7
爽やかな下水楼産の鳥の囀りで俺は目を覚ました。
その囀りはトレヘルの鶯に近い。下水楼は春だ。
そんなどうでもいいことに意識を飛ばしたくなる程の光景が俺の面前、ドアップに繰り広げられていた。
…爽やか過ぎるドアップの美形。昨日の夜の月明かりを受けた涼も腹立たしいほどにイケメンだったが、カーテンも無いこの部屋で同じベッドの間隣で擬似太陽の光を一身に浴びる涼も、軽く殺意が沸く程に綺麗だった。
こんなに陽の光が似合う魔王がいてたまるか。やっぱり魔王は涼じゃねぇ。
「おーい涼、あっさですよ「いつまで寝てんの?(笑)」でたぁぁああッ!!」
「おはようお寝坊なお客様?(笑)朝、話があるって言っておいたよね?(笑)」
もうお昼だよ?と黒い(笑)を惜しげもなく放出しているおじさんにやわらかい春の陽気など一瞬で吹き飛んだ。おじさんが突入して来たであろう俺達の宿泊部屋のドアが無惨に倒れる音がズンと内臓に響く。
「このドア代も、お願いね(笑)?」
「…はい」
涼、俺には分かったぞ。真の魔王はきっとこのおじさんだ。
「…うるさい……次は何をやらかしてんだ優也」
下で待ってるから(笑)とおじさんが言い残し去ってすぐ、涼がむくりと起き出入り口の破壊されたドアを一瞥し、在らぬ疑いの目を俺に向ける。
「これは俺じゃねぇッ!!」
全く失礼なッ。俺のことなんだと思ってんだか。
「…トラブル無限製造機」
「なにおうぅう!?」
暫くベッド上で、失礼な異名とドア破損の誤解を訂正させながら、今はこんな言い合いをしている場合じゃないとハッと気付く。
下の階では真の(笑)魔王が俺達を処罰しようと、舌舐めずりでもしながら待ち構えていることだろう。
今はこんな言い争いをしている暇も、何故涼が と同じベッドで寝ているんだおかげで身体バキバキじゃねぇかッ、と抗議している時間もない。早急に下階の(笑)おじの対処をしねぇとッ!
「…あぁ、そのことなら大丈夫だ」
「何がだよッ!!そして俺の思考と対話すんなッ!」
「…昨夜俺達には最強のバックが付いた」
「はぁ!?」
相変わらず説明下手だなッ!
謎の言葉を残し、さっさと椅子にかけてあった制服の上着を着て、身支度にベッドメイキングまでをパパッと済ませると部屋を出て行こうとする涼。
俺も置いて行かれないように急いでうわぎを羽織り後を追いかけ、階段をゆっくりと降りていた涼に合流した。
果たしてこの勝負?を制するのは余裕綽々の魔王の嫌疑をかけられている涼か、昨夜死の池に浸かり覚醒した(笑)魔王か……
決着はあっさりついた。
お話し合いが始まって10分、涼はある物を取り出した。昨夜の便箋だ。その中から1枚、便箋と同サイズの見知った商会名の入った紙を取り出し、それに数字を書き込みおじさんに渡した。
その瞬間、乗り移っていた死の池産の魔王はおじさんから抜けた。元両魔王はお互い悪どい満面の笑みで見つめ合っている。
気持ち悪っ。
その後出て来た朝ご飯は、机を埋め尽くさんとする豪勢なものとなった。正直食べるのが怖かったが昨日は馬と同じ食事しかしてなかった俺は、不自然な豪華さの朝ご飯に気付かないふりをしながら、それでも美味しく頂いた。
「いや〜すまないねぇ涼さん(笑)」
「…いや、迷惑かけたのは俺達だし。じゃ俺達急ぐんで」
「おうまた来てな(笑)」
「えぇぇ…?」
宿屋の玄関先、(笑)おじさんに背を向け軽く手を上げて挨拶を済ませるとヒメにサッと跨りこちらを見下ろしてくる涼。
その眼に急かされ俺もオウジによじ登った。
疑問は多々残したままだが、とりあえずは聖都リゾットの世界樹学園へ向けて地獄の疾走の再会だ。
「…オウジ、お手柔らかにね」
ヴィェエエエッ!ブルルッルル
軽快ないつもの嘶きを一声上げて走り出し、ものの数歩で自身のフルスロットルに到達したオウジは俺の悲鳴をBGMに先を走る涼とヒメを追い駆けた。
「お手柔らかにって言たのイテッ!!した噛んだッ舌噛んでッ血がぁあッ!!」
「『ミント』ヒールっ!」
ピッ…検索結果、こちらを表示します。
最先最悪だ……。
お家に帰りたい……




