応援演説
「え〜皆さんこんにちは。赤崎一真さんの応援演説を務める2年3組の北条陽斗です」
応援演説の第一声が、生意気なまでに意気揚々としている声が、マイクからスピーカーに伝わり控え室まで聞こえてくる。
小慣れたような喋り方が鼻に付くと言えば失礼だが、彼の喋り方は到底高校生には思えないほど立派なものだった。
一切の緊張のそぶりも見せず、まるで目の前にいる友人に話しかけるかのようにスラスラと言葉を続ける。
そのあまりの饒舌に、場の空気が変わったことを一真は控え室から察知した。
「マズイ・・・マズイぞ。なんか良い雰囲気なっちゃってるよ」
狙うは3位なのに、陽斗はぶっちぎり1位の演説を始めているのだ。
「もちろん、学校を変えたいなんて都合の良いことは誰でも言えます。でも、彼だから、いや彼じゃないと変えれないと私は思います!この山下高校に新しい風を吹かせ、導いてくれるのは赤崎一真しか居ません!」
まるで中世の世に他国から宗教を普及させにきた宣教師のように彼は声高らかに演説を終えた。
そして彼が舞台袖の控え室に戻るのを大量の拍手が見送った。
そして戻ってきた陽斗は一真に対して拳を突き出し
「一真、頑張ってこい!」
ととびっきりの笑顔を向けてくる。
「お、おう!行ってくるわ!」
咄嗟に拳を突き返したが、一真の笑顔はどこか引きずっていた。
「続いて赤崎一真さんの演説です」
一息吐く間も無くすぐに演題に呼ばれてしまった。
「マズイマズイマズイ・・・このままだったら当選してしまう・・・」
一真に取っては生徒会の入部自体望んでいないため、1位で会長になっても2位で副会長になっても入部せざるを得ないと言う点ではどちらも敗北扱いだ。
台本を握り締め、打開策を考えながらステージに続く階段を登っていると、ある人と目が会った。
浦木姫乃だ。彼女は相変わらずこちらを睨むような視線をこちらに向けて来ていた。その目を見てある事を思い出した。
「そうだ、そもそも浦木姫乃が居る時点で1位はほぼ不可能だ。そしてこの場に集まっているのは各クラスから自ら立候補した選りすぐりのメンバー。なら最低でも2位確定の俺が他のメンバーに太刀打ちできるわけがない。陽斗の演説効果で4位ぐらいはあるかもしれないが1位や2位なんて夢のまた夢だ」
何を思い上がってたんだろうと、自分を律する。その瞬間に一気に気分が軽くなった。
そして軽くなった足でステージまでの階段を上がっていった。
「え〜皆さん初めまして。赤崎一真と申します。先ほどの応援演説でもありましたように、私はこの学校を変えたいと思っています。皆さんも少なからず学校に対する不満があるはずです。それは例えば部費を増やして欲しいと言ったものから、授業中の膝掛けを年中許可して欲しいなど人によって様々だと思います」
台本に、少しだけ自分の言葉を添えて言葉を紡ぎ出す。この一週間、陽斗の特訓のお陰で言葉に詰まる事なくスラスラと出てくる。
「いいか、台本を丸暗記するやつはバカだ。肝心なのは単語を覚えてその間を自分の言葉で補完することだ」
陽斗にそう教えてもらった通りに単語単語で覚えていたお陰で話の全体の流れが頭に入っている。なのでこうして今も起承転結を意識して言葉に詰まることなく演説を進める事が出来ている。
「もちろん、規則で縛られているのは理由があるからです。先生方が私たち生徒を守るために作った規則を変えることはそう簡単ではないでしょう。しかし今の時代にそぐわ無いような規則もいくつか散見されます。生徒の代表者が生徒会長なら意見を代表して伝えるのも生徒会長だと私は思います。なのでもし私が生徒会長になれば、生徒の代表者という自覚を持ち、先生方との積極的な交渉の場を設けるように尽力します」
理路整然と、そして簡潔に言葉を伝える。もっともこの言葉は自分で考えたわけではなく陽斗が考えたものだ。
まあでも、台本通りもなんか癪なので最後ぐらいは自分の言葉で話したい。
そして演説の最後をアドリブでこう締め括った。
「皆さん、色々言いましたが要はここに居る皆さんと学校を変えていきたいっていうのが私の思いです!まずは手始めに要望の多かった膝掛けを年中使えるようにしたいっていうのから変えていきたいと思いますし、もし仮に僕が落選しても膝掛けだけはなんとかお願いします!」
生徒の方からフッと笑いが漏れた。そして拍手と共に控え室に送り出された。
「最後にアドリブ決めるなんて一真成長したな〜あれ結構難易度高いぞ」
「陽斗の台本のお陰だよ。一週間ありがとう」
「なんだよ照れくさいな〜」
本番を終え、ようやくこの重圧から解放されたお陰で思わず陽斗と日常会話を繰り広げる。
もちろん周囲に配慮して声のボリュームはかなり控えめにしたのだが、それでも快く思わ無い人が目の前に居た・・・




