船頭多くして船山に登る
ユズの目の前では、巨大なひよこが暴れている。
それも、群れで。仲間同士でも関係ない、目に入るもの全てを啄く。地面が、豆腐みたいに抉られる。
「……どうしてこうなった」
――三時間前。
いつもの如く、社会人メンバーが集まっていた。資金集めのため、次にこなすクエストについて話し合っていた。
「このクエスト、金回りがええ」
「火山エリアは上級者向けですよ」
「俺はこっちの、デストロイ山本ってやつの依頼が気になる」
「なんだ、デストロイ山本って。どうせ厄介な依頼でしょう」
「私はひよこの識別がやってみたいです〜。絶対かわいい〜」
「全部却下だ!」
それぞれ提案を出すが、ユズに跳ね除けられる。三人は少しムッとした表情でユズを見た。
「なんでも否定しよってからに……」
「じゃあ、お前が決めろよ」
「金回りのええやつな」
「かわいいやつがいいです〜」
「うっ……」
頭ごなしに跳ね除けていたわけでは無いが、全てを否定した負い目がユズにはあった。
ユズは、机に置かれたクエスト一覧表を見て、頭を抱えた。金回りはいいが、高難易度のクエスト。怪しげな名前の依頼人。ロクなクエストがない。報酬は少ないが、確実にこなせるモノは四つほどある。かと言って、低報酬のクエストでは納得しないだろう。
残ったのはひよこの識別。ただ、何故これだけは簡単そうなのに高報酬なのかが分からない。少し考えた末、ユズは口を開いた。
「……じゃあ、ひよこで」
「えー」
「えー」
「やった〜!」
ユズの言葉に男性陣はブーイングを送る。それとは反対に両手を挙げるひつじ。
「結局ひよこかい」
「一旦却下したくせに」
「あー、うるさいうるさい!行きますよ!」
「へいへい」
「仕方ねーな」
「行きましょ〜!」
ユズは、二人のガヤに耳を塞ぎながらギルドを出る。それに続いて三人もギルドの扉をくぐった。
四人は依頼先の、牧場エリアへと向かった。緑が生い茂り、牧場特有の匂いが鼻を掠める。牛や馬の鳴き声が牧場に響いている。
「牧場エリア、はじめて来ました〜」
「僕も初めてです」
「基本ダンジョンに籠るからなぁ」
「わ〜、羊だ!かわいい〜!」
「牧場なんて現実でも行けるだろ」
「……まぁ、変な生き物もいますけどね」
ユズの目線の先には、見たこともないようなツノの生えた生き物が、大人しく草を食んでいた。ひつじは、少し離れたところで謎生物の角を撫でている。
ユズとドルが、クエスト詳細を見る。
「場所は養鶏場ですね」
「こっからまだ、三十分くらいかかるみたいやな」
「ちょっと遠いな」
「そうですね」
ユズたちは基本的に徒歩や公共交通機関である魔法馬車を使って移動している。しかし、それでは時間がかかるため今は転移装置での転送や魔道士による転移魔法での移動が主流となっている。
「……そろそろ転移装置を買うか、メェさんに転移魔法を覚えてもらいましょうか」
「転移装置だな」
「転移装置やな」
「なんですか〜?」
「なんでもないです」
――違うところに飛ばされそうだなんて言えない。
一行は、養鶏場へと足を進める。十五分ほど歩くと、遠くに小屋が見えてきた。それを見て、ユズが目を細める。
「……養鶏場、ちょっと大きくないですか?」
「ああ、あれ養鶏場か」
「いや、この距離であの大きさって……」
「気のせいだろ」
「早く行きましょう〜」
「あ、はい。……気のせいか」
ユズは頭を振ると、考えすぎだったかと思い直し三人の後を追う。
養鶏場に近づくにつれ、鳴き声がかすかに聞こえてきた。
「わ〜、鳴いてる!かわいい、絶対かわいい〜!」
「ホンマに女子供は動物好きやなぁ」
「俺も嫌いじゃないぜ」
「お前はそもそもゴリラやん」
「うるせぇ」
「……」
ユズは言葉に詰まる。養鶏場まで距離があるずなのに、明らかに鳴き声が大きいような気がしていた。他の三人は気に止めていないようだ。ユズは気のせいだと首を振って、三人の後を追った。
さらに足を進める。残り50m程の所で、ユズの前を歩いていた、ドルの足が止まった。
「ユズくん」
「はい」
「……なんか、違和感ない?」
「……抉れてますね」
小屋……と言うには大きすぎる、五百人は入りそうな小屋。その周りの地面や壁が抉れていた。ひよこの大きな鳴き声が、頭に響く。
前を歩いていたこんどーとひつじが、二人が止まったことに気付いて振り返る。
「なにしてんだ」
「早く行きましょうよ〜」
――その時。
ミシッ
建物から家鳴りがして、こんどーが小屋を振り返る。次の瞬間、建物がバラけて崩れ、中から巨大なひよこが、数羽飛び出してきた。
【ピヨッ】
一羽のひよこが、ひと鳴きすると地面を啄いた。
ドゴォッ
啄かれた部分が抉れ、振動と共に土が吹き上がる。
「は?」
近くにいた、こんどーの口から声が漏れる。ひよこが、こんどーの声に反応した。
――目と目が合った。
【ピュエエエ!】
巨大なひよこが、大きな咆哮をあげた。劈くようなその声に、ユズたちは咄嗟に耳に手を当てて音を遮った。ひよこの後ろから、さらに複数のひよこが顔を出した。その全てのひよこが巨大だった。
「おっ」
「かわいい〜!」
「ぎゃぁぁぁぁぁ?!」
「でかっ?!」
ユズとドルが悲鳴をあげながら逃げる。こんどーもその場を離れようとした。しかし、視界の端で、ひつじが目を輝かせて、ひよこに駆け寄ろうとしているのが見えた。
こんどーは咄嗟にひつじを掴んで、抱えあげて走る。
「あ〜ん、ゴリさん離して〜!」
「今度小さいの買ってやるから、諦めろ」
「おっきいもふもふがいいです〜!」
四人が並んで走る。ひよこは地面を抉りながら、ユズたちに近付いてきている。
「なんですか、あの大きさ?!」
「ひよこさんです〜」
「ひよこじゃないでしょ、アレ!」
「落ち着けよ」
「落ち着けるか!どうしましょう、ドルさん!」
「……俺、気付いてん」
「何か秘策が……?!」
ユズは、神妙な顔をしたドルを見て、一縷の望みをかけようとした。
「あれ、多分金の卵産むわ」
「産むかぁ!バカが!!」
ドルの目は真剣だった。ユズは堪えきれずにツッコミを入れる。ドルに一瞬でも期待した自分が馬鹿だったと思いながら走り続ける。
「これ、一匹でも一生遊べるんちゃうか……」
「食えんのか?焼けばいけるか」
「食うなアホ!一生飼うねん!」
「どっちも馬鹿なんだよ!」
「ひよこさんに、かわいそうなこと言わないでください〜!」
四人の後ろでは、ひよこたちが地面を啄いている。地面が抉れ、土が跳ね上がり、足元が揺れる。
「識別ってどうするんだ?」
「どれがオスでとれがメスや?」
「全部まとめて見ればいいだろ」
「なんでこの状況で、仕事する気満々なんだよ!」
こんどーとドルは、呑気にクエストを進める気でいるが、ユズはそれどころでは無かった。
そんなユズを横目に、こんどーがステータス画面を弄ると、武器が切り替わる。手には斧ではなくグローブが装着されていた。
「こんどーさんが、モンク?!」
「斧じゃ殺しちまうだろ」
驚くユズを見て、こんどーは当然だろうと言うように返事をする。
「考える力あったんか、お前」
「まずはお前を殴ってもいいんだぜ」
「やってみろ、ゴリラ。全部避けたるわ」
「やめろ、アンタら!言ってる場合か!」
「来ましたよ〜」
睨み合う二人とは別に、明るいひつじの声が響く。その声に後ろを向くと、一羽の巨大ひよこがユズたちのすぐ後ろで、嘴を大きく開けている。
気付いた瞬間、四人は咄嗟に身を逸らす。バクンッと音がしそうなほど、嘴が勢いよく閉じられた。
「ぎゃぁぁぁ!」
「俺らはミミズやないぞ!!」
騒ぐユズとドルを尻目に、こんどーが一歩踏み出すと、高く跳んだ。そのまま拳を振り抜き、ひよこの右体側にボディーブローをいれる。ひよこさ地面を滑りながら左後方へと飛んでいく。
【グギャァッ】
【ガァッ】
【ピギャッ】
飛んでいったヒヨコに巻き込まれ、複数の鳴き声が響いた。
滑った地面から砂埃が舞い、ユズたちの視界が奪われる。四人は近くに集まり、砂埃が晴れるのを待った。
「効いたな」
「斧じゃなくても死んでるんじゃないですか……?」
「ゴリさんの乱暴者〜!ひよこさんがかわいそうです〜!」
しばらくすると、砂埃が晴れ、視界が戻った。ひよこが、遠くの方で山のように重なっていた。どうやら気絶しているようだ。
「……ちょっと可哀想ですけど、これで大人しくなりましたね」
「はよ仕分けて、報酬貰おうや」
「あの山の上で寝てみたいです〜」
ユズたちは、依頼を遂行するため、ひよこの山へと近づいていく。
と、その瞬間。
【コケェェェェ!】
崖上の方から、けたたましい鳴き声が聞こえてきた。四人は咄嗟に耳を塞ぎながら、崖を見上げた。
そこには、二羽の巨大なニワトリが逆光を浴びながら立っていた。さらに、その二羽は大量のひよこを引き連れていた。
一羽には、赤く立派な鶏冠がある。
この群れのボスだ。そしてもう一羽は、その番だと思われる。
ボスが目を真っ赤にして、ユズたちを睨みつけている。
「親だな、ありゃ」
「もしかして、怒ってます〜?」
「もしかしなくても怒ってますよ!」
ボスが大きく鳴き始める。それを合図とばかりに、大量のひよこがユズたちに向かって走り出した。
ドドドドド
先程の三倍はいるだろう、走るだけで地鳴りがする。遠くの地面が、黄色に波打っている。崖など気にした様子もなく、加速度をあげて走り降りてくる。
「に、逃げろぉぉ!」
ユズの叫び声に、四人はそれぞれ走り出した。ユズは咄嗟に物陰に飛び込み、身を隠す。
ドドドドド
ひよこたちが、すぐ側を走り抜けた。ひよこたちが走り抜けた後、ユズはほんの少しだけ物陰から顔を出した。目の前には、いくつもの抉れた地面が広がっている。
ユズは頭を抱えた。
「……どうしてこうなった」
そして冒頭に戻る。
「あんなの、どうやって仕分けるんだよ……。てか、そもそも生け捕りが無理だろ……!」
ユズは一人ごちる。
ソッと物陰からひよこの方を見ると、少し拓けた場所に人影が見えた。目を凝らして見てみると、こんどーがひよこに囲まれながら拳をふるっていた。
「なんで?!……あ」
ユズは、こんどーがモンクになっていることを思い出す。
「そうか!僕もそれ用にジョブチェンすればいいのか……!」
ステータス画面を開きながら、ブツブツと考える。
「魔法使いとアーチャーはMPと素早さが足りないからこの状況じゃあ死ぬし……、これも適性はほとんど無い……。ん?もしかして、これなら……」
ユズはステータスを変更し、装備を整えていく。腰に提げていた剣が、アイテムボックスの中へと消え、代わりにウエストポーチが現れた。
「……これなら、いける」
――罠師 ユズ
ユズは立ち上がり、物陰から出ると、ひよこに見つからないように身を屈めながら周囲を探る。
こんどーの位置。
ひよこの数。
建物の数と配置、死角。
周囲の環境を、取りこぼしのないように丁寧に把握していく。
一つの罠で全てを捕まえられるとは思えない。もう一つ、もう一つと連鎖させられるように足していく。
糸を引き、穴を開け、矢を備え付ける。
ユズの額から汗が流れたところで、やっと顔を上げた。
「できた!」
ユズは、まだひよこと戦っているこんどーの方を見た。こんどーは、ユズに気が付いていないようで、一心不乱にひよこを殴り続けている。
ユズは、こんどーに聞こえるように声を張り上げる。
「こんどーさん!」
「!ユズか。なんだ!」
気付いたこんどーが、目だけをユズに向ける。その間もひよこと戦い続けている。
「僕の方にひよこを誘導できますか!」
「……任せろ!」
それだけ言うと、こんどーがユズの方へと走り出した。ひよこたちは、地響きを鳴らしながらこんどーを追いかける。
【ピュオオオ!】
鳴き声が、耳を劈く。耳を塞ぎたくなるのを我慢して、ユズが罠に向かって指をさす。
「こんどーさん!樽の横に罠を仕掛けました!避けてくださいね!」
「任せろ」
こんどーは、指をさされた罠の方に向かって走る。樽の近くまで来ると、ピアノ線が張ってあるのがこんどーにも見えた。
「こんどーさん!そこです!避けて!」
「おう!」
こんどーは走幅跳の要領で、一歩、二歩、三歩とステップを踏む。そして最後に、力強くジャンプした。
――罠との距離、約4m。
「え、ちょっ、遠……」
ユズの声が漏れ、回避の失敗を悟る。しかし、こんどーの高い身体能力で罠を飛び越えることに成功した。
物陰に身を潜めていたユズとこんどーの目が合う。こんどーは、得意げに笑みを浮かべていた。それを見たユズが、一瞬ホッと息を吐いて強ばった顔を和らげた。
――その瞬間。
ズルッ
「あ」
「まっ……!」
着地したこんどーの足が前に滑り、後ろへとひっくり返った。コケた拍子に、樽に設置していたピアノ線をこんどーの身体が弾き、ピンッという軽い音をたてて引きちぎれた。
次の瞬間、ボコボコと地面が掘り返され、大きなネットが現れ、こんどーとこんどーの近くに来ていた二羽のひよこを包んで、勢いよく持ち上げられる。
「おおおっ?!」
「なんでなんだよ!!」
「悪い、凡ミスだ」
こんどーは懐から短剣を取り出し縄を切ろうとするが、罠士専用の鋼鉄で編まれた縄ではビクともしない。そうしている間にも、ネットに入り切らなかったひよこたちが、こんどーに飛びかかる。
「うおっ、ヤバい!ユズ!これはヤバい!ヤバい!」
「もー……。ちょっと待っててくださ……」
こんどーを助け出そうと、ユズが物陰から出た瞬間、釣り上げられたこんどーの下で罠の起動音が響いた。
「きゃぁぁぁ!!」
「は?!」
女の悲鳴に一瞬、状況を理解できず全員が固まった。知らぬ間に近くに来ていたひつじが、落とし穴にハマっていたのだ。
【ピギャッ】
【ピュオオ】
こんどーに向かって飛んでいたひよこたちが、ひつじと一緒に落とし穴へと落ちていった。
「メ、メェさーん!大丈夫ですか?!」
「さすがに圧死してんじゃねーか……?」
ユズが慌てて落とし穴を覗き込む。黄色い塊ばかりでひつじの姿が見えない。
「〜〜〜〜」
ひよこの奥底から声が聞こえた。何を言っているかは聞き取れない。ユズはひつじの名前を叫び続ける。
「メェさーん!」
「……おっきなもふもふ最高です〜」
ひよこの羽毛から顔だけ出したひつじが、幸せそうに言った。
ユズは安堵のため息を吐いてから、呆れた表情で呟いた。
「……ほっておいても大丈夫そうですね」
「HP上げただけあるな」
「極振りが、ここに来て役に立ちましたね」
「次は攻撃力だな」
「手が付けられなくなるんで、止めてください」
ユズが再度ひつじを見ると、幸せそうに黄色に頬擦りをしている。ひよこは、ひつじを啄こうとしているが、穴が狭くて上手く嘴を持っていけない。
呆れたユズが立ち上がり、こんどーたちに背を向ける。
「……もういいです」
「待てユズ、俺は助けろ」
この場を離れそうなユズに、焦ったこんどーが網から出た手を振り回すと、その手が木に当たった。その瞬間、木に仕掛けていた罠が作動した。
――ヒュンッ
「今から僕はド――」
罠として張っていた矢が、ユズの肩に刺さり、ユズはそのまま倒れ込んだ。
「ユズ?!」
焦ったこんどーの声に、ひつじの動きも止まる。
「ユズさんがどうかしたんですか〜?!」
上から見ているこんどー。穴の中で何も見えないひつじ。助けようにも助けられず、こんどーは、じっとユズの方を見るしかなかった。
ユズはぴくりとも動かない。しばらく見つめていると、ピヨピヨと鳴くひよこの声の合間に、規則的な吐息が聞こえてきた。
「スー……スー……」
「……寝てる?」
「え〜?」
どうやら先程の矢は、即効性の麻酔矢だったようだ。
「……マジか。どうすんだこれ」
「私、動けません〜」
「一番まともなヤツが寝たぞ」
こんどーもひつじも、身体を捩って脱出を図ろうとするも、一人では難しい様子。
「……呼ぶか」
「いつも通り賭けますか〜?」
「15秒だ」
「私は10秒です〜」
「よし、負けた方がユズの装備を一個Cランクに変える。カウントダウンは頼んだ」
「やだ〜、絶対怒られます〜。カウントダウンいきますよ〜」
こんどーが息を大きく吸い込むと、大きく声を張り上げた。
「こんな所に、金の卵だ!!!!」
こんどーの声が辺り一面に響く。ひつじは、ゆっくりとカウントダウンを始めた。
「1、2……」
――その時。
「どこや!俺の金の卵ちゃん!!」
路地裏から、汗を流したドルが顔を出した。
「早すぎだろ」
「両負けです〜」
残念そうな声のこんどーとひつじ。そんな二人の声を無視して、ドルはキョロキョロと必死に辺りを見回す。
「どこや?!」
「ねーよ」
「ないです〜」
「は?!」
「それより、宝くじ先輩〜」
二人は声を合わせて言う。
「助けてくれ」
「助けてくださ〜い」
「は?」
そう言われてやっと、ドルは現状を認識した。ひよこと共に網にかかったこんどー。巨大な落とし穴の底から聞こえるひつじの声。ドルは一瞬言葉を失った。
「……なんやこのアホな状況は?!」
「幸せです〜」
「ユズくんは、何しとるんや?!」
「お前の下にいるだろ」
「は?」
ドルが自分の足元を見ると、何かを踏んでいる。ドルの左足がユズの背中に、右足は頭に置かれている。気付いた瞬間、ドルはその場を飛び退き、ユズを抱き起こしながら身体を揺する。ドルの額には汗が流れている。
「ゆ、ユズくーん!誰にやられたんや?!こんな……!酷い!」
「……お前だろ」
「……ユズくーん!」
「わざとらしい」
ドルはとりあえずユズを端に寄せ、こんどーを網から助けだした。そのまま二人で、ひつじを落とし穴から引き上げる。
「なんの罠や、これ」
「ユズがトラッパーになったみたいだな」
「俺らのパーティにトラッパーって……。ほぼテロやろ」
「判断ミスだな、ユズが悪い」
全ての責任を押し付けるように、二人は頷く。
「でも、ユズさんのおかげでもふもふできました〜」
「良かったな」
未だ恍惚として、嬉しそうなひつじを横目に、ドルはユズの肩に刺さった矢を見て、ため息を吐いた。
「で、本人は自分の罠で寝てんのかいな」
「みたいだな」
「起きたらキレるやろなぁ……」
三人はひよこの隙を見ながら、ユズを安全な小屋まで移動させる。安全を確保すると、ドルが身体を伸ばしながら言った。
「よっしゃ。ほんなら、俺らだけで片付けるか」
「名誉挽回だな」
「汚名返上です〜!」
ドルの言葉に、こんどーとひつじも気合いを入れる。しかし、意気込む二人の顔を見て、ドルは不安を感じた。
「……俺が指揮するわ」
ドルがそう言うと、こんどーが眉をひそめた。
「は?なんでだよ。俺がやる」
「は?ゴリラには無理やろ」
「守銭奴にも無理だ」
「あ゛?」
「え〜、じゃあ私ですか〜?」
「それは無い」
「それはねぇ」
「あ〜ん、声を揃えなくてもいいのに〜」
三人は、答えの出ぬまま、小競り合いを繰り返しながら小屋を出ていった。
遠くから爆発音や鳥の鳴き声が響きわっている。小屋の中では、何も知らないユズがぐっすりと眠り続けていた。
──────────────────
「……ん」
数時間後、ユズは目を覚ました。起き上がると、身体からブランケットが滑り落ちた。キョロキョロと周りを見回すが、誰もいない。
ユズは、ゆっくりと立ち上がると小屋から出た。扉の外は昼の明るさから、夕方の色へと移り変っていた。茜色に染まる空に、二羽の鳥が飛んでいる。何者にも邪魔をされずに、仲睦まじく飛ぶその姿が綺麗だった。
ユズは目を擦る。目の前では、未だに巨大なひよこたちが暴れ回っていた。むしろ、先程よりも数が増えている気がする。
喧騒の中、そこには三人の姿もあった。何度目を擦っても変わらない景色に、ユズの頬が引き攣る。
「……なんで、増えてるんですか」
「知らん!」
「もふもふ増量です〜!」
「金の卵産むヤツ探しとる!」
収集のつかない三人の言い分に、ユズは空を仰いだ。
「……帰りたい」
“船頭多くして船山に登る”という言葉がある。
彼らでは、山どころか、平地も無理だ。




