言わぬが花
【運営からのお知らせ】
草原エリアにて大規模な陥落がありました。
(原因調査中)
復旧作業のため下記期間の立ち入りを禁止いたします。
「……おい」
「脆いな」
「運営のせいにすんな」
「杜撰なシステムのせいだろ」
「加減せぇ」
PvP事件から三日が経ち、ユズたちはギルド内でくつろいでいた。
「にしても、全然視線の量変わってへんな」
「むしろ増えてました〜」
「でもPvP仕掛けてくるやつは減っただろ」
「そう言えばそうやな。なんでやろな」
「……」
ユズは口を噤み、先程まで居た町の集会所での出来事を思い出す。
直接攻撃されることはほとんど無くなったが、ずっと遠巻きにみられていた。
「おい、あのパーティだろ」
「ああ、星杖の……」
「魔法使わない魔道士な」
「草原エリア壊滅させたり、FFで全滅しかけてたって……」
「頭おかしいだろ。近寄らんとこ」
ヒソヒソと悪口を言う周りの声が、ユズには聞こえていた。少し近付くだけで、モーゼのように人の波が裂ける。まるで腫れ物を扱うような対応に、ユズはモヤモヤとした黒い感情が湧き上がる。
「……納得いかねぇ」
仏頂面でユズが、そうこぼした。隣に座っていたひつじが、少し目を丸くしてユズに問いかける。
「どうしたんですか〜?」
「いえ、別に」
「……珍しく不機嫌だな」
「なんや、嫌なことあったんか?」
ユズは仏頂面のまま、そっぽを向いてしまう。三人はユズの次の言葉が出るまで待つ。
数秒の沈黙の後、ユズは目線を落としながら呟く。
「あっちがPvP仕掛けてきたのに、まるで僕らが悪者です……」
ユズの言葉に三人は顔を見合わせると、すぐにユズに向き直り、なんて事ないように答えてみせた。
「なんだ、そんなことか」
「私は気にしませんよ〜!」
「そもそも、何て言われとるかも知らんけどな」
「こっちが悪いんじゃねぇって、俺達が分かってたら、それでいいだろ」
通常運転の三人を見て、ユズの肩の力が抜ける。強がりではなく、本当に気にしてい無さそうだったから。
「気にすんな」
「……はい、そうします」
しっかりと納得は出来ていない。それでも、あっけらかんとした彼らの態度に、ユズの心は落ち着きを取り戻した。
暗い話題を変えるように、ひつじが一度手を叩き、椅子から立ち上がった。にっこりと笑ってユズに声をかける。
「こんな時は、気分転換をしましょう〜!」
「え?」
「レッツ ショッピングです〜!」
そうして四人は、町に買い物に行くことになった。
商店街に入ると、所狭しと店が並ぶ。人の往来が激しく熱気に溢れている。ユズたちは、流れに乗るようにゆっくりと歩いていく。
「ストレス発散の買い物ってわけですか」
「女子はホンマに買い物好きやな」
相変わらず他のパーティからの視線はあるが、ユズは先程よりも落ち着いた気持ちでウィンドウショッピングを楽しめていた。
ひつじはユズたちの少し前を歩く。服屋の窓越しに服を見てはしゃいでいる。
ふと、一軒の店の前でひつじの足が止まる。
「きゃ〜、可愛いドレス!」
「いつ着るねん、そんなん」
「要らねーだろ」
そこには、フリルがふんだんにあしらわれた、淡い水色のドレスが飾られていた。
「ゲームだからこそ、買いたいんです〜!」
「お姫様にでもなるつもりか」
「女の子はいつでもお姫様です〜!」
「無駄使いや、やめとき。あと肩も出すぎとる」
「宝くじ先輩、親戚のおじさんみたいです〜」
「ぐぅっ……!」
「メェさん、それも禁止カードだ」
きゃいきゃいと店の前で話していると、一人の男がひつじに近付いてきた。
「あっ、あの!」
男はひつじに向かって声をかける。咄嗟にユズとドルは臨戦態勢をとる。ユズは剣の柄に手をかけ、ドルは矢に手を伸ばした。
「はい?私ですか〜?」
「は、はい!あ、あのですね……」
男は勢いよく近付いて来たわりには、モジモジとひつじを見ているだけで、何も話せずにいる。その姿を見て、ユズはピンと来た。
「も、もしかしてメェさんに告白ですか?!」
「無いだろ」
「分からんぞ、顔だけはええからな」
そう言うドルにつられて、ユズはひつじの顔をまじまじと見る。
ひつじは、小柄で華奢な姿が加護欲をそそる。大きな瞳の、ふとした瞬間の上目遣いが妙にずるい。ゆるく巻かれた色素の薄い長い髪が、ほわほわとしたひつじの雰囲気をさらに強くさせる。
普段を知っているだけに意識したことはほとんど無いが、間違いなくひつじの顔はいい。
「……確かにメェさんって可愛いですよね」
「でもなぁ……」
「アホやからなぁ……」
「ちょっと〜!聞こえてますからね〜!」
ひつじが、振り返ってぷりぷりと怒る。ひつじは、男に向き直ると、ちらりと男の顔を見上げた。
――悪くない。
小さく頷き、少しだけ男の方に近寄る。ひつじの小さな身長では自然と上目遣いになる。歴戦のダメンズウォーカーに、染み込んだ技術だ。
「どうしたんですか〜?」
ユズたちは二人の挙動を、固唾を飲んで見守る。
しばらくモジモジとしていた男が、意を決したように、深く息を吸い込んだ。そして、ひつじの目を見つめ返して言った。
「……ポコちゃんのファンです!」
一瞬、町全体が沈黙に包まれた気がした。
「……え?」
「は?」
「は?」
「は?」
困惑する四人を置いて、男は続ける。
「星のエフェクトがあまりにも可愛くて……。振ってるところ見せてください!」
町は音を取り戻しているはずなのに、ユズたちの周りには沈黙が流れ続ける。
誰も動けないでいたが、ひつじがゆっくりと口を開いた。
「……ポコちゃんの?」
「はい!」
「……私じゃなくて?」
「はい!」
「……」
ひつじはそれ以上声が出ず、顔を伏せてしまった。
後ろで見ていたユズたちが、コソコソと声をあげる。
「無慈悲すぎんか?絶対メェちゃんも告白やと思ってたやろ」
「シッ!聞こえますよ!」
「お父さんは許しません」
「誰がオカンやねん。俺は嫌やぞ」
それまで俯いて小刻みにふるふると震えていたひつじが、顔を上げて、キッと男を睨む。
「……いいですよ。振ればいいんですね〜?」
「ほんとですか?!」
「じゃあ、見ててくださいね〜」
そう言うと、くるりと振り向いて、唇を尖らせたひつじが三人へと近づく。
怪訝そうな顔をしてひつじを見ているドル。ユズとこんどーは、気付かれないようにゆっくりと後退した。
ひつじがドルの前に来ると、にっこりと笑った。
ドルは首を傾げる。
「せーの」
「は?」
ひつじは、掛け声とともにルミナスを振り上げる。
ポコッ
「がぁっ?!」
ルミナスが、ドルの頭目掛けて振り下ろされた。ドルの周りに星のエフェクトが舞う。ほんの少し地面が沈みこんだ。ドルのHPが削れ、頭を押さえて痛みに蹲る。
その様子を見て満足したのか、くるりと男の方を振り返り、笑顔で男に尋ねた。
「どうですか〜?」
「素敵です!ありがとうございます!」
「どういたしまして〜」
「〜〜なんっで、俺だけやねん!」
蹲っていたドルが、頭を押さえながら顔を上げて叫ぶ。目の端には涙が浮かんでいる。
「自業自得です〜」
頬をふくらませながらそっぽを向くひつじ。ドルは納得いかず、ユズ達を振り返る。
「お前らもなんか喋れや!って、ちょぉ待て!遠ない?!」
5mほど離れたところでユズとこんどーが、黙って手を振っていた。
「このっ、卑怯者ー!!」
ドルの叫び声が、商店街に虚しく響いた。
“言わぬが花”という言葉がある。
ドル以外は、そのことをよく知っていた。
真顔のひつじが再度振り返り、ユズとこんどーを見た。二人は、ビクッと肩をあげる。
ひつじがにっこりと笑い、ルミナスで円を描くように揺らす。
「お二人も同罪ですからね〜」
「……あのドレスで」
「手打ちにしてください……」
「まいどあり〜」
ユズたちは、所持していた半分の通貨を失った。




