやくHRの終わりを告げるチャイムが鳴る。そして挨拶を終えてから急いで廊下の掲示板に小走りで向かった。
掲示板の前には既にHRを終えた他クラスの生徒が集まっており、少し遠目から掲示板に書かれた小さな文字を凝視する。
人波に揺られながら、必死でピントを合わせる。視力はそんなに良い方では無いのでこういう時苦労するのだ。
初めになんとなく数字を視認する事が出来た。上から順番に得票数1位・2位と続いているようだ。
そしてポーカーの絞りのようにまずは下から自分の名前を確認する。赤崎一真の一という文字が遠くから視認しやすいので名前の3文字目を確認するだけでぼやけていても自分の名前かどうかぐらい判別が付く。こんな便利な名前を付けてくれた両親に感謝だ。いっそのこと割り切って"一二三"でも良かった。
まず7位には自分の名前は無い。4文字とも画数の多そうな感じで構成されている。そして6位も、5位も4位も違った。
視線が上がるにつれて心拍数が上がる。そして運命の3位・・・にも自分の名前が無かった。3位の名前は5文字っぽいので自分では無いことが確定した。
「・・・え、マジで!?」
この時点で2位が確定してしまった。そして更に視線を上に上げると、2位の欄にボヤけながらも"浦木姫乃"と書かれているのが見えた。そしてその上に視線を上げると、ボヤけながらも存在感を放つ漢数字の"一"を発見してしまった。
「・・・マジで!?嘘であってくれ!」
藁にもすがる思いで生徒をかき分けて少しずつ掲示板に近づいていく。もしかしたらボヤけていただけで自分の見間違えかもしれない。そもそも実は上が7位で下が1位なのかもしれない。そんなあらゆる可能性を模索しながら少しずつ掲示板に近づく。
しかし、掲示板に近づくにつれて少しずつその可能性は潰されていく。そしてやがてはっきりと全ての文字を視認できる位置まで近づき、「1位 赤崎一真 得票数373票」と全ての文字をハッキリと読み取ってしまった。
「一真、おめでとう!」
今回の選挙戦の立役者、陽斗の激励の声が飛んできた。それを皮切りに他の生徒も一真の存在に気がつき応援の言葉を貰う。
「あ、ありがとう〜」と無難な返事でその場を乗り切って現実から逃れるように教室に戻った。
そして時を同じくして現実から逃げたい者がもう一人。
「う、嘘でしょ!?」
約50票差で2位当選となった浦木姫乃だ。自分が一真に負けたこと、そして一真の下である生徒会副会長になってしまったことに絶望していた。
「なんであんな奴なんかに・・・」
言葉にならない声が漏れる。
こうして、新生徒会執行部は会長と副会長が不仲という最悪の幕開けをしてしまったのだ。




