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【第14話】魔族の貴公子、力尽きる。そして『現代のフカフカ布団』の魔力に完全敗北!?

【第14話】魔族の貴公子、力尽きる。そして『現代のフカフカ布団』の魔力に完全敗北!?

「おぉぉぉぉぉっ!! 逃げていくぞ! 爬虫類どもが尻尾を巻いて逃げていくぜェッ!」

自警団の団長ボルグが、血走った目で森の奥へと敗走していくリザードマンの群れを指差し、歓喜の雄叫びを上げた。

サイクロプスの黒焦げになった巨体が崩れ落ちたことで、敵の戦意は完全に折れたらしい。統率を失った魔物たちは、武器を放り出し、我先にと逃げ散っていった。

「やった……! やったよ、マモル!」

やぐらから飛び降りてきたフィリアが、弓を握りしめたまま俺の胸に飛び込んでくる。

「おっと。あぁ、よくやったなフィリア。お前の『フレイム・アロー』がなきゃ、あの化け物は倒せなかった」

俺は彼女の頭をポンポンと撫でて労った。

「えへへっ……! マモルたちがいっぱい隙を作ってくれたからだよ!」

顔を真っ赤にして照れるフィリア。その笑顔を見ているだけで、激戦の疲れがフッと吹き飛ぶようだ。

「ふふん! 私の『ホーリー・ジャッジメント』の威力も凄かったでしょう! これで、ポポロ村の皆様から頂いたご飯の恩返しはバッチリですぅ!」

上空から舞い降りてきたエルミナが、純白の鎧をガチャガチャと鳴らしながらドヤ顔でふんぞり返る。

「あぁ、間違いなくお前がMVP(最優秀選手)だ。よくあの大木を受け止めてくれた。サンキューな、エルミナ」

「えへへぇ〜、もっと褒めてもいいですよぉ!」

種族も性格もバラバラな俺たちが、こうして笑い合いながら勝利の余韻に浸っていた、その時だった。

「——チッ……少し、調子に乗りすぎたか……」

背後で、苦しげな声が漏れた。

振り返ると、少し離れた場所で戦況を見守っていた魔族の貴公子・ルーベンスが、ドサリと片膝をついていた。

漆黒の高級コートは土埃で汚れ、いつもは余裕に満ちているはずの端正な顔が、青ざめて脂汗にまみれている。

「おい、どうした!? 大丈夫か!?」

俺は慌ててルーベンスの元へ駆け寄った。

「……触るな、人間。心配には及ばん……っ。ただ、魔力を少し……使いすぎただけだ」

ルーベンスは俺の差し出した手をピシャリと払い除け、強がって立ち上がろうとした。だが、足に力が入らないのか、再びガクンと膝を折ってしまう。

「強がるなよ。あの巨大なロックゴーレムを召喚して、しかもサイクロプスをあそこまで完璧に押さえ込むなんて、並大抵の魔力消費じゃないはずだろ」

俺が言うと、ルーベンスは忌々しそうに顔を背けた。

「ふん……。アバロン魔皇国の上位魔族たるこの私が、下等な魔物相手に魔力切れを起こすなど……恥辱の極みだ。ババア……いや、魔王ラスティア様に知られれば、一生馬鹿にされる……っ」

「いや、誰も馬鹿になんてしないさ。あんたの援護がなかったら、俺たちは全滅してたかもしれないんだ。本当に感謝してる。ありがとう」

俺が真っ直ぐに頭を下げると、ルーベンスは目を丸くして絶句した。

魔族にとって、人間から無条件の感謝を向けられるなど、予想外の出来事だったのだろう。

「ふんっ。だ、誰が貴様らを助けたと言った。私はただ、自分の視察を邪魔されたのが不愉快だっただけで……!」

ルーベンスが顔を逸らして典型的なツンデレ台詞を吐いていると、ひょっこりとフィリアが顔を出した。

「でも、おじさん……あ、ごめんなさい。ルーベンスさん、すっごく顔色悪いですよ。無理しないでください」

「なっ……誰がおじさんだ! 私はまだ魔族の中では若い部類だぞ、小娘!」

「だから小娘じゃなくてフィリアですぅー! せっかく心配してあげてるのに!」

「フン、人間の小娘の同情など不要——ぐっ……」

口げんかをしようとしたルーベンスだったが、めまいがしたのか、再びグラリと体が揺れた。

「ほら、意地張ってないで肩を貸せ。うちで休ませてやるから」

俺はルーベンスの腕を取り、強引に自分の肩に回させた。

「き、貴様……気安く魔族に触れるな! 私は自力で……!」

「いいから。命の恩人をその辺の野宿で寝かせるほど、俺も薄情じゃない。自警団の皆も事後処理で忙しそうだしな」

「……チッ。人間ごときが、生意気な……」

文句を言いながらも、ルーベンスは抵抗する気力を失ったのか、俺の肩におとなしく体重を預けてきた。

こうして俺たちは、満身創痍の魔族の貴公子を引きずりながら、カモフラージュされたマイホームへと向かったのだった。

***

「——着いたぞ。ここが俺の家だ」

村の中心近くにある、ツタと廃材でボロボロに偽装された一軒家。

俺が立ち止まると、肩を貸していたルーベンスが信じられないという目で俺を見た。

「……おい。冗談だろう? 貴様、こんな雨風も凌げそうにないゴミ溜めのようなボロ屋に住んでいるのか?」

「パパっと見はそう見えるよな。まぁ、中に入れば分かるさ」

俺はルーベンスを支えたまま、玄関のドアノブに手をかけてオートロックを解除した。

ガチャリ、と重厚な金属音が響く。

「中に入れば分かるだと? ふん、人間の貧相な暮らしなど見たくもな——」

ルーベンスが文句を言いながらエントランスに足を踏み入れた瞬間。

彼の言葉は、完全にピタリと止まった。

外のボロ屋の皮を一枚剥いだ内側に広がっていたのは、チリ一つ落ちていないピカピカの大理石調の玄関ホール。そして、ほのかに明るいダウンライトが照らす、美しい木目のフローリング廊下だった。

さらに、玄関を開けた瞬間に、ひんやりとした『快適な冷気(エアコンによる自動空調)』が全身を包み込んだ。

「……な、なんだ、この空間は……!?」

ルーベンスの赤い瞳が、限界まで見開かれた。

「驚くのはまだ早いぞ。靴を脱いで上がってくれ。奥のゲストルームにベッドがあるから」

俺はルーベンスをリビングの横にある洋室(客間用にしている6畳の部屋)へと案内した。

そこには、日本から持ち越した来客用の高品質なスプリングマットレスのベッドが置かれており、上にはふかふかの羽毛布団が綺麗に畳まれている。

「さぁ、ここに横になってくれ。魔力切れなら、とにかく寝て休むのが一番だろ」

「こ、このベッドは……? スライムの粘液でも詰まっているのか? なんだこの、奇妙な弾力は……」

ルーベンスは、警戒するように指先でマットレスをツンツンと突いている。

魔族の王宮などにあるベッドは、高級な絹や毛皮を使っているとはいえ、基本的には木の板の上に綿を敷いた固いものが多いらしい。現代日本の『ポケットコイルマットレス』の概念など、彼にとっては未知のアーティファクトだった。

「スライムなんか入ってないよ。中に金属のバネが入ってて、体を点で支えてくれるんだ。いいから、倒れる前に寝転がってみろって」

俺が半ば強引にルーベンスの肩を押すと、彼は「わっ」と声を漏らし、そのままマットレスの上へと仰向けに倒れ込んだ。

ポスッ。

「……っ!?」

ルーベンスの体が、マットレスの絶妙な弾力によって優しく受け止められた。

固い床に叩きつけられると思っていた彼は、まるで空の雲の上に落ちたかのような衝撃のなさに、目を白黒させている。

「どうだ? 柔らかすぎず、固すぎず、ちょうどいいだろ」

俺はすかさず、彼の上に真っ白な羽毛布団をファサッと掛けた。

軽い。なのに、信じられないほど温かく、全身を優しく包み込んでくる。

「な……なんだ、これは……」

ルーベンスの口から、震えるような声が漏れた。

「我がアバロン魔皇国の、最高級の魔獣の毛皮で作られた寝具よりも……柔らかい……。いや、それだけではない。背中から腰にかけての、この絶妙な反発力……。体が……沈み込んでいく……」

「それは『羽毛布団』と『マットレス』の魔法さ。これなら、魔力の回復も早いと思うぜ」

俺が冗談めかして言うと、ルーベンスは抗うように首を振った。

「ば、馬鹿な……。私としたことが、人間の家で、こんな怪しい魔導具に……。いかん、こんなに心地よい空間に身を委ねては、魔族としての闘争本能が……っ!」

彼は必死に起き上がろうと上半身を少しだけ起こした。

しかし、エアコンによって完璧に24度に設定された室温。

汗をかいた体にサラリと触れるシーツの極上の肌触り。

そして、フカフカの羽毛布団の暴力的なまでの『包容力』。

「……はぁっ……」

ルーベンスの体から、ふっと力が抜けた。

バタン、と再びマットレスに背中を預けると、彼はもう二度と起き上がろうとはしなかった。

「……マモル、と言ったな」

「ん?」

「……この布団……いや、この寝室。至福の寝心地とは、まさにこの事か……。恐ろしい……恐ろしい男だ、貴様は。私をこうも簡単に……骨抜きに、する、とは……」

ルーベンスの瞼が、重力に逆らえずにゆっくりと落ちていく。

「あぁ、ゆっくり休んでくれ」

「……チッ。次、起きたら……必ず、礼は……スゥ……」

数秒後。

魔皇国が誇る冷徹な貴公子は、スースーと穏やかな寝息を立てて、完全に深い眠りの底へと沈んでいったのだった。

「……ふふっ。どんなに偉そうな魔族でも、現代の布団の魔力には勝てないってことだな」

俺はクスリと笑い、部屋の照明を落としてドアを静かに閉めた。

***

リビングに戻ると、フィリアとエルミナがキッチンで何やらガサゴソとやっていた。

「おっ、マモル! ルーベンスさんは寝た?」

「あぁ。布団に入った途端に、気絶するように爆睡しちまったよ」

「やっぱりね! マモルのお家のベッド、一度入ったら抜け出せなくなるもん! 私も最初、お昼寝で夕方まで起きられなかったし」

フィリアがエヘヘと笑う。

「マモル様、戦いの後はお腹が空きますよね! 今、フィリア様と一緒に、お茶とご飯の用意をしているところですぅ!」

エルミナが、手編みのエプロンをつけて張り切っている。

俺はふかふかのソファに腰を下ろし、深く息を吐き出した。

婚約破棄されて絶望と共にやってきた異世界。

だが、今の俺のマイホームには、純情で可愛い弓使いの少女がいて、鳩の餌を食っていたポンコツ天使がいて、客間では魔族の貴公子が布団の虜になって爆睡している。

「(……案外、最高のマイホーム生活じゃないか)」

俺はキッチンから漂ってくる出汁のいい香りを嗅ぎながら、これからの賑やかな毎日に思いを馳せ、一人静かに微笑んだのだった。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!

「ツンデレ魔族のルーベンス様、現代の羽毛布団の前に完全敗北w」

「『至福の寝心地とはこの事か……』のセリフが最高!」

「マモル先生、着実に異世界の強者たちをマイホーム依存症にしていくスタイル!」

と少しでもニヤニヤしていただけましたら、

ぜひページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、作者の執筆スピードがぐっすり眠った後のように超回復します!

また、ブックマーク登録をしておくと、次回の「目覚めたルーベンス、今度は『日本食(朝ごはん)』の美味さに胃袋を掴まれる!?」の日常ほのぼのエピソードを逃さずチェックできます。

皆様の評価とブクマが、このマイホームの快適さをさらにアップさせる最強の原動力です!

次回もどうぞお楽しみに!

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