【第6話】ボロ家カモフラージュ作戦と、癒やしのティータイム
ボロ家カモフラージュ作戦と、癒やしのティータイム
村長一家を連れたマイホームの見学ツアーは、まさに阿鼻叫喚(良い意味で)の連続だった。
水洗トイレに自動のフタ、冷蔵庫、ジャグジー付きのお風呂。どれも彼らの常識を根底から覆すオーバーテクノロジーの嵐に、三人はすっかり腰を抜かし、ふかふかのソファにへたり込んでいた。
「いやはや……驚いた。驚きすぎて、寿命が十年は縮んだ気分だ」
ラミラス村長が、額に滲んだ汗を手の甲で拭いながら言う。
「お父さん、十年縮んでもまだ四十は生きられますから大丈夫ですよ。それにしても、本当に神様の御殿のようなお家ですね……」
シャーラさんも、まだ夢心地といった様子でリビングを見回している。
「マモル、ここ凄いね。私、ずっとここに住みたいくらい……」
フィリアに至っては、ソファのクッションを抱きしめたまま、うっとりとした顔で頬擦りしていた。
だが、冷静になったラミラス村長が、ふと真面目な顔つきになって腕を組んだ。
「……しかし、マモル君。この家は素晴らしいが、一つ大きな問題がある」
「問題、ですか?」
「あぁ。外観があまりにも異質で、目立ちすぎる」
村長の指摘に、俺はハッとした。
確かに。木や石、茅葺き屋根が並ぶ素朴なポポロ村の風景の中に、突如として白とグレーのスタイリッシュなRC造(鉄筋コンクリート)の2階建てがドカンと出現したのだ。浮いているどころの騒ぎではない。
「ポポロ村は三国の緩衝地帯だ。各国の商人だけでなく、密偵やならず者も頻繁に出入りする。こんな見たこともない魔導建築が村の中心にデカデカと建っていれば、『中に莫大な財宝や古代兵器が隠されているに違いない』と勘違いされ、夜な夜な賊に狙われることになりかねん」
「うわ……言われてみれば、その通りですね」
俺は窓の外をチラリと見た。確かに、今は村長の権限で周囲の人払いをしてくれているが、いずれ噂が広まるのは時間の問題だ。
「せっかくの素晴らしい家だが、何か……こう、外から見えないようにする幻惑魔法のようなものは使えないのか?」
「幻惑魔法ですか……俺自身は魔法を使えないんですが、ちょっと待ってください」
俺は再び空中に『スキル』の電子ボードを呼び出した。
【マイホーム】の機能の中に、何か役立ちそうなものはないか探す。
すると、『ポイント交換』のタブの中に【日曜大工・外構セット】という項目を見つけた。
「(『擬装用ツタ(ポイント:10)』『ウェザリング(汚し塗装)スプレー(ポイント:5)』『フェイク廃材(ポイント:10)』……おっ、これだ!)」
ボロ屋を解体したおかげで、ポイントはまだ15,000近く残っている。俺はポンポンと擬装用のアイテムを大量に購入(実体化)した。
ポンッ、ポポンッ!
リビングの床に、魔法の光と共に大量の造花のツタや、謎のスプレー缶、古い木材のパネルなどがドサドサと出現する。
「な、なんだこれは?」
「マモル、何か出すって言ってたけど……草?」
「村長の言う通り、このままだと目立ちすぎる。だから、外観を元の『ボロ屋』っぽく偽装しようと思うんです。名付けて、マイホーム・カモフラージュ作戦です!」
「なるほど! 外見だけを前の空き家のように見せかけるのね!」
フィリアが目を輝かせて立ち上がった。
「パパとママは、ご近所の人に『あの空き家、旅人のマモルさんが自力で少し修繕して住むことになった』って説明しておいてくれないかな? 少し形が変わっても、修繕したって言えば誤魔化せるはずだ」
「ふむ、そういうことなら任せておけ。村の者への根回しは私の得意分野だからな」
ラミラス村長とシャーラさんは、村内の噂をコントロールするために外へと出て行った。
「よし、じゃあ俺は外壁の偽装を始めるか……」
「マモル! 私も手伝うよ!」
フィリアが腕まくりをして、やる気満々の笑顔を向けてくれた。
「いいのか? 結構面倒な作業だぞ」
「恩人だもん! それに、私もこのお家、隠しておきたいし。悪い人たちに狙われたら嫌だもの」
「……ありがとう、フィリア。じゃあ、まずはこのツタを、壁の隙間や窓の周りに貼り付けていってくれ。裏がシールになってるから、押し付けるだけでくっつくはずだ」
「シール? よく分かんないけど、やってみる!」
こうして、俺とフィリアの二人によるマイホーム偽装作業が始まった。
***
「ねぇマモル、ここはもっとツタを垂らした方がボロく見えるかな?」
「あぁ、いい感じだ。そっちの窓ガラスには、このウェザリングスプレーを吹きかけてくれ。泥汚れみたいに見えるから」
俺たちは家の周囲をぐるぐると回りながら、ピカピカのコンクリート壁にフェイクの木板を貼り付け、造花のツタを這わせ、スプレーで汚し塗装を施していった。
フィリアは高いところの作業に苦戦していたが、持ち前の運動神経(と闘気)でひょいっとジャンプし、俺が届かない2階のバルコニーにも巧みにツタを絡ませてくれた。
「よいっしょっと。マモル、どう? こっち側終わったよ!」
「おぉ、完璧だ。完全に数年間放置された廃屋のオーラが出てる」
「あははっ! せっかく綺麗なお家なのに、なんだか勿体ない気もするけど……でも、楽しいね!」
泥やスプレーで少し顔を汚しながら、フィリアが太陽のような笑顔を向けてくる。
一緒に作業をしていると、彼女の純粋さと優しさがひしひしと伝わってきた。少し手が触れ合うだけで顔を赤くして「ひゃっ」と照れる姿も、信じられないほど可愛い。
「(……なんていうか、すごく……良いな)」
婚約破棄された時、俺はこの家で一生孤独にローンを払い続ける未来を想像して絶望した。
広すぎるリビングも、使われない書斎も、全てが俺を嘲笑っているように感じた。
だが今、この家には俺と一緒に笑い合ってくれる女の子がいる。
「よし、これでカモフラージュは完了だ! 外から見たら、ただのツタまみれのボロ屋にしか見えないぞ」
「やったー! 終わったね、マモル!」
俺たちはハイタッチを交わし、偽装が完了したマイホームを見上げた。
外観は元のボロ屋(少し四角いが)にそっくりだ。これなら村の風景に溶け込み、誰の目にも留まらないだろう。
「手伝ってくれてありがとう、フィリア。中に入ってくれ、お茶でも淹れるから」
「わぁ、本当!? マモルのお茶、楽しみ!」
俺たちは玄関から中に入り、靴を脱いでリビングへと戻った。
当然だが、中はピカピカの最新設備のままだ。この外と中の強烈なギャップがたまらない。
「ソファで休んでてくれ。すぐ淹れるから」
俺は対面式のIHキッチンに立ち、収納棚を開けた。
転生する直前、引っ越しの段ボールに詰めていた日持ちする食料品やティーバッグが、女神の計らいでパントリー(食品庫)に収納されたままになっていたのだ。
俺は電気ケトルで素早くお湯を沸かし、日本から持ち越した『アールグレイ』のティーバッグを二つのマグカップに入れた。
香ばしい柑橘系の香りがキッチンに広がる。
お湯を注ぎ、少し蒸らしてから、フィリアの待つローテーブルへと運んだ。
「お待たせ。俺の故郷の『紅茶』って飲み物だ。熱いから気をつけてな」
「こうちゃ……。すっごく良い香り。お花と果物みたいな香りがする」
フィリアは両手でマグカップを包み込み、ふーふーと息を吹きかけてから、ちょこんと一口飲んだ。
「…………っ!」
途端に、フィリアの緑色の瞳がまん丸に見開かれた。
「おいしい……! なにこれ、全然苦くないし、香りが口の中でお花畑みたいにふわぁって広がって……!」
「口に合ったなら良かった。もし甘いのが好きなら、砂糖もあるぞ」
「ううん、このままで凄く美味しい! マモルの故郷って、こんなに美味しい飲み物があるんだね」
嬉しそうに紅茶をすするフィリアを見ながら、俺も向かいのソファに腰を下ろし、自分のマグカップに口をつけた。
見慣れたリビング。見慣れたマグカップ。
だけど、目の前にいるのは、とびきり可愛くて優しい異世界の少女。
「……マモル?」
俺がじっと見つめているのに気づいたのか、フィリアが小首を傾げた。
「いや……なんでもない。ただ、フィリアと一緒にこうしてお茶を飲んでると、すごく落ち着くというか……心が温かくなるなって思って」
「えっ……」
俺の素直な言葉に、フィリアはボンッ! と音が鳴りそうなほど顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「そ、そんな……急に、そんなこと言われたら……私、どうしたらいいか……っ。マモルはずるいです……」
マグカップの陰に顔を隠しながら、モジモジと身をよじるフィリア。
「あ、いや、変な意味じゃなくてだな! 純粋に感謝してるんだ。君がいてくれて良かったって」
「う、うん……私も、マモルが来てくれて、すごく……嬉しい、よ」
静かなリビングに、二人だけの穏やかな時間が流れる。
外は異世界。でも、ここは俺の城。
婚約破棄の絶望から始まった俺の異世界生活は、この温かい紅茶と、フィリアの照れた笑顔によって、確実に色鮮やかなものへと変わり始めていた。
(結婚してないのに家具家電満載の5LDKは悲しすぎるだろって思ってたけど……案外、悪くないかもしれないな)
俺は心の中でそっと呟き、温かい紅茶をもう一口、ゆっくりと味わった。
外装はボロ屋、内装は豪邸。
俺とフィリアだけの秘密の城での生活が、静かに幕を開けたのだった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「外見ボロ屋で中は超豪邸とか秘密基地感があって最高!」
「一緒にツタを貼る共同作業からの、紅茶を飲むイチャイチャがエモい!」
「マモル、婚約破棄の傷が癒えて本当に良かったね!」
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皆様の評価とブクマが、この秘密のマイホームを支える最強のカモフラージュ(お守り)です!
次回もどうぞお楽しみに!




