瓢箪から駒
ユズの乱心があってから二日後。ユズはいつものようにログインをしていた。
「こんばんは」
「ユズさん、こんばんわ〜」
ユズがギルドに入ると、こんどーたち三人が机を囲んで座っていた。
「皆さん、お久しぶりです」
「……ん?」
「二日前に会っただろ」
「え?僕ログインしてませんよ?ここに来るのも一週間ぶりくらいです」
ユズはこんどーの言葉に困惑の表情を浮かべながら席に着く。
「……お前、今日は寝てきたんだろうな」
「この土日は寝て過ごしましたよ」
「クマも消えたな」
「良かったです〜」
「……クマ?一週間前は結構寝てたはずなんですけど……」
どうにも会話が噛み合わない。ユズが首を捻っていると、東山が机に向かって飛んできた。
【ピピッ】
ひと鳴きして机の上に乗った東山は、じっとユズの方を見ている。ユズは、ひつじがまた何か拾ってきたのかと思い、頬を引き攣らせる。
「……なんですか、このひよこ? 」
「お前のんや!」
「ええっ?!」
まさかの返答に驚愕の表情を浮かべるユズ。ドルが先日の出来事を掻い摘んで説明する。
「……あれは夢じゃなかったのか」
「夢でたまるか!」
「いや、むしろユズは夢の方が良かっただろ」
「あんなユズさん、初めて見ました〜」
先日の失態を思い出し、気まずそうに目を逸らしながら東山を見る。東山は、クリクリと首を頻りに動かしている。
ユズは東山と数秒見つめ合う。思い出すのは、あの巨大なひよこ。今は小さいが、大きくなったらどうなるのか。考えるのも嫌だった。
「……ウチで飼うんですか?」
「……しゃーないやろ、羽化したんやから」
「元はと言えばユズのだろ」
「絶対、捨てちゃダメです〜」
正論を言われ、ぐうの音も出ない。このまま飼うならばと、ユズは口を開いた。
「……名前、どうします?」
「東山や」
「東山だ」
「東山です〜」
「東山?!」
【ピピッ】
東山が短く鳴く。
「東山もそれでいいみたいです〜」
「なんで?!」
全員納得の雰囲気で進む。ユズだけはわけが分からず困惑の表情を浮かべている。とりあえず冷静に話そうと、ユズは咳払いをした。
「……せめて、もうちょっと可愛い名前を付けましょうよ。なんで東山なんですか?誰が付けたんですか?こんどーさん?」
「お前が付けたんや!」
「え?!」
「なんで俺なんだよ」
質問に対する答えが全て予想外。まさかの自分が原因である。ユズは苦虫をかみ潰したような顔で東山を見つめた。
「……東山」
【ピッ】
名前を呼ぶと返事をするように東山が鳴いた。
「もう、東山です〜」
「覚えるの早過ぎないですか?!賢さが仇に……!」
東山はひょいと飛び上がると、ドルの肩に止まった。一瞬、ギルド内の時間が止まったような気がした。
「……なんで俺やねん」
「宝くじ先輩、ズルいです〜」
「俺なんもしてへんやん!」
「懐かれてんな」
「名付け親の方に行かんかい」
ドルがユズに視線を送る。ユズは一つ頷くと、東山を呼んだ。
「チッチッチッ。東山、おいでー」
【ピッ】
呼ばれた東山はそっぽを向く。そのままドルの顔に近づき、甘えるように頬擦りをする。
「……なんだろう、この敗北感」
「だから、なんで俺やねん!」
落ち込むユズの隣で、こんどーは紫に染まった東山を思い出した。
「……毒沼から助けたからじゃねーか?」
【ピッ!】
こんどーの言葉に、是とでも言うかのように鳴く東山。
「そうみたいです〜」
「まぁ、東山にとってユズは、毒沼に突っ込んでいく狂った人間だからな」
「狂った人間……。ごめん、東山……」
ユズはこんどーの言葉にショックを受けつつも、眉を下げて東山に頭を下げる。東山は意に介した様子もなく、ドルの肩で丸くなっている。
【ピー】
「……寝とるやんけ」
「完全に住み着いたな」
「返品不可です〜」
「責任持って、飼ってくださいね」
「いや、俺のもんちゃうねん!」
ドルは肩の重みを感じつつ、ため息をこぼす。左肩がやたらと熱い。どうにもそこから動くつもりはないらしい。
「……飯代は折半やからな」
その言葉を聞いて、ユズたちは笑った。
――こうして、東山の居場所が決まった。
“瓢箪から駒”という言葉がある。
思いもよらない出来事が起こることの例えだ。
――気付けば、その“駒”は、ドルの肩で眠っていた。




