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ROAD OF FRONTIER〜ジャンプで罠を踏むバカたちと星空の約束〜  作者: 春野凪
星空の約束

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28/30

刎頚の交わり

「今月の営業トップも財前くんだ。おめでとう」

「おおきに、部長」



俺は知っとる。



「アイツなんなんだよ」

「関西からの栄転だってよ、田舎もんが」

「ボーナス上乗せだってよ」

「何一人だけマジになってんだよ」



陰口は、金の稼げんヤツの妬みや。



「財前さんってシゴデキでカッコいいよね!」

「この前仕事手伝ってくれてキュンって感じ!」

「関西弁はキツく聞こえるけど、実際は優しいよねー」



俺は知っとる。



「でもケチだよね。絶対飲み会断るもんね」

「関西人のくせにノリ悪〜い」

「そう言えば私、この前山下さんに奢ってもらっちゃった!」

「えー、いいなー」



人間関係を左右するんは金や。金にならん付き合いは、要らん。



「お父さんやめて!それはこの子らの学費……!」

「やかましい、どけ!」



俺は知っとる。



「財前さんとこの奥さん、過労やって?」

「そら、朝から晩まで働いてはったもんなぁ」

「息子さんらまだ学生やろ?」

「可哀想になぁ」



あの時、俺に金があれば……、死なずに済んだ。


この世は金や。


金は天下の回りもの。

地獄の沙汰も金次第。


その通りや。だから俺は、金さえあればそれでええ。心の底から、そう思っとる。



――ハズや。




「おい、そっち行ったで!」

「は、はい!」

「ココアは突っ込みすぎや!」

「っ……!すみません!」

「ココアさん、カバーします!」

「ありがとうございます!」



新エリア解放まであと一ヶ月半。ユズたちは、ユースケとココアの特訓をしていた。



「ふぅ……」

「終わりました……」

「お疲れ様です〜」



一行は中級者向けダンジョンである、岩山のダンジョンを攻略し終えたところだ。



「大分強くなりましたね」

「ほんとですか!」

「まだ、腰が引けてるけどな」

「うっ……」

「でもまぁ、前より動きはええな」

「あ、ありがとうございます!」



白くてゴツゴツした岩がそこかしこに落ちている。六人は、一息つくためにダンジョン内にあった大きく平たい岩に腰を下ろした。



「……ドルさんって面倒見がいいですよね」

「はぁ?」



唐突なユースケの言葉に、ドルの口が歪む。



「たしかに……」

「兄弟でもいらっしゃるんですか?」

「まぁ……、妹と弟がおるけど」

「良いお兄ちゃんです〜」


【ピヨー】



ひつじの膝の上で撫でられていた東山も、賛同するように鳴く。ドルは、どこか居心地が悪そうに視線を逸らした。



「……別に」

「照れてんのか」

「そんなんちゃうわ」



はやし立てる声を無視するように、誰とも目を合わせることなくドルは立ち上がった。



【ピッ】



東山が慌ててドルの帽子に飛び乗る。



「……次行くで」

「は〜い」



そう言うと、ドルとひつじはダンジョンの外へと繋がる、転移陣の方へと歩き出した。ユズたちは、いつもと違うドルの背中を黙って見送る。



「……僕、変なこと聞いちゃいましたかね」

「……いや、嫌なことは答えない人だから……」

「……なら、良かったです」



微妙な空気の中、六人は次のダンジョンへと向かった。

元々センスはあったのか、ユースケとココアは、メキメキと力をつけている。中級者向けダンジョンでも、ユズたちの声掛けは必要だが、もう手を貸さずとも攻略できるようになっていた。



「狡猾の巣穴……。ここは、僕らも苦戦したところですね」

「そんなこともあったな」

「あん時も、お前が罠踏み倒したからやけどな」

「過去は忘れて、前だけ見ろよ」

「誰が言うとるねん!」



――狡猾の巣穴


いくつもの道に分かれており、まるで穴熊の巣のように入り組んでいる。

罠の配置が多く、一撃で戦線を崩すトラップが並ぶ。また、擬態に長けたモンスターが多く、慣れ始め、慢心しているプレイヤーほど狩られる。


一行は、ダンジョンの奥へと進んでいく。



「足元、注意してね」

「はい……」

「こんどーさんは余計なことしないで下さいよ」

「わかってる」

「……ならいいんですけど」



ユズはこんどーが罠を触らないように、牽制を入れながら、ゆっくりと道を進む。



「これ、罠なのわかる?」

「……なんとか」

「……他の土と色が違うのね」

「そう。こういうモノの近くには、他にも罠がある可能性があるから気をつけて」

「はい」



罠や擬態モンスターについて、丁寧に解説していく。ユースケもココアも、ある程度は理解してきているようだ。あとは、感覚を磨くだけだ。



「……ここは、大丈夫そうですね」



開けた土地に出た。土の色も周りと変わらず、罠らしい罠は見当たらない。

ユースケが一歩踏み出した、その瞬間。



――カチッ



「アホ!!」



作動音と同時、ドルが咄嗟にユースケの腕を引いた。ユースケは引かれるままに尻もちを着いて転んだ。



ガガガッ



「ッ……!」

「ユースケ!!」



ココアの叫び声が響く。さっきまでユースケが立っていた地面には、大量の矢が刺さっていた。



「あ……え……?」

「よぉ見ろ!」



ユースケがドルの目線を追う。さっきまで立っていた場所の少し上に、いくつもの小さな発射口がついていた。



「……運が良かったな。次は、庇えんぞ」

「は、はい……。すみません……」

「……今のは見抜けなくて当然です」

「大事なのは場数だ」

「それに、私がいれば大丈夫です〜」

「ほら、手貸せ」

「……ありがとうございます」



しょんぼりと肩を落としたユースケが、こんどーに手を引かれ立ち上がった。

地面に刺さる大量の矢を見て、ココアがぎゅっと拳を握った。



「……バカみたい」



ココアの声が、洞窟内に響く。五人はココアの方に振り向いた。



「え?」

「ココちゃん……?」

「たかがゲームに何を熱くなってるわけ?」



ココアは地面を向いていた顔を上げて、キッとユズたちを睨みつける。



「こんな、危ないゲーム……。ユースケには合わないわ」



数秒の沈黙の後、ドルが口を開いた。



「……ゲームやからやろ」

「はぁ?」

「現実では得れんもん求めて来とるんやろ」

「そんなの……、現実逃避でしかないわ」

「ココちゃん……」



険悪な雰囲気が二人を包む。真剣な顔をしたユズが静止をかける。



「……二人とも、今は訓練中です」

「……ココアの言い分も分かるが、決めるのはユースケだろ」



こんどーに促され、ココアはユースケの方を見た。



「……ユースケ」



ユースケの瞳が揺れている。ユースケは一度強く唇を結び、視線を落とした。そして、ゆっくりと口を開いた。



「……僕、楽しいよ」

「え……」

「ココちゃん以外の人と、こんなにいっぱい遊べるなんて思ってもなかった」

「……」

「……僕が、どんなにヘッポコでも、笑って一緒にいてくれるんだ。もう少し……続けたい」

「……無理は……しないで」



ただの幼なじみ。それにしては、二人は互いを想い合いすぎているように見えた。

そんな二人の姿を見て、ドルは目を逸らした。何も、言わなかった。



「……次、行こうか」

「はい!」

「……はい」



ユズの声に促され、一行は歩みを再開する。隊列を組むが、いつもとは違い、ドルが先頭に立っていた。

ドルは無言のまま、罠を一つずつ潰していく。



「ドルさん…」



ユズは、そんなドルの背中を見ていた。なにか思うことがあるのは分かる。何を思っているかまでは分からない。ユズは声をかけられずにいた。



【ピヨ?】



東山が、ドルの頭の上で首を傾げる。いつもと違う雰囲気に戸惑っているようだ。

ドルが罠を十個程壊したところで、こんどーが眉間に皺を寄せて口を開いた。



「おい」



こんどーの声に、ドルが立ち止まる。



「……なんや」

「イラつくのは勝手だが、それでパーティの雰囲気悪くすんな」

「……すまん」



バツが悪そうにドルが小さく謝罪を口にする。一瞬の沈黙が、辺りを包みこんだ。すると、眉を下げたココアが一歩前に出た。



「……私こそ、すみませんでした」

「いや……すまん。俺が、大人気なかった」



ドルはココアと目を合わせず、小さく頭を下げた。



「……ドルさんが、珍しいですね」



ユズの言葉に、ドルが一ユースケとココアを見比べ、口をまごつかせた後、小さく呟いた。



「……金が絡まんでも、そんなに大事に想えるもんなんか」

「え?」

「理解できん」

「……当たり前でしょう」

「……」

「……あたしには、貴方もそうみえますけど」



ココアはドルの目を見て言った。ココアのその言葉に、ドルは言い返そうとした。しかし、何も言えなかった。理屈では否定できた。けれど、言葉が出なかった。



【ピッ】



東山がドルの頭の上で、小さく鳴いた。



――その時。


ユズが空気を変えるに手を叩く。パンパンと渇いた音がその場に響いた。ドルとココアは一瞬肩をビクつかせた。



「はい、お互い謝ったのでそこまで。行きますよ。先頭はユースケくんとココアさん。……ドルさんはカバーに」

「は、はい」

「……はい」

「……わかった」



ユースケとココアが、小さく会釈をして小走りで先頭へ向かう。その後ろを、ドルがゆっくりと追う。



「ドルさん」

「……なんや」



ユズの呼び止めに、ドルが振り向いた。



「……少なくとも僕は、大切に思ってますよ」



ユズは眉を下げながら、優しく微笑んだ。その後ろから、こんどーとひつじが顔を出した。



「私もです〜」

「俺は別に」

「こんどーさん?」

「……まぁ、お前が居ねえとつまんねぇだけだ」



ドルは顔を伏せながら、前を向く。



「……なんやそれ」



【ピッピヨッ】



頭上で東山が鳴いた。まるで自分もと言うように。



「全員キモイわ」



そう言うドルの耳が、ほんのりと赤く色付いていた。



「……ほら、行くで」



三人は顔を見合わせる。少し笑って、ドルの背を追った。

確かに自分は、レアアイテムを集めてデータを売るためにこのゲームを始めた。なのに。理由は分からない。でも、今は出来そうにもない。ドルは赤い耳のまま、面白くなさそうに東山を撫でた。



“刎頚《ふんけい》の交わり”という言葉がある。


首を切られても惜しくないほどの関係。


彼には、それが分からない。


ただ、手放すには惜しい。


――それだけで、十分だった。

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