【第9話】ドワーフの襲来と取扱説明書。お礼はミスリル製の三節棍!?
ドワーフの襲来と取扱説明書。お礼はミスリル製の三節棍!?
自警団の団長ボルグを『三節棍』と合気道でねじ伏せてから数日。
ポポロ村における「マモル先生」の評判は、算術の知識だけでなく、圧倒的な武術の腕前を持つ謎の凄腕として、村中に知れ渡ることとなった。
午前中の集会所での授業を終え、俺はボロ屋に偽装したマイホームへと帰ってきた。
「お帰りなさい、マモル! 今日の授業もお疲れ様!」
玄関を開けると、すっかり俺の家のキッチンに馴染んだフィリアが、エプロン姿で出迎えてくれる。
「ただいま、フィリア。今日もいい匂いがするな」
「今日はシープピッグのお肉を使った野菜炒めだよ! IHの火力調整にもすっかり慣れちゃった!」
平和だ。
結婚を前提に買ったマイホームで、エプロン姿の美少女が手料理を作って待ってくれている。婚約破棄された日本での絶望が嘘のような、夢の異世界スローライフ。
だが、そんな平穏な時間は、突如として破られた。
「たのもぉぉぉぉぉぉっ!!」
ドンドンドンッ!! と、玄関のドアが壊れんばかりの勢いで叩かれた。
「ひゃっ!?」
フィリアが驚いてお玉を落としそうになる。
「なんだ、なんだ? 盗賊の襲撃か?」
俺が警戒しながら玄関のドアを開けると、そこに立っていたのは、俺の腰の辺りまでしか背丈がないが、横幅は丸太のように太い、立派な髭を蓄えた小柄な男だった。
分厚い革のエプロンを身につけ、手には大きなハンマーを持っている。ファンタジーの定番、ドワーフだ。
「お前さんが、あのボルグを棒っきれで転がしたっていう『マモル先生』かい!」
ドワーフの男は、俺をギロリと睨みつけて大声を上げた。
「あぁ、俺が加藤真守だが……あんたは?」
「ワシはドンガン地下帝国の鍛冶職人、ガンツじゃ! 村の自警団に武具を卸しとる! ボルグの奴を倒したその変わった武器、ワシに見せ……て……?」
威勢よく怒鳴り込んできたガンツだったが、開いたドアの奥——ピカピカの大理石調の玄関ホールと、その奥に続くフローリングの廊下を見た瞬間、ピタリと動きを止めた。
「……なんじゃ、この内装は。外から見たらただのツタまみれのボロ屋じゃったのに……」
ガンツはゴクリと唾を飲み込み、靴を脱ぐのも忘れてズカズカと上がり込んできた。
「あ、ちょっと! 土足厳禁なんだけど!」
俺の制止も聞かず、ガンツはリビングのドアを押し開けた。
「なんじゃあああああああああっ!? この超絶魔導建築はァァァァァッ!!」
ガンツの鼓膜が破れんばかりの絶叫が、24畳のリビングに響き渡った。
「壁も床も、寸分の狂いもなく平らに加工されとる! なんだこの巨大な漆黒の水晶板は! こっちの白い箱(冷蔵庫)からは、氷魔法の冷気が漏れ出しとるぞ!? これほどのアーティファクト、ドンガンの大工房でも造れんわい!」
鍛冶と建築のエキスパートであるドワーフの目から見れば、現代日本の工業製品や建築技術は、まさに神の御業に等しいオーバースペックの塊だったらしい。
ガンツは目を血走らせ、冷蔵庫のパッキンを撫で回し、IHクッキングヒーターのフラットなガラス天板に頬ずりし始めた。
「美しい……! 炎の魔石を使わずに、どうやって熱を出しておるんじゃ!? まさか、目に見えぬ雷の精霊でも閉じ込めておるのか!?」
「あー、まぁ、電気(雷みたいなもの)の力で動いてるんだよ」
「でんき……! 素晴らしい! マモルよ、ワシにこの家の構造を全て教えてくれ! 頼む!!」
こうして、俺の平穏なマイホーム生活は、ドワーフの職人魂によって盛大に侵略されることとなった。
***
それからというもの、ガンツは毎晩のように俺の家に上がり込んでくるようになった。
「マモル! 昨日の『すいせんといれ』の水の流れ方じゃが、あの曲がった管にはどういう意味があるんじゃ!?」
「マモル! この『れいぞうこ』の裏にある黒い網の材質はなんじゃ!?」
夜な夜な、スケッチブックのような羊皮紙と木炭を手に、目を爛々と輝かせたガンツが質問攻めにしてくる。
最初は「異世界の技術交流も悪くないか」と付き合っていた俺だったが、三日も続くとさすがに寝不足で限界が近づいていた。
「(……いくらなんでも、面倒くさすぎる。このままだと過労死するぞ)」
俺はため息をつき、書斎からレポート用紙とボールペンを持ってきた。
俺は工業系の人間ではないが、一般的な家電の仕組み(冷蔵庫の気化熱を利用したサイクルや、トイレの水封の原理など)くらいなら、図解入りで大まかに説明できる。
俺は数時間かけて、記憶を頼りに『現代家電・簡易取扱説明書(ガンツ用)』を書き上げた。
文字は異世界の言葉(言語理解スキルの恩恵で書くこともできた)で記し、要所要所に分かりやすい図を添えた。
「ほら、ガンツ。お前さんが毎日聞いてくる家電や設備の仕組み、大体この紙にまとめといたから。これ読んで、もう夜はゆっくり寝かせてくれ」
俺が数枚のレポート用紙をバサッと渡すと、ガンツは訝しげにそれを受け取った。
「なんじゃこれは……ふむふむ。……なっ!? これは、冷媒ガスの循環図!? トイレの悪臭を防ぐ水封構造の設計図だとォ!?」
紙をめくるたびに、ガンツの目がどんどん見開かれていく。
ドワーフの優れた頭脳は、俺の拙い図解からでも、現代技術の真髄を的確に読み取っているようだった。
「おお……おおぉぉ……っ!」
ガンツは突然、ポロポロと大粒の涙を流し始めた。
「ど、どうしたんだよ急に」
「マモル……お前さん、これほどの国宝級の秘伝の書を、こんなにあっさりと……! ワシらドワーフが何百年かけても辿り着けぬ叡智が、ここに記されておる……!!」
ガンツはレポート用紙を胸に抱きしめ、俺に向かって深々と頭を下げた。
「すまんかった、マモル! ワシは自分の好奇心にかまけて、お前さんの厚意に甘えすぎておった! この御恩は、ワシの職人魂にかけて必ず返す!!」
そう叫ぶと、ガンツは嵐のようにマイホームから飛び出していった。
「……嵐のようなおっさんだったな」
「あはは……でも、これでやっとマモルもゆっくり眠れるね」
隣で見ていたフィリアが、苦笑いしながら温かいお茶を淹れてくれた。
***
それから数日後のこと。
ガンツが再び、大きな細長い木箱を抱えて俺の家にやってきた。
今回は土足で上がり込むこともなく、玄関で綺麗に靴の泥を落としている。
「マモル、いや、マモル先生! 先日の『とりあつかいせつめいしょ』のお礼を持ってきたぞ!」
「お礼? いや、あれは俺がゆっくり寝たかっただけで……」
ガンツはニカッと笑い、木箱の蓋を開けた。
中には、黒いベルベットの布に包まれた、銀色に鈍く輝く三本の棒と、それを繋ぐ精巧な鎖が収められていた。
「こ、これは……三節棍!?」
「いかにも! あんたが持っておった木の武器(白樫の三節棍)を見せてもらって、ワシの全技術を注ぎ込んで打たせてもらった特注品じゃ!」
俺は息を呑み、その三節棍を手に取った。
ヒヤリとした金属の冷たさがあるが、見た目の重厚さに反して、驚くほど軽い。
しかも、手にしっくりと馴染む。
「素材はドンガン地下帝国の最深部でしか採れん『極上ミスリル』じゃ! 軽くて、鋼の何倍も硬い。しかも、闘気を流し込めばその威力は跳ね上がる! 名付けて『ミスリル・ストライカー』じゃ!」
「す、すごい……。振った時のバランスが、俺が使ってた木のものと完全に一致してる。いや、それ以上だ」
俺が軽く手首を返すと、ミスリルの棍は空気を切り裂き、鋭い音を立てた。鎖の連結部分も滑らかで、引っかかりが一切ない。
職人の執念と技術の結晶だ。
「えへへ、凄いねマモル! これで自警団の人たちよりも強くなっちゃうかも!」
フィリアも目を輝かせて喜んでくれている。
「ガンツ……こんな高価なもの、本当に貰っていいのか?」
「当たり前じゃ! お前さんがくれた叡智に比べれば、こんなもの安いもんじゃわい! それに、強い武器は強い使い手に持たれるのが一番幸せなんじゃからな!」
ガンツは満足げに豪快な笑い声を上げた。
「ありがとう、ガンツ。大切に使わせてもらうよ」
俺はミスリルの三節棍を握りしめ、深く感謝した。
ボロ屋を解体して得たマイホーム。
そして、そのマイホームの技術をほんの少し見せたことで手に入れた、異世界最高峰の武器。
このポポロ村での俺の生活は、着実に、そして劇的にレベルアップしていくのだった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「ドワーフのガンツ、現代家電の仕組みに感動して大号泣w」
「取扱説明書が異世界では『国宝級の秘伝書』扱いは熱い!」
「お礼にミスリル製の三節棍ゲット! 主人公の戦力が大幅アップ!」
と少しでもワクワクしていただけましたら、
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皆様の評価とブクマが、マモル先生の新たな装備を支える最高の素材です!
次回もどうぞお楽しみに!




