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「…食え」
「はい…」
「お前じゃねぇよ」
へ?と素っ頓狂な声が口から漏れ出た。テーブルに置かれたツヤツヤと色鮮やかなオレンジ色の人参へと手を伸ばそうとしていた俺の手を涼に掴まれる。
てっきり騒ぎを起こした罰としてオウジ達と同じ食事にされると覚悟していた俺は、何の疑問も持たずに目の前の人参を食そうとしていた。ので、涼に止められたことに普通に驚いた。
「俺達が満足出来る料理、って店員に言ってたの聞いてなかったのか?お前が何やらかそうが…約束は守る」
「りょおおおぅッ…!」
「…それにその最高級の人参はヒメとオウジの物だ。横取りすんじゃねぇ」
冷ややかに言い放つ涼に、俺の熱くなっていた目頭も瞬時に冷めた。
俺の感動を返せこんにゃろう…ッ!!
待たせたな、と愛しそうに最高級の人参をオウジとヒメに与えている涼を睨みながらも、魔王からいつもの涼に戻ったことに密かに安堵する。
…機嫌の良さそうな今がチャンスだ。涼に聞きたいことは山ほどある。
「なぁ涼。このデタラメなポイントカードなに?」
「…ポイントカード?」
まずはこの疑問から片付けていこう。
俺の疑問に疑問系で返す涼は怪訝な顔をして視線を俺に移す。そして俺の差し出すカードを見て合点がいったようで、オウジ達に折角奪った視線を奪い返された。
なんか悔しい…。
「…それ学生証」
「風のポイントカードだろ?」
「何を勘違いしてる。本物の…世界樹学園の学生証だ。で、ここは学生用の食堂」
「え?コンカフェじゃねぇのッ!?」
「頭が痛くなってきた……」
そう言って俯く涼の顔は影のせいか、空腹で具合が悪いのか酷く暗い。
やっぱ一本ずつ貰おうぜ。最高級人参。
酵素取れて尚且つ、今から空っぽの胃にいきなり異世界の慣れない物入れるんだから、びっくりした胃の消化を助けてくれんぞ!
…他の食材のビタミンC壊されるおまけ付きだけど。そして異世界人参に同じ効果があるかもわかんねぇけどな。
目頭を抑え、痛みに耐えるように難しい顔をし出した涼に人参を渡そうと、テーブルの上の人参に手を伸ばすもヴィェエエエッと馬2頭に歯を剥き出し威嚇された為断念し、大人しく料理を待つ間に次の疑問の解消に移る。
「なぁなぁ涼さん」
「…………なんだい優也さん」
突如発症した体調不良により覇気はないが、一応ノってはくれた。まだまだ元気そうだ。
「俺なんで儚い感じの病弱設定女子にされてんの?」
「…奇病はお前の唐突な奇行の言い訳の為。実際さっき役に立っただろ?性別変えたのは…千紗の親父のささやかな復讐か、間に入った浩のせいだろ。…それに」
俯いていた顔を上げ、自身の尻ポケットからもう1枚カードを取り出し俺に見せる涼。その顔の険しさになんだと不安に思ったが、手に取りじっくりと涼の学生証を確認して納得した。
正直俺の学生証の方がマシだった。
性別蘭の女と男の文字の間にある・が歪み無い黒の円形で囲われていた。
「涼…お前……性別ひろこと同類になってんぞ。尾行蘭もひでぇな…ひろこの愛じ」
「それ以上口にすんなっ!あんのブリカマ野郎っ…次会ったら…殺す」
ついでに千紗の親父もシメる…と不吉な予告をする涼の顔色は先程よりも暗く、纏う雰囲気も恐ろしく極悪なモノになっていて、料理を運んできてくれた壁の花を決め込んでいた店員さんも残像の残るスピードで配膳を済ませまた定位置へと帰って行った。
Oh、ゲスイロウズニンジャーッ!!
「お、落ち着けよ、な?写真はそのままで良かったじゃねぇか!ほ、ほら料理来たぞ涼ッ!異世界飯だぞッ!!で、デザートはなにかな〜?俺のも食べていいんだぞ〜ッ!」
「…その言葉、忘れんなよ」
涼の纏うオーラが優しいものに変わり、テーブルの上に並ぶ肉や魚、野菜になんと米のような物まで。それらに埋め尽くされた料理の数々に手をつけ始める。
俺も久方ぶりのまともなご飯にワクテカが止まらない。試しにと1番手前にあった青魚の焼いたものに毒々しい紫色のドレッシングがかかったものに恐る恐るフォークで身をほぐし、口に入れてみた。
「うんーまッ!!涼、涼ってば!見た目微妙だけど魚美味いッ!食べてみ!」
「…、…ん」
余程お腹が空いていたのか、器用にスプーンとフォークの二刀流でスープと何かの肉のステーキを口に運んでいた涼に、毒々ドレをたっぷり付けた青魚をフォークに乗せて差し出す。
すると、一瞬毒々ドレに怯んだように固まったがそれでもパクリと食べ咀嚼したのち、瞳がわかりやすく輝く。
「…美味い」
「だろぉ!?」
甘味以外の物でここまで涼が嬉しそうに食べるのはなかなかに珍しい。
俺は甘い物から少しでも他に目を向けて貰うため、青魚の毒ドレがけを半分より気持ち多めに、大半が涼の胃袋へと消えたステーキ皿に置き、そのついでに肉を一切れ掻っ攫い自分の口へ放り込んだ。
「硬ぁッ!!この肉かたぁッ!!」
顎外れるッ、とワイルドな噛みごたえの異世界肉に悪戦苦闘していると、いつの間にかミントから出てきていた雑草共がせっせと俺の皿に件の肉を運んで来ている。
涼の皿から全ての肉を運び終えると、毒ドレと似たような色で三つ葉のような容姿の雑草C、ラッキーが見慣れた渋い木の実を添え、スキップ混じりに涼の元へ走り去って行った。
……肉の薬味にして喰ってやるッ!!




