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ROAD OF FRONTIER〜ジャンプで罠を踏むバカたちと星空の約束〜  作者: 春野凪
星空の約束

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16/27

三十六計逃げるに如かず

「これだけしか回収できませんでした」



あれから四日後、ログインして来たこんどーたちに、ユズは取り戻した装備を渡す。



「ポコちゃん!ありがとうございます〜!」

「俺の300万をありがとう……!」

「お前のじゃねーだろ」

「俺の弓もあるやん。おおきに」

「弓をついでみたいに言うな。俺のグローブもサンキュー」

「……すみません、こんどーさん。斧は、取れませんでした」



ユズは、思い詰めた表情で頭を下げ、謝罪する。こんどーは、そんなユズを見て首を傾げる。



「何を謝ってんだ?十分だろ」

「せやで。ポコちゃんさえあれば、それでええやろ」

「ありがとうございます〜」



三人の明るい声がギルドに響く。本当に何も思っていなさそうだ。ユズは、詰まっていた息を吐いた。



「……もう、ああいうのは勘弁ですからね」

「あの人、なんだったんですかね〜?」

「……さぁな。でもあれは、かなりのやり手やった」

「多分、俺たちの動向も調べられてたな」



四人は顔をしかめながら、先日のフードの人物を思い浮かべる。



「……最近流行りのパーティ狩り、ですかね」

「一人でか?さすがにリスクがデカすぎるだろ」

「……一人ちゃうんちゃうか?ワイバーン全部倒すなんて無理やろ」



ユズはふと、落ちながらも空を高く指さした、あの人物が着ていたフード。あれに、星のマークが描かれていたことを思い出した。



「……敵のフードに、星のマークがついてたんです。もしかしたら、僕ら以外にも星空の街を目指してる人達なのかも……」

「せやったらポコちゃん奪って、すぐにトンズラこけば良かったやん。なんでわざわざ、ユズくんまで罠にかけるん?」

「……そう、ですよね」



憶測だけで、答えの出ない疑問。ギルド内に、重い沈黙が流れる。それを払拭するように、こんどーが口を開いた。



「何にせよ、1/100000000《1億分の1》だぞ。無くせば二度と手に入らなかっただろうぜ」

「せやな、お手柄や」



二人はそう言うが、ユズは釈然としないまま、少し俯いて唇の端を噛んだ。

何故敵はユズまで狙ったのか?それは、自分が星空の街に執着していたせいかもしれない。もしも自分が、星空の街に固執していなければ、こんどーたちは巻き込まれなかったかもしれない。

そう思うと、自然と手に力が入る。



「ここまで来たら行くしかねーな」

「私も星空見たいです〜」

「未開の地、商売にはもってこいやで」



そんなユズとは反対に、楽しそうに星空の街の話をしている三人。ユズが顔をあげて、声をかける。



「……無理に、付き合わなくてもいいんですよ?」

「はぁ?」



ユズの言葉に、こんどーが顔をしかめる。



「だって、僕のせいで……」

「……まさかお前、襲われたのは自分のせいとか思ってんのか」

「はぁ?なんやそれ」

「ポコちゃんはメェさんのラッキーだし、暗号だってドルの気まぐれでたまたまだろ」

「アイ・アム・ラッキーガールです〜」



こんどーの横でピースをするひつじ。襲われたことも、何も気にしていない様子だ。



「最初はお前だけの目標だったかも知れねーけど、今はもう俺らも行くつもりなんだよ」

「せやで、こんなん絶対ええ儲け話になるやろ」

「星空の街、純粋に行ってみたいです〜」



ユズは一瞬呆けてしまった。

それは、自分だけの小さな約束だったはずだ。なのに、今はもうこの四人を繋ぐ夢へと変わっていた。

目指す理由は違うかもしれない。それでも――

なんとなくじゃない。偶然じゃない。一緒に行く、理由がそこにはあった。

ユズは、眉を下げながら笑った。



「傲慢でしたね、すみません。……ありがとうございます」

「おう」



ギルド内に穏やかな空気が流れる。かつて、ひつじが同僚に言われた、“いつまでも付き合ってくれない”。心に刺さっていたその小さな棘が、静かに解けたような気がした。

ユズは、件の涙の谷について気になっていたことについて尋ねた。



「ところで、涙の谷には何を?」

「宝くじ先輩が、落ちてる小銭を辿って行ったら涙の谷に着いたんです〜」

「ヘンゼルとグレーテル?!」

「あんな罠に引っかかるなんてな」

「明らかに怪しかったです〜」

「僕は……そんな理由で、あんな……!」

「俺は悪ない!マイルが俺を誘ったんや!」



想像していた以上に馬鹿げた理由に、ユズは肩を落とした。こんどーとひつじも小さくため息を吐く。



「でも、意外です」

「何がですか〜?」

「ドルさんが、おマイルを盗られても怒らないなんて……」

「確かにな」



ユズの言葉に、三人はドルの顔を見た。そこには穏やかに笑みを浮かべていた。



「俺はその事実を、この七日間で忘れ去ったんや」

「いや、そんな菩薩のような笑顔で……」

「手から血が出てんぞ」

「俺の2,749,631マイル……!」

「細けーな。全然忘れてねーじゃねーか」

「思ってた十倍は貯めてましたね」

「人の歯軋り、初めて聞きました〜」



ユズは思い出したようにメモ帳を取り出すと、カリカリと文字を書いて三人に手渡した。



「……ID?」

「……こうなってから初めて思いました。僕らリアルでの連絡手段も持った方がいいって」

「言われてみたら、この三年間、一回も不便したこと無かったもんなぁ」

「ゲーム内通知で済んでましたからね」

「じゃあ交換しましょ〜」



四人は、三年目にしてようやく現実での連絡先を交換しあった。それぞれがスクリーンショットを撮り、記録を残す。

しばらく四人で雑談を交わしていたが、こんどーが何かを思い出したように立ち上がった。



「武器屋に行ってくる」

「なんや、新しい武器か?」

「ああ。制作依頼出してそのままにしてたんだよ」

「そういえば、前に斧を新しくしたいって、ゼインの欠片、集めてましたもんね」

「武器も無くなったし、ちょうどいい機会だな」

「タイミング良かったですね〜」



四人はギルドを出て、町の外れにある鍛治屋街へと向かった。



「別に、着いて来なくてもいいぞ」



先頭を歩いていたこんどーが振り返り、ユズたちに言う。ユズは首を横に振って応えた。



「メイン武器の無い状態で、またPvPになったら困るでしょう」

「グローブがあるだろ。とりあえず殴ればいける」

「発想が物騒なんだよなぁ」

「PvP挑んでくるヤツに、物騒とかあるか?」

「脳筋は黙って守られとけや」

「ゴリさんを守るって新鮮です〜」



それからユズたちは、こんどーを囲むように三角形に列を成して歩く。こんどーは、呆れたように肩を上げたが、口角は小さく上がっていた。いつもより足取りは軽いのに、歩幅が小さくて進みにくい。その煩わしさが、少しむず痒かった。



カンッカンッ



町に近づくにつれ、金属を叩く音が聞こえてきた。町の中は活気づいていて、人と物で溢れており、熱気で満ちていた。

大通りを抜けて、路地に入る。こんどーが、一軒の店の前で足を止めた。店には、武器が描かれた看板が掛けられている。

木製の扉を開けると、そこは煤の匂いで満ちていた。カウンターの奥には帳簿を付けている男がいた。店主だろうその男はチラリとこちらを見た。こんどーが声をかける。



「こんどーだ。依頼してた雷帝の斧を受け取りに来た」

「ああ、ちょっと待ってろ」



店主は一度奥へ入ると、すぐに戻ってきた。腕の中に重たそうな箱を抱えている。箱をカウンターに置くと、店主が箱の中から一本の斧を取り出した。



「ほら、ご注文の品だ」

「おお、サンキュー」



こんどーは男から斧を受け取る。以前持っていた斧よりも一回りほど大きく、重量感も増している。斧の刃がツヤツヤと玉虫色に光ってこんどーの顔を反射する。刃と柄の真ん中には雷のマークが印されている。



「きれいですね〜」

「雷帝の斧って確かA+の武器でしたっけ?かなり強くなりましたね」

「三年間ノーマル武器の男が、急にそんなん持って大丈夫かいな」

「……持ってみてもいいですか?」

「おう」



ちょっとした好奇心から、ユズはこんどーから斧を受け取る。斧を受け取った瞬間、ユズの腕に想像の何倍もの重さが加わった。



「ぐっ?!重っ!!」



片手ではとても持てそうにない。両手でなんとか持ってはいるが、動かすことはできない。床に落としそうなのを耐えていると、こんどーがユズから斧を取り上げた。



「そりゃそうだろ、STR120以上で使えるようになるんだから」

「120?!ゴリラやん!!」

「平均の二倍です〜」

「やっと来た」



そう言うとこんどーは、何事も無かったかのように武器を片手で仕舞い、そのまま、自然と店を出ようとした。



「じゃあな、店主」

「おい」

「ん?」



四人は店主の声に振り返る。カウンターの奥で店主が顔を顰めて立っていた。



「……お代は?」



そう言われ、一瞬四人の動きが止まった。



「……あ」

「……ロスト」



四人は顔を見合わせる。ユズは、こんどーとドルの顔が凛々しくなったような気がして、頬がひきつる。



「……やることは分かるな?」

「……当たり前や」

「準備OKです〜」

「お、おい、もしかして……」

「逃げろぉぉぉ!!」

「踏み倒せぇぇぇ!!」

「犯罪じゃねーか!!」



三人は一斉に駆け出した。一歩遅れてユズも駆け出した。乱暴に扉を開き店から出ると、後ろから店主の怒声が響いた。



「お前らぁ!逃げられると思うなぁ!!」

「ちょっと!怒り狂ってますよ?!」

「とにかく逃げろ!」



走る足は止めない。路地を抜けて、大通りに出る。人にぶつかりながらも鍛治屋街の外を目指して走り続ける。少し拓けた所でドルが後ろを確認する。



「ヒッ……!ちょっ、後ろ見てみぃ!」



ユズたちは、ドルの言葉に振り返り、顔が青ざめた。



――店主がもう、すぐそこまで来ている。



店主は鬼の形相で、斧を両手に持って振り回している。



「ぎゃぁぁぁ!!」



思わずユズは叫んだ。



「怖すぎやろ!人間のする顔ちゃうやろ!!」

「NPCって倒したらダメか?」

「罪を重ねるな!!」

「私だけは見逃してくださ〜い!」

「ふざけんな!道ずれに決まっとるやろ!!」

「連帯責任だ」

「アンタらがふざけんな!!」



背後から、店主の叫び声が聞こえる。どんどん怒声が近くなっている気がする。



「ヤバいって!払いましょうよ、ちゃんと!」

「アホか!踏み倒せるもんは踏み倒せ!」

「宿題とか、連続で忘れると先生も諦めますもんね〜」

「小学生か!!」



ドゴォン



「……え」



何かがユズの傍を通り抜けた。そこには、斧が刺さって、地面が抉れている。ブリキのようにゆっくりと振り向くと、店主が投擲フォームでもう一本の斧を構えていた。



「弁償も追加だぁ……!」

「それは冤罪だろ!!」



その時、遠くから羽音とホイッスルの音が響いた。先程まで明るかった空が、巨大な鷹のような生き物によって影を落としている。



「ガハハっ!ガキ共ぉ、グリフォン警察が来たぞ!大人しくしろぉ!!」

「グリフォン警察?!やばい、捕まりますって!」

「走れ!逃げ切るんや!」



警察という言葉に弱気になるユズをドルが一喝する。そのまま走り続けていたユズは突然肩を掴まれ、その場から動けなくなった。振り返ると、青い顔をしたこんどーがいた。



「なんですか、こんどーさん?!」

「……もう、捕まってる」

「は?」



こんどーの後ろを見ると、店主がこんどーの肩を掴んでいた。店主の指が、こんどーの肩にくい込んでいる。青筋の浮いた笑顔で斧を担いだままだ。



「逃げられると思ったか?」

「いや……思ってました」

「この、バカタレがァ!!」



店主は斧の背でこんどーを殴りつけた。



ドゴォン



「ぎゃぁぁぁ!!」



鍛冶屋街に、こんどーの悲鳴が響いた。ついでにユズたちも巻き添えに殴られた。




“三十六計逃げるに如かず”という言葉がある。


だが、逃げるタイミングを間違えれば、それは最悪の一手だ。


彼らは、迷いなくそれを選んだ。


――それは、何度も繰り返される。




ユズはログアウトをすると、貰ったIDのスクリーンショットを見ながら、IDをスマホに打ち込んでいく。



近藤 大輔

秋島 結愛

財前 悟



ユズは新しく入った名前を見て、笑う。



「ははっ、現実に居るなんて、変な感じ」



三年も隣にいたのに、今更初めて名前を知った。グループを作り、スタンプを送ると、すぐに返事がきた。


筋肉のスタンプ。

羊のスタンプ。

お札が舞うスタンプ。


ユズはそれを見て、吹き出した。

電気を消して、布団に潜り込む。明日はなんだか、すっきり起きられそうだ。

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