アイツ・・・なんなのよ!
立候補してから選挙の投票日までの一週間が過ぎるのはあっという間だった。
結局、応援演説に全力を注ぐと言う作戦になり、この一週間は毎日のように放課後教室に残り二人で練習をしていた。
「結局高校の生徒会長演説なんてウケたもん勝ち、校則を変えるって言ってみんな演説で笑わせれば票なんて簡単に集まるんだよ」
どこか得意げに話す陽斗の姿は、東京都港区のオフィスビルでMacBook片手にパワポを操作しながら喋る戦略コンサルのように見えた。
まあでも、一理ある。って言うかおそらくその通りだ。
確かにSNSでは良く生徒会長が校則を変える系の動画がバズっている。そういう生徒会長にはそれだけ需要があるんだ。
「よし、今日も練習するか」
人前でウケのいい話を話すには練習が必要だと、陽斗はここ一週間毎日放課後18時ぐらいまで残って一緒に練習をしてくれた。
正直、一真はそこまでして当選したいほどの想いはなかった。なんなら未だに三位ぐらいで落選したいとも思っている。
ただ、目の前にいるやる気に漲った目をした陽斗目の前に「俺は帰る!」なんて言える雰囲気じゃない。
こうして一週間、手渡された台本を手にして人前で演説する練習を続けていたのだ。
そして時は進み現在、長く感じた練習の日々も振り返れば一瞬で、ついに選挙の日を迎えてしまっていた。
練習初日に陽斗から手渡されたA4サイズの紙も、すっかりガサツな四つ折りの後とシワが付いてしまった。
演説と投票は七限の時間を使って行われる。そのため立候補者は六限の時間に授業をサボ・・公欠してリハーサルを行うことになっている。
五限の数学が終わり、退屈な六限の化学の授業をサボれることに意気揚々としていると、友達から「頑張れよ」と激励を飛ばされる。
普段会話しないクラスメイトからも応援を貰うと、なんだか嬉しくなる。
こうして全員に見送られながら教室を後にしたのだった。
「ヤッベ、陽斗!集合時間って七限開始の時間だったよな?」
「そうだよ。だから急かしていたのに」
「ごめん!」
※廊下を走ってはいけません
そんな注意書きが見えた気がするが、そんなことは気にせずに集合場所の体育館に向けて全力疾走する。
そして到着したのは集合時間より1分過ぎた後だった。
体育館入り口の扉はすでに閉まっており、その分厚く重たい扉を開けると静寂に包まれた体育館にガラガラと大きな音が響いた。
そしすでに集合していた他の立候補者から冷たい視線を浴びせられる。
生徒会担当の先生は意外にも普通に「お〜来たか。座れ座れ」と優しく着席を促してくれたので四面楚歌にならずに済んだ。
その様子を見ていた生徒がぼそっと愚痴をこぼす。「ああいうタイプが私一番苦手なのよね」
彼女の名前は浦木姫乃。この度の生徒会長選挙の本命だ。
そして彼女の性格的に遅刻は絶対NG。御法度だ。
それなのに、この生徒会長選挙という厳粛な場で堂々と遅刻をしてきた彼に対して苛立っていた。その不満を隣に座っている応援演説を務める日菜にこぼしていた。
その怪訝な表情は、黒いオーラに包まれており一真達からもはっきりと視認できていた。
それと同時に一真はこの時初めて浦木姫乃を認識した。
その後は先生からのありがたい話があり、それぞれ演説の順番と段取りを確認した。やったことと言えばそれだけなのに、立候補者が7人と大勢いるせいでそれだけで45分間使ってしまった。
立候補者は全部で7人。例年通り2年生の各クラスから一人ずつ立候補している。
その中でも浦木姫乃は浮いていた。もちろんいい意味でだ。
一人だけオーラが違う。凛とした表情、整った顔立ち、靡く髪の毛。
まるで芸能人のような異質な存在感を放っている。
そして先ほどからあからさまにこちらをチラチラ見ながら隣に居る友人に何やら愚痴っぽい事をこぼしている。
意外と器が小さいんだなと、その様子を見てなんだか面白おかしく思えてしまい、少しだけニヤけてしまった。
その様子は、姫乃からすると苛立っている自分を見て嘲笑っているように映ってしまい、彼女は宣戦布告だと捉えてしまった。
「アイツ・・・なんなのよ!絶対打ちのめしてやる」
一真たちの知らぬ間に、彼女の心に火を付けてしまった。




