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ROAD OF FRONTIER〜ジャンプで罠を踏むバカたちと星空の約束〜  作者: 春野凪
星空の約束

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18/27

覆水盆に返らず

「ただいま……」

「あ、ドルさん。おかえりなさい」



夕方、やけに疲れた顔のドルが、ギルドに入って来た。その後ろから、ひつじとユースケ、ココアが順にギルドに入ってきた。



「ゆ、ユズくん……。ユズくーん!」

「わぁっ!……ドルさん、どうしたんですか?」



ドルは、ユズを見て感極まったように飛びついた。ユズは眉を下げて、飛んできたドルの背中を擦る。



「ユズさん、こんばんわ〜」

「あ、ユズさんこんばんは」

「こんばんは」

「こんばんは。皆さん、どこに行ってたんですか?」

「アルクス教会です〜」

「え、アルクス教会って、Aランクダンジョンでしょう。大丈夫でした?」

「聞いてくれ!」



ユズの言葉に、泣き真似をしていたドルが勢いよく顔を上げた。



「わっ。だから、どうしたんですか?」

「もうあかん……あかんねん……」

「え?何がですか?」



ドルの横からユースケが顔を出した。少し興奮したように、両手を顔の前で握りながら声をあげる。



「ユズさん!僕、分かりました!」

「何が?」

「攻撃こそ最大の防御です!」

「違うよ?」

「今度は止まったりしないわ」

「なんの話し?!」

「力 is パワー」

「パワーこそ力よ」

「なんだこの幼馴染?!」



意味は全く分からない。しかし、様子のおかしい幼馴染組を見て、ユズは鋭い目をドルに送る。



「どういうことですか、これは!」

「俺やない、俺やないんや……」



ドルは泣き真似を続けながら、ひつじを指さす。その指の先辿って、ユズはひつじを見る。



「……メェさん」

「は〜い」

「……何かしました?」

「え〜?何もしてないですよ〜?」



本当に何も分かっていないかのように、コテンッと首を傾げながら答えるひつじ。そんなひつじに、ドルは泣き真似をやめて声をあげた。



「コイツや!!魔道士(物理)なんかしとるから、新人が変な信仰始めよった!」

「ドルさんが居ながら、何してるんですか!」

「俺か?!俺が悪いんか?!」



再び泣き真似を始めるドル。ユズは深いため息を吐き、ズキズキと痛くなってきた頭を押さえる。

四人を席につかせると、ユズがホワイトボードを持ってやってきた。ユズは、ボードに戦闘の基本を書き出していく。



「いいですか?戦闘において大切なことは――」

「攻めることです!」

「違う」

「止まらないことよ」

「もっと違う」

「ポコちゃんです〜」

「帰れ」



ユズの頭がさらに痛くなる。説明しようにも間違った持論を投げかけられるばかりで、話が進まない。ドルはもはや諦めているのか、ポケットの中の小銭を数え始めた。

ユズが試行錯誤しながら説明をしていると、こんどーがギルドにやって来た。



「ちっす。……なにしてんだ?」

「あかん、ややこしいヤツ来た!」

「一番、力isパワーなヤツ来た!」

「相変わらず失礼だな、お前らは」



いつもと違う雰囲気のギルドに、一瞬怪訝な顔をしたこんどーは、チラリとボードを見た。



「なんだ、教育中か?」

「再教育です」

「手ェ出すなよ?!」

「なんだそりゃ」



こんどーは、ユズの隣に立つとユースケとココアを見た。腕を組みながら二人に説明を始める。



「いいか?戦闘はな、状況判断が大事だ」

「おっ?」

「まともや……」



ユズとドルが、意外にもまともなことを言うこんどーに、目を丸くする。



「なるほど……」

「状況判断……」



ギルド最年長、バトルセンスもあるこんどーの指導に、ユースケもココアも真剣に話を聞いていた。



「敵に囲まれた時、罠の場所が分からない時。どうする?」



ユースケとココア、ついでにひつじは少し考えてから答える。



「……逃げる〜?」

「……味方を呼ぶ?」

「……撹乱させる?」



ユズとドルが激しく頭を振る。やっとまともな言葉が返ってきた。脳みそを使ってくれた。そう喜んだのもつかの間――



「違う」



こんどーの言葉に、二人の動きがピタリと止まる。ひやりと、胃の腑が動いた気がした。



「迷ったら殴れ」

「なるほど!」

「分かりやすいわね」

「それです〜」



極論でしかないそれに、歓喜の声をあげる幼馴染組とひつじ。そのすぐ傍で、ユズとドルが頭を抱えた。



「違うっつてんだろ!」

「アホがアホに教えて、余計アホになりよった!!」

「取り返しつかねーよ……!」



ツッコミを入れる二人を無視して、こんどーが頷く。



「大抵は、殴れば解決する」

「わかりました!」

「ありがとうございます」

「さすがです〜」



ユズとドルの声は聞こえていないのか、話は進む。結局、武が物を言う世界線での話になっていた。



「……もう、ええわ」

「……諦めましょう」

「ここは修羅の国になったんや……」



二人は同時に目を逸らした。



“覆水盆に返らず”という言葉がある。


一度こぼれた水は、元には戻らない。


――彼らも、同じだった。




「ちゃうねん!そんなことより!」

「わっ、いきなり何ですか?」



勢いよく顔を上げたドルが、ユズの肩を揺らす。



「多分見つけたで!星空の街への扉!」

「えっ?!」



ドルの言葉に、ユズの瞳が揺れた。ドルがアルクス教会での出来事を話す間も、ギラリとした瞳が期待を含んで揺れ続ける。



「良かったじゃねーか」

「でも、鍵はありませんでした〜」

「ピッキングも効かんかったわ」

「やったのかよ」

「一旦な?」

「慣れてんだろ、お前」



こんどーの言葉に、ドルは目を逸らす。



「……へへっ」

「警察呼べ」

「あかんあかんあかん!嘘や!ジョークや!」



二人が言い合ってる間も、ユズは思考を巡らす。

アルクス教会、山頂、暗号、扉、鍵――



「……鍵って、ポコちゃんじゃないんですか?」

「ああ、星降る鍵がハマる時ってやつだな。たしかにな」

「う〜ん、でも全然刺せそうにありませんでした〜」

「……多分、その鍵は別もんやねん」

「どういうことですか?」



ドルが、ホワイトボードに考えをまとめて書いていく。



「闇夜の地、多分アルクス教会やろ。雫が落ちて石を穿つ、これがさっき言うた床の窪みや」

「はい」

「その後の、星の雫がハマる時、その地は扉となるだろう。……これは多分、アルクス教会そのものを、星空の街の扉にするための仕掛けなんやと思う」

「……つまり、教会にあった鍵を開けたら、ポコちゃんで開く扉になるってことか?」

「多分な」

「ややこしいな」



四人が思案顔で話し込んでいると、ユースケが恐る恐る話しかけてきた。



「あ、あの、すみません……」

「どうしたの?」

「星空の街って……なんですか?」



なんの話をしているのか、分からない二人は顔を顰めながら首を傾げている。そんな二人を見て、ユズは一瞬目を丸くさせる。



「ああ、ごめんね。説明してなかったよね。」




――星空の街


どこにあるのか分からない。一日中、闇が空を覆い、手を伸ばせば掴める。そんな風に思うほど、夜空には星がひろがっている。


古代の人々が見た景色を。

現代の人々が忘れた景色を。


初めに辿り着いた者だけが、手にするのは地位か名誉か富なのか。


――それとも




「これが公式の謳い文句。ロブフロ発売当初からある情報なんだけど、誰もまだ辿り着けてないんだ」

「へぇ、初めて聞きました」

「最近じゃ話題にも上がらないからね」

「……ユズさんは、ここを目指してるんですか?」



ユースケの純粋な瞳が、ユズを見据える。

ユズは、あの日見れなかった星空を思って目を閉じる。思い出すのは、大ちゃんと呼ばれた少年との約束。顔も、今はもうぼんやりとしか思い出せない。幼い頃の小さな約束だけがユズの依代だった。


プラネタリウムじゃダメだった。

天体観測をしてみたけれど、何かが違った。

星の見える丘では足りなかった。


――でも、ここなら。


ユズはそっと目を開け、こんどーたちを見た。そして、ユースケに向き直った。



「……うん。僕の、遠い約束なんだ」

「約束……?」

「これはただの自己満足だから、ユースケくんとココアさんは気にしなくていいよ」

「あ、はい……」

「……はい」



そう言うと、ユズはいつものように地図を取り出した。


アルクス教会。


その文字に赤い丸を入れた。そんなユズの後ろ姿を、こんどーが見つめていた。

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