後手必敗
新エリアの解放まで、残り一ヶ月を切った。
ギルドには六人全員が集合していた。各々装備を整えると、覚悟を決めた顔で立ち上がった。
「そろそろ行くか」
「砂時計の回廊、ですね」
特訓の成果もあり、ユースケとココアもパーティであればAランクダンジョンを攻略できるようになっていた。
「春休みが被ってて良かったです」
「ええなぁ、大学生は」
「戻りたいです〜」
ギルドから出て十分の所にある、始まりの街で転移装置に乗り、歩けば一日以上かかる街に転移する。そこから魔法馬車で四十分ほど揺られてやっとダンジョンの前に辿り着いた。
ダンジョンの周りは、砂の通行証を手に入れるため、人で溢れていた。そこで、ユズが見知った顔を見つけた。
「ハルトさんと……ユリさん?」
「……君たちか」
ハルトとユリだった。
「君たちも、砂の通行証を?」
「はい。……ハルトさんたちは、もう?」
「ああ……、なんとかね」
ハルトは一瞬、目を逸らして、すぐに視線を上げた。その表情は疲れ切っていた。ハルトの甲冑は傷に塗れ、マントは破れている。
ユリの艶やかな髪も乱れ、疲労しているのが一目でわかった。
「お前んとこの、デカブツとチビは?」
「……」
「教える義理はありませんのよ」
黙るハルトの横からユリが答える。少し間が空いて、ハルトがゆっくりと口を開く。
「……正直、このダンジョンを挑むのはオススメはしないな」
「そうかよ」
こんどーは興味が無さそうに、斧をクルクルと手の中で回している。
「……随分、自信があるんだね。初見かい?」
「教える義理はねぇな」
「……そうかい」
ハルトはそれ以上何も言うことはなかった。そんなハルトを、こんどーは横目で見た。
「……お前、ボスのギミック解けなかったんだろ」
「……解けたさ。……でも、それだけでは越えられない……」
ハルトは目を伏せながら応えた。その隣では、ユリが唇を噛んでいる。
「……ふぅん」
二人の反応に、こんどーは目を細めた。斧を肩に担ぐと、ハルトに背を向けた。
「格の違いを見せてやるよ」
そう言うと、ダンジョンの入口へと足を進めた。ユズたちはこんどーの背中を追う。
「なんやお前、ギミック解けたんかいな」
「さすがです〜」
「いつの間に……」
「良かったー!これなら勝てそうだね、ココちゃん!」
「そうね」
五人全員が安堵の息を吐き、明るい雰囲気がパーティを包んだ。
「いや」
「え?」
こんどーが真顔で振り向いた。
「解けてねーけど」
六人は足を止める。
「はぁぁぁ?!」
「解けたなんて言ってねーだろ」
「いや、解けた感じで言ってましたけど?!」
「なんとかなるだろ」
「だから、その自信はいつもどこから来んねん!」
「頭から」
「カチ割ったろか!!」
六人は緊張感もなく、ダンジョンへと入っていく。その後ろ姿を、ハルトとユリは黙って見送った。呆れたような、しかし小さな羨望を秘めた目だった。
ユズたちは、ダンジョンの中に入り、順調に攻略していく。
こんどーとココア。
ユズとひつじ。
ドルとユースケが二列になって順に歩く。
連携は申し分ない。以前の挑戦よりも、遥かに早い速度でボスエリアまで辿り着いた。
赤く塗られた木製の扉が、物々しい雰囲気を醸し出している。この扉をくぐれば、ボスとの対戦が始まる。
六人は顔を見合わせたあと、ゆっくりと扉を開け、足を踏み入れた。
――その瞬間。
ぐにゃりとした一瞬の歪みを感じる。足底の感覚が、遅れて入るような違和感。
「え……」
「なんか、今……」
「気持ち悪いです〜」
戸惑う声がパーティからあがる。全員が一度目を合わせた。
「……行くぞ」
こんどーの声とともに、一歩、進む。
コツ
足音が、遅れて響いた。
「……」
もう一歩。
コツ
――音が、二重に聞こえる。
「ユズ」
「はい、こんどーさん。……遅れてます」
「これのギミックが分からねぇ」
「……周期的、だったはずです。毎回ズレるわけじゃない」
「ああ。でもそれだけじゃあ効率が悪すぎる」
前回の経験と今の現象を擦り合わせていく。感覚だけでここのギミックは解けない。周期を割り出せば、長期戦で勝てなくはないだろうがそれでは次のエリアに進むには価しないだろう。
ユズとこんどーが頭を捻っていた、その時。
――ヒュンッ
こんどーとココアの目の前に、突然砂の刃が現れた。
「っ!」
こんどーが咄嗟に斧で受けた。
ガガガッ
砂の刃が、斧に当たってちりじりになる。
手応えはあった。
だが――
ザンッ
こんどーの肩から、血が噴いた。
「いっ……!」
「は?!今防いだやろ……!」
「ズレてる……!」
困惑の中、ユズが叫ぶ。
「タイミングを、ずらされてる!」
再び砂が集まり、刃の形へと変化する。
「来るぞっ!」
ドルの声に反応して、全員がその刃を視界にとらえる。
シュンッ
見えている。攻撃のスピードは早いものの、見てからかわす事は不可能では無いレベルだった。そう、全員に、確かに、見えていたのだ。
砂の刃はユースケ目掛けて飛んでくる。ユースケが後ろに飛び、砂の刃は足元に落ちた。
――はずだった。
ザンッ
「がっ……!」
ユースケの足から、遅れて血が吹き上がった。
「な……、なんで……!」
「避けてたわよ……?!」
「……避けた“後”に、当たってる……」
そこに突然、ギギギとブリキのような音が鳴り響いた。ユズたちは、音のした方角に視線を移した。そこには、頭と胴、手足が分離したピエロ姿のモンスターが一体、空中に浮かんでいた。その名を、【砂時計の守り人】という。
ニヤリと笑った白塗りの顔が不気味に笑う。
“後手必敗”という言葉がある。
先手は、既に取られている。
受け身では、負けは必然。
――彼らがソレを、許すなら。




