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side 優也
ヴィェエエエッ!ブルルッルル
「…ぎぃやぁぁあああッ!!う、馬の皆さんッおはよぉございますぅぅうッ!!」
俺の苦手なあの鳴き声が間近に聞こえ飛び起きた。
ほぼゼロ距離でばっちりと合ってしまった黒い馬、横に視線をずらすと白い馬のつぶらなおめめ。
こういう大型の動物と意図せず対峙した場合の対象方を俺は知っている。
待ってろ馬ッ!俺が渾身の……
「うわあやーらーれーたーーこれはもうだーめだーしーんーだーー」
ーぺしょっ。
…そして、迫真の台詞と演技で出来立てほやほやの死体が出来上がるさまを見せつけてやるッ!!
ヴィェエエエッエッ!ブルルッルル
「…ひぃい……」
おかしい。絶対におかしい。この方法は全国共通の認知度を誇る熊に出会った際の最も有効な手立てのはず。もしや下水楼産の動物には効果がないのか!?
「涼ッ!おい、涼ってば!!」
「…うるさい。朝っぱらから騒ぐな」
うつ伏せで死んだふりをしているせいで居場所を特定出来ないが、昨夜は隣で寝ていたはずだと記憶を辿り、必死に呼びかけた。
そして案の定すぐ近くからする睡魔で機嫌が悪そうな涼の声。
死体は出来立てなら首の90度くらい動かせるんですよ〜と、馬達にテレパシーを送りながら声がした方へゆっくりと顔を向ける、が……
…え?どこ行った?
確かに声は聞こえたのにその場所には太く長い藁の塊で、その藁の先端には涼の生首…まさか?!
死体に成りきっていた事も、すぐ近くに馬がいる事実も忘れて勢いよく立ち上がった。
「りょぉおおうッ!!喰われたのか!?やられちまったのかぁッ!?元に戻れりょぉおおうッ!!」
駆け寄り、唯一残っている喋る涼の頭部をガンガン揺らした。
「…チッ最っ悪の目覚ましだな…うるせぇっ!!痛えッ!!」
まだ眠いところ叫び起こされた怒りからか、最っ高の俺の美声目覚ましで起きれた喜びからか、寝起き10秒とは思えない素早さで立ち起き凄まれる。
その威圧感に一瞬怯むが今はそれより気になることが…
「涼…なんでミノムシ…?え?」
意味がわからない。何で数時間寝て起きたら親友が藁を纏ったミノムシに変身してんの…!?
目の前には眼で人を殺せそうな親友(上着が無いところをみると馬達に前菜として早急に食われたんだろう)が五体満足で俺を睨み殺そうとしている。
…ちょっと意味がわからない。
でも、良かった。物凄くお怒りみたいだが、とりあえず首から下がちゃんとあって。
慈しみの眼差しで涼を優しく見つめ返すと、急に寒気を感じたようで両腕を摩りながら距離を取られた。
俺のせいじゃねぇぞッ!白黒どっちかの馬が上着食ったせいで寒かっただけだからなッ!!
怒りのボルテージは下がったみたいだが…依然、距離は取られたままだ。
自分の精神充電をしているようで2頭のモノクロ馬を抱きしめたまま微動だにしない。
「あの〜りょう?聞いてもいい…?」
「……何?」
「えっと…何でミノムシ…?」
お伺いを立てるようにそっと涼に疑問を問う。
はぁ、とため息を付いて俺に後ろを見るように顎で指示を出してくる。それに素直に従い振り返るとその地面には、昨日猫メイドにされるまではほぼ毎日愛用していた俺達の通う高校の制服…の上着がしわっくちゃになって落ちていた。
…馬に食べられたんじゃなかったのか。
「…それ、お前に貸してたんだよ。寒そうにしてたから」
「りょぉおおおうぅ!!ありがとぉうぅッ!!」
馬達が涼を二頭占めしているせいで抱き付くことは出来ないが、せめて感動を伝えなければとお礼を言いながら自作の感謝感激の舞を舞ってみた。
そして冷めた目で俺の舞を見ていた涼に…キラン、のキメポーズにキメ顔を舞と共に奉納した。
「のんびりはしてられねぇ。…そろそろ行くぞ」
一瞬で話も視線も逸らされた。そして、外を見てくる、と言い残し小屋内はキメポーズキメ顔のまま固まった俺と馬達だけになった。
小屋に1人と2頭きりにされたことへの恐怖は今はない。残ったのは…虚しさのみ……
ヴィェエエエッ!ブルルッルル
茫然と固まったままの俺を憐れむかのような嘶きと共に向けられる2頭のつぶらな瞳。
「お前たち……いい馬、だなッ!」
…残念ながら抱きしめることは出来ないけどな。




