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「…大丈夫か?」
「たいじょばない……」
顔面が腫れ上がっている。あの最っ悪のエンターテイメントショーの後、涼は何やら考え込んでいた様で、湖を出発して数十分。俺の顔の異変にやっと気付いたようだった。
顔にめり込んでいたトゲのある種子は全て馬上で取り除いたが、腫れが引かない。
…ただ、片手で手綱を持ちオウジに乗れるようになった。乗馬のスキルは向上していると思う。
「『ミント』…ヒール!」
ピッ…、探索結果こちらが表示されます。
「…ありがとう」
淡い光が降り注いだのち、顔の痛みがスゥっと消えていく。
俺の顔面を腫れ上がらせた張本人達は湖を出る前に『ミント』の中へ避難している。俺の仕返しが怖いのだろう。
うぉのれぇええ…悪知恵の働くヤツらめ……
「なあ、その雑草共永久にミントの中に封じ込めたり出来ないの?」
「…そんなに悪いヤツらじゃねぇよ。適当に相手してやれ」
「涼、さっき見たろ?俺の人相変わった顔面」
「…お前が余計なちょっかいかけるからだろ。それより、急ぐぞ。まだ予定の半分も来てない」
「えぇええッ!?もう無理だってぇえ…」
もう痛みも消えただろ、と言いヒメの走る速度を上げ始めた。
そういえばさっきの涼の回復魔法のおかげか、全身の痛みが綺麗さっぱり消えている。
さっすが涼ッ!!だけど、身体の痛みは治せても疲労が回復することはない。
そんなことはお構い無しに、ヒメに続き、オウジも連れ立ってスピードを上げ始める。その速さに直ぐに手綱を掴んでいられなくなり、フォンデュ国出発時同様、首に抱きつくオウジの付属品となってひた走る。
俺に限界が来ると、無情にも涼のヒールっ!の声が聞こえ、体力のみ強制的に回復させられ、辺りが暗くなり馬達が走れなくなるまで容赦無く駆けさせられた。
やっぱり、間違いなく、涼が魔王だぁッ!!
「痛い」
「…?まだ回復足りなかったか?」
「違う。心が痛い」
よく分からないと言った表情をしている涼。とりあえず痛がっているなら、ともう1度ヒールっ!をしようと胸ポケットに手を伸ばすので、その呪文はもう聞きたくない、と全力で止める。
…完全にトラウマだ。ヒールっ!恐怖症だ。
朝から陽が沈み今いる道端にぽつんとあった古い木造の宿屋に着くまで、湖での休憩を挟んだ以外の全てをオウジの上で絶叫しながら首根っこにしがみ付き、過ごした。
叫んだ際の喉の痛みも、その他身体の痛みもない。ただ、その他が限界だった。
部屋に備え付けの小さな2つのベッド。そのうちの1つに倒れ込んだ。その際、涼にそっちのベッドお前のな、と窓側のベッドに近付かないようにと念を押される。
そうですか、俺はバイ菌扱いですか。
布団から…太陽の暖かい…優しい匂いがする。
「…風呂、入ってくる」
「風呂…か」
「「はぁー」」
宿屋に入る前に見た風呂を思い出し、同一のタイミングでため息を吐く。
あんなの風呂じゃない。風呂であっていいわけがない。ここマンホールの下だし?ドラム缶風呂みたいに廃材をくり抜いたものに入るくらいの予想はしてたよ…?冷水風呂かも?くらいの予想もしてたさッ!
だけど、アレはない…ッ!
俺達が風呂の有無を部屋に案内してくれた気の良さそうな白髪混じりのおじさんに連れられ見た風呂は……池。脱衣所らしき物も囲いの柵もない、少し緑がかったただの、池。
救いといえば、池に入って汚れた体を流すためなのか、ゴツい機械に繋がった水力ハンパなさそうなホースがあることくらいだ。と、何用か分からない洗剤。
入らない、という選択肢もあるが涼が俺を菌扱いするくらいには馬達が巻き上げた砂埃で汚れているし、日中、有酸素運動をし続けて汗もかいている。
覚悟、決めるか…ッ!!
「行くぜーッ!涼!!俺たちなら…やれるッ!!」
「…やるしか、ない」
目を合わせ頷き合った俺達は、重い足取りで部屋を出てギシギシと軋む階段を降り、宿屋の裏手の自称露天風呂へと向かうのだった…。




