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秘密の関係



「うらぁ!」

 ズザザー!! とスライディングをしながら、目の前を走っていたそいつの足元に手を伸ばし、私は奴のバランスを崩した。

 引っかかれたりしないように両手で手をガッチリと掴み、そして胴回りを足でホールド。



「さぁ観念しやがれ!」

「ギニャーー!!」

「………」

 地面を転がりながら飛猫種を必死に掴む私を、ゼノファーがなんとも言えない瞳で見てきた。






「はい。ミーちゃん捕まえてきたよ」

「わぁ、ありがとう!」

 小さな飛猫種、ミーちゃんの主人である女の子に、散々暴れ回って疲れ果てたミーちゃんを持たせる。ミーちゃんはそれでも主人である女の子の頬を舐め、嬉しそうに喉を鳴らした。

 そんな彼女に手を振って、私とゼノファーは彼女の家から出る。街は相変わらず人混みが凄くて、気を付けていないと離れ離れになりそうだ。



「しっかし……、本当に雑用ばっかりだね、騎士団に来る要件って」

 ミーちゃん捕獲の依頼は、第三騎士団に寄せられた一般人の依頼である。本心を口にした私に、ゼノファーは苦笑いで返した。



「まぁ、第三騎士団は主に平民からの出だし、主に国民の為に作られているから」


 第一、第二、第二騎士団では、それぞれ役割が違う。

 第一騎士団は、王族の護衛、また王宮の警護が主である。よって、格式高い貴族が一般的となる。じゃあ何故貴族のゼノファーが第三なのかと言うと、使い魔が召喚出来なかったかららしい。世の中世知辛い。

 第二騎士団は治癒魔法が使える女性で構成されているので、病院などの役割を果たしているらしい。因みに、ここは無料で治療が受けられるらしい。前までは有料だったが、先々代の王様の代から無料になったんだとか。

 そして、第三騎士団は、言わば日本で言う警察のような存在だ。国民の為にパトロールをしたり、依頼を受けたり、事件を解決し犯人を逮捕する。とは言っても、アレイスターやロッシェのような上に立つ者が出てくる事は稀だが。 よって、第三騎士団は地方にも駆り出される為、発言力は低いが騎士団の中では一番人数が多い勢力なのだ。そしてつい今し方、私たちは騎士団に寄せられた依頼を一件片付けた所である。



「でも、セリカは部屋で休んでていいんだよ?」

「だから、それじゃあ暇で暇でしょうがないんだってば」

 隙あらば甘やかそうとするゼノファーに少しうんざりしてしまう。

 ゼノファーが警備や国民からの依頼で働いている間、私は本当にやることが無い。何せ、使い魔は大抵、主人から命令が下らない場合は気ままにくつろいでいるしかないのだ。

 読書などの趣味が無い私にとっては苦痛以外の何ものでもない。よって、私はゼノファーの仕事に付いて回る事にした。とは言っても、昨日魔戦が終わったばっかりなのだけど。



「まぁでも、これでミーちゃんの捕獲依頼は済んだし、帰って空飛ぶ練習しよう」

「セリカ、今日はダメだよ」

「え、何で」

 首を傾げる私に、ゼノファーが懇切丁寧に教えてくれた。



「セリカは大型の使い魔だから飛んでいい日と悪い日が決まっているんだ。他の使い魔を潰したりしないように。

国の規定によって、8メートル以上の使い魔は『大型の日』しか飛行訓練をしちゃいけないんだ」

「聞いてない!!」

 なんて面倒くさい!! 確かに、他の使い魔を下敷きにしそうになって『おっとあぶね』って事はあるかもしれないし、龍化した私はデカいけど、えぇ、なんか理不尽!!

 私が不機嫌になったのを察してか、ゼノファーが近くに売っていた林檎飴らしきものを買ってきてくれた。こ、こんな菓子一つで機嫌直すと思われたっ!



「その変わり、『大型の日』は8メートル以下の使い魔は練習出来ないし、大型の使い魔たちで編隊を組む練習も出来るよ」

「……まぁ、郷に入っては郷に従えと言うし」

 ここはこの国のルールに合わせるべきだと、ペロペロと林檎飴を舐めつつ頷いた。け、決して林檎飴一つで懐柔された訳じゃないんだからねっ!



「じゃあ、今日はもうやることないの?」 まだ日は高い。また首を傾げた私に、『まだあるけど……』とゼノファーが言った。



「本当? 何々?」

「夜間に、ロッシェ副隊長に呼ばれている」

「……」

 無性にいやな予感しかしない。







 真夜中。

 魔法石という、自ら発光する石があるお陰で真っ暗とはいかないが、それでも現代日本よりは圧倒的に光の数が少ない王宮の隅。ランプの形にされた魔法石を持った、ロッシェが立っていた。タバコを吸っているらしく、朱色の火が点滅するかのように淡く灯っている。

 そこには他の兵士たちの姿もあり、ランプを中心にヤンキーよろしく座り込んでいる姿は中々滑稽だった。



「来たよ。こんな時間になにするのロッシェ」

「え、肝試し」

 いい大人が何を……。と呆れた私である。



「第三の大型の使い魔を持つ空軍ばかり呼んで、どうするんすか」

 やや砕けた口調で、一人の兵士が口を開けた。ロッシェはニヤニヤと笑って、『だから肝試しっつってんだろ』と言った。いい大人が……。



「これから二人組のチーム作って、順番でこの塔巡回してこい」

 そう言ってロッシェが指差したのは、私たちの真後ろに建つ白亜の塔だ。だが、そこまで大きいものではない。せいぜい三階立て程度だろう。

 なんでこんな事を……、と首を傾げる私たちに、ロッシェは朗らかに笑った。


 

「実はここの警備担当の第一の奴らに賭けで負けちまって。二時間だけここの警備代われって言われたんだよ」

「「自分だけでやれよ!!」」

 ロッシェとゼノファー以外の全員の声が重なった。ゼノファーは無言のまま苦笑いをし、ロッシェはただ朗らかに笑うだけだ。



「上司命令だ。早くペア作れアホ」

 理不尽な上司命令に、だがグチグチと文句を言いつつみんな二人組を作っていく。その場慣れした雰囲気に、もしやこういった無理強いは一度や二度では無いのかも……、とげんなりしてしまった。



「ゼノファー、ペアいい?」

「ぁ、うん、いいよ」 

 他の兵士たちもみんなペアを作った。早速誰が先に行くかという時になって、さっきロッシェに話しかけた奴がニタリと笑ってしゃがみ込んだ。



「どうせだったら、怖い話でもして雰囲気だしましょうよ」

 そのふざけた提案に、周りも『お、いいね~』と乗ってしゃがみ込む。付き合っていられない。



「じゃ、私とゼノファーは先行くから」

「あ~? セリカ待てよ」

「いや!」

「はぁ……? んじゃ、お前ら先に怖い話してから行けよ、な?」

 何故かその場を仕切り始めたロッシェに促され、しょうがなしに私は口を開いた。




「じゃあ私も一つ、怖い話をしよう。ある所に、一人の女の子に恋をする、至って普通の男の子がいました。彼は思い切ってその女の子に告白をしたのですが、彼女は首を横に振り、『○○君はっきり言ってキモイ……』と言ったそうです。

男の子の心は傷つき、そして二次元の美少女たちに取り憑かれました……。おまいらの誕生である」

「こぇぇ!! 超こぇぇ!!」

「今未来の俺を見た気がする!」

「ヤバい、お前さては預言者か!!」



「その後、その男の子は三次元に恋が出来なくなってしまい、童貞のままこの世を去った……。童貞のまま死んでしまった彼の怨念が、私が住んでいた世界の晩婚化や少子化、結婚をしない男女の増加を進めているとかいないとか」

「その怨念強すぎだろ!!」

 ぎゃあぎゃあとギャラリーが騒いだ。うん、怖がってくれて大変結構だ。

 だが、ロッシェは肩すかしを食らったかのような顔で私を見つめてきた。



「それ……、怖い話か?」

「おまえら、かかれぇ!」

「イケメンよくたばれ!」

 ロッシェの呟きに反応した野郎共が、ロッシェに天誅を落とす為殴りかかった。リア充とイケメンに対する憎悪は全世界共通だと悟った瞬間である。



「いいぞもっとやれ!」

「セリカ、怖い話って、幽霊とかそういった類のものじゃないかな?」

 便乗して悪ノリする私に、ゼノファーの冷静な判断が下された。



「…………」

「……? セリカ?」 

『幽霊』と聞いて固まった私の変化に、ロッシェが仲間の拳から逃れつつ目ざとく感づいた。



「はは~ん、もしかしてお前、幽霊怖いのか?」

 ぴぴく、と体が動く。すると、新しい玩具を見つけたとでもいうかのように、それまでロッシェに殴りかかろうとしていた兵士たちがこっちに顔を向けた。



「……いや、だって、幽霊って切れないんだよ?」

「物理で考えるな」

 いやいやいや、だって、切れないんだよ? 撃退方法が無いんだよ? と慌てる私に、ニヤニヤと兵士たちが近づいた。止めろ貴様ら。何をする!










「……で、こそで奴は恐る恐る後ろを振り向いた。だがそこには何もいなかった。不思議に思ったそいつだが、背後から、緑に変色した、冷たい指が喉を掴んだんだ。『みぃつけたぁ……!』って女の声と共に」

「は? な、何それ。みぃつけたって、どどどこのN○Kだよどこのサボさんだよこら」

 若干震えているセリカの声を聞いて、俺は連れてくるべきでは無かったなぁと少し反省をした。

 真夜中、魔法石の明かりを中心に胡座をかいて座り込み、怪談話をする兵士たち。明らかにおかしいと思うのは俺だけだろうか。まぁ、ここにいるみんなはセリカを怖がらせたいだけなんだろうけど……。



「セリカ、大丈夫。幽霊なんていないよ」 

 すがりつくセリカを宥めるも、彼女の震えは止まらない。そしてその様子は、更に他の兵士を悪ノリさせた。



「俺が聞いた話にゃ、この塔には白い着物着た幽霊がいてだな」

「あと、ドラゴンに恨みを持つ幽霊とか」

「巷じゃあ、子供を誘拐する幽霊の話もあったなぁ……」

「……だ、大丈夫だし。いざとなったらニフラムで消えるし」

 などとブツブツ呟く彼女は明らかに怯えきっていた。流石にちょっと可哀相だ。




「おいお前ら、その辺でいいだろ。ほら、先にセリカとゼノファー行って来い」

「えぇやだ!!」

「上司命令~。ほらさっさと行け。それともあれか。セリカはろくに夜道も歩けねぇお子ちゃまなのか」 

「は、はぁ? ばばば、バカにすんなしやってやらぁ!!」

 最後に、ロッシェ副隊長がそう冷やかせば、セリカは震えながらも立ち上がった。ああ、もう……。




「セリカ。無理しなくても、俺一人で……」

「舐めんなバカ!! ゆゆ、幽霊なんぞ私の手にかかればイチコロだし!」

 負けん気が強いのか、セリカはそのまま塔へと入っていってしまった。

 俺の後ろで、他の兵士たちがにやついているとも知らずに。





「よし、先陣は任せた」

「はいはい」

 真っ青な顔して後ろから背中を押されればそう言わざるを得ない。俺は魔法石の灯りを頼りに見回りをし始めた。

 この塔は客人用の塔で、何室も部屋がある。昼間なら女王が愛するバラ園と美しい街並みが見え、夜には月を何にも邪魔されずに見る事が出来るらしい。

 現在は客人は一人もいないらしく、塔の廊下は暗くそして静まり返っていた。




「も、もういいんじゃない? か、帰ろうよ」

「いや、でもあと二階と三階あるから……。もうちょっと我慢して」

 ぎゅうと俺の服の裾を掴みながら歩くセリカに気を配りながら、さっさと部屋の点検をしていく。

 そして、一階が終わり、二階に行くために階段を上ろうとした、その時。




「みぃつけたぁ……!」

 野太い声が、後ろから聞こえた。

 まぁ、来るだろうと思っていた俺は、とりあえず後ろを振り返る。そこには、ただ魔法石を顔に近づけニタリと笑っただけという低クオリティーの脅し役(確か怪談話をしようと言い始めた兵士)が立っていた。

 なんというか、芸がない。呆れつつ声をかけようとしたら、




「きゃあああ!!」

 そんな女性らしい甲高い悲鳴と共に、残像すら残す程のスピードでセリカの右ストレートが発射した。




 猛烈な勢いの右ストレートは、その兵士の頬を僅かに掠り、背後の壁に突き刺さった。

 バガンッ!! という凄まじい音と共に、粉々に砕けた壁の破片がパラパラと落ちる。破片が地面に落ちるその前に、セリカは右の拳を抜き取り更に追撃しようと左の拳を固めた。



「ちょ、セリカ!!」 

「いぃやぁぁあああ!! 幽霊!! ニフラム!! ニフラムゥウウウッ!!」

 錯乱状態の彼女を羽交い締めにして、首輪を使って眠りにつかせる。がくっと力を失うセリカを何とか抱えつつ、俺は殴られかけ腰を抜かした兵士に目をやった。大丈夫かと声をかける為に。




 率直に言うと、濡れそぼっていた。主に、股関部分が。




「その……。ごめん……」

「……何も言うな」

 つぅ……、と、彼の頬に涙が伝った。

 かける言葉が見つからない俺は、とりあえずセリカの拳が掠った時に出来た頬の傷跡に、治癒魔法をかけてやった。







 次の日。


「あれから記憶が無いんだけど、いや~マジ怖かった」 

 朝の食堂でご飯を食べつつ、私は隣に座るゼノファーに愚痴った。昨日の見回りは、男の幽霊を見てから記憶が無い。



「ゼノファー大丈夫だったの?」

「大丈夫だったよ。セリカが気絶した後、その幽霊は……、うん、消滅した」

「そっかぁ。良かった~」

 きっと成仏したんだろう。安心してパンにかぶりつくと、『おい』という声と共に、ゼノファーの肩に誰かの手が置かれた。

 振り返ってみると、そこには、確か昨日の夜の集まりにもいた一人の兵士が立っていた。ブスッとした仏頂面で、ゼノファーを睨みつける。



「……分かってますよね。後生っスから」

「……墓場まで持って行くよ」 謎の会話をした後、その兵士は神妙に頷いて離れていった。




「……何事?」

「いや、まぁ、うん」

 お茶を濁すゼノファーに私は首を傾げ、さっきの、顔に小さな傷跡がある兵士の後ろ姿を見つめた。






ニフラム……ドラクエに出てくる敵を消す呪文。



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