【第8話】自警団の洗礼と、三節棍の舞。マモル先生の合気道無双!
自警団の洗礼と、三節棍の舞。マモル先生の合気道無双!
ポポロ村の集会所で「マモル先生」として算術の授業を持つようになってから、俺の生活リズムはすっかり安定していた。
午前中は子供たちに九九や筆算を教え、午後はマイホームで自分の時間を過ごす。
光熱費ゼロ、家賃ゼロ。食事は日本から持ち込んだ備蓄と、村から謝礼としてもらう新鮮な野菜(時々、叫ぶ大根や喋るキャベツが混ざっているが)で十分に事足りている。
その日の午後。
俺はマイホームの2階にある、4.5畳の書斎に入っていた。
壁一面の作り付け本棚には、大学時代から読み漁った数学の専門書と並んで、俺のもう一つの趣味である「合気道」の関連書籍や武具が綺麗にディスプレイされている。
「おっ、あったあった。無事に収納されてたな」
俺は棚の奥から、布袋に包まれた細長い物体を取り出した。
袋の紐を解くと、中から現れたのは三本の硬い樫の木(白樫)を金属の鎖で繋ぎ合わせた特殊な武具——『三節棍』だ。
合気道の基本は徒手空拳(素手)だが、武器術として木刀や杖を用いることも多い。俺はその中でも、変幻自在な軌道を描くこの三節棍に魅了され、学生時代から密かに鍛錬を積んでいたのだ。
「少し、体を動かしておくか」
俺はジャージ姿のまま三節棍を手に取り、1階の窓から庭へと出た。
外側からはボロ屋に見えるようツタや廃材でカモフラージュしているが、内側の庭は綺麗に芝生が手入れされたままの広々としたプライベートスペースだ。
俺は大きく深呼吸をし、両手で三節棍を構えた。
カチャリ、と鎖が微かに鳴る。
「——ふっ!」
鋭い呼気と共に、手首のスナップを利かせて右手の棍を振り抜く。
ヒュンッ!!
空気を切り裂く鋭い風切り音が鳴った。そのまま遠心力を利用し、頭上で旋回させてから左手の棍で仮想の敵の横面を打つ。さらに、手元に引き戻す反動を利用して、三本を一直線に伸ばした状態での強烈な突き。
「しゅっ、はっ!」
打つ、払う、絡め取る、突く。
三節棍はその名の通り三つの節に分かれているため、防御にも攻撃にも使える上、相手の武器を鎖で絡め取るといったトリッキーな動きが可能だ。
久しぶりの演武に夢中になり、じんわりと汗をかいてきたその時だった。
「……すごーい……!」
不意に背後から声が聞こえ、俺はピタリと動きを止めた。
振り返ると、庭の端っこで、カゴを抱えたフィリアが目をキラキラさせてこちらを見つめていた。カゴの中には、お裾分けの太陽芋(さつまいもとじゃがいものハーフのような芋)がゴロゴロと入っている。
「フィリア、来てたのか」
「うん! お芋を持ってきたんだけど……今の、すごくカッコよかった! マモル、そんな不思議な武器も使えるんだね!」
フィリアは小走りで駆け寄ってくると、俺の持っている三節棍を興味深そうに覗き込んだ。
「あぁ、これは三節棍っていってな。俺の故郷の武器なんだ。少し体がなまってたから、素振りをしていたところでね」
「あの盗賊さんを投げ飛ばした時も凄かったけど、武器を持ったマモルはもっと凄いよ! 流れるみたいで、全然隙がなかった!」
ベタ褒めされて、俺は思わず照れ笑いを浮かべた。
すると、フィリアが何かを思いついたようにポンッと手を叩いた。
「ねぇ、マモル! 今から自警団の訓練場に行ってみようよ!」
「え? 自警団の?」
「そう! マモルが先生として頭がいいのは皆知ってるけど、戦ってもこんなに凄いんだってところを、ちゃんと紹介したいの。村を守る人たちと仲良くしておいて損はないしね!」
フィリアは俺の腕にギュッと抱きつき、上目遣いでおねだりをしてくる。
この純情無垢な物理的接触に、俺の理性がいつもグラグラと揺さぶられるのだが、本人は全く無自覚なのが恐ろしい。
「わ、わかった。行くから、そんなにくっつくな。汗かいてるし」
「えへへ、やったー! じゃあ行こ!」
こうして俺は、三節棍を持ったまま、フィリアに引っ張られるようにして村の自警団の訓練場へと向かったのだった。
***
ポポロ村の自警団訓練場は、村の外れにある広い土の広場だった。
木の人形に向かって剣を振るう者や、重たそうな石を持ち上げて筋力トレーニングをする者など、屈強な若者たちが汗を流している。
ただ、彼らの装備はファンタジーな剣だけでなく、ドワーフ製の魔導ライフルなども立て掛けられており、独特のカオスな雰囲気を醸し出していた。
「あ、団長! 訓練お疲れ様です!」
フィリアが広場の中央にいた大柄な男に向かって手を振った。
「おう、村長のところの嬢ちゃんか。ん? その隣にいるヒョロい兄ちゃんは……あぁ、噂の『マモル先生』かい」
男が振り返った。
筋骨隆々の肉体に、所々に傷が刻まれた防弾チョッキ風の革鎧を着込んでいる。背中には身の丈ほどもある巨大な両手斧を背負っていた。
彼が自警団の団長、ボルグだ。
「ええ。マモル先生です。今日はね、マモルの凄さを皆に見てもらおうと思って連れてきたの!」
フィリアが胸を張ってドヤ顔をする。
だが、ボルグ団長はつまらなそうに鼻を鳴らした。
「あんた、算術の先生なんだろ? どうしたんだい、こんな血生臭い場所に。ここに算術を教わるようなガキは居ねぇぜ?」
「いえ、フィリアに誘われて見学に来ただけです。邪魔をするつもりは……」
俺が一歩下がろうとすると、フィリアがムッとして前に出た。
「ちょっと団長、言いすぎ! マモルは算術だけじゃなくて、武術だってすっごく強いんだから! 盗賊なんて指一本で投げ飛ばしちゃったんだよ!」
「何ィ?」
ボルグの太い眉がピクリと動いた。
周囲で訓練していた団員たちも、何事かと手を止めて集まってくる。
「盗賊を投げ飛ばしただと? ハッ、どこのチンピラか知らねぇが、そんなのは自警団(俺たち)にとっちゃ朝飯前だ。……おい、先生よォ」
ボルグは背中から巨大な斧を引き抜き、ドスン! と地面に突き立てた。
「嬢ちゃんがそこまで言うなら、あんたのその『強さ』とやら、少し見せてもらおうか!? まさか、武器の持ち方も知らねぇとは言わせねぇぞ?」
ボルグの瞳に、明らかな好戦的な光が宿る。
周囲の団員たちも「やめとけよ団長、相手は先生だぜ」「でも男なら証明してみせろ!」と囃し立て始めた。
(……はぁ。どこの世界にも、こういう鼻息の荒い奴はいるもんだな)
俺は内心でため息をついた。
大学の合気道部でも、新入生や他武道の経験者が道場破りまがいに「合気道なんて実戦で使えるのかよ」と挑んでくることがよくあった。そういう血の気の多い相手の対処法は、一つしかない。
頭を冷やさせることだ。
俺は手に持っていた三節棍を両手で軽く握り直し、ボルグに向かって薄く笑ってみせた。
「(少し頭に血が上ってるな……よし)——お前みたいな鼻っ柱をへし折るのも、俺の『教育』の一環かもしれないな」
「なんだとォ!?」
俺のあからさまな挑発に、ボルグの顔が怒りで真っ赤に染まった。
「言うじゃねぇか、ヒョロガキが! 怪我しても泣くんじゃねぇぞ!!」
ボルグが咆哮を上げ、凄まじい踏み込みで距離を詰めてきた。
ドォン! という足音と共に、大斧が空気を引き裂きながら、俺の肩口を狙って斜め上から振り下ろされる。
闘気による肉体強化が乗っているのか、その速度と威力は常軌を逸していた。まともに受ければ、鉄の盾すらへし折られるだろう。
——だが、直線的で大振りな攻撃など、合気道からすれば『どうぞ捌いてください』と言っているようなものだ。
「ふっ!」
俺は斧が当たる直前、最小限の動き(体捌き)で半歩だけ斜め前へと踏み込み、斧の軌道からスッと身をかわした。
『入身』の動きだ。
「なっ!?」
空を切った大斧の勢いに引っ張られ、ボルグの体勢がわずかに前へと崩れる。
すかさず、俺は右手で持っていた三節棍の先端を振るい、鎖の部分をボルグの大斧の柄にクルリと巻き付けた。
カチャッ!
「しまっ……!?」
斧を絡め取られたボルグが力任せに引き抜こうとする。
だが俺は、彼が「引く」力に逆らわず、むしろその引く力に同調するようにして、俺自身の体重を乗せてグンッと手前に引き込んだ。
「うおおおっ!?」
完全に重心を前に奪われたボルグは、たまらず前のめりによろめいた。
その瞬間。
俺は下段に構えていた三節棍の逆の端で、ボルグの足首(ふくらはぎの裏)を容赦なく真横に払い払った。
「がはっ!!」
足をすくわれ、空中に放り出される巨体。
ボルグは背中から激しく地面に叩きつけられ、土煙が舞い上がった。
だが、合気道の制圧はこれで終わりではない。
俺は倒れたボルグの右腕を取り、手首を極端な角度に曲げてロックする『二ヶ条(二教)』の関節技をピタリと極めた。
少しでも動けば、手首がへし折れる完璧な捕縛体勢だ。
「ぐっ……!? い、いてててててっ!!」
顔を土に擦り付けながら、ボルグが悲鳴を上げる。
「どうだ、団長。まだ続けるか?」
俺が涼しい顔で手首を少しだけ捻り込むと、ボルグは空いている方の手で地面をバンバンと叩いた。
「ま、参った! 降参だ! 折れる、手首が折れちまう!!」
俺がスッと技を解いて立ち上がると、訓練場は水を打ったように静まり返っていた。
あのポポロ村最強のボルグ団長が、魔法も闘気も使わない新参者の教師に、ほんの数秒で、しかも無傷でねじ伏せられたのだ。
静寂を破ったのは、パチパチパチ! という元気な拍手の音だった。
「マモル、すごーい! 流石っ!!」
満面の笑顔で、フィリアがぴょんぴょんと跳ねて喜んでいる。
その声にハッとしたように、周囲の団員たちも次々と声を上げ始めた。
「だ、団長が子ども扱いされたぞ……!」
「すげぇ……おい先生! 今のどうやったんだ!? 斧に触れもしなかったぞ!」
ショートカットの女性団員・リナが目を丸くして言った。
「団長が負けるなんて……マモル先生、頭がいいだけじゃなくて、本当に強かったんだな」
フィリアはエッヘンと誇らしげに胸を張り、「でしょ? マモルは凄いんだから!」と、まるで自分のことのように自慢している。
地面から身を起こしたボルグは、手首をさすりながらバツの悪そうに俺を見た。
「……痛ぇ。なんだよあの動き、まるで力が吸い込まれたみたいだったぜ。……悪かったな、先生。あんたの実力、見くびってた」
「いや、こっちも挑発して悪かった。それに、団長のあの一撃は凄まじかったよ。まともに受けてたら、俺の腕ごと折られてた」
俺が手を差し出すと、ボルグはニカッと笑ってその手を握り返してきた。
「へへっ、いい腕してやがる。マモル先生! 今度、俺たち自警団にもその不思議な武術を教えてくれよ!」
「あぁ、俺でよければ」
こうして俺は、算術の知識だけでなく、その圧倒的な武術(合気道)の実力によって、ポポロ村の荒くれ者たちからも完全な信頼と敬意を勝ち取ったのだった。
「ふふ〜ん♪ やっぱり私の目に狂いはなかったわ!」
隣で鼻高々に腕を組むフィリアの笑顔を見ながら、俺は「やれやれ」と小さく笑ったのだった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「マモル先生、力任せの相手を合気道で圧倒するのカッコいい!」
「フィリアちゃんのドヤ顔が想像できて可愛いw」
「三節棍の描写が良き! 異世界でも物理チート!」
と少しでも胸がスカッとしていただけましたら、
ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、作者のモチベーションが三節棍のように変幻自在に跳ね上がります!
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皆様の評価とブクマが、マモル先生の新たな技を生み出す最高のエネルギーです!
次回もどうぞお楽しみに!




