疾風の異世界
「ぎぃやあぁぁああッ!!」
「…うるさい」
俺達2人と2頭は、フォンデュ国入り口を明らかに入国した時より多くなったファンシーなキモウサ兵士達を馬達と蹴散らして抜けて強引に出国し、南の方へひた走っていた。
「う、馬に乗るのなんッて、やっぱりお、俺には無理だったんだぁぁあ〜ッ!!」
「…乗ってるってよりは、付いてる、だな」
隣を黒馬に乗って並走する涼の皮肉めいた言葉と嗤いに今は反応する余裕もない。白馬の付属品と化している俺は、振り落とされないようにただただ馬の首の根にしがみ付くことしか出来ない。
そんな俺を憐れに思ってくれたのか、速度を落として歩いてくれる白馬の王子様。
…あ、違うぞ。隣で同じ様に速度を落として歩き、あーぁ体力ない優也じゃ今日はここまでか、なんてため息ついてる涼のことじゃない。あれは黒馬に乗った魔王だ。
「今、俺の味方はお前だけだよ、オウジ」
ヴィェエエエッ!ブルルッルル
俺の白馬の王子様は、ゆっくりと歩きながら労りの嘶きで返事をくれ、更に首を上に持ち上げて俺が体を起こすのを手伝ってくれた。
大好きだ…ッ!!オウジッ!!
俺の馬嫌いをいとも簡単に払拭してくれたオウジには、感謝しかない。…オウジ限定だけど。横の涼を嬉しそうに跨らせている黒馬は乗せてもくれなかったし。
いつの間にか『ミント』から出て来ていた雑草共も黒馬の背で座っていたり頭に乗っていたりとリラックスモードだ。
…雑草共はよくて何で俺はダメなんだよッ!
俺の怨みの睨みはどこ吹く風、その後もゆったりとした歩調で歩く。
フォンデュ国を出て、馬達の全速力の駆けで1時間、お散歩調の歩きで追加の1時間。とうとう俺の体力は完全に尽きた。明日は間違いなく全身筋肉痛だ。
「りょう…俺はもうダメだ…。俺の最後の言葉だ……帰って俺の家族に冷蔵庫の奥底に…数日前に隠したところてん…腐ってるかもって伝えといて……」
「……自分で言え。もう少し行ったら湖がある。そこで小休憩にするから頑張れ」
ってか、隠すなよと呆れた顔をする涼。
しょうがねぇだろ。マンホールに落ちなけりゃ夜ご飯前のおやつに食べる予定だったんだから。隠さないと家中の誰かに食われるし。
涼に限界を訴えてから更に30分以上かけて、休息地の湖へと到着し、オウジから降りた俺は湖周りの草っ原に倒れ込んだ。
「どこがもう少し、だよッ!!もう無理だって言ったよなッ!?」
「…お前が馬で走れりゃ10分もかからなかった」
「くッ…」
「もっと言えば俺とヒメなら1時間で来れるな」
「ぐッ…」
更に追い打ちをかけてくる。返す言葉もない。
そういえば黒馬の名前…決まったんだな……
「…王子といえば姫だろ?」
「…あぁそうだな」
いつの間にか命名されていた黒馬の名前に、ツッコミを入れる気力も無いほど動かない俺の身体。…筋トレしよ。
うつ伏せで動けない俺の右横に涼が座る気配がした。反対には見えないけど多分このブルッルル感は俺の愛馬、オウジが休んでいる。
風が俺の後頭部の髪を優しく撫で、甘い花の香りを届けて消える…。それだけの静かな時間が過ぎて行く。涼は俺の体力の回復を黙って待ってくれている。…静かな空間は苦手だけど、今はそれが心地良い。
「…なぁ涼。魔法見せて」
10分くらいだろうか。体を起こせるくらいにまで体力は回復してきたが、面倒くさいのでとりあえず仰向けに寝直した。
ぼうっと空見てるだけってのも暇なので涼に暇つぶしの芸をお願いしてみる。
いきなり何だ?という顔はされたが唐突の思い付きはいつものことかと思い直したのか、胸ポケットから『ミント』を取り出す。
「『ミント』」
ピッ…はい、ご用件はなんでしょうか。
「…ウィンドフィールド」
ピッ…検索結果、こちらが表示されます。
『ミント』の了承の声のあと、俺たちを中心に半径100メートルくらいが薄い膜でドーム状に包まれる。
そして先程の心地良い風に代わり、業者用扇風機を間近でくらったばりの強めの風が俺達に吹き付け始め、さっきまでしてた花の甘い香りも一瞬で消し飛んだ。
そして何故か馬達は楽しそうに駆け回り始め、それに乗っていた雑草共は強風に飛ばされドーム内を縦横無尽に吹かし回されている。
…いい気味だッ!!
「はぁッはッはぁああッ!!これが日頃の行いの違いだ。ざまぁみやがれッ!!雑草共ぉおおッ!!」
暴風が吹き荒れる中立ち上がり、高笑いを繰り出す、俺。周囲は猛風だが俺の心は晴れやかだ。
よくやってくれた涼!最っ高のエンターテイメントだッ!
「チッ…魔力を込めすぎた…か?止めろ『ミント』!」
ピッ…承知致しました。実行します。
そして戻る静けさ。薄い膜のドームも消え、辺りにはまた優しく吹く風と花の香りも戻った。
ベスっー。
暴風の終わりと共に高笑いをして上を向いていた俺の顔に落ちてきた雑草A、ハッピー。物凄い殺意を感じる。
「…やべ、やめッ…」
ボシュシュシュっ!!
俺の必死の制止の命令など聞くはずも無く、至近距離で顔面に鋭い種子の雨を喰らった。
魔法の豪風にハッピーの種子の豪雨…涼の魔法は局所エリアの台風だったのか…ッ?!
「そんな余興頼んでねぇよぉおおッ!!」
走り逃げ回るうちにどんどん増殖していく雑草共。
涼にその辺にしとけ、の声がかかるまで俺は湖の周りの草原を逃げ回り続けたのだった…。
もちろん、回復し始めていた体力の全てを使い切りダウンして出発が遅れたのは言うまでもない。




