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ROAD OF FRONTIER〜ジャンプで罠を踏むバカたちと星空の約束〜  作者: 春野凪
星空の約束

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10/27

袖触れ合うも他生の縁

金曜日の夕方、ユズとひつじがギルドでくつろいでいると、ユースケとココアがやって来た。



「ユズさんメェさん、こんばんは!」

「どうも」

「こんばんは」

「こんばんわ〜」



ユースケたちがギルドに加入して一週間。彼らは遊びたい盛りの学生ということもあり、金曜日の夜と土日にしかログインはしない。そのため、二人と会うのはまだ三回目だった。

軽く挨拶を交わした四人は雑談を始めた。



「へぇ、二人は幼なじみなんですね〜」

「家が隣向かいで……」

「だから、仲が良かったんだね」

「てっきり付き合ってるのかと思ってました〜」

「付きあっ?!」

「あ、あたしたちはそ、そんなんじゃないです!」



アタフタと否定する二人。チラチラとお互いを横目で見ているが、視線が混ざり合うことはない。そんな二人を、ユズは生温かい目で眺めていた。

しばらくして落ち着いたココアが、咳払いをしてユズとひつじを見る。



「……お二人は、付き合ってるんですか?」

「まさか」

「付き合って無いです〜」

「えっ、じゃあこんどーさんかドルさんと?」

「ありえません〜」



ココアの質問に、ユズが小さくため息をつく。こんどーやひつじ、ドルの中で、誰かがくっつくイメージが全くわかない。恐らくそれは、ユズだけではなく、全員が思うことだった。



「僕らはそんな感じじゃないよ」

「そうですよ〜」

「へぇ、そうなんですね……」



そう話すココアの隣で、ユースケがひつじの顔を頬を少し赤らめながらじっと見つめていた。



「メェさんってすごく可愛いのに……いたっ」



言葉の途中で、ココアがユースケの足を踏む。悶えるユースケを見て、ユズは苦笑いを浮かべた。



「元々お知り合いとか?」

「それも無いよ」

「……なんで一緒にいるんですか?」

「そう聞かれると……」

「困りますね〜」



ユズとひつじは顔を見合せて首を捻る。



「どこで出会ったんですか?ロブフロの掲示板?」

「いや、確かダンジョンだったと思う」

「みんな同じ日に出会いました〜」

「すごい偶然ね」

「出会い、聞きたいです!」



興味津々の二人に、ユズとひつじは顔を見合わせた。

ユズの頭に真っ先に浮かんだのは、ダンジョンの壁を迷いなく壊した、あの男。


――こんどーのことだった。




───────────────



三年前、ユズは星空の街の手がかりを探すため、色々な場所を巡っていた。この日、ユズは一人で薄明かりのダンジョンにいた。

まだゲームを始めたばかりで、一緒に探索するような仲間もいなければ、装備を整えるような金もない。鉄製の剣以外は、ほとんど初期装備だ。そんな中でも、ずっと探索を続けていた。




――薄明かりのダンジョン


暗くて視界が悪いだけの、初心者向け洞窟ダンジョン。敵もスライムやコウモリといった、初期モンスターがほとんどだ。

とは言え、初心者単独での攻略は難しい。



「やっぱり、ギルドに入れば良かったかな……」



モンスターと戦う度に少しずつ削れていくHPに、ユズは一人ごちる。それでも歩みは止めず、洞窟の奥へと進んでいく。しばらく歩いていると、前方に人影を見つけた。

斧を持った体格の良い男が一人、壁の方を向いて立っていた。どうやら行き止まりのようだ。



「一人かな……?即席でもいいからパーティ組んでくれないかな」



そう思い、ユズは小走りに男に近付く。



「あの……」



声をかけた、その瞬間。男は壁に向かって走り出し、そのまま体当たりをした。



ドゴォ



「はっ?!」



洞窟内に重い音が響いた。ユズは驚きに声をあげた。

男が体当たりをした壁を見ると、人が一人通れるほどの穴が空いていた。パラパラと周りの壁が崩れて、砂埃が舞っている。

ユズが穴の方を見つめていると、声に気づいた男が穴の内側から顔をだした。



「なんだ、人か」



男は、何も気にした様子もなく口を開いた。



「あ、え、壁……」

「壁?……ああ、道がなかったからな」

「そんなことある?!」



男は、なんてことの無いように飄々と言い放つ。



「先人たちも言ってるだろ。道は自分で作れって」

「物理的な話じゃ無いでしょう!」

「似たようなもんだろ」

「全く違うけど?!」



ユズは男のわけの分からない言い分に、黙っていられなかった。

男は一度肩をすくめて、ユズに問いかける。



「それで、俺に何か用か?」

「あ、えっと。僕一人の攻略はキツくて……。良ければパーティ組みませんか?」

「いいぞ」

「はやっ」



ろくに自己紹介もしていないと言うのに、男は迷うことなく即答した。



「迷っても仕方ねーだろ」

「いや、まぁ僕は有難いんですけど……」

「ほら、行くぞ」

「あ、はい」



男は振り返ると先を歩いていく。ユズは慌てて男の後ろを追った。



「僕はユズです。よろしくお願いします」

「俺はこんどー。よろしく」



こんどーと共に動くようになって、確実に動きやすくなった。こんどーは判断が早かった。装備はユズと同様、初心者の域を出ない。しかし、こんどーには戦闘センスがあった。多少厄介なモンスターの討伐にも、そう時間はかからなかった。



――ただ、早すぎる。



ユズには、こんどーが迷うという工程が無いように見えた。



「今の、もう少し待った方が……」

「待ってたら死ぬだろ」



にべも無く言い放たれる言葉が、ユズを不安にさせる。そして、その不安は的中することとなる。


出てくるモンスターを倒し、奥へと進んでいく。

ユズは、奥に行くにつれてモンスターが強くなっている気がした。

ふと、こんどーが立ち止まった。



「待て、罠だ」



こんどーの言葉に、ユズの動きがピタリと止まる。



「え?」

「この道を通ると起動する罠だな」



こんどーの言葉にユズが前を見ると、なんの変哲もない一本道が続いていた。先は長く、ゴールは見えない。



「……なんで分かるんですか?」

「俺がシステムエンジニアだからだ。見ればわかるだろ」

「システムエンジニアってそういう仕事でした?!」

「違うけど。まぁ、とりあえず罠だ」

「違うのかよ!」



ユズはわけの分からないこんどーに頭を抱えるが、目の前の道を先に進むことを優先する。



「……罠があるなら迂回するしかないですね」

「いや」

「え?」



こんどーが腰を低くして言う。



「走れば行ける」

「行けるわけねーだろ」



こんどーの顔は真剣だ。ユズにはそれが、あまりに無謀な挑戦にしか思えなかった。



「行ける」

「行けませんって!」

「行くぞ」



そう言うと、こんどーはユズの制止も構わず、迷いなく走り出した。



「行くなっつってんだろ!」



ユズは叫びながらも、こんどーの後を追う。

道のど真ん中を進んでいくが、何が起こるわけでもなく、ユズは肩透かしを喰らう。罠と言う言葉を聞いて、落とし穴や矢が飛んでくるのではないかと警戒していた。しかし、そんな罠はなく、ただ広い一本道を真っ直ぐ走り続けていた。



――こんどーの勘違いか。



そう思いながら、走り続けた。

景色の変わらない、薄暗い洞窟をただ走り続けるだけ。それなのに、異様な息苦しさを感じる。

五分ほど走り続けたところで、ユズは小さな違和感に気付く。



ズズズ……



ユズとこんどーの走る音以外に、僅かに振動音がする。足元がほんの少し揺れている気がした。



――さっきより道が狭い。



ズズ……



「か、壁!狭くなってきてません?!」

「なってるな」



こんどーは焦るユズに、あっけらかんと答える。



「なってるなって……。この道どこまで続いてるんですか?!」

「分からん」

「は?!」

「走ればいける」

「どこからその自信が生まれてんだよ!」



ユズとこんどーは、さらに五分ほど走り続ける。社会人になり、運動から遠のいてしまったユズの息が乱れる。

壁に気付いた瞬間から、迫る速度が早くなっているような気がして、さらにユズの精神を追い詰める。

その時、後ろから悲鳴が聞こえた。



「きゃぁぁぁ!」

「誰だ?!」



振り向くと、魔道士の格好をした小柄な女性が走ってくるのが見えた。まるで、何かに追いかけられているようだ。

ユズが目を凝らして女の後ろを見ると、苔むした巨大なゴーレムが女の後を追ってきていた。



「た、助けてくださ〜い!」

「ちょっ、厄介事が増えたんでけど?!」

「いいから走れ!」



迫る壁。

追うゴーレム。


壁はさらに狭まり、人が二人並んで歩けるかどうかという広さまで狭まっている。



「あっ、前!」



ユズは数メートル先に広い空間を見つけた。三人はそこを目掛けて走りきり、なんとかエリアを抜けた。



「た、助かった……」

「良かったです〜」

「な、行けただろ?」

「結果論でしょうが!」



三人が荒い息を整えていた、その時。



ガシャン



ユズたちの後ろからゴーレムが這い出てきた。ところどころ削られた痕があるが、それでも原型を保ったまま動いていた。



「ギリギリ通れたのか……!」

「もぉ〜!しつこいですよ〜!」



女は頬を膨らませると、ゴーレムに向かって杖を振り下ろした。



カンッ



石でできた身体に、杖が弾き返される。



「あうっ」

「そりゃそうだろ」

「なんで魔道士が杖で殴るんですか?!魔法使え、魔法!」

「回復魔法しか知らないんです〜」

「何しに来たんだよ?!」



ゴーレムが女を振り払うように腕を上げる。その腕が、女の肩に当たった。



「きゃんっ!」



女は後ろへと弾き飛ばされた。



「大丈夫ですか!?」

「あーん、かなり痛いです〜」



女は痛みに肩を押さえながら、涙目になっている。そんな女の前を、こんどーが庇う様に立った。



「そこにいろ」

「こんどーさん、僕も行きます」



こんどーがチラリとユズを見ると、小さく頷いた。



「コア狙え」

「はい!」



ユズとこんどーの連携により、決着は早かった。

こんどーが大立ち回りでゴーレムの注意を引く。その間にユズが、ゴーレムの胸の中央にある赤いコアを砕いた。ゴーレムはボロボロと崩れ落ち、光の粒子となって消えた。

三人は、ふっと安堵の息を吐いた。



「ありがとうございます〜。助かりました〜」

「おう」

「初心者ですか?」

「一週前に始めました〜」



――一週間。



ユズは耳を疑った。そんな短期間では、まともな装備も揃えられないだろう。道中にもスライムやコウモリなどのモンスターはいたはずだ。よくここまで来れたものだ。



「……なんで、ダンジョンなんか来たんですか?」

「彼氏に光る薬草採ってこいって言われました〜」

「一人でか?」

「そうです〜」



女の話を聞いて、ユズとこんどーは顔を合わせる。二人は小さく頷くと、女の方を向いた。



「……一緒に行きましょう」

「わ〜い、ありがとうございます〜!」



女は笑顔でお辞儀をした。ユズは、改めて自己紹介をする。



「僕はユズです。よろしくお願いします」

「俺はこんどー」

「私はひつじです〜、お願いします〜。ちなみに回復魔法以外知りません〜」

「闇深けぇ」



ユズはこの自由奔放な二人に、こめかみの奥が傷んだような気がした。

それぞれ自己紹介を終えると、奥へと進んでいく。回復役のひつじも加わり、先程よりも戦闘は安定している。向かってくるモンスターを倒し、あっという間にダンジョン最奥まで辿り着いた。そこには、地底湖のように大きな水溜まりが出来ていた。岩の影には雑草が茂っており、むせ返るような湿気がエリア全体を包んでいた。



「ボスはリザードマンだそうです」

「そうか」

「リザードマンってなんですか〜?」

「人型のトカゲだ」

「あら〜」



ヒタヒタと壁から音がする。ユズとこんどーが臨戦態勢になり、耳を済ませる。



「来たぞ」

「はい」



音の先には、鎧を着た大きなトカゲが壁を伝っていた。赤い目をギョロギョロと忙しなく動かし、こちらをうかがっていた。

リザードマンは、他のモンスターに比べ知能が高く、まず最初に回復役になるであろう、魔道士ののひつじを狙った。



「させるか!」



リザードマンが壁から跳んで、ひつじを攻撃しようとしたところを、ユズの剣が防いだ。そのまま攻撃に転じるが、リザードマンの動きが早くて捉えられない。こんどーも応戦するが、攻撃が当たることはない。対して、リザードマンの攻撃は致命傷にこそならないが、確実にユズたちにダメージを負わせていた。

ひつじの回復により保てているが、これではジリ貧だった。



「くっ……!」

「MP尽きそうです〜」

「引くか」

「……一旦引きましょう」



判断は早い方がいい。MP切れのひつじを連れて戦闘は無謀である。

三人は後退し、リザードマンの生息地から離れた。周りを見回し安全を確認すると、三人はその場に座り状況を把握し合う。



「早すぎる……」

「俺は素早さに経験値ふってねーからな」

「私もMPにしか振ってません〜」

「……まぁ、ひつじさんは始めて一週間ですしね」

「他に誰か誘うか」

「でも、誰もいませんし……」



自分たちだけでは倒せそうもない。他に誰かを誘おうにも、ここはダンジョン奥地。周りには誰もいない。



――その時。



「俺が入ったろか?」



突然、岩陰から声がした。



「誰だ!」



ユズは咄嗟に立ち上がり、声のした方角を見ながら構えをとる。その声に反応するように、緑色のとんがり帽子をかぶった弓士が、両手を挙げて岩陰から出てきた。



「怪しいもんやない。君らのこと見させてもらってたで」

「めちゃくちゃ怪しいじゃねーか」

「ストーカーさんですか〜?」

「人聞きが悪い!ちょっと聞けや!」



話の腰を折られた男が吠える。男は一度、咳払いをして話を続けた。



「剣士と壁をタックルで壊すウォーリア、回復魔法しか使えん魔法使い……。えらいバランス悪いやん」

「どこから……」

「さぁ?」

「きもちわりーな」

「ひどいなぁ。……さっき見てたけど、あのリザードマン、右足に一瞬重心が残るクセあるで」

「……見てただけじゃ、ないんですね」



男はニヤリと笑って、また一歩近づいてくる。

ユズは構えを崩さない。



「俺は見ての通りアーチャー、遠距離型や。しかも素早さに結構振っとる」

「……何が言いたいんですか?」

「取引や」

「取引?」



男の言葉に、ユズは首を傾げる。



「雑魚モンスターと違って、ボスは死体が残る。その死体から剥ぎ取った素材は金になる」

「……つまり?」

「剥ぎ取ったもんの2/3を貰う。そしたら、パーティに参加したる」

「……2/3もか?」



こんどーの問いに男は笑う。



「悪い話やないやろ。光る薬草はお嬢ちゃんに譲るし」



男の言葉に、ユズはひつじを見た。ひつじは特に気にした様子もなく応えた。



「私は薬草さえ手に入ればいいです〜」

「な?」



飄々とした表情で男がユズとのんどーに問いかける。どう見てもこの男は怪しい、信用していいものか。でも、この先に、星空の街への手がかりがあるかもしれない。できることなら、ここで手を組んで攻略を急ぎたい。

ユズにとって、星空の街についての手がかり以外、求めるものはない。2/3の報酬を持っていかれたところで、痛むものも無かった。



「俺は別にいいぞ」



思考を巡らすユズの隣でこんどーが答えた。思うところがない訳ではないが、ユズとしても二人の了承があるのなら、断る理由は無かった。



「……お二人が、そう言うなら」

「決まりや。俺はドル。稼がせてもらうで」



軽く自己紹介を交わし、簡単な作戦会議をしつつ、ひつじのMPが回復するのを待った。

ひつじのMPが回復すると、再びリザードマンの生息地へと足を踏み入れた。



「頼みましたからね!」

「任せとき〜」



ヒタヒタとリザードマンが壁を伝う音がする。先程同様、リザードマンがひつじを狙うが、それをユズが弾く。リザードマンが体勢を整え、再びひつじに飛び掛ろうとした、その瞬間。



――ヒュンッ



【ガァァァ】



弓矢が飛び、リザードマンの咆哮が響く。リザードマンの右足には、矢が刺さっていた。



「オマケや」



そう言うと、ドルは再び矢を放った。



――ヒュンッ



リザードマンの、左足にも矢が刺さった。その様子を見て、こんどーが軽く口笛を吹く。



「やるじゃねーか」

「おおきに」



ドルは、目を細めて笑う。

動きが鈍くなったリザードマンをユズとこんどーが追い詰める。二人が攻撃を受ける度、ひつじが回復する。リザードマンが間合いを取れば、ドルの矢が飛ぶ。連携は完璧だった。

数分後、リザードマンはその場にゆっくりと崩れ落ちた。



「……勝った」



肩で息をするユズが、ぽつりと呟いた。ユズたちは、討伐に成功した。



「さぁ、剥ぎ取りまっせー!」

「情緒を持て」

「情緒は金にならんやろ」



そう言うと、ドルはリザードマンの剥ぎ取りを始める。それを横目に、ユズとひつじは洞窟を探索をする。

ユズは、手がかりを探して。ひつじは、光る薬草を探して。



「ひつじさん、光る薬草ありました?」

「ありました〜!」

「良かったですね」



ユズは、ひつじの目的の物があったことに、ほっと胸を撫で下ろした。次は自分の番だと、探索を続ける。

ひつじは、ニコニコと笑ったまま口を開いた。



「それと、宝箱もありました!!」



ピクリ



ひつじの言葉に、後ろで剥ぎ取り作業をしていたドルが動きを止める。ゆらりと立ち上がると、ひつじに近付いていく。



「メェちゃん」

「メェちゃん……?」

「ひつじです〜」



ドルはにっこりと笑う。



「それ、どこにあったん?」

「……ドルさん?」

「宝箱ですか?薬草の生えてた岩の裏側にありましたよ〜」



それを聞いた瞬間、ドルが走り出した。ユズは咄嗟のことに動けない。



「アンタ何をっ?!」

「俺の一人勝ちじゃあ!」

「リザードマンは良いのかよ」

「そんなもんより、宝箱や!」



ドルが岩場まで走る。ユズは追いかけるが、あまりの速さに追いつけない。

もう少しで岩場まで辿り着くという、その瞬間。



ガコンッ



「うぉっ?!」



起動音と共に短い悲鳴を残して、ドルの姿が消えた。



ドシャッ



洞窟内に重い音が響く。



「ちょっ、大丈夫ですか?!」



ユズがその場に駆け寄ると、ドルは深さ3mほどの落とし穴にハマっていた。



「いててて……」

「欲をかくから……」

「宝箱の前では誰でも同じやろ」

「同じにしないでください」



ユズとこんどーが、ドルの手を掴んで落とし穴から引き上げる。引き上げると同時に、ドルが瞬時に立ち上がり、再び走り出す。



「こりねーな」

「命知らずすぎる……」



ドルの懲りない行動に、ユズはもう頭を抱えるしかなかった。

岩場にたどり着き、宝箱を見つけたドルが、そのまま宝箱を抱きしめて叫んだ。



「とった!俺んや!」

「はいはい」

「好きにしろ」

「どうぞ〜」

「言うたな!言質とったからな?!分けんからな?!」



もはや何を言っても聞くまいと、誰も奪おうとはしない。だがもし、星空の街への手がかりが入っていたとしたら。


その時は――


ドルは手を擦り合わせながら口角を上げる。



「宝箱ちゃん、オープン」



カチャリ



重厚な錠が外れ、中から光が溢れだす。ドルの口角がさらに持ち上がり、やがてゆっくりと真顔に戻った。ユズたちは、ドルの後ろから中を覗き見る。

宝箱の中。そこには、丸太と鉄屑が入っていた。



「……」

「武器強化の素材だな」

「初心者向けダンジョンなだけありますね」

「ドルさん、良かったですね〜 」

「……そんな、アホな」



ドルは後ろに倒れ込み、ショックで朦朧とする中呟いた。



「次は、当たりや……」

「懲りろ!」

「このゲーム儲かるって聞いたのに……」



シクシクと泣きまねをするドルに、三人は呆れた視線を送った。


探索も終わり、四人はダンジョンを出た。別れ際、挨拶を交わす。



「ありがとうございました」

「おう、じゃーな」

「ありがとうございました〜」

「もう、一人で行っちゃダメですよ」

「は〜い」

「ほな」

「じゃあな、強欲アーチャー」

「一言多いねん、脳筋ゴリラ」



それぞれ別の道に向かって歩きだす。ユズも借りている宿屋へと足を向けた。

しばらく歩いた時、ユズはふと振り返った。三人の背中が遠くに見える。



「変な人達だったな……」



呟いた言葉は、ひっそりと溶けた。

星空の街への手がかりもないまま、ユズは帰路についた。

賑やかすぎて、頭が痛い。それでも、不思議と口角が上がっていた。日の暮れた空には、流れ星が一つ、落ちていた。


その時のユズは、もう二度と会うことは無いと思っていた。



───────────────



ユズはユースケとココアを見る。



「毎回ダンジョンで会ってたから、自然と……かな」

「そうです〜」

「ホントに偶然なんですね」

「すごい縁ですね」

「縁……そうだね。僕もすごい縁だと思う」



その時、ギルドの扉が開いた。そこには、こんどーとドルが立っていた。



「お、久しぶりだな」

「あ、こんばんは」

「なんや、集まって。なんの話ししとるんや?」



固まって話す四人を見て、こんどーとドルが首を傾げる。



「僕らが、なんでパーティを組んでるかって話です」

「はー?そんなん、たまたまや」

「お前が俺たちを、つけ回すからだろ」

「人聞き悪いねん。変な行動しとったら目につくやろ」

「私はちゃんと魔法使ってました〜」

「杖で殴っとったやろ」

「今思えばあの時から変わってねーのか」

「強くなりましたよ〜」

「300万な」

「ポコちゃんです!」



ユズは、相変わらず賑やな三人の顔を見回して、肩をすくめてぽつりと言った。



「……やっぱりロクでもない人たちだ」



あの頃から何も変わらない。ただバカをするメンバーが、そこにいるだけだ。




“袖触れ合うも他生の縁”という言葉がある。


前世は分からない。


しかし。


彼らは、何度でも出会う。


この世界で。


――きっと、また。

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