【第10話】罠にかかったのは鳥ではなく……鳩の餌に群がるポンコツ天使!?
【第10話】罠にかかったのは鳥ではなく……鳩の餌に群がるポンコツ天使!?
ミスリル製の三節棍を手に入れ、俺の異世界生活における戦力は大幅にアップした。
それから数日後。休日の午前中、俺とフィリアはマイホームのリビングで向かい合って座り、今後の生活について話し合っていた。
「ねぇ、マモル。今日の午後、狩りに行かない?」
「狩り? フィリアが弓で魔物を撃つのか?」
「ううん、今日は罠猟だよ。最近、マモルが用意してくれる『餌』がすっごく優秀で、獲物が面白いくらいにかかるんだ!」
フィリアが言う『餌』とは、俺がマイホームのパントリーから出した乾燥豆や、パンの耳を細かく砕いたパンくずのことだ。ポポロ村の周辺には『トライバード』という、肉も卵も美味しい三徳鳥が生息しており、日本の精製されたパンくずや大豆の匂いは、彼らにとってたまらないご馳走らしい。
「そうか。罠の設置なら俺も手伝えるし、新鮮な鳥肉が手に入るなら大歓迎だ。行ってみようか」
「うんっ! 今日も良い獲物がかかってないかな~♪」
俺たちは罠の道具とパンくずを持って、ポポロ村の外れにある緑豊かな公園のような森の広場へと向かった。
***
「よし、こんなもんかな」
俺が設置したのは、大きな竹カゴを木の棒で斜めに支え、その棒に長い紐を結びつけた、古典的な『カゴ罠』だ。アニメや漫画でスズメを捕まえる時によく見るアレである。
カゴの下には、たっぷりのパンくずと豆をばら撒いておいた。
俺とフィリアは、カゴから十メートルほど離れた茂みの陰に隠れ、紐の端を握りしめて息を潜めた。
「マモル、静かにね。トライバードは警戒心が強いから」
「あぁ、分かってる」
フィリアと肩が触れ合う距離で身を隠し、じっとカゴの方を見つめる。
しばらくすると、カサカサ……と茂みが揺れる音が聞こえてきた。
(来た……! 足音からして、結構デカいぞ!)
俺が紐を握る手に力を込めた、その時だった。
茂みを掻き分けてカゴの下に現れたのは、鳥ではなかった。
「……えっ?」
「……ええっ?」
俺とフィリアは同時に目を丸くした。
そこにいたのは、美しい金髪をなびかせ、純白の衣服に身を包んだ、とびきりの美少女だったのだ。
背中には、真っ白な羽(鳥の羽というより、天使の羽)が生えている。
だが、その神々しい容姿とは裏腹に、彼女の行動はあまりにも惨めだった。
「あぁ……神の恵みです……。こんなところに、こんなに沢山の穀物が……っ!」
天使の羽を持つその美少女は、四つん這いになって地面に顔を近づけ、ボロボロと涙をこぼしながら、俺が撒いたパンくずと豆を両手で必死に拾い集め、パクパクと口に運び始めたのだ。
ぽっぽー、と集まってきた本物の鳩たちを「しっ、しっ! これは私のご飯ですぅ!」と追い払いながら、一心不乱に鳩の餌を食べている。
「(……いや、何してんのあの人!?)」
「マ、マモル。あれって、天界に住んでる天使族……だよね? なんで鳩と餌を取り合ってるの……?」
あまりのシュールな光景に、俺が呆気にとられて手元の紐を緩めかけた瞬間。
ズルッ。
足元のぬかるみに足を取られ、俺はうっかり紐を強く引っ張ってしまった。
スパーンッ!!
「あっ」
無情にも支えの棒が外れ、大きな竹カゴが落下。
パンくずに夢中になっていた天使の少女は、見事にカゴの中にスッポリと閉じ込められてしまった。
「わぁぁぁんっ!? な、なんですかこれぇぇっ! 罠!? 助けてぇ! 私は食べても美味しくないですぅぅ!!」
カゴの中から、情けない悲鳴と泣き声が響き渡る。
俺とフィリアは慌てて茂みから飛び出した。
「お、おい! 大丈夫か!?」
俺が急いでカゴを持ち上げると、天使の少女は頭を抱えて地面にうずくまり、ブルブルと震えていた。
「ひぐっ、うぅ……どうか命だけは……っ! お金は、もうスリに盗まれて一銭も持ってないんですぅぅ……」
『ピロンッ』
その時、俺の視界の端に半透明のスキルボードがポップアップした。
『天使族の救助を確認。善行ポイント:3,000pt を加算します』
「(えっ!? 今の罠にかけた一連の流れで救助扱いになるのか!?)」
システムのガバガバな判定にツッコミを入れつつ、俺は震える少女に声をかけた。
「あ、あんた……天使族なのか?」
「ふぇ!?」
少女は恐る恐る顔を上げ、涙と土で少し汚れた顔で俺を見た。
「そ、そうですぅ。私はセレスティア近衛聖騎士団が一人、エルミナと申します……。人間界を観光していたら、お財布を盗まれてしまって……」
グゥゥゥゥ~……。
エルミナが名乗った直後、彼女のお腹から盛大な腹の虫が鳴り響いた。
「えっと……天使族なら、飛んで天界に帰るとか、仲間に助けを呼べば良かったんじゃ……」
フィリアが呆れたように聞くと、エルミナはぶんぶんと首を横に振った。
「む、無理です! お忍びの旅行で財布をすられたなんてバレたら、天使長のヴァルキュリア様に、五時間の正座説教を受けます……! それが怖くて帰れず、三日前から公園で鳩の餌を食べて生き延びていたのですぅぅ……!」
「(……なんてアホでポンコツな天使なんだ)」
俺は思わず天を仰いだ。
しかし、こんな美少女が鳩とパンくずを争奪していたかと思うと、あまりにも不憫で涙を誘う。俺の『善行ポイント』が加算されたのも、ある意味納得のいく可哀想さだった。
「……わかった。とりあえず、腹が減ってるんだろ。俺の家に来い。まともな飯を食わせてやるから」
「ほ、本当ですか!? あなたは……神様ですか!?」
「いや、ただの人間だ」
俺とフィリアは、泥だらけのポンコツ天使・エルミナを連れて、カモフラージュされたマイホームへと帰還した。
***
「さぁ、入れよ。外見はボロいが、中は……」
ガチャリ、と玄関のドアを開ける。
エルミナは靴を脱いで廊下に入り、広々とした大理石調の玄関と、その奥に広がるピカピカのフローリング、そして明るい照明の点いたリビングを見た瞬間——。
「な、ななな……何ですかああああっ!? ここはああああ!?」
美しい金髪を振り乱し、先日のフィリアたちと全く同じリアクションで絶叫した。
「天界の神殿よりも美しい床……! 見たこともない巨大な水晶板! あ、あれは冷蔵庫の魔導具!? いったいここは、どこの大富豪の館ですか!?」
目を回して混乱するエルミナに対し、フィリアはなぜかエッヘンと胸を張った。
「ふふ~ん♪ 驚いた? ここはマモルのお家なの! マモルはすっごく特別なんだから!」
フィリアがまるで『自分の家』かのようにドヤ顔をしているのが少し微笑ましい。
「ま、まぁ落ち着いて、そこのソファに座ってくれ」
俺はエルミナをふかふかのソファに座らせると、キッチンでお湯を沸かし、温かい紅茶と、パントリーに残っていた『レトルトのコーンスープ』、そして少し焼いた食パンを用意した。
「さぁ、温かいうちに食べてくれ」
ローテーブルに食事を並べると、エルミナの瞳からボロボロと滝のように涙が溢れ出した。
「うぅ……っ、こんな、こんな美味しそうなご馳走……鳩の餌じゃない、人間の食べる温かいご飯ですぅ……!」
「大袈裟だな。ただのスープとパンだぞ」
「いただきますぅぅっ!」
エルミナはスープを一口飲み、紅茶を啜り、パンをかじっては、「美味しいいいいっ!」と泣き叫びながら、あっという間に平らげてしまった。
よほどお腹が空いていたのだろう。食後の紅茶を飲み終えたエルミナは、すっかり落ち着きを取り戻し、ふにゃあっと幸せそうな顔でソファに沈み込んでいた。
「本当に、何から何までありがとうございます。マモル様、フィリア様。このご恩は、一生忘れません」
「気にしなくていいよ。それで……エルミナは、これからどうするんだ?」
俺が尋ねると、エルミナはビクッと肩を揺らした。
「えっと……その、お財布がないので宿にも泊まれず……でも、天界に帰ればヴァルキュリア様の正座説教が……」
エルミナはモジモジと指を絡ませ、上目遣いで俺を見た。
「あのぅ……私、手編みの小物を作ったり、お掃除をしたりするのが得意なんです。ですから、その……少しの間だけ、ここに置いていただけないでしょうか……?」
またしても、行き場のない異世界人のお願いだ。
しかも、相手は正義感の強い聖騎士。自警団とも懇意にしている俺の家なら、居候が一人増えても問題はないだろう。それに、フィリアの話し相手にもなる。
「あはは。マモル、エルミナさんもこう言ってるし、お家に部屋はいっぱい余ってるもんね?」
フィリアも賛成してくれているようだ。
「……わかった。しばらくの間、うちで暮らすといい。ただし、掃除や洗濯は手伝ってもらうぞ」
「はいっ! ありがとうございます、マモル様! 私、聖騎士の誇りにかけて、精一杯ご奉仕いたしますぅ!」
こうして、俺のマイホームには、純情弓娘のフィリアに加え、鳩の餌を食べて生き延びたポンコツ天使・エルミナが入り浸ることになった。
一つ屋根の下、異世界の美少女たちとの賑やかな同居生活は、さらにカオス度を増していくのだった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「カゴ罠で捕獲されるポンコツ天使可愛すぎw」
「フィリアちゃんの『ふふ~ん♪(ドヤ顔)』がヒロインしてる!」
「鳩の餌から現代のスープへ……マモル様の胃袋掌握スキルが光る!」
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皆様の評価とブクマが、エルミナの食費を支える最大のポイントです!
次回もどうぞお楽しみに!




