11-3
「もしかして、いつも適当に乾かしてるんじゃないですよね……?」
「いや、今朝は面倒で」
お茶を煎れるついでに焼いたパンとベーコンと目玉焼き。ついでに昨晩余った野菜で作ったサラダと。
開き直って雪路が作った朝食を囲んで、そう問答した。
「……朝は出来れば何もしたくない」
「もしかして、朝に弱い人ですか?」
「かなり」
素直に頷かれて、軽く驚くと同時に、納得もした。
「意外ですけど、そういえば、少し眠そうですものね」
いつもに比べて空気が柔らかいというか、ふにゃりとしている。普段が澄まして座っている猫の様だとするなら、今は、日溜まりで融けかけている猫のそれだ。
(……これは、これで、かわいい)
普段はシッカリしている人が、朝だけボンヤリしているなんて、それはそれで良い、と。恋は盲目。
「今日は、夢見が悪かったのもあるが」
ポツリと、呟かれた言葉に、ピクリと顔を上げた。
「夢?……怖い夢とか、見ちゃったんですか?」
すると、金の瞳は一瞬、何とも言えない、笑いたいような、あるいは、何かそれ以外の表情を浮かべたいような色を見せて。
けれど結局、クスリと笑った。
「そんなところだ」
「……な、なんで笑うんです?」
何かおかしい事を言ったかと首を傾げると、いいや、と、今度こそゆったり、迷いなく微笑んで。
「今朝、お前がいて良かった」
優しい声に、ふと息が詰まる。
(ああ、そうだ、私、この人に)
もう片思いではないのだと思い出して、ふにゃりと緩みそうな顔を手で覆って隠した。
ドキドキとする心臓に、幸福な息苦しさがある。
「……アントワーヌさん」
「ああ?」
視線を上げて、小さく笑った。
「いえ、あの、お茶、もう一杯いれましょうか?」
本当は、何でもないけど、ただ呼びたかったのだと。そんなベタな事を自分がしでかす日が来るとは、思わなかった。




