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学食での食事も終盤になり、テーブルの上の料理もほぼ全てを2人で平らげあとはデザートを残すのみ。
勿論ここは店員さんを呼ぶベルも、呼び出しチャイムのソネット君もない。
なので必然的に大声で店員さんを呼ぶしかない…のだが、憎らしいことに涼は軽快に店内に響く指パッチンをキメ、角に小さく佇む店員さんがその意図を正しく理解してくれたようで急いで走って来る。
「…食後のデザート、頼む」
「かしこまりましたっ…!すぐにお持ち」
「もういねぇッ!!」
俺達とは一切目を合わせず、自身の台詞も言い終える前にその姿を厨房の方へと消した。
涼はともかく、俺何もしてねぇじゃん…。せめて俺とはアイコンタクトくらいはして欲しかったな、なんて。無条件で他人に嫌われるのって…クルものあるよなぁ。
落胆の視線で厨房へと続く戸の無い出入り口を見つめて数秒、両手に1皿ずつデザートを乗っけ持った店員さんが出てきて、サッと俺と優也の前にそれぞれ置くと次は残像も残らぬスピードで定位置の角へと帰った。
その動かぬ様はまるでこの学食という名のレストランのオブジェのよう…。
この世界樹学園には1ヶ月滞在すると涼は言っていた。1ヶ月であの店員さんを角のオブジェからレストランの中心の彫像くらいには仲良くなってやる、と密かに目標を立てた。
「涼。俺、ガンバるな!」
「…無理に頑張らなくていい。お前が無駄に張り切るとトラブルを呼び寄せる」
「なにおぅう!?俺はただ店員さんを涼の威圧から救ってやろうと…」
「どうでもいいが…デザートは約束通り貰う」
どうぞ、と別に惜しくも無いフルーツがふんだんに使った四角いケーキっぽい物が乗った皿を、涼の方へ押しやった。
そして2つになったケーキを味わうようにゆっくりと時折目を瞑りながら完食した。その間にした俺の今から何すんの?という質問はあっさりと無視して……
デザートに入る前に全ての疑問を解消すべきだった…という俺の後悔と、皿に唯一食べ残された渋い木の実だけが残されたのだった。
支払いは偽造学生証に搭載された機能、タッチ決済で済ませた。支払い元は多分千紗のパパさん。ただ今はお金を使うことに罪悪感など微塵も感じない…この遊び心満載の学生証のせいだ。
涼も同じ気持ちのようで迷いなく店員さんの持ってきた手のひらサイズの機械にタッチしている。…凄く生き生きしてんなぁ。
オウジとヒメを連れ店を出ようとする俺達に、あからさまな安堵の表情の店員さんに見送られ、機嫌の良くなった涼に先ほど無視された質問を再度ぶつけてみた。
「…寮へ行く」
「いいねぇ!これから1ヶ月の俺達の拠点…俄然楽しみだッ!」
「行くぞ」
そう言ってさっき入ってきた外へ通ずる扉を抜け、校舎沿いに右へと進んで行く。300メートルほど歩き、端まで来るとまた右へと壁を伝って歩く歩く…。程なくして校舎の裏手へと出て周囲を見回し、左側の質素な小屋の前で涼は立ち止まった。
おっ?校舎の中から行ったほうが近かったんじゃ、と気付いたか?
無駄に大きい建物だもんなぁ…それに土地勘も全く無い場所だし、揚々と活歩して迷ってたとしても恥ずかしくないぞ?
…プッ……いや、ちょっと恥ずい。十二分に恥ずい。
笑いを堪えながら涼の困り顔でも拝んでやろうと前に回り込んだ。が、涼の表情は想像していたものとかけ離れていてさすがの俺も少したじろいだ。
「りょう…?ど、どうした?」
「…ありえねぇ」
「そそ、そうだよな!迷った挙句、目的地の寮に辿り着けずただのボロ小屋に着けば驚くよなッ!!とりあえず受付に戻ってもう1回やり直そ?な?」
「ちげぇよ。…この小屋が寮だ」
「はぁぁああッ!?無理だろッ!!」
どう頑張ってもこの薄い木の板のみで作られたような小屋で寝泊まり出来るのはせいぜい10数人だ。とても全校生徒を抱えるにはキャパオーバーだろ。
品質も校舎の壮麗さを見るに雲泥の差だし。こりゃモンスターペアレント達も大義を得たと暴れ狂うこと間違いなしだ。
かくいう俺も今すぐ暴れ狂いたい。こんな小汚い小屋で1ヶ月も見知らぬヤツと雑魚寝寝泊まりなんて拷問以外の何物でもない。まずこの狭さじゃ小屋の中に入って眠れるのかすら危うい。
俺達の立場は1ヶ月の体験入学、みたいなものだし。本校の生徒達の方が立場は上に決まっている。
…お家に帰りたい。
「涼…どうする?」
「…抗議しに行く」
「そうこなくちゃ!俺達の安眠、安息の為に…いざ受付へ」
「…いや、叩くならトップだ。行くぞ」
小屋を親の仇のように睨んでいた涼がくるりと踵を返し、元来た道を早歩きで歩き始め早々に徒歩で追いかけることを諦めた俺は、オウジによじ登り先を行く涼のあとを追いかけた。




