【第3話】緩衝地帯ポポロ村と、新居探しの提案
緩衝地帯ポポロ村と、新居探しの提案
森を抜けると、ふわりと香ばしい土の匂いと、どこか懐かしいような空気が鼻をくすぐった。
目の前に広がっていたのは、緑豊かな農地と、木や石で造られた素朴な家々が立ち並ぶ集落——『ポポロ村』だった。
「ここが私の住むポポロ村です。マモルさん、どうぞ!」
フィリアは自慢げに両手を広げて村を案内してくれた。
「おぉ、のどかでいい所じゃないか」
俺は周囲を見渡し、素直に感嘆の声を漏らした。
畑ではまん丸で巨大な大根(後に『月見大根』と知る)が太陽の光を浴び、どこからともなく美味しそうな葉巻のような香りが漂ってくる。
だが、村の中を歩いていくにつれ、俺の「のどかな異世界の村」という第一印象は、徐々に崩れ去っていくことになった。
「なぁ、フィリア。あそこを歩いてる人たち……妙に重装備じゃないか?」
俺が指差した先には、村の自警団らしき男たちが巡回していた。
だが、彼らが着ているのはファンタジーRPGでお馴染みの革鎧や鉄の兜ではない。どう見ても現代の特殊部隊が着るような『防弾チョッキ』や『タクティカルヘルメット』に似た、異様に洗練された装備なのだ。おまけに、背中にはバズーカ砲のようなものまで背負っている。
「あぁ、あれは自警団の人たちですね。うちはルナミス帝国、レオンハート獣人王国、アバロン魔皇国っていう三つの大国に挟まれた『緩衝地帯』だから、防衛装備はドンガン地下帝国のドワーフさんたちから最新の魔導兵器を仕入れてるんです」
「……ま、魔導兵器?」
フィリアは事も無げに言うが、どう考えてものどかな農村の武装レベルではない。
さらに俺の目を釘付けにしたのは、村の中心部を通った時に見えた、石造りの街並みから完全に浮いている『ある建物』だった。
「……おい、フィリア。あれは、なんだ?」
「え? あぁ、あれは『ルナキン・ポポロ支店』ですよ。24時間いつでも美味しいご飯が食べられる凄い食堂なんです。その隣にあるのが、なんでも売ってる『タローソン』ですね!」
俺は言葉を失った。
赤と黄色の見覚えのある看板。『ルナキン』とは、どう見ても日本にある某有名ファミリーレストランのパロディだ。さらにその隣には、青い看板のコンビニ『タローソン』まである。
「(……異世界転生、だよな? なんでファミレスとコンビニがあるんだ!?)」
俺が混乱していると、フィリアがクスッと笑った。
「珍しいですか? 昔、ルナミス帝国を建国した『サトウ・タロウ』っていう偉大な勇者様が、そういう不思議な建物の概念を作ったらしいんです。ポポロ村は中立地帯だから、各国の冒険者や商人、お忍びの貴族なんかもよく遊びに来るんですよ」
「……なるほど。そういうことか」
どうやらこの世界には、俺よりも前に転生して、現代日本の文化をゴリゴリに根付かせた先人がいるらしい。
少し安心したような、変な世界観に放り込まれたような複雑な気分を抱えつつ、俺はフィリアの案内に従って歩みを進めた。
***
「ここが私の家です。さぁ、入ってください!」
案内されたのは、村の中心に近い場所にある、ひときわ大きなしっかりとした造りの木造家屋だった。
中に入ると、木の温もりが感じられる広々としたリビングのような空間があった。
「適当に座っててくださいね。今、お茶を淹れますから」
「あぁ、悪いな」
俺が木製の椅子に腰掛けて待っていると、フィリアが湯気を立てる木彫りのカップを二つ運んできた。
「どうぞ。村の特産品の『陽薬草』をブレンドしたお茶です。疲れが取れますよ」
「ありがとう。いただきます」
カップを口に運ぶと、爽やかなハーブの香りと、ほのかな甘みが口の中に広がった。
「……うん、美味い。本当に疲れがスッと抜けていく気がする」
「ふふっ、お口に合って良かったです」
向かいの席に座ったフィリアは、両手でカップを包み込みながら、嬉しそうに微笑んだ。
その仕草があまりにも可愛らしくて、俺は思わず見とれてしまいそうになる。婚約破棄の傷が、この薬草茶とフィリアの笑顔で急速に癒されていくのが分かった。
「えっと……マモルさんは、すごい武術を使えるんですね。さっきの盗賊さんたちを、魔法も闘気も使わずにあっという間に倒しちゃうなんて」
フィリアが、尊敬の眼差しを向けてくる。
「あぁ。俺がやってたのは『合気道』っていう、相手の力を利用して制圧する武術なんだ。力任せの相手には、特に効果的でね」
「アイキドウ……初めて聞きました。マモルさんは、やっぱりどこかの国の凄腕の冒険者さんなんですか?」
「いやいや、ただのしがない教師だよ。数学っていう、数の計算を教える仕事をしてたんだ。マモルさんなんて堅苦しい呼び方はしなくていい。真守、って呼んでくれ」
「ま、マモル……。じゃあ、私のこともフィリアって呼んでくださいね! 歳も近いみたいですし」
「あぁ、よろしくな、フィリア」
俺が名前を呼ぶと、フィリアはパァッと顔を輝かせた。
「えへへっ。村には私と歳が近い人があんまりいなくって。だから、マモルが来てくれてすっごく嬉しいです!」
無邪気に笑うフィリア。
その眩しさに、俺は照れ隠しで鼻の頭を掻いた。
「それにしても、さっきはあんな盗賊に襲われてたけど、この辺りは治安が悪いのか?」
「村の中は自警団のおかげで安全なんですけど、村の外はそれなりに危ないですね。盗賊団もいますし、魔物もいっぱい出ますから」
「魔物……ファンタジーの定番だな。森の中で出くわさなくて本当に運が良かった」
もし合気道が通じないような巨大なモンスターに遭遇していたら、転生して数十分で再び死に戻りしていたかもしれない。
「それで……マモルは、これからどうするんですか?」
フィリアが少し不安げな表情で、上目遣いに俺を見た。
「行く当てがないなら……う、うちで良かったら、住んでもいいですよ? お父さんとお母さんにも、私からちゃんとお願いしますから……!」
顔をほんのりと赤くして提案してくれるフィリア。
その健気な優しさに胸が温かくなるが、俺には女神から押し付けられたアレがある。
「いや、その気持ちはすごく嬉しいんだけどな。実は俺、スキルで……『家』が出せるみたいなんだ」
「……へ? スキルで、家を出す?」
フィリアはきょとんと首を傾げた。
「あぁ。俺の持ってるスキルを使えば、自分が住むための家を召喚できるらしいんだ。だから、もし良かったら、この村で空いている土地とか場所をもらえないかなって思って」
「家を出せるスキル……そんなの聞いたことないです。ユニークスキルなのかな? 珍しいと思いますよ」
「珍しいのか? まぁ、転生特典みたいなもんだからな……」
俺が苦笑いしていると、フィリアはポンと手を叩いた。
「分かりました! それなら、村長のパパに相談してみましょう。空いてる土地がないか、聞いてみますね!」
「村長? フィリアのお父さんって、この村の村長なのか?」
「はい! ちょっと豪快ですけど、村のことならパパに聞くのが一番ですから!」
こうして俺は、フィリアに連れられて、村のまとめ役である彼女の両親へと挨拶に行くことになった。
まさか異世界に来てまで、土地探しの交渉をすることになるとは夢にも思わなかったが、35年ローンのマイホームを復活させるためだ。背に腹は代えられない。
俺は気合を入れ直し、フィリアと共に部屋を後にした。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「異世界にファミレスとコンビニ!? 世界観がカオスで面白いw」
「フィリアちゃんの『うちで暮らしてもいいですよ?』が可愛すぎる!」
「ついにマイホーム召喚の準備が整いそう!」
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次回もどうぞお楽しみに!




