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ROAD OF FRONTIER〜ジャンプで罠を踏むバカたちと星空の約束〜  作者: 春野凪
星空の約束

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30/30

破れ鍋に綴じ蓋

「【ヒール】!」



ひつじの詠唱とともに、星のエフェクトが広がり、こんどーとユースケの傷が癒えた。



「サンキュー、メェさん」

「ありがとうございます!」

「は〜い」



その間もこんどーとユースケは、ピエロから目を離さない。再び武器を構え直す。



「ユズ!」

「はい!【戦術共有】!」



こんどーの激にユズがスキルを発動すると、ユズから半径5mの範囲に淡い光の円が現れた。

戦術共有は、ハロウィンイベントの個別報酬で得たスキルだ。円の範囲内に居れば、スキルによる敵の行動予測ができる。だが、ユズとピエロの間には距離があり、その円は届かない。



「もっと近づかないとダメです!」

「俺たちが気を引く。その隙に行け」

「はい!」



こんどーが地面に向かって斧を振り下ろした。



「【ヘヴィープレス】!」



ボコボコと亀裂が走り、地面が跳ね上がる。地下から押し出されるように地面が隆起し、礫《つぶて》が敵に当たる。



――HPは変化しない。



「【ウィンドシャワー】!」



ドドドドッ



矢の雨が降り、着弾する。少し遅れて、ピエロのHPがわずかに削れた。



「やっぱり……!」



ユズが全体を見回す。



「……攻撃は当たってる。でも、“結果”が遅れてる……」

「なら――」



こんどーが、口角を上げる。



「合わせりゃいいってことだな」

「――はい」



ユズが思考を巡らす。まずはパターンと周期の把握。それから、一番大事なのは――誤差の秒数。



「こんどーさんとドルさんは範囲攻撃を繰り返してください!」

「おう」

「任せろ!」

「メェさんはいつも通りに!ユースケくんとココアさんは、メェさんのカバー!」

「は〜い」

「はい!」

「わかりました」



こんどーとドルが、交互に範囲攻撃を繰り返す。その間に、ユズがピエロの死角に入り込む。



――半径5m。



戦術共有の効果範囲に入った。


近い。


ユズの心臓が緊張で跳ねる。ユズの目には、ピエロがコマ送りのように次の攻撃を仕掛けるのが見えた。



「……ココアさん!次そっちに行きます!」

「はい!」



宣言通り、ココアに向かって攻撃が飛ぶ。ココアは攻撃を去なすが、やはり遅れてダメージを負う。



「くっ……!」

「ココちゃん!」

「【ヒール】!」

「ありがとうございます……!」



ココアのHPはかなり削られたが、ひつじの魔法により回復される。ひつじは、いつも以上に魔法の使用を強いられるため、自分のHP管理と仲間のHP管理に追われているようだ。戦況を見守っていたユズが叫ぶ。



「ドルさん、後ろ!!」

「ああ?!」



――ヒュンッ



分離した手が、ドルの死角から攻撃を繰り出していた。咄嗟のことで動けないでいるドル。あわや直撃すると思われた、その瞬間。



【ピッ!】



ドルの頭の上で、戦況を見ていた東山が庇うように前に出た。



「アホ!」



ドルは手を伸ばすが、東山はするりとすり抜けた。東山に攻撃が直撃した。



――その瞬間。



東山の頭に被せられた、王冠が光った。




ドッ



数秒後、敵の腕が仰け反った。少しだがHPも削れているようだ。東山のハロウィンの王冠による、自動カウンターが発動していた。



「ユズ!」

「はい!……見えてる攻撃と、実際の判定が半拍ずつズレてる。往復できっかり3秒。だから、こっちが合わせるのは1.5秒……!」




「で、でも、カウンターした時の手応えはありましたよ?」

「避けた先でも攻撃が来るのもおかしいわよね」

「幻術か何か、スキルを合わせてやがるな」

「最悪の後出しジャンケンっちゅーわけやな」



さらにピエロの攻撃は続く。ピエロの投げた岩がドルのすぐ隣を通り抜けた。



「くっ……!なんかパターンは無いんか?!」

「胴体はスピン!右手の横薙ぎの次は左手での投擲です!最後に砂のブレスが刃に変わる!!ランダムで来る両足の踏みつけに注意してください!」

「面倒だな……」

「……全員、1.5秒遅らせてください!」

「えっ、どうやって……」



困惑するユースケの横から、こんどーが声をかける。



「先に動くな。見てから、遅れて動け」



さらに戸惑うユースケとココア。言わんとしていることは、なんとなく分かるが、それを正確に理解し実行に移すことは出来ない。そんな二人を見て、こんどーは斧を構え直す。



「つまり、こうだ」



こんどーが一歩前に出て、攻撃が来るのを待つ。



――ビュンッ



右手の横薙ぎだ。見える。攻撃の軌道が、はっきりと。こんどーは、動かない。


一拍。

もう一拍。


敵の右手が、こんどーに当たる。



「――今」



斧を振り抜いた。



ガギィンッ



確かにこんどーに触れていたはずの右手が、少し遅れて仰け反った。さらにHPが小さく削れている。今度は、手応えと結果が一致した。



「ビンゴだ」



ココアがこんどーを信じられないものを見る目で見つめる。



「攻撃が当たってから動くなんて……。正気の沙汰じゃないわ……。少しでもズレたら、終わるわよ……」

「絶対無理だよ……」

「それが、ここの難易度の答えやろな」



淡々と答えるドル。その目線は未だカウンターをキメ続けているこんどーへと向いていた。ユースケは、ちらりと戦場を見る。そこには、最善を尽くし指示を出し続けているユズと、恐れを知らぬ戦い方をしているこんどーが居た。

ユースケは、震える手で槍をギュッと握りしめた。



「……やるしか、ないんだよね」

「ユースケ……?」

「……怖いけど、僕やってみるよ」



そう言うと、ユースケが一歩前に出て、攻撃を待った。



――ヒュンッ



砂の刃が飛んでくる。ユースケの目の前に迫るが、まだ動かない。緊張でユースケの肩が上がっている。


一拍。

また一拍。


恐怖で目を閉じそうになるのを、必死に留める。



「――今!」



槍を振り抜いた。



カキィンッ



刃を押し返した。ズレていたはずの時間が、ぴたりと重なる。



「あ、当たった……!」

「ナイスや、ユースケ!」

「ナイスです〜」



歓喜に沸くパーティメンバー。ユースケは戸惑いながらも、嬉しそうに頬を緩めている。



「……」



ココアは自分のグローブを見つめる。ユースケを守るために一緒にいるはずなのに、まるで自分は役に立たない。一人で歩いていくユースケを、ただ見つめるしか無かった。



「ココア」



ココアの後ろから、ドルが声をかける。



「……はい」

「落ち込んどる暇は無いで。近接職の出番はこれからや」

「え……」

「ギミックがわかれば、こっちのもんや」



そう言うと、ドルは弓を引いた。



「とっておきの矢や。【チェインアロー】!」



――シュッ



敵の動きを予測して、1.5秒ずらして放たれた矢が、浮かんでいた胴体を貫いた。胴体を貫いた矢は、壁につきささり、透明な鎖が胴体と矢を繋ぐ。胴体はうぞうぞと藻掻くが、縫い付けられたかのように、その場から離れられない。



「今や!一気に削れ!!」

「っはい!」



ココアが、胴体の傍まで走り寄る。絶対に外さない距離。1.5秒のラグさえ関係ない。ど真ん中。



「【フレアパンチ】!!」



炎を纏った拳が胴体を殴りつける。縫い付けられた壁に亀裂が走る。



【ウォォォォ】



数拍遅れてピエロの絶叫が響いた。初めてピエロの口から声が漏れた。HPはほとんど削れていない。しかし、生存本能を震わすような攻撃だったようだ。

ピエロの胴体からは、砂がこぼれ落ちていく。



「そのまま続けてください!リズムを崩さないで!!」



ユズの声に全員が応える。ズレていた時間が噛み合い、攻撃と結果が完全に一致する。



「右腕、消えました〜」

「早ないか?!」

「さすがポコちゃん……!」

「さすポコ……」



さらに別の場所で声が上がる。



「左脚、やったぞ」

「やりました!」



余裕の笑みを浮かべるこんどーの横で、ユースケが槍を掲げている。他の部位も順調に破壊されていく。破壊する毎に敵のHPが大きく削られていく。



「っみんな早い……!」



ココアは一人、胴体を相手取ったままだ。MP切れを起こすまで殴り続けているというのに、胴体が消える様子はない。胴体から落ちた砂は、時間経過とともに元に戻ろうとする。まるで賽の河原での石積みのような時間に、ココアの顔が歪む。



「焦んな、よぉ見てみぃ!部位ごとにコアがあるはずや!」



ドルの声にココアが顔を上げると、視野が広がる。確かにあった。



――淡く光る、赤いコア。




「っ……ここっ……!」



バリィンッ



炎を纏ったココアの拳が、コアを砕いた。それと同時に、胴体から大量の砂が弾けた。



【ヴァァァ!!】



先程よりも苦しげな声が漏れる。残るは、頭部のみ。

浮かぶ頭をドルが見上げると、その頭上に影が浮かんでいるのが見えた。ドルは口角を少しあげると、ぽつりと呟いた。



「……最後にええとこ持っていきよるわ」



そこには、高く飛び上がったユズがいた。ピエロの額。赤いコア目掛けて、ユズが剣を振り下ろす。



「【ディストラクション】!!」



ビキッ


パリンッ



【ガァウァァァ!!】



コアが砕け、狂ったようにピエロが飛び回る。砂が漏れだし、ボトボトとパーツを落としながら、ゆっくりと形を失っていく。


やがて。


――砂が落ちきった。


静寂が、戻る。


遅れていた音も。

ズレていた感覚も。


すべてが、元に戻っていた。



「おわっ……た……」



ユースケが呟くと、その瞬間、全員の肩の力が抜けた。部屋には、大量の砂と、ピエロの残骸が落ちていた。



「剥ぐ手間が減ったわ」

「……またそれですか」



開口一番、やはり売ることしか頭に無いドルに、ユズは呆れた視線を送る。



「こんなピエロ売れるのかな……」

「強かったんやから売れる」

「なんだ、その理論」

「お前に理論がどうの言われたくないねん!」

「うるせー」

「宝くじ先輩に一票です〜」

「メェさん?!」



さっきまでの緊迫した雰囲気無くなり、いつもの空気が戻ってくる。

全員が黙々と素材回収をしている中、ユズはふと足元を見た。砂の中で、何かがキラリと光った。



「……なんだ、コレ」



拾い上げて、砂を払うと、それは懐中時計だった。金色の装飾が光る、アール・デコ調のデザイン。秒針が、静かに刻まれていた。

アイテムのステータスを確認すると、名前が浮かび上がった。



「……【クロノスの懐中時計】?」

「なんや?!宝か?!」



ユズの声に目敏く反応したドルが駆け寄ってくる。それに続くように、こんどーとひつじも、ゆっくりと近づいてくる。



「なんやそれ、時計?効果は?」

「対象を1.5秒行動停止。幻術系スキルの効果上昇……?」

「つえーな」

「デザインもオシャレです〜」



集まって話す四人の姿を、ユースケとココアは遠くから眺めていた。



「……」

「……楽しかった?」

「え?」



ユースケがココアの顔を覗き込んで、にっこりと歯を見せて笑った。



「僕はね、すっごく楽しかったよ!」

「……」



心底から思っている、輝くような笑顔だった。ココアはその顔を見た後、一瞬だけ四人の方を見る。



「……そうね。悪くは、無かったわ……」

「へへ……。良かった!」



ココアは、無意識にあがっていた口角に気が付いて、頬に手を当てる。そんなココアを見て、ユースケが心底嬉しそうに、また笑った。



「……今回のMVPは誰や」

「誰とかねーだろ」

「みんな頑張ってました〜」

「いいや、俺や」

「はぁ?」



こんどーは呆れた顔でドルを見た。ドルは至って真剣な顔で続ける。



「俺が、チェーンアローで足止めしたから倒せたんや」

「それを言うなら、ユズがギミック見破ったからだろ」

「そこや」

「あ?」



ドルは帽子をとって、三人の前へ突き出した。



【ピヨ?】



帽子の上の東山が首を傾げる。



「こいつの、カウンターでラグが何秒なんかが分かったんや」

「いや、まぁ……」

「じゃあ、東山がMVPですか〜?」

「違う」



ドルが横に首を振って否定する。



「コイツの飼い主は俺や。つまり、俺がMVPや!!」

「はぁ……」

「せやから、その時計は俺のもんや!」

「ホントになんなんだよ、こいつ」

「これ貰って、どうするんですか〜?」

「売る」

「即答かよ!」

「やっぱ人としてダメだな、こいつ」



遠くで四人のやり取りを見ていたユースケたちが、肩を落とす。



「……やっぱり、ついて行く人間違えたかしら」

「……ハハ」



――それでも。



ドヤ顔のドル。呆れた顔のこんどー。怒っているユズ。ほわほわと笑っているひつじ。コロコロと変わるユズたちのの表情に、二人は目を合わせて笑いあった。



“破れ鍋に綴じ蓋”という言葉がある。


歪な者同士でも、噛み合えば力になる。


バラバラだった時間も。


バラバラだった六人も。



――今は、ひとつに重なっていた。




ふとユズは大事なことを思い出した。



「ところで砂の通行証は?」



砂の通行証のために、このダンジョンを攻略したのだ。キョロキョロと周りを見回しているユズに、ユースケが言いにくそうに口を開いた。



「……みなさんの足元です」

「え?」



ユースケの言葉で、四人は足元を見る。四人の足元には、踏まれてちぎれた砂の通行証があった。



「……」

「これ、もしかして……」

「……もう一回?」

「です〜」

「……実家に帰らしてもらいます」

「僕も帰ります」

「待て!俺らを見捨てんとってくれ幼馴染組!」



かくして、二度目の挑戦を余儀なくされた。ダンジョンから出ると、ハルトとユリが待っていた。手ぶらのユズたちを見て、鼻で笑った。



「格の違いを見せてくれるんだろう?」

「……いや……一回は攻略したんです……」

「なんて、見え透いた嘘ですの……。最低ですわ」

「ホントなんです……」

「君たちには失望したよ」

「信じてください……」



そうして、二度目に手に入れた砂の通行証は、エリアが解放されるまで、額縁に大切に飾られていた。


懐中時計は、ユズの腰に掛けられて、静かに揺れていた。


ランプの魔神に出会うまで、あと――。



第1章 完

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