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ROAD OF FRONTIER〜ジャンプで罠を踏むバカたちと星空の約束〜  作者: 春野凪
星空の約束

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4/5

二兎を追う者は一兎をも得ず

あれから三日が経ち、パーティメンバーの雰囲気も戻った。


 ユズたちは、草原エリアに資金調達とひつじの経験値集めのため、モンスター狩りに来ていた。

  時刻は十八時半を回り、夕陽がゆっくりと沈んでゆく。昼型モンスターと夜型モンスターが入れ替わる境となっていた。



「ぽこちゃん!」



 ポコッ



【グギャァァァァ】



 ひつじがルミナスを振るうと、モンスターが悲鳴をあげながら溶けるように消えた。



「魔法を使え、魔法を!」

「HP吸われるだろうが」

「殴っとる間は安全や」



 ユズたちは、ひつじに経験値が入るよう、少し離れた丘から観戦していた。いつでも助けられるよう、ユズとドルは立ったまま見守っている。こんどーだけは芝生の上に胡座をかいて寛いでいた。



「でもあれBランクモンスターですよ」

「ウチの最強さんだな」

「なんて紹介するんですか」

「魔道士(物理)」

「頭バグるわ」



 狩り終わったひつじが、小走りに戻ってくる。



「終わりました〜」

「おー、お疲れ」

「お疲れ様です」

「経験値入ったらHP上げとけよ」

「は〜い」



 そう言うとひつじは、ステータス画面を開き経験値をHPに振っていく。今はルミナス対策のため、HPに極振りしており、順調にステータスは上がっているようだ。



「そういえば……」



 経験値を振り終わったひつじが、ステータス画面から顔を上げると、思い出したように口を開いた。



「皆さんは、このゲームやめる予定ありますか〜?」

「急になんだよ」

「今日職場で、いつまでも付き合ってくれないって言われちゃって……」



 ひつじは少し寂しそうに目を伏せる。



 “いつまでも付き合ってくれない”



 その言葉が、ユズの心にも重く突き刺さる。しかし、例えそうなったとしても、このゲームをやめるつもりはなかった。



「……僕は、星空の街に行けるまで、やめる予定はありません」

「俺も」



 ユズが答えると、こんどーも同調する様に答えた。何も考えてはなさそうではあるが、ユズは小さくほっと息を吐いた。ひつじも同じように小さく息を吐く。



「……それに、一緒に星空の街に行ってくれるんでしょう?」



 ユズの言葉に、ひつじが一瞬呆気にとられる。ひつじは、その言葉を理解すると、すぐに笑顔になって大きな声で答えた。



「もちろんです〜!」



 ユズとひつじの目が重なり、二人は少し照れくさそうに目尻を下げた。

 ユズはふと、何も答えないドルのことが気になった。ユズがドルの方に視線を送ると、ひつじもドルの方を見た。

 そこには、真顔で立っているドルがいた。

 ひつじは、迷子の子供のような表情でドルの顔をちらりと見たげた。



「……宝くじ先輩は?」



 そんなひつじを見て、ドルは少し目を細めて答えた。



「……俺はな、君らがゲーム続ける限り、一緒にやりたいと思っとる。俺が辞める時は君らが辞める時や」



 金の亡者だと思っていたドルの、思いがけない答えを聞いて、ユズとひつじは感動で震える。



「宝くじ先輩……」

「ドルさん……」



 ユズはほんの少し目頭が熱くなった。ドルは二人に見えないようにほくそ笑むと、小さく呟いた。



「金になる話も多いしな」

「何かいいましたか〜?」

「いいや、なんにも」



ドルは二人を見て、にっこりと笑いながら言葉を続けた。



「……それはそうと、今日は湖のダンジョンに行かへんか?」

「いいですね!」

「いきましょ〜」



 ユズとひつじは、嬉しくなって二つ返事で快諾した。

 ニコニコと笑うユズとひつじ。にっこりと、どこか貼り付けたような笑顔のドル。こんどーは、頬杖をつきながらそれを見ていた。



「……そういえば、湖のダンジョンで採れる姫龍の白銀鱗が80万。マギアナマギアの瞳、アジカルゴの尻尾がそれぞれ、60万で取引されてたな」



 ユズとひつじの動きが止まった。四人を沈黙が包む。



「……ほらな?」

「何が?!」

「売るつもりじゃねーか」



 ドルは真顔に戻ると、クルリと背を向けダンジョン方面へと足を踏み出す。



「ええか?ゲームなんてな、0と1のデータや。そんなもんに価値はない。ほら、行くで。まずは姫龍の白銀鱗」

「おい、友情」

「友情で、飯は食えん」

「もはや清々しいです〜」



 結局、星空の街への手がかりがあるかもしれないからと、ドルに説得され、湖のダンジョンへと向かうことになった。



 四人がダンジョンに着く頃には、日は完全に沈んでいた。

 ダンジョンの入口付近は、他のパーティで溢れている。鱗がリアルマネーとして売れることが話題になっているようだ。



「あかん!先越される!」

「死に急いでるな」

「見てないで止めてください!」



 湖のダンジョンは、その構造から攻略難易度が高い。そのため、他のパーティと手を組むのが一般的だ。



「僕たちも、どこかのパーティと組みましょうか」

「そうだな」

「組みましょ〜」



 手を組めそうなパーティを探そうと足を踏み出した瞬間、ドルがユズの肩を掴んだ。



「あかんで」

「は?」



 三人はドルの方を振り返った。ドルは真剣な顔で口を開いた。



「分け前が減る」

「ダメだコイツ」

「守銭奴アーチャー」

「さすが宝くじ先輩です〜」

「金がすべてや」



 説得しようにも絶対に折れないドルに、諦めて四人で進む。

 ユズはアイテムボックスから手漕ぎの船を取り出すと、湖に浮かべた。ユズが立ち上がり、船に乗り込もうとした瞬間、こんどーが隣をすり抜けていった。



 ――そのまま、船に飛び乗った。



 船は大きく揺れて、水飛沫をあげながらひっくり返った。



「何してんだ!」

「ボケゴリラ!」



 二人の怒声が飛ぶ。こんどーが水中から顔を出した。



「ぷはっ」

「何考えてんだ、アンタ!」

「バランス取れば行けると思った」

「お前の自信はどっから来とるねん!」

「悪気は無い、許せ」

「加害者が言うセリフじゃない!」



 ひっくり返った船を元に戻し、ユズから順にゆっくりと乗り込む。今度は転覆することなく、乗ることができた。 

 最後尾のこんどーがオールを漕ぐと、船はゆっくりと動き出した。

 姫龍に会えるかは運次第。湖の中心に向かって船を漕ぎ出していく。

 八分ほど進んだところで、突然ドルが口を開いた。



「待て」



 ドルがこんどーの腕を掴み、漕ぐのを遮った。こんどーは漕ぐ手を止め、怪訝な顔でドルを見た。ドルは水中を覗き込んだまま動かない。



「なんだよ」

「宝箱や」

「は?」



 そう言うドルの目線の先には、水中に沈む宝箱があった。



「もういいでしょ!」

「いい訳あるかい!」

「罠だろ」

「いーや、宝箱や」

「やめましょうよ〜」

「宝箱なんや」



 呆れる三人を尻目に、ドルは武器を船に置くと、躊躇い《ためら》なく湖へ飛び込んだ。襲ってくる水中モンスターを避けながらも、素早く宝箱の方まで潜っていく。



「宝くじ先輩、はやいです〜」

「水泳部か?」

「なんでこのパーティは、無駄に能力高くて言うこときかないヤツしか居ないんだ……」



 ユズは頭痛がして、頭を押さえた。

 そうしている間に、ドルは宝箱の前まで辿り着いた。ドルは壊れ物を扱うように、そっと宝箱に触れた。



 ――その瞬間。



 水面が渦を巻き始めた。



「おぉい!やっぱり罠じゃねーか!」



 船が激しく揺れる。三人は船にしがみついた。このままでは、船ごと渦に飲み込まれてしまう。

 ユズは、素早くひつじに指示を出す。



「メェさん、フロート!」

「は〜い。【フロート】」



 ひつじが呪文を唱えると、ふわりと船が浮いた。

 未だ水面は渦を巻いたままだ。三人が水面を見ていると、ドルが必死にもがきながら水面から顔を出してきた。



「おぼばっ!たすげでぇ!」

「溺れてます〜」

「馬鹿だな」

「死ぬ!ほんとに死ぬから!メェさん、お願いします!」

「は〜い」



 ひつじが浮遊魔法を唱えると、ドルが水面から浮かび上がった。その懐には、宝箱が大事に抱えられたままだった。



「離せよ!」

「離すかぁ!」



 船に引き上げると、ドルは水を吐きながら、荒い息を整えている。その隣で、ひつじは削れたHPを回復させるためにポーションを飲んでいる。

 水面は強く波打っているが、渦は少しずつ落ち着いてきているようだ。



「触った瞬間に起動する罠とか、製作者の性格悪すぎるやろ!」

「守銭奴の気持ちを利用した立派な罠だろ」

「それでも宝箱持って帰ってくるんですから、製作者も脱帽ですよ」

「さすが宝くじ先輩です〜」



 息を整えたドルは、抱えていた宝箱を船の上におろすと、すぐに宝箱を開けた。



「お……」



 ドルの口から、小さな声が漏れた。

 宝箱の中には、白く輝く鱗が一枚入っていた。



「……姫龍の白銀鱗や」

「は?」

「え〜?」

「マジかよ」



 思いがけず、目当てのものが手に入り、目を丸くする三人。ドルは嬉しそうな顔で大事に宝箱を閉じた。

 気付けば湖の真ん中辺りまで来ていた。もうここには用はないと、船を岸へと方向転換させようとしたその瞬間、湖が大きく揺れた。

 水面が割れ、巨大な影が浮かび上がる。



「おい」

「おい」

「あらぁ〜」



 湖の真ん中に、美しい白銀の鱗で覆われた、蛇のような巨大な龍が姿を現した。


 姫龍だ。



「本体出てきましたよ」

「会える確率1/30だぞ、どういう引きしてんだよ」

「逃げましょう〜」



 ユズたちは、姫龍から逃げようと、背を向けてオールを漕ごうと準備を始める。その横で、ドルが思案顔で呟いた。



「……いや、狩るで」



 三人は呆れた顔でドルを見る。



「無意味すぎる」

「無意味ちゃう、160万や」

「こいつホント……」

「宝箱も、鱗も、両方欲しいんや」

「置いて帰っていいですか?」

「ええから、来るで!」



 ドルの声に前を向くと、姫龍が口を大きく開けて、光の弾を作っていた。

 姫龍との距離は10mもない。四人は船の上。逃げ場はない。光弾は大きく膨らみ、辺りを照らす。



「これは……、ヤバそうだな」



 こんどーの顔に、いつもの余裕そうな表情は無く、口元が引き攣っている。

 光弾がユズたちを強く照らしだす。姫龍が、ユズたちに向かって攻撃を放とうとした。その瞬間、他のパーティが姫龍に攻撃を仕掛けた。次々と打ち込まれる攻撃により、姫龍の照準がずれた。光弾はユズたちのはるか後方にある岩壁に当たった。



 ドォンッ



 岩壁の方を振り向くと、大きく穴が空いており、外の景色が見えていた。



「……っぶねー」

「間一髪でしたね……」



 冷や汗をかくユズとこんどー。それでもなお、ドルだけは目を逸らさずに、姫龍を見据えていた。



「あかん、狩られる!俺以外に!」

「頭の中金のことしかないんですか?!」

「行け、動物組!」

「おう」

「はぁ〜い」

「動物組ってなんだ?!って、行こうとするな!」



 複数のパーティの乱入により、湖の上はレイド戦になっていた。

 姫龍を囲むようにパーティが並ぶ。姫龍にダメージが入り、その巨体を震わす。その度に水面が大きくうねる。



「落ちちゃいます〜!」

「しっかり捕まれ!」

「行け、動物組!」

「殺す気か!!」



 連携魔法が、姫龍のHPを大きく削る。

 しばらくの攻防の後、姫龍が大きな咆哮をあげ、水面に崩れ落ちた。ゆっくりと、湖の底へと沈んでゆく。

 誰もその場から離れない。姫龍が沈みゆくのを、静かに見守っていた。

 湖が落ち着きを取り戻す頃。その場には、一枚の姫龍の白銀鱗が顔を出した。

 

 その瞬間、湖の上では強奪戦が始まった。


 手を組んだパーティと言えど、姫龍さえ倒してしまえば後はどうでも良い。船の上では魔法が飛び交い、乱戦状態となった。

 それを見たドルは、急いで宝箱をこんどーに預け、湖へと迷わず飛び込んだ。



「守銭奴極まれり」

「素直でいいですね〜」

「お金が絡んだ時の行動力と判断力が異常ですね……」



 乱戦状態では、誰も湖を見ていない。その隙を狙って、ドルが白銀鱗に近付く。あっという間に辿り着き、白銀鱗を掴んだ。



「とった!俺んや!」



 水面から白銀鱗を掲げて、権利を主張した。その瞬間、異変に気付いた周囲のパーティからドルに向けて魔法が飛んだ。



「ぎゃぁぁぁ!卑怯やろ!!」

「そりゃそうだろ」

「そうなりますよ〜」

「妥当だな」



 魔法が飛び交う度に水面が跳ねる。

 ドルは必死に水面を泳ぎ、時には潜る。判断に優れており、上手く攻撃を交わしている。その胸には、白銀鱗が抱えられたままだ。



「離せ!」

「離すかぁ!」



 ドルは必死に攻撃を避けながら泳ぐ。もうすぐ船に辿り着く。

 その時だった。



 ドゴォォォン



 隕石魔法が岩礁に当たり、水面を大きく揺らした。



「きゃっ」

「メェさん!掴んで!!」



 船が大きく揺れ、ユズとひつじは船にしがみつく。宝箱を預かっていたこんどーは船に捕まることができず、バランスを崩して背中から湖に落ちた。

 船のすぐ傍まで戻ってきていたドルは焦る。



「ちょっ、お前……!」



 こんどーの背中がドルに近づいてくる。ドボンッという音とともに落ちたこんどーに、ドルは押される形で水に深く沈んだ。その衝撃で、ドルの手から白銀鱗が離れた。

 

 ゆらりゆらりと白銀鱗が湖の底へと沈み、暗闇に溶けた。

 

 その場にいた全員が固まる。

 水から顔を出したドルが、こんどーを見る。

 


「……お前、宝箱は?」

「……わりぃ、落とした」



 それを聞いたドルが、堰を切ったように叫ぶ。



「お前ぇぇぇぇぇぇぇ!」



 ドルはこんどーの頭を力いっぱい押さえつけて水面につけた。強くもがいてなんとか抜け出したこんどーが、水面から顔を出す。



「ぷはっ。悪気は無い、許せ」

「許すかぁ!!」

「やっぱこのパーティ終わってる……」



 遠い目をしたユズが、現実逃避をするかのように岩壁の穴から外を眺めていた。



 “二兎を追う者は一兎をも得ず”という言葉がある。


 彼らはそれを、身をもって知った。


 ――そして、また追いに行く。



 ユズたちは岸に戻ろうとオールを漕ぎ出す。ドルは真剣な顔をしてユズを呼び止めた。



「ユズくん」

「ドルさん、どうしました?」

「湖の底、扉があったで」

「え?!」



 ユズのオールを漕ぐ手が止まる。オールを握るその手が、ギュッと強くなる。



「でも、星空の街やなくて、月潮の街って書いてあったわ」

「……公式にも星空の街以外に、二つの街があるって書いてました」



 公式情報において、星空の街以外にも二つの街があると明言されている。“星空の街”、“月潮の街”。そして、“朝凪の街”。名前とその街並みの情報だけが、言葉としてのみ開示されていた。



 ――古代の空が広がる街とだけ。



 あとは、残り二つの街を含めて謎に包まれたままだ。



「じゃあ、その一つだな」

「……確かに、扉はあるんですね」



 ユズの瞳が揺れる。強い期待が心臓を高鳴らせる。

 そんなユズを見て、ドルがゆっくりと頷く。



「ちゃんとあったで」

「一歩前進ですね〜」

「良かったな」

「はい……!ありがとうございます!」



 扉があった。

 ただそれだけ。


 それでも、それだけで、ずっと追いかけていたものが、ちゃんとこの世界にあるのだと思えた。

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