相性最悪の2人
集合時間から遅れること約10分、慌ただしい音と共に先生が生徒会室の大きな扉をバタッと開けた。
もちろん、先生が来るまで4人の間に会話は無くただひたすらにスマホと睨めっこするだけの異様な時間が続いていた。
ひたすらに爪と液晶画面が触れる小さな音だけが響き続ける。見ての通り新生徒会メンバーの相性は最悪のようだ。
そしてようやく先生が到着したことで異様な時間に終止符が打たれた。
「悪い悪い、急な職員会議で遅くなった」
よほど急いで生徒会室に来たのか、額の汗を拭っている。そんな山下高校の生徒会担当の山下先生が一真にとっては救済の女神のように見えた。
脂が混じっているような額の汗も、息切れしているその吐息さえ愛おしく思えてしまうように。
ってダメだ!何考えてるんだ!この異様な空間に居たせいで頭がおかしくなってしまったらしい。
とにかく、こうなってしまった以上は運命を受け入れるしかない。こうして陽斗も責任を取って生徒会に入部してくれたことだし独りぼっちじゃない。そもそも浦木姫乃に関わらずとも仕事はこなせるはずだ。きっとなんとかなる。
「じゃ、早速だが自己紹介をしよう。みんなこれから一年間一緒に活動する仲間だから仲良くするように」
2人の不仲を知っている先生から釘を刺すように忠告を貰った。確かに、仲違いしたって良いことなんて一つもない。
そして自己紹介の順番は、先生の近くに座っていた浦木姫乃からになった。
「初めまして!浦木姫乃と申します!この度生徒会副会長に任命されました!精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」
ハキハキと、そう言葉を綴った。しかし一真には一見普通の挨拶に見えても隠れている真意をハッキリと見抜いていた。
まず「初めまして!」というのは一真の事をこれまで認識していなかったという牽制、そして「副会長」という単語をやや強調して喋ることによって自分が落選したことへの当て付けを行なっていた。極め付けはこのテンプレートのようでテンプレートに沿っていない挨拶だ。
普通副会長なら「会長をサポートします!」という一文を添えるのが普通だ。しかし彼女はそんな言葉を一言も発しなかった。名目上は副会長だが自分が主になって動くと言う一真への宣戦布告を、この何気ない挨拶で行ったのだ。
別に、浦木姫乃と喧嘩する気なんて毛頭無い。同じ生徒会メンバー同士で争ったって良いことは一つもない。
だけど、あからさまな煽りを受けるとどうしても返したくなってしまうのだ。
そして一真は自分の番になると当てつけのように挨拶をお返しする。
「初めまして!赤崎一真と申します。この度の選挙戦で生徒会会長に任命されました。受け取った票の重さを受け止めながら学校を良くしていくために頑張ろうと思います。不束者ですが皆さんのお力を借りつつ精一杯頑張りますのでよろしくお願いします」
姫乃の皮肉たっぷりの挨拶にお返しをするように、同じような言葉を使って挨拶を返した。
まず第一に自分が投票によって生徒会長に選ばれたことを強調した。そして自分には能力がないことを認めつつ、みんなの力を借りながら頑張りたいと言葉を綴った。
一見、この一連のやり取りは一真の考えすぎにも思える。しかし、浦木姫乃も一真と全く同じことを考えており、この一真の皮肉たっぷりの挨拶は姫乃に相当効いていた。
「あいつ・・・私の意図を理解した上で返してきたわね」
自分だけ分かるような皮肉を言葉にして相手に伝えることで、ストレス発散しようとしていたのに内容の意図を読み取られ、これだけ完璧にお返しされた。
態度には出さまいとしていたが、顔に出やすい姫乃は分かりやすく眉毛をピクピクとさせながら、行き場の無くなった怒りを表情に漏れ出させていた。
"挨拶"を終えて着席した一真は、その怒りに震える姫乃の表情を視認するに、恐怖のあまりそっと目を逸らした。
そして姫乃の応援演説を務めそのまま生徒会に入部することになった日菜と、一真の応援演説を務めて責任を取って生徒会に入部させられた陽斗の無難な挨拶が終わり、話のバトンは山下先生に戻された。
「まあ、顔合わせも済んだことで、早速みんなに仕事を頼みたい」
山下先生は、姫乃と一真の挨拶という皮を被った応酬に目を瞑りながら一枚の紙を取り出した。
「今度市報の取材依頼が来ててな、なんでも現役高校生が選ぶおすすめスポットを紹介したいそうだ。頼めるな」
雑誌取材か〜面白そうだな〜と一真は二つ返事で承諾した。
他のメンバーも特に断る理由はなかったため承諾、詳細を見るため先生の持っていた紙を受け取る。
ちなみに市報とは自治体の広報誌であり、山下高校のある鳥取市では月に一回、全家庭に配布されている。
拝啓 山下高校生徒会執行部御担当教諭様 と丁寧な書き出しから始まった文章は、宛先から分かるように先生宛の文章らしい。




