身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ
【運営からのお知らせ】
高難易度イベント[Halloween The Party]を開催。(Aランク以上推奨)
開催期間:10月21日0:00~10月31日23:59迄
開催場所:水上都市アヴェルチェ
イベント中のモンスター出現率UP。
ドロップ率2倍。
22:00~5:00迄モンスター強化。(ドロップ率3.5倍)
10月20日の夜、ユズたちは水上都市アヴェルチェの周りで、日付が変わるのを待っていた。アヴェルチェの周りには、ユズたち以外にも多くのプレイヤーが集まっていた。
お互いの目線は、牽制し合っている。誰もが、最初に動く“誰か”を待っていた。
――水上都市 アヴェルチェ
小さな島が密集してできており、満潮時には膝丈まで水位が上がる。島は橋で繋がっているが、主な移動手段は船だ。水上には似通った建物が並び、入り組んだ構造になっており、マッピングが必須のエリアだ。
「……みんな、ピリピリしてますね」
「ハロウィンイベントは毎年報酬がエグいからなぁ」
「しかも今年の報酬は、上位五十名までに減ったからな」
「……揉めるで、これは」
【ピッピヨ】
ドルのポケットから東山が顔を出した。そのまま飛んで、ドルの肩に乗る。
「東山も連れてきたんですね」
「コイツが勝手に着いてきたんや」
「かわいいです〜」
ひつじが東山の頬を優しくつつく。東山も嫌がることなく、されるがままだ。ドルは少し不機嫌そうに東山を見ると、静かに口を開いた。
「……お前、危ないで。帰れ」
【ピッ】
ドルの言葉に、東山は顔を背ける。
「……完全に人語を理解してますね」
「賢いですね〜。いい子いい子〜」
ひつじが、東山の喉元を撫でる。東山は、気持ちよさそうに目を細めている。その様子を見て、諦めたようにドルがため息をついた。
時計は23時59分を示す。
0時まで、あと数十秒。ゆっくりと秒針が時を刻む。時計の針が重なる直前。東山が、ぴょんとドルの肩から飛び出した。その瞬間。全ての時計の針が、重なった。
カーン カーン カーン
0:00
アヴェルチェ全土に、鐘の音が響き渡る。
――ヒュンッ
風を裂く音が聞こえた。鐘の音と同時に、誰かの放った矢が、東山のすぐ横をかすめた。プレイヤーたちの視線が、矢の軌道をなぞる。
「東山!」
ユズの叫ぶ声が、静かな世界に反響する。そして、誰かが呟いた。
「……今、撃ったの誰だ」
ほんの一瞬、誰も動かなかった。最後の鐘が鳴り止んだ時、一斉に動き出した。ガチャガチャと武器を構える音が響き、お互いが押し合いを始める。
「どけ!」
「俺が先だ!」
「うわぁぁぁ?!」
「リーダー!」
「誰だ?!」
「てめー、やりやがったな?!」
「お、俺じゃねぇ!」
そこかしこで乱闘が始まった。悲鳴が水上に響き、早くも退場する者が出た。
――ハロウィンイベント
モンスターの討伐や島民の依頼をこなし、飴を集めるイベントだ。集めた飴の総数によってランキングが変わる。
飴を多く集めようにも、時間がかかる。社会人や学生が上位を目指すには、時間が足りない。この状況で、最も効率のいい方法。
それは。
――ライバルそのものを、減らすことだ。
上位者報酬とは別に、働きに応じて貰える個別報酬が毎年強く、イベント時のPvPは年々激化している。
「東山、戻れ!」
乱闘の中、ドルの声が怒声に掻き消される。東山は今もなお、プレイヤーたちの頭上をふわふわと飛んでいる。
「どけ、俺が行く」
「ゴリッ!」
こんどーが前に出る。周りは乱戦状態、仲間内でも関係なく小競り合いが起こっている。
「お前らは後ろにいろ」
「……なにをするつもりですか?」
「まさか、死せる霆撃つつもりやないやろな?!」
「それじゃあ東山も俺らも死んじまうだろ」
「……東山に当てんなよ」
「任せろ」
こんどーの目が、飛んでいる東山を捉える。ぎゅっと握りしめられた斧が、電気を纏う。
「【雷帝の扇】」
詠唱と共に斧が地面に振り下ろされた。その瞬間、前方の流れが、一瞬止まる。
――道が、開いた。
こんどーより前に、扇状に電気が走り、地に足を付けていた者から弾かれていく。防御力やHPの低い者は倒れ、そうでなくても一時的な麻痺状態となっていた。
「よし、行くぞ」
斧を肩に担ぐと、そのまま歩き始めた。ユズたちが、その後ろをついていく。
「わ〜、ゴリさんすごいです〜!」
「……頭使えたんか」
「……僕も驚いてます」
「お前らは、俺をなんだと思ってるんだ」
「脳筋」
「ゴリラ」
四人は空間を縫うように走り抜け、東山に近づく。横から攻撃を仕掛けてくる相手は、ユズが切り伏せていく。
「東山!」
ドルの声に、東山が振り向く。
【ピピッ】
ひと鳴きすると、東山はドルの肩へと戻ってきた。
「東山、危ないよ」
「もう、飛んでっちゃダメですよ〜」
ユズたちが何を言っても、東山は首をクリクリと回すだけ。居心地が悪そうに、肩の上で何度も足踏みをしていた。肩の上で揺れている東山の姿を見て、ドルが口元を歪める。
「……おい、東山」
【ピッ?】
ドルはいつも被っている緑のとんがり帽子を脱ぐと、てっぺんを潰して東山に差し出した。
「ここにおれ」
【ピヨ】
東山が帽子のてっぺんに納まる。潰れたそれは、巣のように安定しており、東山も満足そうに足を畳んでいる。ドルは少し不服そうな顔をしながら、帽子をかぶり直した。
「さ、行くで」
「……何だかんだ言って、可愛がってますね」
「……死んだら、寝覚め悪いやろ」
「はいはい」
「なんやねん」
こんどー、ひつじ、ユズ、ドルの順で並んで歩く。こんどーが前の敵をなぎ払い、溢れた敵をユズが、死角の敵はドルが排除する。ひつじはその間、回復サポートに努める。
ゆっくりと、しかし着実に前に進んでいく。こんどーの足取りに、迷いは無い。
――最短で、最も“通れる”道を選んでいる。
三人は知っていた。普段の無茶振りとは裏腹に、こんどーの背中が、いざとなれば頼りになることを。そして、誰も知らない。ユズが、三人が居ればそれだけでこんどーが強く立っていられることを。
四人は、アヴェルチェの奥へと足を踏み入れた。
“身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ”という言葉がある。
危険を恐れず踏み出すことで、道が開けるという意味だ。
――あの男は、最初から迷っていなかった。
「……うん、やっぱり強いね」
「思ったよりやるさー」
アヴェルチェに向かうユズたちを、ハルトたちが見ていた。彼らの周りには、かなりの数のアイテムが落ちている。ハルトたち四人の周りに立っている人間はいなかった。
ナルがハルトの傍まで駆け寄ってくる。
「ハルト様、お怪我はありませんか」
「ナル、ありがとう。怪我は無いよ」
言葉通り、ハルトに怪我は無い。甲冑には、敵の返り血だけが着いていた。
もう一度、ユズたちの方を見てハルトは呟いた。
「星杖 ルミナス……。彼らが持つに相応しいか、それとも……」
「いいえ、ハルト。あれは、わたくしが持つに相応しいですわ」
「ははっ、そうだねユリ。……星空の街に先に行くのは、俺たちだ」
ハルトは水面に映る空を見た。そこにあるのは、誰かに踏み荒らされた星空だ。
「……今度こそ、誰にも汚されてない宙を」
「まかちょーけー《任せとけ》。ハルトが望むなら、わんらは、盗ぬんだけさー」
ハルトは墨汁をチラリと見た。
「盗みはダメだよ、墨汁さん。正面から、倒して奪えばいい。それがこのゲームのルール、そうだろう?」
「ははっ、流石ハルトさー。あんしやいぇー《そういう所が》、しちゅん《好き》」
「流石です!ハルト様!」
ハルトは楽しそうに口角を上げて、前を見据えた。ハルトが剣を振るう度、モーゼのように道が開いていく。
「さぁ、行こうか」




