11
…遅い。遅すぎる。もうかれこれ30分は待ってると思うんだけど。…いい加減1人言にも飽きてきた。
「なぁなぁ、馬さんや。まさかと思うが…俺達捨てられたんじゃないよな…?」
ヴィェエエエッ!ブルルッルル
「そうだよなッ!俺達、愛されてるもんなッ!!」
ヴィェエエエッ!ブルルッルル
「わかるわかる…素直じゃねぇもんな、涼。何だ短い付き合いの割に良く分かってんじゃねぇか!」
「……何してる?」
関わり合いたくない、とひしひしと感じ取れる零℃の視線。ドアを開けて入ってきた音も気配も感じさせないのは流石だな。
「何って…なぁ?分かるだろ?」
「…お前がどうしようもない阿呆だというのは解った。」
「なにおぅうう?!そもそも涼が遅ー」
「いいから、着替えろ」
涼への抗議も遮られて放られたのは…俺の制服?
何でここに?それに新品のようだ。確かマンホールに落ちてすぐに前方のみ煤まみれになったはずなんだけど…?
疑問は多々あるが、とりあえず涼に急かされ急いで着替えた。
「浩の店で貰ってきた。預かってた優也の服で勝手に作ったんだと…何故か俺のも」
と、よく見たら涼の制服も汚れひとつ無い新品になっている。
でも俺のは手元に制服があったから作れたとしても、涼のはどうやってサイズ測ったんだろう?
「…浩曰く、私の瞳は観るだけで全てを見透すの♡、だそうだ」
涼の眼も俺の考えを見透す力があるんだな。ってか、ひろこの声真似上手ッ!!そんな特技あったのか!?
親友の新たな一面に驚きつつ、涼がやけに遅かった理由が判明した。小屋周りやその周辺を偵察しつつ、あのピンクな店に着替え確保に行ってくれてたんだ…。
1人であの…青髭ひろこの店に……
「その…色々大丈夫だった?」
「…あぁ」
涼の眼から光がスッと消え、弱々しい返事を返された。あぁ、やっぱり青髭の悪魔にねっとりと絡まれたんだな…お疲れ様。ありがとう。
制服…大事に着るな……
「その耳も外しとけよ。…次のとこで目立つから」
そういえばいつの間にか涼の頭部に馴染んでしまっていた犬耳も無くなっている。尻尾も。
勿体ない…とか今はどうでもいい。今、涼の台詞に気になる言葉があったような…?
「…次?」
「そう、次の目的地。……世界樹だ」
「世界樹!!めっちゃファンタジーっぽい!」
相変わらず短い説明に理由も分からねぇけど…面白そうッ!
やっぱり異世界と言えば、魔法に謎生物に世界樹だろッ!!今のところ魔法と謎生物についてはチェック済みだからな。
…楽しみだッ!
「よーっし!いこーぜ涼!」
「…お前馬乗れんのか?」
痛いとこついてくるな…。やっと白黒馬には近くで悩み聞いて貰うくらいは出来るようになったんだけど…。
いや、気合いだッ!やろうと思えばなんでも出来るッ!!
「やれば出来るッ!ふぁいとぉおッ!!」
「…不安しかない」
ため息を吐きながら、さっきの偵察中に調達したのか、いつの間にか持っていた肩がけカバンから人参を取り出し2頭の馬に与えている。
…いいなぁ、馬。俺もお腹空いた……
「…ほら」
俺の心の羨みが聞こえたのであろう涼が、こっちにノールックで何かを放って来たのを慌ててキャッチした。
かーっくいいー。
羨望の眼差しを涼には放り返し、今しがたキャッチした物を確認する為手を開いた…が、
「…何これ」
「…朝メシ」
「…とりあえずありがとう」
「おう」
俺の手に舞い落ちて来た物は…生の人参でした。
100歩譲って偵察中時間が無くて馬と同じ物しか調達出来なかったとしても、それは仕方がない。
…ただ俺には見えている。涼の口、右端に少量付いている照らった茶色い美味しそうなタレのようなもの。
くっそぉ、1人で偵察満喫しやがってぇぇ……
「許すまじぃぃいいッ!!」
「…バレたか」
チッと短く舌打ちをした後、バレた要因の口元のタレを親指で拭い口にした。こんな証拠隠滅する姿にすら色気を出しやがってッ!!
許すまじぃぃいいッ!!
「許すまじぃぃいいッッ!!」
「分かったから。次の街で美味い物食おう」
「約束だかんなッ!!」
バツの悪そうな顔をした涼に、次回メシの予約を取り付けることに成功した俺は上機嫌で、扉から白黒馬達を連れて出て行く涼の後を生人参を齧りながらスキップ混じりに追いかけたのだった。




