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ROAD OF FRONTIER〜ジャンプで罠を踏むバカたちと星空の約束〜  作者: 春野凪
星空の約束

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23/26

虚々実々

アヴェルチェの奥地は拓けており、先程の喧騒が嘘のように静かだった。小舟だけが島の周りで浮いている。大きな船は全て沖に出ているのか、遠くの海で浮いているのが見えた。港だけが、不自然なほど静まり返っていた。



「こんな夜にも漁ってするんですね〜」

「イカとかは夜やろ」

「……静かですね」



静かな住宅街に、ユズたちの声が落ちる。少し欠けた月がユズたちの足元を照らしている。潮は高く、波が護岸を優しく叩いていた。



「でも、見られとる」

「ああ」



水面に影が揺れる。

屋根の上、橋の陰、船の縁。気配だけが、こちらを囲んでいた。



「……出てこいよ」



こんどーが物陰に向かって言葉を吐く。返事はない。


――代わりに。



トッ



「?!」



ユズの背後にフードの男が降り立ち、双剣を向ける。



キンッ



「くっ……!」



間一髪、ユズが弾いた。

フードの男は後退し、足音もなく、影の中へ沈む。その奥から、違う男が顔を出した。その視線は、真っ直ぐユズに向かっていた。


――ハルトだ。



「驚いたな……。ナルの一撃を止めるなんて」



ハルトはほんの少し目を見開いて、わざとらしく驚いて見せた。しかし、口元は弧を描いてる。



「この前のイケメンさんです〜」

「……狙ってたってワケですか」

「たまたまさー」

「君たちが目立っていたからね」

「なんや、陰湿やで君ら」

「あら、そうかしら。このゲームは、奪うか奪われるかでしてよ?」



ユリの言葉に、こんどーが小さく頷いた。



「そうだな。勝てば官軍、負ければ賊軍、だろ」

「チッ、負けるつもりはないってか」



ドルの舌打ちが響く。ハルトが笑いながら言葉を続ける。



「どっちに転ぶかは、その瞬間次第だ」

「ハッ、負ける気はさらさらねーがな」



顎を上げて見下すように反論するこんどーに、ハルトが剣を抜く。見るからに高ランクであろう剣が、ギラリと怪しい光を帯びていた。



「――いくよ」



その言葉とともに、ハルトが踏み込む。四人が、来ると思った瞬間には、すでに間合いを詰められていた。



「はやっ……!」

「任せろ」

「こんどーさん!」



冷静な判断で、こんどーが前に出る。斧を構えてハルトの一撃に備える。



ガキィンッ



金属が噛み合う音がして、火花が遅れて散った。ハルトは即座に後退し、間合いをとる。こんどーを見て、小さく頷いた。



「ふぅん、やっぱり君が一番強いんだね」

「……どうだろうな」

「見たところ、そこの剣士君が指示役だろ。ナルの一撃で落ちると思ったんだけどね」



ハルトが横目でユズを見る。


――値踏みされているような視線だった。


舐められている。そう強く思ったユズは、剣を持つ手に力が入った。

ユズの変化を感じ取ったこんどーが、ポツリと呟く。



「……ユズは、弱くねぇ」

「こんどーさん……」

「器用貧乏なだけだ」

「こんどーさん?それ、庇ってます?」



庇われているのかバカにされているのか分からない。ただ、ハルトから受けた屈辱が少し晴れ、強く握っていた手の力がほんの少し抜けた。その瞬間、ユズの背後で空気が歪む。再びナルが奇襲をかけてきた。



「ッ!」



ユズは、反射的に身体を捻る。しかし、攻撃が少し掠ったようで、髪が切れ、頬に赤い線が伸びている。



「……っ、速いな」

「チッ!三回もハルト様の前で恥を……!」

「なんだこいつ……!逆恨みだろ!」



ユズが構えをとり、ナルとの交戦モードへと移っていった。

その少し後方では、ひつじとドルが二人の戦闘を静観していた。



「あくまでも、ユズくん狙いっちゅーことか」

「ユズさん頑張って〜」



ひつじの、気の抜けるような応援が戦場に響く。その背後から、二人の男女が忍び寄る。



「あら、別に貴方たちを狙っていないわけじゃないですわよ」

「あ?」



ドルが振り向くと、墨汁がひつじに剣を振り下ろそうとしている瞬間だった。



「っ?!」



咄嗟に、ドルがひつじを押した。



「きゃっ?!」



押された衝撃で、ひつじは転がるように倒れ込む。その瞬間、墨汁の剣がひつじが立っていた場所を切り裂いた。ドンッという鈍い音がして、剣が地面にめり込んだ。剣の効果だろうか、切り込まれた地面に炎が宿っている。当たっていれば即死だったかもしれない。

ドルの背中に冷や汗が流れる。



「避けられましたか……」

「わっさいびーん《ごめん》」



意外そうな顔をしたユリの元へ、墨汁が戻る。

ドルは座り込んでいるひつじを庇うように前に出る。



「なんや、自分らが俺らの相手かいな」

「わんが相手するさー」

「お二人とも、素敵な武器をお持ちのようですわね」

「あ?」

「ポコちゃんです〜」



ルミナスを振りながら、ポコちゃんだと言い張るひつじに、呆れた目を向けるユリと墨汁。



「……以前もおっしゃっていましたわね」

「武器に名前付けるなんて、変わってるさー」

「その武器は、わたくしにこそ相応しい」

「ハルトが、ふしゃがとーん《欲しがってる》。渡してもらうさー」



ひつじが、服についた土を払いながら立ち上がる。ひつじはチラリとドルを見てから、ユリと墨汁に向き直った。



「つまり、あなた達はポコちゃんを取りにきたんですね〜」

「あ゛?」


【ピヨ?】



ゆらり。ドルの目が鋭く変わる。強く弓を握りしめながら、ひつじに声をかける。その声はいつもと違い、地を這うように低い。



「メェちゃん。あれ、やるぞ」

「心得ました〜」



そう言うとひつじは、ドルの背後で詠唱の準備を始めた。二人の様子を見て、ユリと墨汁が鼻で笑う。



「魔法使いとアーチャーだけで、わたくし達に届くとでも?」

「あきさみよー《あら、びっくり》、やる気さー」



ひつじが杖を握り直す。詠唱を唱える度に、星の光が渦を巻くように、ルミナスに集まり始める。



「【願い星よ、我の元に集まりて悪しきを白く染め……】」

「俺の300万に、手は出させん」


【ピッピヨー!】



光の渦を見たユリと墨汁は、これから来るであろう攻撃の威力を予測した。今は小さな光だが、その光は目をくらませるほどに眩い。二人は余裕の笑みを消し、臨戦態勢へと移った。


一方、その裏で――


キンッと高い金属音が響く。ナルの猛攻が続き、ユズの息は上がっている。



「くそっ……!」

「それは俺のセリフだ。……もう、終わりでいいだろ」



ユズの周りをぐるぐると回るように攻撃を仕掛けるナル。スキルなのか、時折姿を消すナルに一瞬の気の緩みも許されない。今はなんとか攻撃を弾き返すことが出来ているが、反撃に出られない。



「くっ、間合いが詰まらない……!」



ナルは一気に距離を詰める。暗殺者の間合いだ。ユズは、それを全て紙一重でかわし続ける。躱す度にカウンターを放つが、届かない。



――一歩、遠い。



お互いが、決め手を撃てずにいる。ただ疲労だけが蓄積されていく。ユズは突破口を探ろうと、頭を回し続けているが、その度にナルの攻撃で思考を中断させられる。苛立ちが募っていった。



――ユズのすぐ隣では。


こんどーとハルトが、鍔迫り合いのまま動かずにいた。お互いに技を使わずに、力量を測り合っていた。



「君のブレイン、なかなかやるね」

「どうも」

「……でも、このままじゃ負けるよ」

「……あんまりユズを舐めんなよ」



バチッとこんどーの斧が電気を帯びる。一瞬、ハルトの手が緩んだが、すぐに立て直した。



「アイツは対人戦は嫌いだが、苦手なわけじゃねぇ」

「へぇ」

「俺たちのコントローラーだぞ。弱いわけねーだろ」

「……随分信頼してるんだね。おもしろい」

「それより」



こんどーの目線が、ハルトの腰に挿されたままの、もう一本の剣を辿る。



「それ、使わねーのかよ」

「……制約があってね」



ハルトの返答を聞いて、こんどーが鼻で笑う。そんなこんどーを見て、ハルトは眉をひそめた後、チラリとひつじを見た。



「……どうも、彼女は使いこなしてるようだけど、ルミナスに制約はないのかい?」

「ルミナス……?ああ、ポコちゃんか。しらねー」

「……そうかい。まぁ、それは奪ってからで構わない」



キィンッとした高い音とともにハルトの剣にも、こんどーと同じように光が宿る。



「さぁ、勝負はこっからだね」

「ほざけ」



――その頃、ひつじは詠唱を続けていた。



「くっ……、近づけないさー!」

「思ったよりもやりますわね……」



杖の先がさらに強く光り始める。ドルはひつじを護るように弓を放ち続けた。近距離の墨汁を無数の矢で牽制しつつ、遠距離で詠唱を行うユリに威嚇をする。



【ピッ】



東山が小さく鳴いた。ドルの死角に回り込もうとした墨汁の動きが、わずかに止まる。

うまく注意を逸らしても、東山に気配を読まれる。さらに、ドルの放つ矢は、スキルを使わずとも岩を破壊するほどの威力だ。当たれば致命傷になるだろう。二人は思うように攻められず、手をこまねいていた。

その時、戦場に明るい声が響いた。



「できました〜」

「よっしゃ、行くで」



ひつじとドルは目を合わせ頷きあう。



「――いきますよ〜!」



光を纏った杖が、勢いよく振り下ろされる。



「【ルミナス・オブ・アルテミス】」



その瞬間、星の渦がひつじを中心に広がった。ドルはそれを見て、すかさず渦の中心に矢を撃ち込む。



「【オリオンの栄光】!」




オリオンとアルテミス。神話では仲睦まじい恋人として描かれる。彼らは二人で一つだ。

ドルの矢が渦に吸い込まれ、星の形が矢へと変わる。大量の矢が渦となって、敵であるユリと墨汁に向かっていく。



「な、なんですの?!」

「これは、ヤバそうさー」



二人は冷や汗を流しながら、咄嗟に防御体制をとる。



――次の瞬間。



光が遅れて落ちてきた。轟音が鳴り響き、光が弾ける。ユリの張った防御壁は割れ、墨汁の前に展開された盾が軋んだ。



「……っ、重い……!」



足場の水面が、波打つ。墨汁は盾を持って立っているのがやっとだった。ふと、墨汁の後ろで詠唱をしていたユリの声が途切れた。



「ユリ?!……ぐっ?!」



慌てて振り返った墨汁の右肩に、鈍い衝撃が走る。そこには、矢が刺さっていた。その瞬間、剣を持つ墨汁の右手がダラリと落ちて、墨汁の動きが止まる。



――オリオンの栄光


風の牢獄により、一定時間行動を拘束される。刺されば、身体全体を拘束されるが、今はルミナスを経由することで、範囲は分散されている。



「な、なにごとさー?!」



墨汁は咄嗟に身を屈める。動かない右手を見てみると、わずかに風を纏っているのが分かる。その風が、墨汁の動きを縫い止めていた。さらに、伏せた先には力なく座り込んでいるユリがいた。足に矢がささり、顎の辺りにも傷が出来ていた。その傷跡が風を纏っているのが見て取れた。



「ユリ!意識や、あんかー?!」



墨汁の問いかけに、ユリの目だけがわずかに動く。


――意識はある。


それを見た墨汁が即座に呪文を唱えた。



「【ピュリファイ】!」

「……ありがとうございます」

「なんくるないさー。……ここからどうするさー?」



ユリは上体を起こすと、周りを見渡す。ひつじたちの攻撃が、野次馬をしていた他のパーティにも飛び火している。そこかしこから悲鳴が上がり、周囲の建物は矢が刺さり、半壊していた。

ユリは顔を歪める。杖を強く握りしめ、口の端を噛んだ。



「……」

「ハルトは責めないさー」

「……っ引きましょう」

「しゃーない」



墨汁は眼鏡のブリッジを上へ押し上げた。そうして、ユリたちはハルトの元へ戻ることを決めた。

少し離れたところで交戦しているハルトを見つけたユリと墨汁は、ひつじとドルの攻撃を避けながらハルトの方へと駆け寄った。



「ハルト!」



ユリがハルトに呼びかける。ハルトは声の方にチラリと視線を向けた。



「ユリ……、墨汁さん……」

「あん二人、でーじ《ヤバい》!」

「ハッ、うちのチビとノッポに負けたかよ」

「負けてはいませんわ!」



こんどーの発言に、唇を噛んだユリがキッと睨みつける。こんどーの後ろから、ひつじとドルも駆けつけてきた。



「……面白いね」



ハルトが、わずかに笑う。未だ二人は武器を交えたままだ。



「予想以上だ」

「まだ格上のつもりか?」

「なに?」

「お前、足に力入りにくいんだろ。……リアルの怪我か?」



ハルトが目を見開く。



「それに」



こんどーが不敵に笑う。



「俺らのコントローラーさんが、まだだろ」


【ピヨッ】



東山が、小さく鳴いた。



「……やっぱり、彼か」



ハルトは嬉しそうに笑った。

少し欠けた月が笑う。潮の流れが変わっていく。冷たい風が身体を冷やしていく。



“虚々実々”という言葉がある。


隙を突き、謀略を巡らせる。


だが、それが隙ではなかったとしたら。


――それこそが、“虚”だったのかもしれない。

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