表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家畜の俺が、世界を反転させるまで  作者: フミタロウ
第二章 再会へ
28/28

違和感

 ようやく仕事を終えたリンは、いつもの帰り道を歩く。


 店主には、散々小言を言われたが、減給されなかったのはあの客のおかげかもしれない。


 帰る時間は、いつもと同じ日の出の直後。


 リュックの中身も、いつものようにキッチンから拝借してきた少しばかりの食料だ。

 ただ、今日だけは片手に新聞紙を持っていた。客が置いていったものだ。


 リンは、道すがら解放軍の記事が載った一枚を広げる。字が読めないので、そこに載っている写真を眺める程度だ。


 写真は全部で六枚。


 写真の写りはまちまちで、ほとんど顔が分からない写真もあったが、おそらく男四人、女二人といった感じだろう。


(同い年くらいの奴もいるんだな……)


 リンは自分と同い年くらいの女性の写真を見つけて、人知れずため息をついた。


 ほんの少し卑屈な感情がちらついたためだ。


 気を取り直すかのように軽い深呼吸をしたあと、広げていた新聞紙を丸めて歩くペースを速める。


 きっとあの少女は、今日も寒い中部屋の前で待っているに違いない。

 その少女のことを思い出し、先ほどとは違ったため息を漏らす。


(そろそろ、あいつのことも何とかしないと)


 酒場の店主にでも頼んで、一緒に働かせて貰おうか。


 そんなことを考えながら、使い慣れた道を進んでいく。

 

 だが、貧民街まであと少しといったところで、妙な胸騒ぎを感じた。

 最初は気のせいだとも思ったが、進むにつれてその不気味な感覚は膨らんでいく。

 

 いつもの道。

 いつもの時間。

 いつもの景色。

 

 だからこそ分かる。


 いつもとは違う空気が。



 何かがおかしい。



 リンは、強烈な違和感を感じて、貧民街に入るいつもの小道の前で立ち止まった。


(静かすぎる……)


 早朝だから、まだ静けさがあるだけとも言えるが、小道を入って暫く進んだところで、そうではないことに気づいた。


(血の臭いと……あとはなんだ?)


 どこかで嗅ぎ覚えのある臭いだが、思い出せない。

 リンは小走りで、自分の部屋のある建物へと向かっていく。


 道中、一人も見かけなかった。


 今までにこんなことは一度もなかった。


 何か良くないことが起こっているのは間違いない。


 目的の建物に着くやいなや、すぐさま二階へと駆け上がった。


 あの階段を上りきって、左へ曲がれば、あの少女が待っているはずだ。


「くそっ!」


 誰もいないことを確認すると、リンは一人声をあげた。


「いったいどうなってるんだ!」


 しかし、言葉とは裏腹にリンには少し心当たりがあった。


 だが、まだそうと決まった訳ではない。


 頭が無意識にその可能性を否定したがっている。


 リンは一度深呼吸を挟み、次にとるべき行動を考える。


 あの少女を探すべきか……

 探すにしても、今何が起こっているのかの状況把握が先か……

 もしくは、このまま貧民街から出て、この街からも……


(もし俺の予想が正しいのなら……)


 最善策は、早急にこの街から立ち去ることだ。


 だけど、何かがそれを否定する。

 誰かがそれを引き止める。

 その正体なら分かっている。

 この六年間、ずっとつきまとってきたものだ。



(結局、俺は……)



 昔の自分を、あの時の自分を捨てたくないのだ。



 少し冷静になり、もう一度考える。


 優先順位としては、状況把握が先だ。


 リンは、自室へと入る。

 玄関には、見覚えのない血の足跡がいくつかあった。

 だが、部屋を荒らされた形跡はない。ただ、中を確認しただけのようだ。


「この部屋には盗むほどのものはないってか」


 苦笑しながら、冗談をつぶやくが、予想通りだ。

 単なる盗人ではないのだろう。

 リンは、少し跳んで天井に張り付けてあった包みをとる。こつこつ貯めた泣けなしの貯金だ。それをリュックに詰めて準備は完了。


(よし、次は……)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ