郷に入っては郷に従え
土曜日の昼頃、ユズとこんどー、ひつじがギルドの机を囲んで話していた。すると、扉が勢い良く開き、笑顔のドルが入ってきた。ドルは、一枚の紙を持って、三人の方に歩み寄る。
「宝くじ先輩ご機嫌ですね〜」
「嫌な予感がしますけどね……」
「酷いこと言わんといてやー」
「普段の行いだろ」
「ほんでな、コレ見てみ」
何を言われようと笑みを崩さないドルは、手に持っていた紙を机の上に置いた。その紙は、日焼けして茶色に変色している。インクも薄れ、長らく誰の手にも渡っていなかったことが伺えた。
「護衛クエスト、四人パーティ限定」
「簡単なお仕事……」
「報酬も高額です〜」
見るからに怪しい謳い文句に、ユズの顔が引き攣る。こんどーとひつじさえも眉をひそめている。
「ええやろ?!」
「詐欺だろ」
「違う。当たりが見えとる宝くじや」
「現実見ろ!」
ユズたちに提案を突っぱねられたドルは、ショックを受けた表情でユズの肩を掴んで揺らす。
「オマケもあるって書いとるんやで?!受けへん理由がどこにあんねん!」
「だから、それが詐欺だって言ってんでしょうが!」
「なんでぇーなー!行こぉーよぉー!」
「小学生か!ええい、離せ!」
ドルがズルズルと座り込みながら、ユズの左足にまとわりつく。ユズが足を振って引き離そうとするが、全く離れる気配がない。
結局はドルの熱い説得の末、しぶしぶ護衛クエストを受けることになった。
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ユズたちは、クエストに書かれていた場所へと向かう。目的地に近付くにつれ、ロココ調の大きな建物が見えてきた。それは目的の場所、ヒューイット邸であった。屋敷の周りには、金で縁どられた黒の柵が並んでおり、高級感を放っている。
ユズが呼び鈴を鳴らすと、すぐに執事風の年老いた男が屋敷の奥から出てきた。
「お待ちしておりました、冒険者様方」
執事は綺麗な所作で深々と頭を下げた。歳と共に銀色に染まったであろう髪が、太陽の光を反射していた。目の端の皺や首筋が、執事の年輪を感じさせる。
それを見たこんどーが、感心したように言葉を漏らす。
「……最近のNPCは精巧だな」
「本当に。……見分けがつかないですね」
執事はユズたちを一瞥すると、背を向けて歩き始めた。
「こちらへどうぞ」
ユズたちは、促されるまま敷地に足を踏み入れる。門から屋敷まで歩いて二分はかかる。屋敷に招かれ、長い廊下を歩く。廊下の突き当たりにあるアーチ状の扉をくぐると、そこには庭園が広がっていた。
庭園は薔薇園になっており、真っ赤な花弁が瑞々しく咲き誇る。丁寧に世話をされているのが分かる。薔薇園の真ん中には噴水があり、少し拓けている。その拓けた場所に、一台の立派な馬車が止まっていた。
執事が馬車の前まで行くと、足を止めてユズたちを振り返った。
「早速ですが、あなた方にはある御方の護衛をお願いしたいのです」
それだけ言うと、執事は馬車の扉をノックした。
「お嬢様、お連れしました」
ギィッと木製の扉を軋ませながら、執事が扉を開く。そこには、薄ピンク色のドレスを着た、中学生くらいの可愛らしい女の子が座っていた。ピンと伸びた背筋が美しい。
彼女は立ち上がると、執事の手を取り、ゆっくりと馬車から降りてくる。
「ご紹介いたします。こちらが、ヒューイット家のご息女。メルイン・ヒューイットお嬢様でございます。お嬢様、こちらが冒険者の皆様です」
「……本日は、よろしくお願いいたします」
このくらいの年頃の少女特有の少し高い声。しかし、どこか品格を感じさせる声が、ユズたちの耳を震わせた。
スっと執事がメルインの前に出る。よく見ると、メルインの表情は硬く、緊張している様だ。
「お嬢様は三日後に開かれる、王都アルカリオスの舞踏会に参加されます」
「舞踏会って、美味いもんありそうだな」
「王都?!王族もおるんか?!俺も参加できるんか?!」
「私も王子様に会いたいです〜!」
「ちょっ、止めてくださいよ!恥ずかしい」
話の途中で騒ぎ出した四人に、執事がわざとらしく咳払いをする。
「ここ最近、王都への道では魔物の被害が増えていると聞きます。さらには盗賊も出るとか……」
執事の背後で、メルインが俯く。お腹の前で品良く揃えられていた彼女の手が、僅かに震えている。
「どうか、お嬢様を無事に送り届けて頂けるよう、お願い申し上げます」
「分かりました、任せてください」
ユズの言葉に、二人はほっと息を吐いた。メルインの肩も少し下がった。
それもつかの間。
「報酬は前払いか?敵の数で変動あるんか?」
「おやつは持参か?いくらか持たせてくれ」
「私も馬車に乗ってみたいです〜」
三人のあまりの自由さに、メルインと執事は困惑していた。
「あの……、本当に任せてもよろしいのでしょうか?」
「も、もちろんです!すみません、今のは忘れてください!」
「……承知致しました。お嬢様をよろしくお願いいたします」
「はい!任せてください!」
懐疑的な目を向けられたユズの背中に冷や汗が伝う。なんとかその場を取り繕うと、メルインが馬車へと乗り込み、執事は御者台に座った。
それを合図に、ユズたちは馬車の四方に散った。
「ハイヤッ!」
掛け声とともに執事が馬車を走らせる。
馬車の左前方にユズ、その後ろにドル。右前方にひつじ、右後方をこんどーが歩く。
時々草むらからモンスターが飛びだしてきては、馬車目掛けて近寄ってくる。ユズたちはそれを討伐していく。
「メェさん、そっち行きましたよ!」
「任せてくださ〜い」
ポコッ
「おい、後ろから来てるぞ」
「へいへい」
シュッ
杖を振るい矢を放つ。そうしてユズたちは、順調にモンスターを狩っていく。
ユズたちの護衛により、傷一つなく進む馬車。メルインは、馬車のカーテンから顔を覗かせる。先程の硬い表情ではなく、好奇心に溢れた目で外の世界を見ていた。
そんなメルインの様子を見た執事は、御者台の上で、小さく口角を上げた。
「このまま進めば、日没までには森を抜けられそうです」
「順調ですね」
執事は、モンスターを倒しているひつじの姿を見て、微笑んだ。
「……あなた達に任せて良かったです」
「そう言って貰えて、良かったです」
馬車はゆっくりと進む。拓けた道から、森の中へと入っていく。晴れた空は木々に遮られて薄暗い。人通りが少ないためか、小石が詰まり、馬車をガタガタと揺らす。
「……ん?」
森の奥を見ていたドルの足が、突然止まった。ドルの様子に気付いたユズが、足を止めて振り返る。
「どうしました?」
「……あっちで珍しい薬草が群生しとる」
「今は護衛優先ですよ」
ユズは、呆れた目でドルを見た。薬草に目を留めたまま動かないドルは、そんなユズの視線に気付くことない。
「分かっとるって。ちょっとだけ、な?」
「あっ、ちょっと!」
そう言うと、ドルはユズの静止も構わず森の中に入っていった。異変に気付いた執事が馬車を止め、ユズに声をかけた。
「……どうされましたか?」
「あ、いえ……。気にしないでください」
「……そうですか」
執事は、訝しげながらも再び馬車を走らせる。
ユズは、チラチラと後方を確認しながら歩くが、ドルが戻ってくる様子はない。ドルが抜けた分を補うため、御者台の横から馬車の真横に移動した。キリリと痛む胃を押さえながらユズは護衛を続ける。
今度は反対側から、ひつじの声が響いた。
「わぁ、リスさん!かわいいです〜!」
ひつじが木の影にしゃがみ込み、リスを眺めている。
「はぐれるぞ」
「大丈夫ですよ〜。ちょっとだけですから」
「先行くぞ」
「は〜い」
ひつじの後ろを歩いていたこんどーが声をかけるが、ひつじは気にした様子もなくリスに夢中だ。こんどーはそのまま、ひつじの横を通り抜けた。
明らかに減った護衛に困惑を隠せない様子の執事が、ユズに話しかける。
「……あの」
「……はい」
「……本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫です。任せてください」
ユズはそう答えるが、決して執事の目を見ようとはしない。目はずっと泳ぎっぱなしだ。
メルインは、その様子を馬車の窓越しに見て、ぎゅっとドレスの裾を握りしめた。出会った時のように、緊張で顔を強ばらせていた。外の世界を見ないように、カーテンを閉めて心を落ち着かせようとした、その時。馬が悲鳴を上げ、馬車が止まった。前の御者台では、執事が慌てている気配がする。
「……え?」
メルインは困惑しながら、そろりと窓の外を見た。そこには、盗賊と思われる男たちが、十五人ほどで馬車をとり囲んでいた。盗賊たちの持つ剣が、ギラリと怪しく光っていた。
「ひっ……!」
メルインは、思わず後退る。すぐに周りを確認するが、誰もいない。
「え、あの……?」
左を見ても、右を見ても、ユズたちの気配はない。さっきまで、馬車の隣を歩いていたはずなのに。
声だけが、遠くの方で聞こえる。
「うおっ、レア素材や!」
「かわいい〜!もふもふです〜」
「ユズ、あっちにワニみたいなのが居たぞ。ちょっと見てくる」
「ちょっと!早く来てくださいよ!」
――誰もいない。
その事実が、メルインの呼吸を浅くする。
盗賊たちは下卑た笑いを浮かべながら、ジリジリと馬車に近寄ってくる。もうダメかと、メルインが目を強く瞑ったその瞬間。
ドゴォン
大きな音とともに、馬車が揺れた。
「大丈夫ですか?!」
馬車の異変に気付いて戻ってきたユズが、盗賊たちを薙ぎ払っていた。多勢に無勢であるはずだが、ユズはテンポよく盗賊の攻撃を捌き、カウンターを入れていく。乱戦は縺れ、ユズはそのまま茂みへと消えていく。
取り残されたメルインの肩が震える。馬車の御者台にいる執事も、静かに息を殺しながら周囲を見渡す。執事は手網を強く握った。
「……お嬢様」
「な、なにかしら……?」
「……現在、護衛は機能しておりません」
「どうしてそうなりましたの?!」
メルインと執事は顔を青くしながら、ただその場で留まることしかできなかった。
草むらから低い唸り声が聞こえる。手網を持つ、執事の手が震えた。草が大きく揺れ、そこから巨大なトロールが現れた。
「きゃぁぁぁぁ!」
メルインの悲鳴を聞いたユズが、慌てて草むらから戻ってくる。カーテンの隙間から、メルインが震えながら頭を抱えて蹲っているのが見えた。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいね!今呼び戻しますから!!」
ユズはそう言うと、森に向かって叫んだ。
「戻って来てください!全員!!」
ユズの声が森に響き、カラスが一斉に飛び立つ。一瞬の沈黙が、辺りを包んだその直後。三人は何かを抱えて、走って戻ってくる。
「ユズくん!見てこれ、デカいのあった!これは売れるで!!」
「ユズさ〜ん、この子うちで飼ってもいいですか〜?」
「おい、ユズ!ほら見ろ、アラマウントクロコダイルの赤ちゃんだ!」
それぞれが口々に言いたいことだけを言う。
「うるさい!僕は聖徳太子か!!!全員元の場所に返してきなさい!!」
ユズが叫ぶ。こんどーとひつじは、不服そうな顔をしながら抱えていた動物をその場に下ろした。二人は、リスとワニが必死に逃げていくのを眺めている。
ドルはユズの腰に付けてある外付けのアイテムボックスを奪うと、持ってきた薬草を、詰め込むだけ詰め込んで、ユズに渡してから離れていく。
ユズは胃がきゅうっと絞まるのを感じて、お腹を擦ることしか出来なかった。
馬車の前にいるトロールは、変わらず低い唸り声をあげている。こんどーは、カーテンの隙間からメルインの怯えた表情を見た。こんどーは、一歩前へ出るとトロールへと近付いた。
「任せろ」
そう言うと、こんどーは強い力で斧を振り下ろした。地面が抉れ、衝撃で土が舞う。振り下ろされた場所からまっすぐに地割れが伸びて、トロールの足元を崩す。
「きゃっ」
すぐ隣の馬車が揺れ、メルインの小さな悲鳴が馬車の中から溢れた。
「ちょっと待って!馬車の近くでやるな!!」
「問題ない」
「あるんだよ!!」
トロールはこんどーの攻撃に怯んだが、すぐにまた攻撃態勢に入る。馬車に襲いかかろうと、こん棒を振り上げていた。こん棒で、馬車の横を殴りつける。木製の馬車がひしゃげて小さな穴が空いている。
メルインは、その穴から覗く、ギョロリとしたトロールの目と目が合ってしまった。
「ひっ……!」
メルインは顔を真っ白にして、逃げ場のない馬車の中で、少しでも遠くに逃げようと隅に寄って身を縮める。
トロールがもう一度こん棒を振り上げた、その瞬間。
――ヒュンッ
ドルの矢が、トロールの肩を貫いた。肩を貫いた矢が、そのまま御者台と馬車の境を掠める。
「うわぁぁぁ!!」
「ちょっ、落ち着いてください執事さん!……ドルさん!!」
「当たってへんからセーフや、俺は悪ない」
「アウトだろ、その発言は!!」
ユズは怒るが、ドルはそっぽを向いて耳を塞ぐ。
「もぉ〜、みなさん危ないですよ〜」
ひつじが、ふわふわと軽い足取りで近づいてくる。そのまま杖を振り上げて、トロールの足に叩きつける。
「ポコちゃん!」
ポコッ
軽い衝撃音とは裏腹に、トロールは吹き飛んだ。吹き飛ばされたトロールは、馬車のすぐ前に叩きつけられた。
「きゃぁぁぁ!」
「うわぁぁぁ!」
「危ないっつってんだろーが!!」
メルインと執事が叫び声をあげる。執事はこの数十分で一回りほど年老いたような気さえした。メルインは座席にしがみつき、涙目になっている。
「……あの……」
メルインの声は、誰の耳にも届かない。もう一度声を張りあげる。
「あのっ……!」
「はい、どうしました?」
「本当にこれ、大丈夫なんですか……?」
「大丈夫だ」
「まかせてくださ〜い」
こんどーとひつじが自信満々に答える。その隣で、ユズは頭を抱えている。
「何を任せたらいいんだよ……」
「結果的に守っとるやろ」
「ギリギリ悪化してんだよ!!」
「ほら、守っただろ」
「え?」
ユズが振り向くと、倒したトロールの山の上にこんどーが立っていた。他にも居たのか、数匹のトロールは、いつの間にか全て討伐されていた。
森に静寂が訪れる。
ボロボロの地面。
傾いた馬車。
震えるメルインと執事。
ユズは、一度目を閉じてから、ゆっくりとメルインたちを振り返った。
「……ね、大丈夫でしたでしょう」
「怪我は無いからな」
この惨状を目にしても、まるで何事も無かったかのように言い張るユズたちに、メルインと執事はしばらく言葉を失っていた。やがて、震える声で執事が呟く。
「あなた達は、倫理観をどこに置き忘れてきたんですか……?」
「倫理観ならあるだろ」
「お前にはないやろ」
「守銭奴に言われたくねーよ」
四人は、何事も無かったかのように再び配置につく。そんなユズたちを見て、メルインが言葉を零した。
「……あなた達、本当に……」
メルインの喉がごくりと鳴り、一瞬、言葉を飲み込んだ。
「……プレイヤー、なの……?」
メルインの言葉が、風に溶けた。誰も答えないまま、配置についた。
風が吹き抜け、じっとりとした汗を乾かしていく。
「まぁ、守れたな」
こんどーが、倒れたモンスターを横目で見ながら言う。
「せやな。報酬分の仕事はしたで。……まだ、剥ぎ取る時間はあるか?」
「薬草摘んでただけだろう」
「ちゃんと弓も撃ったわ」
ドルは肩を回しながら、トロールに近付く。ひつじがニコニコと笑い、歩く度にルミナスの装飾が揺れる。
「無事でしたね〜」
ユズがメルインを見ると、怯えたままのメルインと目が合った。ユズは一瞬、口を噤んだ。その後、ゆっくりと口を開いた。
「……まぁ、なんとかなります」
ユズの、フォローするでも慰めるでもないその言葉に、執事は静かに目を閉じた。
「……お嬢様」
「……はい」
「帰りは、王都の兵に依頼致しましょう」
「わたくしも、それがよろしいかと……」
メルインは、再び走り出した馬車の中で、彼らに依頼したことを後悔するのだった。
「クーリングオフは、できますの……?」
「あかーん!!」
“郷に入っては郷に従え”という言葉がある。
この世界において、どちらが郷で、どちらが異物なのかは分からない。
ただひとつ、確かなことがある。
このゲームでは。
彼らの方が正しい、らしい。
無事に王都につくと、メルインは挨拶だけを済ませて、逃げるように別邸へと入っていく。執事だけがその場に残った。
「こちらが、報酬になります」
「おおきに」
執事が、ドルに報酬の入った布袋を渡す。
「……こちらは、オマケの報酬です」
執事が懐から羊皮紙を取り出し、ユズへ渡す。
「……羊皮紙?」
「なんも書いてないです〜」
渡された羊皮紙を見るが、そこには何も書かれていなかった。執事がメガネを一度あげると、口を開いた。
「……ご存知でしょうか、見えないインクというものが流行っているそうですよ」
「見えないインク、ですか」
執事はもうほとんど日が沈んだ、藍色の空を見上げながら言った。
「……先代の旦那様が、星を追う方でした。夜風にあたりながらご覧になるといいかもしれませんね。……それでは私はここで。失礼いたします」
そう言うと、執事は別邸へと入っていった。
日が完全に沈んだ頃、ユズたちは宿屋で羊皮紙を広げた。やはり、そこには何も書かれていない。
「なんや、ほんまに詐欺かいな」
「……いや、きっと意味はあるんだと思います」
どの角度から見ても、何も書かれていない古びた羊皮紙だ。蝋燭の明かりに照らしてみても、暗号解読用の特殊なインクを落としてみても、何も変わらなかった。
「あのおっさん、夜風にあたりながらって言ってただろ。外に出てみたらいいんじゃねーか?」
こんどーの言葉に、ユズは頷くと、羊皮紙を持って外に出た。
街灯の灯りが道を照らす。空には、やけに大きな満月が浮かんでいた。月の光によって、一際明るく照らされた場所で、ユズは丸めた羊皮紙を広げた。
「えっ」
羊皮紙を見ると、薄らと文字が浮かび上がっていた。しかし、かなり薄くて読めそうにない。ユズは羊皮紙を持ち上げて顔を寄せる。月が羊皮紙を照らす。少しずつ、文字が濃くなっていく。
一瞬、その文字を読んだユズの目が大きく見開かれ、羊皮紙を掴む手に力が入った。ユズは震える声で、三人に言った。
「……これ多分、星空の街への暗号です」
「え〜?!」
三人は驚きの声とともに、羊皮紙へと顔を寄せる。光の当たった文字がキラキラと星屑のように輝いている。
【これ解けた者、星空へと導かれん
その一
闇夜の地 雫が落ちて石を穿つ
月の雫がハマる時 その地は扉となるだろう
その二
星の錠 光を纏いて呼び起こす
星降る鍵がハマる時 その扉は開かれるだろう
その三
零月の夜 歌を唄いて涙を流す
偽りの夜が満ちる時 その光は流れるだろう】
「星の錠……光を纏いて、か」
「……これが本当に星空の街への暗号なら、多分ポコちゃんだ」
「ほなら、一と三、それぞれギミックがあるっちゅうことか?大変やな」
「……そうですね。でも……」
ユズは小さく笑って、空を見上げた。
「ようやく、前に進める」
夜風が吹き抜け、頬を撫でる。ユズは眩しそうに月を見ている。
そんなユズを、こんどーは黙って見つめていた。
満月が、少し笑ったような気がした。




