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ROAD OF FRONTIER〜ジャンプで罠を踏むバカたちと星空の約束〜  作者: 春野凪
星空の約束

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3/6

猫に小判

 ――夕方の草原エリア


 ひつじは一人、黙々とスライムを杖で殴りつけていた。一匹、二匹、三匹とスライムが光となって消えてゆく。

 二十匹ほど倒した頃、スライムからポトリとアイテムが落ちた。ひつじが拾い上げると、それは見たことの無い形の杖だった。



「星杖……ルミナス?これ、可愛いです〜」



 ひつじは拾い上げた杖を使って、近くにいたスライムを叩く。 



 ポコッ



「わぁ〜!」




───────────────




 ユズがいつも通りログインすると、フレンド通知にひつじの名前があった。

 ギルド内の掲示板でひつじの居場所を見ると、草原エリアにいるようだった。ユズは草原エリアへと向かった。

 ユズが草原エリアに到着する頃には、夕陽が沈みかけていた。ユズは、夕陽の中でレジャーシートを敷いて寝そべっているひつじを見つけた。



「メェさん、早いですね」

「ユズさん、お疲れ様です〜」

「メェさんも、お疲れ様です」



 声をかけると、ひつじは起き上がり挨拶を返した。軽く世間話をしていると、今度はこんどーが現れた。



「おっす。メェさん珍しくはえーな」

「ゴリさん、お疲れ様です〜」

「こんばんは、こんどーさん」

「何してたんだ?」

「彼氏に振られたんで、腹いせにスライム狩りしてました〜」

「何人目だよ」



 こんどーは呆れた目でひつじのことを見ている。そんなこんどーの様子も気にせず、ひつじは目を輝かせながら口を開いた。



「でも見てください!」



 少し興奮気味のひつじが、アイテムボックスから杖を取り出した。その杖の先端には、大きな水晶がはめ込まれている。水晶の周りには、星の装飾が付いており、動く度にゆらゆらと揺れる。

 ステータス画面には【星杖 ルミナス】の文字。



「すっごく可愛いでしょ〜!」

「え、ま、は……?」

「おい、それどこで……」



 自慢げに杖を揺らすひつじに、ユズとこんどーは口を閉じることができないでいた。二人は、信じられないものを見るかのように、大きく目を見開いている。



「スライム狩ってたらドロップしました〜」

「草原エリアで……?」

「スライムから……?嘘だろ、幸運すぎる……」




 ――星杖 ルミナス


 ドロップ率1/100000000《1億分の1》と言われる、伝説級のアイテムだ。




「しかも見てください!」



 そう言うとひつじは、近くにいたスライムに向かって杖を振り下ろした。



 ポコッ



 小気味良い音と共に、星のエフェクトが散る。その瞬間、スライムが光の粒子となって消えた。

 ひつじは輝く笑顔で二人に振り返った。



「ねっ!可愛いでしょう〜!」

「なんで魔道士が杖で叩くんですか!魔法使え、魔法!」

「ポコッて鳴るから、名前はポコちゃんです〜」

「聞け!」

「ルミナスに名前をつけるな」

「え〜、可愛いのに〜」



 夕陽が完全に沈み、月が顔を出した頃、三人の前にドルが現れた。



「おつー」

「ちす」

「ドルさん、お疲れ様です」

「こんばんわ〜」

「何してんの?」

「宝くじ先輩、見てください!」



 再びひつじがルミナスを振り上げ、近くにいたスライムに叩きつけた。



 ポコッ



 軽快な音が鳴り、星のエフェクトとともにスライムが消滅する。ひつじはドルの方を見て、嬉しそうに笑う。



「新しい武器です〜。どうですか、可愛いでしょ〜!」



 ひつじが杖を揺らして見せる。星の装飾が、チャラチャラと音を立てて動いている。

 ドルは杖を見て、一瞬目を見開いたが、すぐにいつもの表情に戻った。しかし、声が少しだけ震えていた。



「……お、おん。……可愛ええな」

「でしょ〜!」

「……なんて名前の武器なん?」

「ポコちゃんです!」

「絶対ちゃう」

「う〜んと……、星杖 ルミナスです!」

「へぇ……」



 ドルは目を細めて、小さく頷いた。そして、何事もなかったかのように胡散臭い笑顔を貼り付けて、ひつじに向かって手を伸ばした。



「ちょっとそれ見せてくれる?」

「いいですよ〜。はい、どうぞ」

「おい、まさか……」



 ユズは嫌な予感がして、横から声をかける。 が、遅かった。嫌な予感は裏切られることはなかった。

 ドルはひつじから杖を受け取ると、全力で走り出した。



「やると思った!!待てこら!」

「私のポコちゃん!」

「待て言うて誰が待つねん!!」



 ドルは、捨て台詞を吐きながら走っていく。ユズとひつじが追いかけるが、ドルの足の速さに追いつけない。



「くそっ……、早い!誰かあいつ止めろー!!」

「任せろ」



 ユズの叫びに、少し遅れて追いかけてきたこんどーが冷静に答える。斧を手に持つと、肩に担いで狙いを定める。そのまま斧を、ドルに向かって投げた。

 斧は、クルクルと円を描きながら、ドルに向かって正確に飛んでいく。



 ドスッ



 ―――ドルの肩に突き刺さった。



 ドルはその反動で、地面に滑り込むように転げた。



「ぎゃぁぁぁぁ!!」

「命中」



 三人はドルの元に駆け寄る。肩から血を流して悶えるドルを、詐欺師を見るような目で見下ろした。三人が来たことに気が付いたドルは、涙を浮かべながら吠える。



「アホか!めっちゃ痛いやんけ!!おまっ、見てみ?!血がドバドバって、ほら!」

「アホはどっちだ、アホは!」

「自業自得だな」

「いや、だってこんなん宝くじに当たったのと一緒やん!換金せな意味ないやろ?!」

「それはメェさんが決めるんだよ!」



 ユズのもっともな言い分に、ドルは一度押し黙る。するとまた、軽薄な笑みを浮かべながら、ひつじの方を見た。



「今のはほんのジョークや。俺に任せてみ?」

「絶対嘘」

「目がマジだったろ」

「倍にしたるから、な?」

「やっぱ売るつもりじゃねーか。何の倍だよ」

「もぉ〜!ポコちゃん返してください〜!」



 ユズがドルからひったくるように杖を奪い返し、ひつじに渡す。



「あぁぁぁ、俺の300万がぁ!!」

「誰がアンタのだ!」

「ポコちゃんです!」

「人としてダメだな、コイツは」



 ユズは、呆れたようにため息を吐く。いまだ叫び続けるドルを、どう黙らせようかと拳を作っていた時、茂みから何かの気配を感じた。



「おい、何か来たぞ」

「待ってや、俺負傷中やぞ」

「自業自得でしょう」



 ガサリと草が揺れ、そこから大きな影が飛び出してきた。

 大きな体躯に茶色の毛、額には大きなツノが一本生えている。ギラリと光る鋭い牙の隙間から唸り声が漏れる。

 ギャングウルフだ。


 モンスターは弱い順に、C-からSS+ランクまである。ギャングウルフのランクはB-。ゲーム初心者ならば、そこそこ手こずるモンスターだ。



「下がれ!」

「ギャングウルフなら、俺一人で十分だな」



 ユズは少し後ろに下がり、こんどーの背に立った。こんどーはドルに刺さったままの斧に手をかけ、臨戦態勢だ。



「ちょっ、あかんて!抜いたら痛いて!」

「大丈夫だ」

「お前のセリフちゃうねん!!」

「我慢してください」

「ユズくん?!」



 三人のやり取りを尻目に、ひつじがギャングウルフに向かって走っていく。ドルはそれに気付くと、焦ったように声を上げた。



「あっ、ちょ、俺の300万が!」

「メェさんのこと300万って言うな!」

「やっぱダメだなコイツ」

「言うとる場合か、助けんと!」



 ひつじを助けようと、ユズが走りだした。しかし、それよりも先にひつじがギャングウルフの元へと辿り着いた。

 ギャングウルフは警戒するように体勢を低くしながら、足を踏み出す。動く度に、鋭い爪が地面を抉る。

 ひつじは怖がることなくさらに近付くと、ルミナスを大きく振りかぶった。そして、それをギャングウルフの左足に向かって勢いよく振り下ろした。



「えいっ!」



 ポコッ



【グギャァァァァ】



 軽快な音とは反対に、ギャングウルフのHPがゴリゴリと削られる。絶叫とともにドシャリと倒れこみ、そのまま光の粒子となって消えていった。そこには、ギャングウルフの角だけが、素材として残されていた。



「わ、経験値入りました〜!」

「……」

「……」

「……」



 絶句する三人を他所に、ひつじが嬉しそうにステータスをイジる。相変わらず、MPに極振りしているようだ。



「ポコちゃん優秀です〜!」

「……俺、しばらくメェちゃんに逆らうのやめるわ。殴られる」

「命大事に」

「最強が生まれたな」



 青い顔をしたドルがポツリと呟くと、同意するようにユズとこんどーが頷いた。

 ひつじがユズたちの方を振り返ると、ルミナスの装飾が一緒に揺れる。男共はそれを見て、思わず肩を震わせた。



「なんで震えてるんですか〜?」



 ひつじは不思議そうに首を傾げる。それから直ぐに、ドルが血を流しているのを見て、ドルの近くまで走り寄ってきた。



「宝くじ先輩、治してあげますね〜」

「あ、あぁ……。堪忍な」

「いいえ〜。【ヒール】」



 星のエフェクトがドルの周りを囲む。途端にドルの傷は塞がり、痛みもスっと引いた。



「……ちょお待て」



 HPを確認していたドルの声が震える。



「どうしました?」

「……全回復しとる」



 星杖 ルミナス。

 その真価は白魔法だ。


 こんどーの攻撃により、半分近く削られていたドルのHPが、初期魔法であるヒールによって全回復させられていた。

 ドルは一瞬の沈黙の後、満面の笑みを浮かべながら呟いた。



「これ……、使えるで」

「今度はなんだ」

「俺らはゾンビになれる、PvPも楽勝や」

「ホント、ロクでもねぇな」

「問題は使い手がポンコツなことだけや」

「最低か!」



 ドルはニヤニヤと皮算用で妄想を膨らませている。しかし、すぐに思い直したように眉を寄せて、険しい顔になった。



「……ああ、でもあかん」

「……なんでですか?」



 どうせまた、ろくでもないことを考えているんだろうと、思いながらもユズはドルに尋ねた。ドルは、ユズの目を見て真剣な顔で答えた。



「300万が狙われたら正気でおれる自信がない」

「ホント最低だな!」

「敵全員を葬るには矢が足りん」

「守り抜く方かよ」



 ユズとこんどーが呆れた顔でドルを見ていると、ひつじが眉を下げながら口を開いた。



「でも不思議なんですよ〜」

「何がですか?」

「魔法を使うと、HPが削れちゃうんです〜。ほら」



 そう言って、ひつじは自分のステータスをユズたちに見せた。ひつじのHPは残り10となっていた。



「10?!なにしたんですか?!」

「何もしてないです〜。魔法使った時だけ減っちゃうんです〜」

「えぇ……?それは不思議ですね……」



 ユズとひつじは首を傾げる。



「まぁ、強い武器には制約が付き物だからな。でも、元々HPの低いメェさんにはキツイな」

「もう一回使ったら死にそうやな」

「う〜ん、でも10以下にはならないみたいです〜」

「へぇ、それならまだ安心か」



 それなら、HPが高い者が持てばいいのでは?


 そう思い、ユズは自分のHPを確認するためにステータスを開いた。



「え?!」



 ステータスを開いたユズは、大きく声を上げて固まってしまった。隣にいたこんどーが首を傾げて尋ねた。



「どうした?」

「……僕のHP、削れてます」

「回復するの忘れとっただけちゃうんか」



 ユズは、ドルの言葉に首を振る。



「確かに満タンだったはずです」

「記憶違いやろ」



 記憶違い。その可能性も捨てきれない。だが、確かにここに来る前、HPは満タンだったはず。それなのに1/6も削れているなんて流石におかしい。


 その時、こんどーが声を上げた。



「ユズ、それ記憶違いじゃねーぞ」

「え?」

「……俺のHPも持っていかれてる」

「はぁ?!」



 こんどーのステータスを確認すると、確かにHPが少し削れていた。

 ユズは、慌ててひつじの方を見る。



「ちょっ、メェさん!ポコちゃんの説明文なんて書いてます?!」

「う〜ん?」



 使用者のHPを使用して、魔法を施行。

 使用者のHPが10以下の場合は、周囲のプレイヤーのHPをランダムに使用。

 HP使用量は魔法により異なる。



「ピーキーかよ……」



 説明を聞いて思わず漏れたユズの声が、空へと溶けた。




  “猫に小判”という言葉がある。


 だが、この場合。


 猫が、小判で殴ってくる。



 ――しかも、めちゃくちゃ強い。



 困るのは、周りの人間だけだった。




 夜風が四人の間を吹き抜ける。ほんの少し肌寒い。



「そう言えば……」



 ひつじが、ルミナスの説明文を見ながら口を開いた。



「どうしました?」

「ユズさんの行きたい所って、星空の街でしたっけ?」

「そうですけど……、何かありました?」

「ポコちゃんの説明文に、星空の街へ繋がる扉の鍵になるって書いてました〜」

「え?!」



 ユズの呼吸が、一瞬止まった。こんどーとドルも、目を丸くしている。



「ルミナスが鍵……。そら、発見報告がないわけや」

「良かったじゃねーか、手がかりが見つかって。棚ぼただな」

「アイ・アム・ラッキーガールです〜」



 手がかりが見つかり、お祝いムードの三人。しかし、ようやく手に入れた手がかりを目の前に、ユズだけは落ち着いてはいられなかった。



「ちょっ、ちょっとポコちゃん貸してください!」



 そう言うと、ユズはひつじに鼻息荒く大股で近付いてゆく。あまりの勢いに、ひつじがたじろいだ。



「ゆ、ユズさん?!」

「いいから見せてください!」

「ちょっ」



 ひつじの持つ杖を掴み、力を込めて自分の方に引っ張ろうとした。しかし、ユズの手はその寸前で止まった。眉を下げて戸惑うひつじの顔を見てしまったのだ。



 ――そんな顔、させたかったわけじゃない。



「あ……、すみません。焦りすぎました」



 自分が思っていたよりも、弱々しい声がユズの口から漏れた。ぎゅっとルミナスを握っていた手は、ゆるゆると離れていった。ひつじは、そんなユズの様子に、首を横に振って笑って見せた。



「あはは、大丈夫です〜。はい、ポコちゃん」



 ひつじはそう言うと、ルミナスを差し出した。人好きの良い笑顔だった。

 ユズはひつじの顔を見た後、ルミナスに視線を落とした。



 ――手がかりは欲しい。



 それでも、この三人を困らせる形で手に入れたいわけじゃなかった。


 彼らとは、ゲームを始めて三年ほど一緒にいる。ひつじはきっと裏切らない。必要とあれば、ルミナスをユズに譲るだろう。今までの関わりから、そう頭では分かっていている。それでも、心が焦る。

 ユズはぎゅっとズボンの端を握り、首を横に振った。



「……いえ、やっぱりいいです。本当にすみませんでした」



 ユズはそう言うと、ひつじに頭を下げて、もう一度謝罪の言葉を口にした。

 ひつじの、あの困った顔がまぶたの裏を掠める。

 意気消沈と言ったユズの様子に、隣で見ていたこんどーが口を開いた。



「……焦るのもいいが、まずは落ち着け」

「はい……。すみませんでした……」



 こんどーは一度ため息を吐いた。

 そして。



 バチンッ



「いっ……!」



 ユズの背中を思いっきり叩いた。ユズは、突然の痛みにその場で蹲る。



「切り替えろ。鍵は見つけた。次は扉だろ」

「っ……。はいっ……!」

「メェさんも、これで許してやってくれ」

「は〜い。ユズさん、私怒ってないですからね〜」

「……ありがとうございます」



 ひつじは、ユズの目線に合わせるようにしゃがみ込むと、にっこりと笑って口を開いた。



「ユズさん、私も星空の街に行ってみたいです〜」

「え……」

「だって絶対ロマンチックなんですもん」

「……」

「だから、一緒に行きましょうね〜」



 ひつじの大きな瞳が、まだ見ぬ星空の街を想って、キラキラと輝いていた。

 本気で言ってくれている。ユズは直感的にそう思った。

 ひつじは立ち上がると、鼻歌を唄いながら去って行った。



「……ありがとうございます、メェさん」



 ユズは、ぽつりと呟いた。

 こんどーとドルは小さくため息をつくと、ユズの頭を乱暴に撫でてから、ひつじの背中を追った。


 “一緒にいきましょうね〜”


 その言葉が、胸の奥に残った。

 空にはもう、大きな満月が登っていた。

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