将を見て兵を知る
「君たちが噂のギルドだね」
ユズたちが町を歩いていると、四人組のパーティに声をかけられた。ユズたちは立ち止まり、声の主に向き直る。
「えっと……どちら様ですか?」
「イケメンです〜」
「俺のがイケメンや」
「それはどうかな」
「あ?やんのか、ゴリ」
ひつじにイケメンと言われるだけあって、爽やかな好青年といった面持ちだ。綺麗に磨かれた甲冑を着こなし、赤いマントが映えている。腰には二本の剣を携えていた。
青年の背後には、絹のように綺麗な長い黒髪を持つ女魔導士と、眼鏡をかけた聖騎士風の大柄な男。そして、黒いフードを被った小柄な男が控えていた。
「草原エリアを壊滅させ、巨大生物を殲滅したって聞いたよ」
「星杖ルミナスをお持ちなんですって?」
「全部、君たちだろう?」
ユズは目を逸らしたが、こんどーたちは気にした様子はない。
「人違いです」
「不可抗力だ」
「俺は知らん」
「ポコちゃんです〜」
異口異音。さらに他責思考。統率なんて欠片も取れていない。
「……思ったよりもバラバラですわね」
女が呆れたような目でユズたちを見ている。
「……なるほど」
青年は小さく笑うと、こんどーへと近寄る。
「やっぱり君たちで間違いないみたいだね」
青年は、爽やかな笑みを浮かべながら、こんどーに手を差し出した。
「僕の名前はハルト。よろしく」
こんどーは、差し出された手を見下ろしたまま、握ろうとしない。
「……なんで俺に?」
「おや?君がリーダーなんじゃないのかい?」
「そんな訳あるかい」
「ありえません〜」
「……そうなのか」
こんどーの後ろから野次が飛ぶ。それを聞いたハルトは、少し残念そうに眉を下げるとユズの方を見た。
「じゃあ誰がリーダーなんだ?君かい?」
「え、いや……僕は……」
ハルトの質問に口ごもるユズ。そんなユズの前を庇うようにドルが出た。
「俺や」
「違います」
無慈悲にもユズに即座に否定される。ドルは若干ショックを受けている。その後ろで、ひつじが周りをキョロキョロと見回しはじめた。
「……えっ!じゃあ私ですか〜?!」
「もっと無い」
「ありえん」
「全員違います」
ひつじの惚けた回答に、四人は揉め始めた。あまりの統率のなさに、ハルトは口を挟めずにいた。そんなハルトに、黒フードの小柄な男が近づく。
「ハルト様。こいつら……統率が取れていません」
「見れば分かるよ、ナル」
女が首を振って小さくため息を吐きながら、ユズ、ひつじ、ドル、こんどーの順番に指を指していく。
「これで、噂の実力ですの……?弱そう。バカそう。胡散臭そう。……筋肉のある殿方は……素敵ですわね」
女がこんどーを見てポッと頬を染める。
「見る目あるな、アイツ」
「胡散臭いってもしかして俺か?!……と言うか、よりにもよってゴリ?!見る目無さすぎやろ!」
「弱そうって言われた……」
「バカそうって、まさか私ですか〜?!」
喚く四人を横目に、ハルトが諌めるように口を開いた。
「ユリ、実力は本物だ。ただ……」
ハルトが目を細めて、四人を見る。まるで、品定めをするかのように。
「……組織としてはお粗末だな」
大柄の男が笑う。
「負ける気がしないさー」
「墨汁さん。……ああ、そうだね」
ハルトは小さく頷くと、もう一度四人を見た。
「……だが、面白い」
一瞬だけ、口元を緩める。ハルトは、ゆっくりとユズたち四人の顔を順に見た。
「君たちは、――見込みがある」
ユズたちは、首を傾げる。ハルトは、一歩ユズに近づくと、耳元で囁くように言った。
「僕も《・・》、星空の街を探してるんだ」
ユズの動きが一瞬止まる。何を言われているか理解できなかった。
ハルトは腰に挿していた剣のうち一本を、軽く鞘から持ち上げた。それは、一瞬だった。それでも、その剣は目が眩むほどの光を纏っていた。
「綺麗だろう。……まるで、月みたいに」
その言葉を聞いたユズとドルの肩が一瞬揺れる。ハルトはフッと小さく笑う。
「第一試験は終わったつもりだよ」
「第一試験……?」
ハルトの言葉に、ユズは首を傾げる。
「君」
ハルトはひつじへと話しかける。
「私ですか〜?」
「そう。もしよければ、俺のパーティに入らないかい」
「えっ?」
「はぁ?!なに言うとるねん!」
ひつじの前に、目を釣り上げたドルが割り込む。
「どいてくれないか。俺は彼女に言ってるんだ」
「俺ら無視して勧誘か。えらい無粋なヤツやな」
「彼女の意思に君たちは関係ないだろう」
「そもそもお前らにメェちゃんが扱えるわけないやろ」
「ははっ、まるで厄介者みたいに言うんだね」
「あ゛ぁ?!」
ひつじの扱いにくさなど、同じパーティでないと理解できないだろう。ただ、そこに悪意はなく、純然たる事実を発しただけのドル。それをくさす様に笑うハルト。二人はしばし睨み合う。
「わ、私!」
ひつじが声をあげると、全員がひつじの方を見た。ひつじは、不安そうに瞳を揺らしながら、パーティメンバーを見た後、少しだけ目を伏せた。
「私は、ユズさんたちと遊ぶのが好きなんです……」
「メェさん……」
「だから……」
――捨てないで。
続きを口に出せないまま、ギュッと杖を握る。それを見たユズが間に入る。
「行く気はないみたいですよ。……不躾な勧誘はやめてください」
そうハルトに言い放つと、ユズは振り返ってひうじに向かって微笑んで見せた。
「大丈夫ですよ。僕らもメェさんと遊ぶのが好きなんです」
「……ユズさん」
ひつじの瞳がまだ揺れている。ただ、さっきまであった不安の色は薄れていた。
二人の様子を見ていたハルトが、短くため息を吐いて、肩を上げる。
「……そうかい。残念だよ」
そう言うと、ハルトは踵を返して仲間の方へと歩いていく。仲間の元まで行くと、ピタリと止まり、顔だけをユズたちに向けて言った。
「次は……貰うよ」
ハルトの声が一段、低くなった。その目は、ひつじの手の中にある、ルミナスを見ていた。すぐに、何も無かったかのように目を逸らし、再び歩き始めた。赤いマントを靡かせながら去って行く後ろ姿が、ほんの少しだけ、足を引きずっているように見えた。
ハルトの隣には、ユリと墨汁が支えるように寄り添う。ナルが、ハルトの背中を守るように音もなく立っていた。ナルの黒いフードには、星のマークが記されていた。
四人はわずかに目を見開く。“第一試験”その意味を、ユズたちは理解した。すでに遠くにいるハルトたちを、睨みつけるように見ていた。
“将を見て兵を知る”という言葉がある。
優秀なリーダーがいれば、組織は個として動く。
だが。
このパーティにリーダーは存在しない。
それでも、問題はない。
――だからこそ厄介だと、ハルトたちは知らない。




