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魔女と鉱石、帰還譚  作者: 空野
Chapitre.11
110/323

11-3

 「もしかして、いつも適当に乾かしてるんじゃないですよね……?」

 「いや、今朝は面倒で」

 お茶を煎れるついでに焼いたパンとベーコンと目玉焼き。ついでに昨晩余った野菜で作ったサラダと。 

 開き直って雪路が作った朝食を囲んで、そう問答した。

 「……朝は出来れば何もしたくない」

 「もしかして、朝に弱い人ですか?」

 「かなり」

 素直に頷かれて、軽く驚くと同時に、納得もした。

 「意外ですけど、そういえば、少し眠そうですものね」

 いつもに比べて空気が柔らかいというか、ふにゃりとしている。普段が澄まして座っている猫の様だとするなら、今は、日溜まりで融けかけている猫のそれだ。

 (……これは、これで、かわいい)

 普段はシッカリしている人が、朝だけボンヤリしているなんて、それはそれで良い、と。恋は盲目。

 「今日は、夢見が悪かったのもあるが」

 ポツリと、呟かれた言葉に、ピクリと顔を上げた。

 「夢?……怖い夢とか、見ちゃったんですか?」

 すると、金の瞳は一瞬、何とも言えない、笑いたいような、あるいは、何かそれ以外の表情を浮かべたいような色を見せて。

 けれど結局、クスリと笑った。

 「そんなところだ」

 「……な、なんで笑うんです?」

 何かおかしい事を言ったかと首を傾げると、いいや、と、今度こそゆったり、迷いなく微笑んで。

 「今朝、お前がいて良かった」

 優しい声に、ふと息が詰まる。

 (ああ、そうだ、私、この人に)

 もう片思いではないのだと思い出して、ふにゃりと緩みそうな顔を手で覆って隠した。

 ドキドキとする心臓に、幸福な息苦しさがある。

 「……アントワーヌさん」

 「ああ?」

 視線を上げて、小さく笑った。

 「いえ、あの、お茶、もう一杯いれましょうか?」

 本当は、何でもないけど、ただ呼びたかったのだと。そんなベタな事を自分がしでかす日が来るとは、思わなかった。


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