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ROAD OF FRONTIER〜ジャンプで罠を踏むバカたちと星空の約束〜  作者: 春野凪
星空の約束

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5/5

合縁奇縁

「空には本当は数え切れないくらいの星があって、プラネタリウムなんかじゃ再現できないんだぜ!」



 夕暮れの空、ジャングルジムのテッペンで、あの少年が空を見上げてそう言った。



「へぇ、大ちゃんはなんでも知ってるね!」



 そう言う僕に、あの少年は嬉しそうに目を細めた。



「今度、一緒に星を見に行こうぜ!」

「行きたい!」

「……じゃあ三日後の夜、一時にここで集合な!母さんたちには内緒だぞ!」

「うん!約束だからね!」



 小指を絡めて、誓い合った。


 約束の日、親の目を盗んで行った夜の公園に、あの少年は来なかった。次の日も、その次の日も。あの少年は来なかった。

 街頭の灯りに照らされた星たちは、そのまたたきを忘れ去っていた。


 約束をしたあの日、あの子の笑顔が少しだけ引き攣っていたのを、僕は気づかないふりをしたんだ。



 ピピピ ピピピ



 目覚ましの音がする。けたたましい音に顔を顰めながら、布団から手を伸ばして目覚ましを切った。部屋にはユズの息遣いだけが響いている。


 寝起きで頭が回らない。なんだか、懐かしい夢を見ていた気がする。


 カーテンから、朝の光が漏れている。ユズはゆっくりと身体を起こした。

 今日も、何も変わらない朝が来る。



「柚本さん、喉枯れてますよ。はい、のど飴」

「……ありがとうございます、山口さん」



 僕は知っている。


 山口さんが給湯室で、三ヶ月で僕のことを落とせるか賭けていたことを。



「おい、柚本」

「はい、課長」

「営業成績落ちてるぞ、気合い入れろよ」

「……すみません」



 僕は知っている。


 一緒に営業に行った課長が、全ての成果を取っていることを。


 この世はクソ。

 誰かを信じるなんて馬鹿のすることだ。



 ――そう、思っていた。



 だが、ここに来て思う。

 疑うのも馬鹿馬鹿しくなるほど、馬鹿なヤツらもいるらしい。


 十九時を過ぎた頃。帰宅して、家事を粗方終えたユズはいつも通りログインをする。

 ログインするといつも、町の掲示板を見て星空の街への手がかりを探す。相変わらず、手がかりは見つからない。肩を落としながらも、他の気になるクエストの確認をしていく。それからすぐに、ギルドへと向かった。



 ――ギルド


 空き家があれば、二人以上のメンバーで作成できる個人ギルド制度。


 ユズたちは二年前、“未確認突入隊”という名のギルドを立ち上げていた。

 このふざけた名前はドルが考えた。ユズだけは拒否していたが、こんどーもひつじも面白がってしまい、結局この名前のままだ。



 ギルドの扉を開くと、真ん中に置かれた机を囲むように、いつもの三人が座っていた。その中で、ひつじが一点を見つめてブツブツと呟いていた。



「給料日まであと十日。給料日まであと十日。給料日まで……」



 ユズはその異様な光景に、一瞬腰が引けた。すぐに気を取り直し、ギルドへと足を踏み入れた。



「……何してるんですか?」

「お、ユズくん、お疲れさん」

「よっす」

「こんばんは。メェさんどうしたんですか?」

「彼氏に貢ぎすぎて、金ないらしいわ」



 ユズはチラリとひつじの方を見る。うわ言を言っているひつじの目が、少し潤んでいるのが見えた。



「メェさんのその……彼氏さん?は何をされてる方なんですか?」



 そう問いかけるユズに、ひつじは平然と答えた。



「ホストです」



 全員の動きが止まった。



「は?」

「は?」

「は?」



 三人の声が、綺麗に重なる。



「ホストです」

「いや、聞き取れへんかった訳やないねん」



 まるで何が悪いの?と言うかのような口ぶりに、ユズは痛む頭を押さえた。

 いつもニコニコと柔らかく笑ってるひつじが、また一点を見つめ直して表情を落としていた。ドルは顔を顰めながら、ひつじに声をかける。



「……お前もしかして、エースって呼ばれてんちゃうやろな?」



 ドルの言葉に、また顔をあげるひつじ。



「なんで私のあだ名知ってるんですか?!」

「それ、あだ名ちゃうねん!」

「例えあだ名だったとして、それで満足すんな」

「カモや」

「彼氏ですらねーだろ」

「あ〜ん、酷いこと言う〜!」



 ひつじが机に伏せて泣き真似をする。それを見て、こんどーとドルがため息をついた。二人は目線を合わせると、小さく頷きあった。



「……仕方ねぇな、電子マネーのID教えろ」

「ちょっとくらいカンパしたるかぁ」



 ユズは、いつにもなく、ひつじに甘い二人に驚く。特にドルが誰かにお金を譲ることが信じられなかった。しかもリアルマネー。



「……二人とも、メェさんに甘くないですか?」

「しゃーないやろ、あと十日を362円で過ごす言うとるんやぞ」

「チロルチョコ十個も買えねぇぞ」

「……食えん辛さは分かるからな」



 ほんの少しドルの声が低くなった気がした。ユズは少しだけ気になって、ちらりと横目でドルを見たが、いつもと変わらず飄々としていた。

 ユズはため息をついてから、ひつじに近付く。



「ID教えてください」

「ユズさん……」

「もう、貢いじゃダメですよ」

「みんな…、ありがとうございます!」



 ひつじは目の縁に涙を溜めながら頭を下げた。

 三人はひつじからIDを聞くと、5000円ずつ送金をした。それを確認したひつじは、輝く笑顔で言い放った。



「これで明日の彼氏のライブに行けそうです!」

「あんたは一回頭を診てもらえ」

「チッ、二度と慈悲は無いからな」

「倫理観磨いてこい」



 舌打ちをするドルに、ユズは苦笑いを漏らした。理由が理由なだけに注意する気にはなれない。

 ユズが、こんどーと向かい合うように席に座ると、こんどーが口を開いた。



「珍しく遅かったな」

「ちょっと残業で……」

「残業か、お疲れさんやな」

「そういえば、ユズさんって何のお仕事されてるんですか〜?」

「あれ、言ってませんでしたっけ?銀行員です」



 そう言った瞬間、ドルは立ち上がった。

 なんとなく先の展開を予想して、ユズの口元がひきつる。ドルの顔を見ると、胡散臭い笑顔を貼り付けている。



「ユズくん、肩凝ってへん?揉もか?」

「結構です」

「下心がみえみえです〜」

「ここまで明らさまなら笑えるだろ」



 ドルが手を擦り合わせながら、ユズへと近づく。ユズは、近付いてくるドルを避けるように、隣に座るひつじの方に身を寄せる。



「ええ儲け話があるんですけど、融資しまへんか?」

「しません」

「宝くじ先輩、詐欺師みたい〜」

「悪徳商法の誘導の仕方なんだよ」



 取り付く島のないユズに、ドルは口を尖らせる。ドルは、勢いよく椅子に座り直すと、だれるように背もたれにもたれかかった。

 ブーブーと文句を言うドルを黙らせるために、ユズは咳払いをして話題を変える。



「んんッ。ところで、今日はどこか行きたいところありますか?」

「マギアナマギアの瞳、狩りに行こうや」

「姫龍で懲りろ、諦めろ」

「他に行きたいところある人は?」

「話くらい聞いてくれてもええやろ?!」



 三人は吠えるドルを無視して、地図を広げる。そこには沢山のバツ印が付けられていた。星空の街を探すべく、大抵のダンジョンはもう回っていた。とは言え、一つ一つのダンジョンが広大なため、繰り返し探索する必要はある。

 ユズが次の行先を考えていると、こんどーが地図の一箇所を指をさした。



「そろそろ新しい装備が欲しい。ここなんてどうだ」

「鉱山、ですか」



 ――鉱山ダンジョン


 敵の大半が鉄製で、耐久力が高い。

 倒すのに時間がかかるため周回には向かず、クエストとしても避けられやすい場所だ。



「ゼインの欠片が大量に要るみたいでな」

「周回になりそうやな」

「それなら、探索もすすむだろ?」

「こんどーさん……」



 ユズは胸元に寄せていた手をきゅっと握る。

 星空の街への手がかりを探すため、今までもこんどーが小さな気遣いをしてくれていることには気がついていた。

 ひつじがルミナスを手に入れて、ドルが扉の存在を明かしてくれた。それからは更に気を回してくれるようになっていた。

 今回はゼインの欠片を集めたいというこんどーの目的と合致した形だが、ユズはそれでも心を満たされていた。



「せやけど、かなり時間かかるやろ?」

「まぁ一応、二、三回の周回で済むように範囲攻撃を習得しといた。一箇所に敵を纏めりゃはえーだろ」

「へぇ、やるやん」

「さすがです〜!」

「よし。じゃあ、行くぞ」



 そうして、四人は鉱山ダンジョンへ向かった。


 鉱山の麓まで、始まりの町から魔法馬車で五十分。そこからは自力で登るしかない。

 緩やかな山道が徐々に険しくなる。道中には、落石注意の看板やトロッコ線路の切れ端が置いてある。ダンジョンに近づくにつれ、鉄と土の匂いが混ざり合い、鼻の奥を刺激する。


 ダンジョンに着くと、すぐに鉄製の敵がブリキのように近付いてきた。ブリキのようにぎこちない動きで襲いかかってくる。

 ユズたちは武器を構えたが、それより先に、ひつじがルミナスを構えて前に出た。



「ポコちゃん!」



 ポコッ



 振り下ろされたルミナスが、モンスターに当たる。小気味いい音とともに、敵が消滅した。



「魔法使え!」

「倒すな言うたやろ!」

「あら〜」

「ポコちゃんは最強の物理魔法だと思って諦めろ」



 次々とモンスターが湧いてくる。全てのモンスターを倒しきらないよう、少しずつHPを残しながら一箇所に誘導していく。

 モンスター数十体に囲まれた時、こんどーが前へ出た。



「よし、そろそろ行くぞ」

「こんどーさん、任せましたよ!」

「お願いします〜」

「頼むで、ゴリ」

「任せろ」



 こんどーは斧を振りかぶる。



「【死せるいかずち】」



 スキルを叫ぶと同時に、斧を地面に叩きつける。

 その瞬間、地面がひび割れ、隙間から眩い《まばゆい》光が漏れだした。



「は?!」

「おまっ、これ!」



 ユズたちの足元に衝撃が走り、電撃が身体を駆け巡る。



「ぐぅっ……?!」



 ユズたち三人のHPが半分以上消えた。



「お前まず味方に当たっとるやないか!」

「ゴリさんのバカ〜!死にます〜!!」



 ひつじに関しては、小石が当たっても倒れそうなほどHPが削れていた。

 地響きがして、鉱山全体を震わす。未だ足の裏がビリビリと痺れている。いつの間にか、モンスターは全て消え、ゼインの欠片が散らばっていた。



 周りを見渡し、敵がいないことを確認する。ゼインの欠片を拾うため、四人が足を踏み出した。その瞬間。



ドッ!



 地面が大きく沈み、ガラガラと亀裂へと吸い込まれていく。ユズたちの足場も、支えをなくし崩れだす。



「ぎゃぁぁぁ!こんどーのバカ野郎!」

「きゃぁぁぁ!落ちます〜!!」

「お前これ、ソロプレイ前提のスキルやろ!」

「ジャンプすれば避けられたろ」

「避けれてないから今やねん!」



 四人は為す術なく地下へと落ちていく。



「メェさん、魔法!浮遊魔法!!」

「あばばばばば!」

「落ち着け、ポンコツ!」

「あばば、えーっと!【フロート】!」



 地面に叩きつけられる直前、ひつじの魔法で四人はふわりと浮いた。



「メェさんがいて良かった……」

「さすがに死ぬかと思いました〜」

「お前は反省せぇ」



 そう言うとドルがこんどーの頭を叩く。



「いてっ」

「反省せぇ」

「甥っ子にパンチされた時くらいの痛みだな」

「誰か、コイツ埋めるの手伝ってくれ!」



 ひつじが、ゆっくりと浮遊魔法を解く。

 瓦礫の山に足を下ろし、周りを見渡すと、人が五十人以上入っても余裕があるほどの広い空間になっていた。

 採掘場だったのだろう、所々にスコップやハンマー、手押し車がそのまま残されていた。


 歩く度に音が反響する。地上から離れているのに、やけに明るい。

 ふと壁を見ると、キラキラと光る鉱石が埋まっており、松明を必要としないほどに輝いていた。

 ユズとこんどーが壁に近づく。



「これって……」

「ゼインの欠片だな」



 壁の中に、ゼインの欠片が埋まっていた。



「見てみぃ!これルビーやで!こっちにはエメラルド!!」



 ドルが嬉しそうに声をあげる。壁には、ゼインの欠片以外にもルビーやサファイア、アメジストなどの鉱石が所狭しと埋まっていた。



「綺麗〜!星空みたいに光ってます〜」



 ひつじが、ご機嫌にその場でくるくると回る。その隣で、ユズは目を細めた。


 ――星空みたいな、星空ではないもの。


 ただ、手がかりの予感を感じるには十分だった。

 壁を伝いながら見落としの無いようにしっかりと探索して周る。所々に古代文字らしき文字が刻まれている石が落ちているが、その出処も崩落した状態では分からない。念のためと、その小石を収納バックへと詰めていく。

 ユズが探索から戻ってくると、突然ドルが顔を押さえてうずくまった。



「うっ……!」

「ドルさん?!どうしました?!」



 三人は呻き声をあげるドルに駆け寄った。何か罠にでもかかったのかと心配していると、ガバりとドルが顔を上げた。



「これが現実なら……、家賃どころか人生が解決するのに……!」



 あまりに悲痛な表情をするドルに、一瞬呆気にとられた。すぐにユズたちは、じっとりとした目でドルのことを見た。



「……心配して損しました」

「守銭奴アーチャー」

「宝くじ先輩、ロマンがありません〜。結婚できなさそうですね〜」

「うがぁっ?!」

「メェさん、それは禁止カードだろ」



 ユズは、いつも通りやかましいパーティを見て、ため息をつく。



「ほんと……バカばっかり」



 結局、どれだけ探しても、星空の街への手がかりは見つからなかった。それでも、一人だった頃より、少しだけ前に進めている気がした。

 ユズの口角は知らず知らずのうちにあがっていた。


 そう悪くない一日なのかもしれない。



 “合縁奇縁”という言葉がある。


 現実と仮想現実の狭間。


 互いの顔も、本当の名前も知らない。


 それでも、誰よりも知っている気がする。


 不思議な関係だ。



 ――ほんと、バカばっかりだ。



 でも、あの日見れなかった星空を、この人達と見てみたいと思う。

そんな僕は、もっとバカなのかもしれない。



「……もう、仕方ないなぁ」



 ユズはそう呟くと、三人の元に歩み寄っていった。

 洞窟の星たちが、笑ったような気がした。

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