可愛く異世界
チーズフォンデュ……
あぁ、何て素晴らしい響きの言葉なんだろう。
新鮮な野菜やその他諸々、自分の好みのものを塩っけのあるトロットロのチーズにくぐらせ、舌を焼かれながら頬張る。
「あぁ、これこそ至福の時ッ!!」
「……涼。こいつ大丈夫なの?」
「平常運転だ」
今俺達は下水楼で2つしかない大陸の1つ、チーズ大陸で一番発達している国、フォンデュへと向かって歩いてる最中。
…徒歩でな。
と、言うわけで体力が50メートル走を全力疾走して倒れこむレベルで皆無な俺は、千沙の山火事がおきてしまった村を出て早5時間、休みなく歩き通し……限界。吐きそう。
現実逃避だってしたくもなるだろ?
あぁ、暑い……。あれ疑似太陽なんだろ?のくせに暑い……。喉渇いた。
「んーんーんーー」
「ん」
「んっ。んっんっ…ぷはっ。あんがとー!」
地球での登校中に買った炭酸飲料をスッと目の前に出され、俺は遠慮なく飲み干す。
こういう何も言わなくてもわかってくれるのは、やっぱ涼だけだな。
以心伝心ってやつ?
例えばこれが出会って間も無い千沙になると……
「にしても、暑いぃぃペッ。砂漠なんてないはずペッのジャングルなのに何故かペッ砂がペーッペッペッ」
「それトレスティアルヘルでは流行りの口癖なの?」
「違うわいッ!!ペッ」
と、必死に口の中へと遠慮なしに飛び込んでくる砂達を追い出している俺の苦労のペッを流行り文句で遊んでいると思われる。
……涼がもう少し喋って俺の通訳してくんないかな。そしたら俺の奇行だと言われ思われてるその誤解も解けるんだけど。
チラリっ、と涼の方に視線を送るも目も合わせてくれない。その心の訴えを感じとったのか、今だに涼の周りをチョロつく雑草共が何かの尖った種子を全力投球で投げつけてくる。
地味にじゃなく痛い。わりと本気で。本気と書いてマジで。
「着いたわ。ここがフォンデュよ。」
「……優也生きてるか?」サスリサスリ
あ…死んでると小声で呟き胃の中の物をリバースなうの俺の背中を擦っている涼。
そして、例の藁タオルでこれでもかと俺の口元をガスガス拭ってくれる千沙。
ありがとう。痛い。ありがとう。
やめてください。ありがとう。
血が滲み始めたんだけど。あり……
「いってぇえええッ!!痛い痛い千沙さんっ見て!藁タオルも俺の口元も真っ赤に染まってるからッ!!」
「あら。トレスティアル人って肌弱いのね」
え、こちらの世界の方々はたわしで顔面擦られても傷1つつかないほどの強靭さなの!?敵にする気も戦う気もないけどッ!瞬殺…だな。
「涼、その馬鹿抱えてでも引きずってでもいいから早く連れてきて」
「涼様お願いします。抱えて下さい。」
これ以上の流血を避けるためなら俺は、卍ホールの下の世界の1番大きな国の門の前でだって親友に土下座する。
恥?そんなの最初から持ち合わせはない。
「土下座とかいらないから。血、拭けば?」
「…………」
…優しい言葉を投げかけているが、差し出しているのはあの顔面削りのタオル。
涼、さてはこの状況面白がってるな!?そうなのか?!いや涼にかぎってそんなことは……
「フッ」
面白いんだなッ!?!
このあと親友の不幸を嘲笑う涼に背負われながら抗議するも、『血をつけるな、この制服は高い』の一言に俺は、門をくぐり、フォンデュの中央にあるデカイ城の城門前で門番に職質されるまで黙ることとなったのだった。
チーズ大陸最大の国とだけあってフォンデュ国は何もかもがド派手だった。
フォンデュ国とその他とを分ける門をくぐった先に堂々と伸びる石畳の道は真っ直ぐに最奥のド派手な洋風の城へと向かっている。そのサイドには大きな横っ広いサンドイッチのような建物が整列し、それが層のように奥に向かって沢山あるようだ。
「ここにもプライバシーはないみたいだな…」
民家は全部横に繋がってるみたいだから、間違いなくお隣さんの色々な音が聞こえるだろうな。
俺絶対このフォンデュ国に住めないな。話し声も生活音もうるさいって、トレヘルでも2軒離れたご近所さんから言われるから。
ここじゃ国外追放、かな。
「なんでまた横長に家作ったりしたんだか……」
「上に地獄があるからよ。畏怖の対象からは少しでも距離をとりたいみたいね。トレヘルに行きたがってるのなんて私くらいよ。きっと……」
「あ、俺の略語使った」
「面倒くさくなったんだろ。…長いし」
「なーる!」
トレスティアルヘルって長いし言いにくいもんな。それにトレヘルのがなんか可愛いし?
「上が怖いから民家は全部平屋だったわけねぇ。で、その分横長になったと…」
よし、『チーズフォンデュ、サンドイッチ化の謎!』も解けたことだしいっちょこのド派手な城門こじ開けて、ド派手な城の中を見学といきますかッ!
「すり潰せぇえーーゴマ!!!」
「開けゴマだろ…。それすり胡麻になるだけだから」
ドサッ――
背後で何か倒れたようだ。涼が体ごと振り返ったので必然的に俺も見ることになる。
と、そこには尻もちをつき俺達を指差しながら口と目をあわあわと戦慄かせている千沙と目があった。ついでに千沙と手を繋いでいた為、一緒に地面に転がる羽目になった平喜とも目が合う。
……あ、どうも御愁傷様です。




