袖触れ合うも他生の縁
金曜日の夕方、ユズとひつじがギルドでくつろいでいると、ユースケとココアがやって来た。
「ユズさんメェさん、こんばんは!」
「どうも」
「こんばんは」
「こんばんわ〜」
ユースケたちがギルドに加入して一週間。彼らは遊びたい盛りの学生ということもあり、金曜日の夜と土日にしかログインはしない。そのため、二人と会うのはまだ三回目だった。
軽く挨拶を交わした四人は雑談を始めた。
「へぇ、二人は幼なじみなんですね〜」
「家が隣向かいで……」
「だから、仲が良かったんだね」
「てっきり付き合ってるのかと思ってました〜」
「付きあっ?!」
「あ、あたしたちはそ、そんなんじゃないです!」
アタフタと否定する二人。チラチラとお互いを横目で見ているが、視線が混ざり合うことはない。そんな二人を、ユズは生温かい目で眺めていた。
しばらくして落ち着いたココアが、咳払いをしてユズとひつじを見る。
「……お二人は、付き合ってるんですか?」
「まさか」
「付き合って無いです〜」
「えっ、じゃあこんどーさんかドルさんと?」
「ありえません〜」
ココアの質問に、ユズが小さくため息をつく。こんどーやひつじ、ドルの中で、誰かがくっつくイメージが全くわかない。恐らくそれは、ユズだけではなく、全員が思うことだった。
「僕らはそんな感じじゃないよ」
「そうですよ〜」
「へぇ、そうなんですね……」
そう話すココアの隣で、ユースケがひつじの顔を頬を少し赤らめながらじっと見つめていた。
「メェさんってすごく可愛いのに……いたっ」
言葉の途中で、ココアがユースケの足を踏む。悶えるユースケを見て、ユズは苦笑いを浮かべた。
「元々お知り合いとか?」
「それも無いよ」
「……なんで一緒にいるんですか?」
「そう聞かれると……」
「困りますね〜」
ユズとひつじは顔を見合せて首を捻る。
「どこで出会ったんですか?ロブフロの掲示板?」
「いや、確かダンジョンだったと思う」
「みんな同じ日に出会いました〜」
「すごい偶然ね」
「出会い、聞きたいです!」
興味津々の二人に、ユズとひつじは顔を見合わせた。
ユズの頭に真っ先に浮かんだのは、ダンジョンの壁を迷いなく壊した、あの男。
――こんどーのことだった。
───────────────
三年前、ユズは星空の街の手がかりを探すため、色々な場所を巡っていた。この日、ユズは一人で薄明かりのダンジョンにいた。
まだゲームを始めたばかりで、一緒に探索するような仲間もいなければ、装備を整えるような金もない。鉄製の剣以外は、ほとんど初期装備だ。そんな中でも、ずっと探索を続けていた。
――薄明かりのダンジョン
暗くて視界が悪いだけの、初心者向け洞窟ダンジョン。敵もスライムやコウモリといった、初期モンスターがほとんどだ。
とは言え、初心者単独での攻略は難しい。
「やっぱり、ギルドに入れば良かったかな……」
モンスターと戦う度に少しずつ削れていくHPに、ユズは一人ごちる。それでも歩みは止めず、洞窟の奥へと進んでいく。しばらく歩いていると、前方に人影を見つけた。
斧を持った体格の良い男が一人、壁の方を向いて立っていた。どうやら行き止まりのようだ。
「一人かな……?即席でもいいからパーティ組んでくれないかな」
そう思い、ユズは小走りに男に近付く。
「あの……」
声をかけた、その瞬間。男は壁に向かって走り出し、そのまま体当たりをした。
ドゴォ
「はっ?!」
洞窟内に重い音が響いた。ユズは驚きに声をあげた。
男が体当たりをした壁を見ると、人が一人通れるほどの穴が空いていた。パラパラと周りの壁が崩れて、砂埃が舞っている。
ユズが穴の方を見つめていると、声に気づいた男が穴の内側から顔をだした。
「なんだ、人か」
男は、何も気にした様子もなく口を開いた。
「あ、え、壁……」
「壁?……ああ、道がなかったからな」
「そんなことある?!」
男は、なんてことの無いように飄々と言い放つ。
「先人たちも言ってるだろ。道は自分で作れって」
「物理的な話じゃ無いでしょう!」
「似たようなもんだろ」
「全く違うけど?!」
ユズは男のわけの分からない言い分に、黙っていられなかった。
男は一度肩をすくめて、ユズに問いかける。
「それで、俺に何か用か?」
「あ、えっと。僕一人の攻略はキツくて……。良ければパーティ組みませんか?」
「いいぞ」
「はやっ」
ろくに自己紹介もしていないと言うのに、男は迷うことなく即答した。
「迷っても仕方ねーだろ」
「いや、まぁ僕は有難いんですけど……」
「ほら、行くぞ」
「あ、はい」
男は振り返ると先を歩いていく。ユズは慌てて男の後ろを追った。
「僕はユズです。よろしくお願いします」
「俺はこんどー。よろしく」
こんどーと共に動くようになって、確実に動きやすくなった。こんどーは判断が早かった。装備はユズと同様、初心者の域を出ない。しかし、こんどーには戦闘センスがあった。多少厄介なモンスターの討伐にも、そう時間はかからなかった。
――ただ、早すぎる。
ユズには、こんどーが迷うという工程が無いように見えた。
「今の、もう少し待った方が……」
「待ってたら死ぬだろ」
にべも無く言い放たれる言葉が、ユズを不安にさせる。そして、その不安は的中することとなる。
出てくるモンスターを倒し、奥へと進んでいく。
ユズは、奥に行くにつれてモンスターが強くなっている気がした。
ふと、こんどーが立ち止まった。
「待て、罠だ」
こんどーの言葉に、ユズの動きがピタリと止まる。
「え?」
「この道を通ると起動する罠だな」
こんどーの言葉にユズが前を見ると、なんの変哲もない一本道が続いていた。先は長く、ゴールは見えない。
「……なんで分かるんですか?」
「俺がシステムエンジニアだからだ。見ればわかるだろ」
「システムエンジニアってそういう仕事でした?!」
「違うけど。まぁ、とりあえず罠だ」
「違うのかよ!」
ユズはわけの分からないこんどーに頭を抱えるが、目の前の道を先に進むことを優先する。
「……罠があるなら迂回するしかないですね」
「いや」
「え?」
こんどーが腰を低くして言う。
「走れば行ける」
「行けるわけねーだろ」
こんどーの顔は真剣だ。ユズにはそれが、あまりに無謀な挑戦にしか思えなかった。
「行ける」
「行けませんって!」
「行くぞ」
そう言うと、こんどーはユズの制止も構わず、迷いなく走り出した。
「行くなっつってんだろ!」
ユズは叫びながらも、こんどーの後を追う。
道のど真ん中を進んでいくが、何が起こるわけでもなく、ユズは肩透かしを喰らう。罠と言う言葉を聞いて、落とし穴や矢が飛んでくるのではないかと警戒していた。しかし、そんな罠はなく、ただ広い一本道を真っ直ぐ走り続けていた。
――こんどーの勘違いか。
そう思いながら、走り続けた。
景色の変わらない、薄暗い洞窟をただ走り続けるだけ。それなのに、異様な息苦しさを感じる。
五分ほど走り続けたところで、ユズは小さな違和感に気付く。
ズズズ……
ユズとこんどーの走る音以外に、僅かに振動音がする。足元がほんの少し揺れている気がした。
――さっきより道が狭い。
ズズ……
「か、壁!狭くなってきてません?!」
「なってるな」
こんどーは焦るユズに、あっけらかんと答える。
「なってるなって……。この道どこまで続いてるんですか?!」
「分からん」
「は?!」
「走ればいける」
「どこからその自信が生まれてんだよ!」
ユズとこんどーは、さらに五分ほど走り続ける。社会人になり、運動から遠のいてしまったユズの息が乱れる。
壁に気付いた瞬間から、迫る速度が早くなっているような気がして、さらにユズの精神を追い詰める。
その時、後ろから悲鳴が聞こえた。
「きゃぁぁぁ!」
「誰だ?!」
振り向くと、魔道士の格好をした小柄な女性が走ってくるのが見えた。まるで、何かに追いかけられているようだ。
ユズが目を凝らして女の後ろを見ると、苔むした巨大なゴーレムが女の後を追ってきていた。
「た、助けてくださ〜い!」
「ちょっ、厄介事が増えたんでけど?!」
「いいから走れ!」
迫る壁。
追うゴーレム。
壁はさらに狭まり、人が二人並んで歩けるかどうかという広さまで狭まっている。
「あっ、前!」
ユズは数メートル先に広い空間を見つけた。三人はそこを目掛けて走りきり、なんとかエリアを抜けた。
「た、助かった……」
「良かったです〜」
「な、行けただろ?」
「結果論でしょうが!」
三人が荒い息を整えていた、その時。
ガシャン
ユズたちの後ろからゴーレムが這い出てきた。ところどころ削られた痕があるが、それでも原型を保ったまま動いていた。
「ギリギリ通れたのか……!」
「もぉ〜!しつこいですよ〜!」
女は頬を膨らませると、ゴーレムに向かって杖を振り下ろした。
カンッ
石でできた身体に、杖が弾き返される。
「あうっ」
「そりゃそうだろ」
「なんで魔道士が杖で殴るんですか?!魔法使え、魔法!」
「回復魔法しか知らないんです〜」
「何しに来たんだよ?!」
ゴーレムが女を振り払うように腕を上げる。その腕が、女の肩に当たった。
「きゃんっ!」
女は後ろへと弾き飛ばされた。
「大丈夫ですか!?」
「あーん、かなり痛いです〜」
女は痛みに肩を押さえながら、涙目になっている。そんな女の前を、こんどーが庇う様に立った。
「そこにいろ」
「こんどーさん、僕も行きます」
こんどーがチラリとユズを見ると、小さく頷いた。
「コア狙え」
「はい!」
ユズとこんどーの連携により、決着は早かった。
こんどーが大立ち回りでゴーレムの注意を引く。その間にユズが、ゴーレムの胸の中央にある赤いコアを砕いた。ゴーレムはボロボロと崩れ落ち、光の粒子となって消えた。
三人は、ふっと安堵の息を吐いた。
「ありがとうございます〜。助かりました〜」
「おう」
「初心者ですか?」
「一週前に始めました〜」
――一週間。
ユズは耳を疑った。そんな短期間では、まともな装備も揃えられないだろう。道中にもスライムやコウモリなどのモンスターはいたはずだ。よくここまで来れたものだ。
「……なんで、ダンジョンなんか来たんですか?」
「彼氏に光る薬草採ってこいって言われました〜」
「一人でか?」
「そうです〜」
女の話を聞いて、ユズとこんどーは顔を合わせる。二人は小さく頷くと、女の方を向いた。
「……一緒に行きましょう」
「わ〜い、ありがとうございます〜!」
女は笑顔でお辞儀をした。ユズは、改めて自己紹介をする。
「僕はユズです。よろしくお願いします」
「俺はこんどー」
「私はひつじです〜、お願いします〜。ちなみに回復魔法以外知りません〜」
「闇深けぇ」
ユズはこの自由奔放な二人に、こめかみの奥が傷んだような気がした。
それぞれ自己紹介を終えると、奥へと進んでいく。回復役のひつじも加わり、先程よりも戦闘は安定している。向かってくるモンスターを倒し、あっという間にダンジョン最奥まで辿り着いた。そこには、地底湖のように大きな水溜まりが出来ていた。岩の影には雑草が茂っており、むせ返るような湿気がエリア全体を包んでいた。
「ボスはリザードマンだそうです」
「そうか」
「リザードマンってなんですか〜?」
「人型のトカゲだ」
「あら〜」
ヒタヒタと壁から音がする。ユズとこんどーが臨戦態勢になり、耳を済ませる。
「来たぞ」
「はい」
音の先には、鎧を着た大きなトカゲが壁を伝っていた。赤い目をギョロギョロと忙しなく動かし、こちらをうかがっていた。
リザードマンは、他のモンスターに比べ知能が高く、まず最初に回復役になるであろう、魔道士ののひつじを狙った。
「させるか!」
リザードマンが壁から跳んで、ひつじを攻撃しようとしたところを、ユズの剣が防いだ。そのまま攻撃に転じるが、リザードマンの動きが早くて捉えられない。こんどーも応戦するが、攻撃が当たることはない。対して、リザードマンの攻撃は致命傷にこそならないが、確実にユズたちにダメージを負わせていた。
ひつじの回復により保てているが、これではジリ貧だった。
「くっ……!」
「MP尽きそうです〜」
「引くか」
「……一旦引きましょう」
判断は早い方がいい。MP切れのひつじを連れて戦闘は無謀である。
三人は後退し、リザードマンの生息地から離れた。周りを見回し安全を確認すると、三人はその場に座り状況を把握し合う。
「早すぎる……」
「俺は素早さに経験値ふってねーからな」
「私もMPにしか振ってません〜」
「……まぁ、ひつじさんは始めて一週間ですしね」
「他に誰か誘うか」
「でも、誰もいませんし……」
自分たちだけでは倒せそうもない。他に誰かを誘おうにも、ここはダンジョン奥地。周りには誰もいない。
――その時。
「俺が入ったろか?」
突然、岩陰から声がした。
「誰だ!」
ユズは咄嗟に立ち上がり、声のした方角を見ながら構えをとる。その声に反応するように、緑色のとんがり帽子をかぶった弓士が、両手を挙げて岩陰から出てきた。
「怪しいもんやない。君らのこと見させてもらってたで」
「めちゃくちゃ怪しいじゃねーか」
「ストーカーさんですか〜?」
「人聞きが悪い!ちょっと聞けや!」
話の腰を折られた男が吠える。男は一度、咳払いをして話を続けた。
「剣士と壁をタックルで壊すウォーリア、回復魔法しか使えん魔法使い……。えらいバランス悪いやん」
「どこから……」
「さぁ?」
「きもちわりーな」
「ひどいなぁ。……さっき見てたけど、あのリザードマン、右足に一瞬重心が残るクセあるで」
「……見てただけじゃ、ないんですね」
男はニヤリと笑って、また一歩近づいてくる。
ユズは構えを崩さない。
「俺は見ての通りアーチャー、遠距離型や。しかも素早さに結構振っとる」
「……何が言いたいんですか?」
「取引や」
「取引?」
男の言葉に、ユズは首を傾げる。
「雑魚モンスターと違って、ボスは死体が残る。その死体から剥ぎ取った素材は金になる」
「……つまり?」
「剥ぎ取ったもんの2/3を貰う。そしたら、パーティに参加したる」
「……2/3もか?」
こんどーの問いに男は笑う。
「悪い話やないやろ。光る薬草はお嬢ちゃんに譲るし」
男の言葉に、ユズはひつじを見た。ひつじは特に気にした様子もなく応えた。
「私は薬草さえ手に入ればいいです〜」
「な?」
飄々とした表情で男がユズとのんどーに問いかける。どう見てもこの男は怪しい、信用していいものか。でも、この先に、星空の街への手がかりがあるかもしれない。できることなら、ここで手を組んで攻略を急ぎたい。
ユズにとって、星空の街についての手がかり以外、求めるものはない。2/3の報酬を持っていかれたところで、痛むものも無かった。
「俺は別にいいぞ」
思考を巡らすユズの隣でこんどーが答えた。思うところがない訳ではないが、ユズとしても二人の了承があるのなら、断る理由は無かった。
「……お二人が、そう言うなら」
「決まりや。俺はドル。稼がせてもらうで」
軽く自己紹介を交わし、簡単な作戦会議をしつつ、ひつじのMPが回復するのを待った。
ひつじのMPが回復すると、再びリザードマンの生息地へと足を踏み入れた。
「頼みましたからね!」
「任せとき〜」
ヒタヒタとリザードマンが壁を伝う音がする。先程同様、リザードマンがひつじを狙うが、それをユズが弾く。リザードマンが体勢を整え、再びひつじに飛び掛ろうとした、その瞬間。
――ヒュンッ
【ガァァァ】
弓矢が飛び、リザードマンの咆哮が響く。リザードマンの右足には、矢が刺さっていた。
「オマケや」
そう言うと、ドルは再び矢を放った。
――ヒュンッ
リザードマンの、左足にも矢が刺さった。その様子を見て、こんどーが軽く口笛を吹く。
「やるじゃねーか」
「おおきに」
ドルは、目を細めて笑う。
動きが鈍くなったリザードマンをユズとこんどーが追い詰める。二人が攻撃を受ける度、ひつじが回復する。リザードマンが間合いを取れば、ドルの矢が飛ぶ。連携は完璧だった。
数分後、リザードマンはその場にゆっくりと崩れ落ちた。
「……勝った」
肩で息をするユズが、ぽつりと呟いた。ユズたちは、討伐に成功した。
「さぁ、剥ぎ取りまっせー!」
「情緒を持て」
「情緒は金にならんやろ」
そう言うと、ドルはリザードマンの剥ぎ取りを始める。それを横目に、ユズとひつじは洞窟を探索をする。
ユズは、手がかりを探して。ひつじは、光る薬草を探して。
「ひつじさん、光る薬草ありました?」
「ありました〜!」
「良かったですね」
ユズは、ひつじの目的の物があったことに、ほっと胸を撫で下ろした。次は自分の番だと、探索を続ける。
ひつじは、ニコニコと笑ったまま口を開いた。
「それと、宝箱もありました!!」
ピクリ
ひつじの言葉に、後ろで剥ぎ取り作業をしていたドルが動きを止める。ゆらりと立ち上がると、ひつじに近付いていく。
「メェちゃん」
「メェちゃん……?」
「ひつじです〜」
ドルはにっこりと笑う。
「それ、どこにあったん?」
「……ドルさん?」
「宝箱ですか?薬草の生えてた岩の裏側にありましたよ〜」
それを聞いた瞬間、ドルが走り出した。ユズは咄嗟のことに動けない。
「アンタ何をっ?!」
「俺の一人勝ちじゃあ!」
「リザードマンは良いのかよ」
「そんなもんより、宝箱や!」
ドルが岩場まで走る。ユズは追いかけるが、あまりの速さに追いつけない。
もう少しで岩場まで辿り着くという、その瞬間。
ガコンッ
「うぉっ?!」
起動音と共に短い悲鳴を残して、ドルの姿が消えた。
ドシャッ
洞窟内に重い音が響く。
「ちょっ、大丈夫ですか?!」
ユズがその場に駆け寄ると、ドルは深さ3mほどの落とし穴にハマっていた。
「いててて……」
「欲をかくから……」
「宝箱の前では誰でも同じやろ」
「同じにしないでください」
ユズとこんどーが、ドルの手を掴んで落とし穴から引き上げる。引き上げると同時に、ドルが瞬時に立ち上がり、再び走り出す。
「こりねーな」
「命知らずすぎる……」
ドルの懲りない行動に、ユズはもう頭を抱えるしかなかった。
岩場にたどり着き、宝箱を見つけたドルが、そのまま宝箱を抱きしめて叫んだ。
「とった!俺んや!」
「はいはい」
「好きにしろ」
「どうぞ〜」
「言うたな!言質とったからな?!分けんからな?!」
もはや何を言っても聞くまいと、誰も奪おうとはしない。だがもし、星空の街への手がかりが入っていたとしたら。
その時は――
ドルは手を擦り合わせながら口角を上げる。
「宝箱ちゃん、オープン」
カチャリ
重厚な錠が外れ、中から光が溢れだす。ドルの口角がさらに持ち上がり、やがてゆっくりと真顔に戻った。ユズたちは、ドルの後ろから中を覗き見る。
宝箱の中。そこには、丸太と鉄屑が入っていた。
「……」
「武器強化の素材だな」
「初心者向けダンジョンなだけありますね」
「ドルさん、良かったですね〜 」
「……そんな、アホな」
ドルは後ろに倒れ込み、ショックで朦朧とする中呟いた。
「次は、当たりや……」
「懲りろ!」
「このゲーム儲かるって聞いたのに……」
シクシクと泣きまねをするドルに、三人は呆れた視線を送った。
探索も終わり、四人はダンジョンを出た。別れ際、挨拶を交わす。
「ありがとうございました」
「おう、じゃーな」
「ありがとうございました〜」
「もう、一人で行っちゃダメですよ」
「は〜い」
「ほな」
「じゃあな、強欲アーチャー」
「一言多いねん、脳筋ゴリラ」
それぞれ別の道に向かって歩きだす。ユズも借りている宿屋へと足を向けた。
しばらく歩いた時、ユズはふと振り返った。三人の背中が遠くに見える。
「変な人達だったな……」
呟いた言葉は、ひっそりと溶けた。
星空の街への手がかりもないまま、ユズは帰路についた。
賑やかすぎて、頭が痛い。それでも、不思議と口角が上がっていた。日の暮れた空には、流れ星が一つ、落ちていた。
その時のユズは、もう二度と会うことは無いと思っていた。
───────────────
ユズはユースケとココアを見る。
「毎回ダンジョンで会ってたから、自然と……かな」
「そうです〜」
「ホントに偶然なんですね」
「すごい縁ですね」
「縁……そうだね。僕もすごい縁だと思う」
その時、ギルドの扉が開いた。そこには、こんどーとドルが立っていた。
「お、久しぶりだな」
「あ、こんばんは」
「なんや、集まって。なんの話ししとるんや?」
固まって話す四人を見て、こんどーとドルが首を傾げる。
「僕らが、なんでパーティを組んでるかって話です」
「はー?そんなん、たまたまや」
「お前が俺たちを、つけ回すからだろ」
「人聞き悪いねん。変な行動しとったら目につくやろ」
「私はちゃんと魔法使ってました〜」
「杖で殴っとったやろ」
「今思えばあの時から変わってねーのか」
「強くなりましたよ〜」
「300万な」
「ポコちゃんです!」
ユズは、相変わらず賑やな三人の顔を見回して、肩をすくめてぽつりと言った。
「……やっぱりロクでもない人たちだ」
あの頃から何も変わらない。ただバカをするメンバーが、そこにいるだけだ。
“袖触れ合うも他生の縁”という言葉がある。
前世は分からない。
しかし。
彼らは、何度でも出会う。
この世界で。
――きっと、また。




