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『やっと開けたのね。どうせ何かピンチなんでしょう?』
仰るとおりです、千紗さん。宿屋代、謎の機械破損代を払えずに明日、(笑)のおっさんに絞められそうなんです…。
はっきり言って俺達ピンチですッ!!
『同封したソレ好きに使っていいから。そのかわり、トレヘルに帰れる算段が付いたら私を呼びなさい。平喜の薬探しに、私もトレヘルに一緒に行くわ。…忘れるんじゃないわよ?さもないと』
ここで手紙は終わっていた。
千紗の手紙の結びの不吉さに怯えていると、手紙を朗読して聞かせていた涼がベッドから起き上がる。
「…ソレに賭けるしかない。便箋の中身何だった?」
「…なんだろ。見る勇気ないし、パス!」
ソレが気になって仕方ないらしい涼に千紗の手紙は手元に、中身をそのままにして便箋を渡した。
譲渡された便箋を受け取り、一切の躊躇なく中身を取り出す。どうやら文字が右から左へと何行にも渡って羅列しているらしく、何度も眼球を忙しなく左右に動かしている涼。
その真剣な表情に悪い内容なのか?と慄き、窓際で固まる俺。
30秒程この状態のまま静寂の時が流れ、目線を便箋から取り出した紙切れから俺に移された。
「…合掌。」
「が、合掌?……」
うーんと…なんで?
ベッドから降りて俺の隣に並んで星、月明かりが差し込む窓の外へと手を合わせる涼に習いその横で同じように手を合わせた。
行動の意味はよく分からない。が、合掌の先の俺達の不幸を肩代わりしてくれる人…ありがとうございます。
「…寝るぞ。明日もハードな1日になる。…ヒメとオウジには頑張ってもらわねぇと」
「俺は…!?どうせ明日も俺に無遠慮にヒール連チャンで掛けてくる気なんだろッ!?ヒール恐怖症になるくらいには完全にトラウマなんだけどぉ?!」
「そもそも優也、お前のせいでこんな国相手に逃亡旅する羽目になってんだよ、こっちは。そのくらい我慢しろ」
「えっ俺のせい?」
「…それマジで言ってんなら本気でシメるぞ」
涼の眼がマジだ。
しかし、分からない。俺別に国に追われるようなこと…したか?
俺の指名手配はとりあえずはノリスティン女王に見逃された?っぽいし、どっちかっていうと千紗の家に乗り込んで来てたキモうさ兵士は涼のこと探していたような…。
つまり、今指名手配中なのは涼?何罪で?
可愛くない罪…はないな。門前の俺みたいに、ごま的な呪文どっかで唱えちゃったとか?うーん、涼のそんなとこ想像つかねぇな…。
んー………
「涼、ごめん。お手上げ。結局何で追われてんの涼?」
「…マジか」
いや、そうだよな優也だったとブツブツとこちらに背を向け、若干距離を取られつつ、何やら馬鹿にされてる感が満載だが、ここは椅子に座り聴く体勢を整えつつ、涼の解説を待つ。
自分じゃ抱えきらない、解らない事柄に出会ったらとりあえず近くの人に助けを求める、これ生きる為のコツなりッ!
…但し、人は良く選ぶべし。これ大事。
「俺、魔王だから」
「ま、魔王…」
「…そう魔王」
完全に助けを求める相手間違ったな。余計に解らなくなった。
まぁ、完全に勘違いって訳じゃねぇけど、魔王。特に下水楼に落ちて来てからは頻繁に降臨してるしな。…主に俺にだけ。
「時に魔王涼様?いつから、どうやって魔王に?」
「…お前が紛らわしい歌熱唱して、店内で俺の半裸を公衆の面前で剥き晒したその日から…俺はフォンデュ国認定の魔王にされたんだよ」
「え、それってノリスティン女王とキモウサ兵士達の勘違いで片付いたんじゃねぇの!?…涼の上裸を無断で売った件は…ごめん」
チョコフォンデュ店での件は、チサっとタイキ商会の応接室で正座に土下座付きで散々謝ったのにまだ根に持ってたのか、涼ッ!
違う、お前の奇行は今に始まったことじゃねぇ、と謝罪の裏に隠した俺の悪どい思考を当たり前のように読み、前置きした後深刻そうな面持ちで静かに語り出した。
「…ただ今回の追い剥ぎはまずかった。あの店内にいたヤツらは俺の背中を注視して怯えてた。理由は解らねぇが背中の虎が…魔王に関係してるのは間違いねぇ…と思う」
「虎と魔王…」
トレヘルでは聞かない組み合わせに思案する。少なくとも俺が知ってるゲームや漫画、小説なんかでも虎と魔王がセットのモノは思い当たらない。
確かに涼の憤怒する姿はさながら魔王だ。時々見せる心無い言動も悪人ヅラも…魔王だと言われたらしっくりくるが、実際、魔王っぽくはあるものの涼は魔王じゃない。
氷属性かと思えば、俺の見ただけでもそれ以外に水に風、治癒魔法を当然のように使いこなしてはいるが、涼の普段からの多様性を見るに舞台が魔法のある世界に変わっただけだと考えれば特段不思議でもない。
それに、俺が涼をどう感じているかが問題ではない。
…フォンデュ国の国民が涼をどう捉えたか、が問題だ。
「涼…本当にごめん」
「…言っただろ。お前の奇行は今に始まった事じゃねぇ、そのフォローを完璧にするのが俺ってこともな。…優也はいつも通りやってればいい」
俺が尻拭い出来る範囲で暴れてろ、といつもの悪い笑みを浮かべる涼。擬似であろう月の明かりが照らすその笑みには普段の数倍の破壊力がある。
…うっかりと俺を涙目にさせるくらいの。




