【第7話】元・数学教師、異世界の教壇に立つ! 現代教育チートで村の子供たちの心を鷲掴み!?
元・数学教師、異世界の教壇に立つ! 現代教育チートで村の子供たちの心を鷲掴み!?
ボロ屋にカモフラージュされたマイホームでの生活が始まってから数日が経過した。
フィリアはすっかり、俺の家に入り浸るようになっていた。
……いや、「入り浸る」という表現は少し違うかもしれない。朝、俺が目を覚ましてリビングに行くと、すでにフィリアがエプロン姿でキッチンに立ち、朝食の準備をしてくれているのだ。
「あ、おはようマモル! 今日はサンライス(米麦草)のお粥と、月見大根のお味噌汁だよ!」
「おはよう、フィリア。いつも悪いな。俺のキッチンなのに、すっかりフィリアの方が使いこなしてるじゃないか」
フィリアはIHクッキングヒーターの火加減調整ボタンをピピッと巧みに操作しながら、嬉しそうに笑った。
「だって、火の魔法石を使わなくても、指先一つで熱が調整できるんだもん。お料理がすごく楽しいの! お水もひねるだけで綺麗なお水がいくらでも出るし……マモルのお家、最高だよ!」
女神のチートで電気も水道も無限仕様のため、フィリアにとってこのキッチンは夢のような空間らしい。
二人で向かい合って朝食を食べ、食後はソファでゆっくりとお茶を飲む。
新婚生活か、と錯覚してしまいそうになるほど幸せな時間だが、俺の中には一つ、確かな焦りがあった。
「(……いくら家とインフラがタダでも、食費や生活費を稼ぐためには、働かないとな)」
日本から持ち越した食材(段ボール数箱分)にも限界があるし、いつまでも村長一家にご飯をご馳走になっているわけにはいかない。
真面目な日本人としての勤労意欲が、俺を突き動かしていた。
「ねぇ、マモル。難しい顔してどうしたの?」
食後の後片付けを終えたフィリアが、小首を傾げて俺の顔を覗き込んできた。
「あぁ……いや、この村で何か俺にできる仕事がないかと思ってな。いくら家があっても、働かないと食べていけないだろ?」
「仕事? そうだね……マモルは強いから、自警団に入るとか、冒険者として森に魔物を狩りに行くとか?」
「うーん……俺の武術は対人戦(護身)がメインだからなぁ。それに、魔物を狩るってのもイマイチ実感が湧かないというか」
俺は元々、争いごとを好むタイプではない。合気道も「戦わずして制す」が理念だ。
「そっか。じゃあ、マモルは戦うこと以外で、何が得意なの?」
「得意なこと……」
俺は少し考えてから、真っ直ぐに答えた。
「『数学』……数の計算や、図形の性質を考えることだな。前の世界では、それを子供たちに教える『教師』をしていたんだ」
「すうがく? かずのけいさん……」
フィリアは目を丸くして、パチパチと瞬きをした。
「先生だったの!? 凄い……! 数の計算を教える仕事なんて、王都の貴族様の学校か、大きな商業ギルドの幹部くらいしかいないよ!」
「え? そうなのか?」
「うん! ポポロ村の子どもたちも、教会の神父様から少しだけ文字と簡単な計算は教わるけど……足し算と引き算くらいまでだもん。掛け算とか、広い土地の面積を測るのとかは、専門の測量士さんやドワーフの職人さんじゃないと分からないって、パパが言ってた」
なるほど。この世界の文明レベル(火縄銃以前の魔法文明)を考えれば、高度な数学教育は一部の特権階級や専門職に限られているらしい。
ポポロ村は三国の緩衝地帯であり、密輸や交易の要所でもある。計算ができる人材は、喉から手が出るほど欲しいはずだ。
「ねぇマモル! それ、パパに言ってみようよ! 村の子どもたちに、マモルのその『すうがく』を教えてもらえないかな?」
「俺が? まぁ、教えるのは本職だったし、やぶさかではないけど……」
フィリアは俺の手を引き、弾んだ足取りで村長宅へと向かった。
***
「——おお! マモル君が、村の子供たちの教師になってくれるというのか!?」
村長宅で事情を話すと、ラミラス村長はバンッと机を叩いて立ち上がった。
「本当ですか、マモルさん? 子供たちだけでなく、村の若者たちにとっても、計算ができるようになるのは素晴らしいことです。ポポロ村の未来が明るくなりますわ」
シャーラさんも手を合わせて喜んでくれている。
「ええ、俺で役に立てるなら。ただ、異世界の……アナスタシア世界の度量衡(長さや重さの単位)に少し慣れる必要はありますが、基本的な算術の考え方は同じはずです」
「単位なら、我々が教えよう! いやぁ、助かる。最近、ドワーフとの取引や、宿屋の帳簿づけで計算ミスが多くて困っていたのだ。よし、早速明日の午前中から、村の集会所を教室として使ってくれ!」
こうして、俺はトントン拍子でポポロ村の「数学(算術)教師」として教壇に立つことになったのである。
***
翌朝。
ポポロ村の集会所には、10歳から15歳くらいの子供たちが二十人ほど集まっていた。
皆、興味津々といった顔で俺を見つめている。
驚いたことに、部屋の後ろの方には、ラミラス村長をはじめ、自警団の若い団員たちや、宿屋のおかみさんなど、大人の姿もチラホラと見えた。どうやら「新しい先生の計算術」を見学しに来たらしい。
俺は集会所の前に置かれた、黒板のようなスレート板(魔導石の粉を固めたもの)の前に立った。
手には、チョーク代わりの白い石膏の欠片。
「えー、今日から皆さんに算術……こっちの言葉で言うと『数学』を教えることになった、加藤真守だ。マモル先生と呼んでくれ」
「「「マモルせんせー!」」」
子供たちが元気よく挨拶を返してくれる。どこの世界でも、子供の素直さは変わらないな。
「よし。じゃあ、まずは皆がどこまで計算できるか確認したい。……たとえば、リンゴが1箱に7個入っている。それが8箱あったら、リンゴは全部で何個になる?」
俺が問いかけると、子供たちは一斉に指を折り始めた。
「えっと、7足す7は14でしょ……それにまた7を足して……」
「わかんない! 指が足りないよ!」
後ろで見学している大人たちも、ブツブツと呟きながら頭を悩ませている。
やはり、「掛け算」の概念が一般的に普及していないのだ。
「なるほど。足し算でやろうとすると、時間がかかるし間違えやすいよな。そこで、俺の故郷で使われている魔法の呪文……『九九』という計算方法を教えよう」
「くく?」
「魔法の呪文!?」
子供たちの目がキラキラと輝き出した。
俺はスレート板に、数字の表(九九の表)を素早く書き込んでいった。
「いいか? 7個のものが8つある時は、7×8(しち・はち)と考える。呪文の答えは……『五十六』だ。つまり56個になる」
「しち・はち……ごじゅうろく?」
「そうだ。この九九の呪文を覚えれば、どんな数でも一瞬で計算できるようになる。今日はまず、1の段から3の段までの呪文を歌うように覚えてみよう」
俺は、日本の小学校で誰もが経験する「九九の暗唱」のリズムを教え始めた。
「いんいちが、いち! いんにが、に! さぁ、皆も声に出して!」
「いんいちが、いち! いんにが、に!」
子供たちは、新しい歌を覚えるように、楽しそうに九九を唱え始めた。
リズムに乗せて覚えるという日本の教育メソッドは、異世界の子供たちにも抜群の効果を発揮した。あっという間に3の段までを暗唱し始め、簡単な掛け算の答えを即座に出せるようになったのだ。
「す、すごい……! 今まで紙に書いて必死に足し算をしていた計算が、頭の中で一瞬で……!」
「これが『マモル先生』の計算術……! なんて恐ろしい呪文なんだ!」
後ろで見ていた自警団の若者たちや村長が、戦慄したように震えている。
いや、ただの掛け算の九九なんだけどな。
「よし、よくできた! みんな筋がいいぞ」
俺は子供たちを褒めながら、心の中で確かな手応えを感じていた。
言葉が通じるなら、俺の「教える技術」は異世界でも十分に通用する。
合気道で相手の動きを観察し、的確に導くように。
数学で複雑な問題を分解し、分かりやすく解き明かすように。
俺はポポロ村の教師として、この世界での確かな「自分の居場所」を見つけたのだった。
教室の片隅では、手伝いに来てくれていたフィリアが、「やっぱりマモルはすごい!」と言わんばかりの誇らしげな笑顔で、俺に向かってブンブンと手を振っていた。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「異世界で掛け算の『九九』が魔法の呪文扱いは鉄板で面白い!」
「子供たちを教えるマモル先生、カッコいい!」
「フィリアちゃんの誇らしげな笑顔に癒やされる!」
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