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side 優也
「着きました、此処が学生専用の寮で…おや?」
おや?じゃねぇよッ!!脚長すぎ、いや早過ぎんだろッ!
校舎と同じくらいの高さだから、多分5階建ての横長ーい小綺麗なマンションのような建物。その玄関らしき門の前で振り返ったマクアン神父は、やっと気付いてくれたみたいだ。
「死ぬ…ッ!もうダメ、もう1歩も動けねぇ…」
虫の息の俺に。
「これしきの運動で情け無いですね。ほら…行きますよ」
「えッ?!」
てっきり迷子生の引率は済んだ、とそのまま教会へと即座に帰ると思っていたが、まさかご丁寧に俺を寮の部屋まで送り届けてくれんのか?情け無いは余計だけど、案外良いとこあるじゃん!
…いや、不法侵入者の俺の正体を明かしたいだけか?どっちにしろ今の俺には要らん世話だが…
「送り届けてもらってありがとうございます。けどごめんなさい…マクアン神父。もう帰っても大丈夫です」
マクアン神父の機嫌を損ねないように、丁寧にお断りする。
が、どうやら御機嫌を損ねてしまったようだ。飄々としていた表情が険しくなり、群青の眼が寮の門前で仰向けに大の字で転がる俺を刺すように射抜く。
怖えぇぇ……ッ
「貴方はご自分の立場を理解されていないようですね。今のユウヤさんは聖域で女性を口説き損ねた…不審者で不法侵入者です。素性がはっきりするまでは同行させていただきます」
「ど、どうぞ。でも俺今動けないんですけど…。一緒に行くなら暫く待ってもらえると…えぇッ?!」
俺から視線を外し、少し考える素振りを見せた後、何を思ったのかマクアン神父までも俺と同じポーズをして隣に寝転がる。
マクアン神父の奇行に驚き顔だけ横に、見ていると視線に気付き顔だけをこちらに向けて何か?とでも言いたげな相変わらず何を考えているか分からない顔で言う。
いや、何か?はこっちの台詞なんだけどッ!
返答と対応に困っていると、フッと俺の顔に影が差す。
「……何してんだ、優也」
「りょぉおおうッ!もう訳わかんねぇんだけど助けて!!」
影の正体は図書館でお勉強をお持ち帰りしたらしい涼で、その手には数冊の本が抱えられていて、明らかに不審者を見る目で俺とマクアン神父を交互に見やっている。
まぁうん。言いたいことはよく分かるぜ涼。俺もこの神父の奇行にはほとほと困ってんだよ。
不審者は間違いなくこいつだ。
「訳わかんねぇのはお前もだ。寮から出るなって言っておいたよな?」
訝しげな顔から一転、涼から滲み出始めた黒いモノを収めようとなけなしの体力を使い、急いで立ち上がる。
「出るなって言われても、まだその寮にすら入ってないんだよッ!そこに転がってるマクアン神父のせいでッ!」
「それは心外ですね。私が今此処にいる羽目になっているのは全てユウヤさんのせいですよ」
…は?とますます怪訝そうに顔を歪める涼の横で、ゆるりとした動作で洋服の背面に付いた汚れを叩いているマクアン神父。
実はですね…、と教会での受付レイディへのナンパ失敗談から寮の門前で2人で寝転がるまでの経緯を、俺の許可なくつらつらと涼に話すマクアン神父に、俺の表情から血の気が引いていっているのが自分でも分かる。
怒られる…絶対に怒られるッ!!逃げるか?いや、逃げてもただただ見知らぬ場所で遭難するだけだ。
どうする、俺ッ!?
「…………優也」
マクアン神父の話を黙って聞いていた涼だったが、マクアン神父に向けていた視線をだんだんとこちらへと移り、完全に俺へと移行し終わったところで思っていたより落ち着いたトーンで名前を呼ばれた。
この先は聞きたくない。
俺は涼の視線から逃げるように後ずさるも、涼も同じだけ、歩みを進めて来る。そして俺が寮門に背を付け逃げ場を失って直ぐに追い付かれ、前後左右どちらにも逃げられないよう本を持っていない方の手で門へと押さえつけられた。
そのまま耳元へと顔を近づけ低音の心地良いヴォイスで囁かれた。
「……覚悟は出来てんだろうな?」
…俺の死に場所は此処のようです。皆さんさようなら、お元気で。




