果報は寝て待て
「もうアンタとはやっていけないわ!」
「それはこっちのセリフだ!」
「もう……離婚よ!」
俺は知っていた。
「大輔、お母さんとお父さん、どっちについて行きたい?」
どれだけ嫌だと言っても。どれだけ迷って悩んでも。結果は変わらないことを。
「じゃあ、私来週この子連れて実家帰るから。離婚届よろしく」
俺は知っていた。
「じゃあ三日後の夜、一時にここで集合な!母さんたちには内緒だぞ!」
「うん!約束だからね!」
三日後には、俺はこの街を出ていることを。
でも、信じたくなくて。また、三日後も同じように、家族揃ってこの街に居られると思いたくて。その日の約束が果たされることはないと、知っていたのに。
「忘れなさい。お父さんのことも、あの街のことも」
あの時、誰にも言えなかった。ごめんも、ありがとうも。嫌だという否定の言葉さえ、何一つ。
だから、迷い悩むのをやめた。
「迷っても変わらねーだろ」
だから、忘れようとした。
「忘れりゃいいのに、お前も俺も」
だから。
「……あの日、見逃したものを、取り戻せる気がして」
「僕の、遠い約束なんだ」
「……大ちゃん……約束……星……」
だから、言えなかった。
お前の思い出にある約束が、俺の勝手な理由で果たされなかったことを。何一つ悪くないお前を、俺の勝手な理由で縛り付けていることを。
だから、俺は黙ったまま、遠い約束にお前を連れていくと決めた。知らぬまま、果たしたいと願ってしまった。
――約束は、まだ終わっていない。
「3……2……1……」
ゴーン ゴーン
ギルドの時計から、0時を告げる鐘が鳴った。
「お疲れ様でした〜」
「あー、疲れた」
「やっと終わりか」
「全員なんとか五十位以内キープできましたね」
ハロウィンイベントが終わり、ユズたちはいつものギルドに集まっていた。
運営から、一斉に通知が入る。
「報酬入りましたよ!」
「即時報酬有難い……」
ドルが、空を拝み始めた。そんなドルを無視して、ユズたちはステータスを確認する。
「上位者共通報酬は……、称号【ハロウィンの支配者】?」
「……HP25%以下で全ステータス上昇。被ダメ軽減に回避率アップ……」
「瀕死前提やんけ」
「まぁ、でも強い効果ですね。特にメェさんと相性が良さそうです」
さらに画面をスクロールしていく。
「個別報酬も入ってますね」
「私とポコちゃん、攻撃力がすごく上がってます〜!」
「えっ?!ポコちゃんも?!武器なのに?!なんで?!」
「紛うことなき最強さんじゃねーか」
「何しとるんや運営!手がつけられんぞ!」
「これ、対人戦どうなるんや……」
「やめてください、考えたくもない」
各々がステータスを確認していく。個別報酬は、統計上、イベント時の行動で内容が変わると言われている。
最初にこんどーが、口を開いた。
「……俺もSTRに強化入ってるな」
「それ以上、攻撃力上げてどないすんねん」
「力isパワー、だろ」
「もうええねん、それ!……それで、内容は?」
「攻撃力15%アップ。攻撃範囲の拡大にノックバック強化、だとよ」
「……これ以上、罪を重ねるなよ」
「……自首してください」
「俺を犯罪者扱いするな」
今後の戦闘に不安を覚えるユズとドル。こんどーに攻撃範囲の拡大なんて、FFで瀕死になる未来が見える。
何故獣に知恵ではなく武器を渡すのか?ユズとドルは、運営に憤りさえ感じていた。
そこに、東山が飛んできた。
【ピヨッ】
机の上に乗ってひと鳴きすると、ドルの方をじっと見つめる。意図が分からず数秒見つめあった後、まさかと思いドルがステータス画面を確認する。
「……お前の報酬も入っとるな」
「東山にも?!?!」
「アイテムだけやけどな」
「称号は、上位者報酬だからな」
ドルの顔が不満げに歪む。
「……俺のステータスに反映されとるねんけど。……俺がテイムしたことになっとるんか?」
「宝くじ先輩が飼い主です〜」
「なんで俺やねん」
ドルが東山のステータスを開く。
「【ハロウィンの王冠】、初撃自動カウンター。……お前、えぐいやん」
「ほぼ初見殺しだな」
「対人でこれ来たら泣くぞ」
「他にはないんですか?」
「……あるで。攻撃力15%アップ。移動速度2倍。飛距離2倍。……だから、ひよこが飛ぶなや」
【ピヨッ】
ドルがステータスをいじると、東山の頭に小さな王冠が乗る。東山が飛び上がり、いつもより早い速度で、ユズたちの頭上を飛び回る。
「実演です〜」
「要らんねん」
「ドルさんの個別報酬は何だったんですか?」
「そういえば、俺のは……」
ドルが言葉を止める。
「ドルさん?」
「……当たりや」
「なにがですか〜?」
「【アルテミスの矢】。……無限に矢が供給されるらしい。しかも攻撃力15%アップ……。」
「は?!」
「それはすげぇな」
「……弾切れの無いSSR武器アーチャー。俺が……最強や」
アイテムボックスから、アルテミスの矢を取り出すと、嬉しそうにニヤニヤと顔を緩ませるドル。
そんなドルを見て、こんどーは、つまらなさそうに手を差し出した。
「見せてみろ」
「いやや、絶対折る」
「……折らねぇよ」
「なんや、今の間は!!絶対貸さんぞ!」
「いいから、貸してみろ!」
「いやや!」
ドルとこんどーが鬼ごっこを始める。ひつじは東山の頭を撫でている。いつも通りの光景に、ここ数日の喧騒が嘘のようだ。
ユズがため息をつくと、隣に座っていたひつじが話しかけてきた。
「そういえば、ユズさんのはどうなんですか〜?」
「え?」
ユズが自分の画面を見る。
「……【戦術共有】。半径5m以内の味方のスキル発動速度・精度上昇、回避率5%アップ。術者は範囲内の敵の詠唱・行動を可視化」
「当たりやん」
「地味に有能だな」
「地味言うな。めちゃくちゃ強いでしょうが」
「団体戦なら、ユズさん無しは考えられないです〜」
イベントが終わった。
ユズが天井を見上げると、東山がくるくると飛んでいる。頭痛のする光景に、目を閉じて物思いにふける。
「……とんでもない戦力になったな」
【ピヨッ】
東山がユズの頭に、止まった。
“果報は寝て待て”という言葉がある。
努力の結果は、焦っても掴めない。
ただ、待つしかない。
だが――
待っていた先にあったのは、少しばかりやりすぎな“果報”だった。




