2
「えっと…黒眼で右目隠れた黒髪の危なそうな人が優也で、灰色の眼に金髪のイケメンな方が涼ね。うん覚えた。よろしく!」
「その覚え方やめてーッ!!」
どうやらこの短時間で俺と涼は千沙の中ではそうインプットされたらしい。
まだ出会って1時間くらいしかたってないんだ。これからの俺を見れば容姿はどうしようもないが、性格はイケメンだということはわかってもらえるはずッ!
そして、この短い間で俺にインプットされた千沙は……
小さなお母さん。
「もう、平喜…体中煤だらけじゃない。ほらねぇちゃんが拭いてあげるからジッとしてて……。優也!」
「はいぃいっッ!何でしょーかッ!」
「優也もこっち来て。前だけ真っ黒よ。どうしたらそんな汚れ方するのよ…」
それは涼が俺の熱い友情のハグを受け流したからです。はい。
「平喜とまとめて拭いちゃうから草毟ってないで早く来て。あ、涼も頬に少し付いてる、よし取れた」
「…ありがと」
「どういたしまして!…優也、あんたはタオルで吹いても埒があかないからそこの小川にダイブしてらっしゃい」
「ええぇぇえ!?何で……って、ちょ、おい涼待て待てまてぃッ!!!」
「……ダイブ」
どばシャーん。
涼に肩に担がれ投げられた。
盛大な水しぶきをあげて顔面から着水した俺。小川という名の通り浅い川で水面で一回、川の底で一回、顔面を強打した。
ボタボタと流れる大量の川の水と鼻血。ハルは完全防水機能が付いてる為無事だった。
「あら綺麗になったじゃない。水も滴る……ゴホン。はいタオル。自分で拭きなさい」
不自然な咳払いに続き、乱暴に投げつけられる……藁で編まれたガサガサした四角いモノ。タオルのつもりか?
一応タオルとして使ってみようと頭に乗せてみた。
が、やっぱりというか、水分吸わねぇぇぇええ!!
これじゃただの……
「藁傘被った妖怪だな」
「だよなー。って俺の心読むんじゃねぇよ!!大体こーなったのも元を辿れば全て涼のせいなんだぞッ!」
「は?」
「『ハル』投げて火事おきて大炎上して木のつるで釣られて煤だらけになって川にダイブさせられたのも、全部ッ!」
「…元はお前がドジしてマンホールに落ちて俺を引きずり込んだからだろ」
「なんだとぉうぅ……ぎゅえッ!」
「今!卍ホールって言った!?ねぇ今卍ホールって!!!」
いえ言ってません、千紗さん。マンホールです、千紗さん。と、痛いですぅ、千沙さんッ!首、首締まってますぅ!酸欠で顔真っ青です。さすがの涼も慌ててます。
そして、ガクガク揺らさないで!脳震盪おきるって!頭グワングワンしてるからッ!!
俺、乗り物酔いとか結構激しい方なんで!!
涼が何とか千沙から解放してくれ、俺はひとしきりむせた後、落ち着いた千沙が異様に反応を示したマンホールについて聞いてみた。
俺は、ただ下水道から流されてきた俺達が珍しいだけなのか、そのマヌケさを嗤いたかったのかの二択だと思っていたが、そうではないらしい。
千沙から知らされたこの世界の常識、というやつにただただ驚かされた。
俺達の住む地球。
この世界、下水楼では地獄のような場所だと思われているらしい。って、ここの方が地下にあるんだけどな。
死んだ者しか辿り着けない、あるかも定かではない、地獄。
地球では、いい行いをしていた良い人間は天国へ。逆にそうでない行いをしていた悪い人間は地獄へ、というのがなんとなく染みついているものだ。
が、この下水楼の住人の考えでは少し違うらしい。
「死んだ者は全て罪人。良い人でも悪い人でも死んだら皆同じ…。みんな地獄へ送られるのよ」
あの卍ホールからね、と千沙は太陽だと思っていた2つの光るもののうち、鈍く小さくshineする方を指差しながら言う。
「太陽が2つ現れる時…地獄への道が開かれる。下水楼では2つ太陽が出ている間向こうの世界と行き来出来る、と言われてるのよ」
それがつい数時間前、現れたの。もう一つの太陽が…と深刻そうな顔で俯く千紗。まぁ、うん。マンホール検査員のおっちゃんがあけちゃったんだろう。
それはともかく、行き来…ってことは、俺達ちゃんと帰れるってことか。うんうん。それ聞けただけで俺は安心安心。
それにしても、あの小さい方の太陽ってマンホールの穴ってことだろ?ああ、こっちでは卍ホールだっけ。
ってことは、俺達が落ちたとき咄嗟に蓋を閉める器用さも余裕もあるはずもなく開きっぱなしにして来たせいで、向こうの光がこっちに漏れ出てるってことなのか?
……誰かが余計な気を使って閉めなきゃいいんだけどね。
そして、もう1つの太陽。千沙によると大きな方はどこからか投影されている擬似太陽なるものらしい。
地球の道を歩けば何十個と見かけるマンホール。その中の1つは下水楼という地下世界へと繋がっていたらしい。
……嘘だろ。今度から迂闊にマンホールの上歩けねぇじゃん。
「で、何でその卍ホールに過剰反応してたの?まさか俺達が地獄から来た使者だと思って騒いでた、とか?それならもっと褒めたたえてくれてもいーんだ…」
「こんな馬鹿そうなのが使者なわけないじゃない」
「…だな」
「賛同すんなッ!」
千沙の無表情のツッコミ、重ねて涼の納得したような頷き。
実際、地獄の使者…じゃないけど、下水楼で言う地球から(落ちて)来たのは間違いないのにこの扱い。
いや、ここは歓迎されていると思おう。
これは語尾に文字が隠された暗号なんだッ!!
「こんな馬鹿そうなのが使者なわけないじゃない(ユーモア溢れる素晴らしいお方に地獄なんて言葉似合わないわ!)」
「…だな(何しろ俺の自慢の大親友だしな)」
「賛同すんなッ!(そんな褒められたら照れるじゃねぇか…)」
よし、これで暗号の解読は終了した。
そうかそうか。千沙も涼も素直じゃねぇんだからー。
勝手に都合のいいように頭の中で改ざんされた会話に満足した俺は、平喜の苦しそうに咳込む声に驚き、その幸せな妄想を四散させた。




