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ヴィェエエエッ!ブルルッルル
俺達の入室を歓迎してくれているのか、返事を熱烈な嘶きで返してくれたのは、真っ白と真っ黒の2頭の馬。いやに毛並みが良い。
狭い小屋の中で狭い木の囲いに入れられこちらを黒いつぶらな瞳で見つめて来る2頭。やめろ、そんな目で見ないでくれッ!でないと……スイッチが入ってしまう!
「…可愛い、な。」
「やめろぉぉおお!!」
俺の予想はズバリ当たってしまう。涼のスイッチが完全に入ってしまったようだ。動物愛護スイッチが…
素早い動きで2頭の馬に擦り寄り、うっとりした表情と優しい手つきで暫し馬を撫で回した後、思い出したように馬と同じような眼で俺を見る。
こっち見んなッ!!
「優也、連れて行こう。」
「いやいや、無理無理ッ!第一誰かの飼ってる馬だろッ!?勝手に連れてっちゃまずいんじゃ、ね!?」
「見ろ」
そう言ってその場にしゃがみ込み白い馬の足元を指差す。近づき涼の背越しに恐る恐る覗き込むと前足の蹄が大きくすり減っているようだ。
蹄から視線を上にずらすと足や身体の所々に柵に擦れたような痕もあり血が滲んでいる箇所もある。
「…毛艶の良さを見るに元々裕福な家の子で何かしらの理由で手放されたんだろう。前肢の蹄がこんなに欠けるまで前掻きして…ストレス溜め込んでたんだな……こんな環境でずっと……」
辛かったな、と両馬の横顔を慈しむように撫でる涼の姿に胸が詰まる。
確かにこの狭い小屋に繋ぎっ放しは可哀想、か。
「わーかった、分かりました!連れて行こう。でもどうする?怪我してるみたいだし…」
それを抜きにしても俺達は現在進行形でフォンデュ国の兵士を相手に絶賛逃亡中の身だ。
走れない馬を2頭連れて逃げられるのか?正直馬がいなくたってフォンデュ国を出られるのかどうかすら怪しい。
「せめてこの馬が怪我してなければ乗って逃げられんだけど…」
俺が乗馬出来れば、の話だけど…。
俺の言葉にハッと何か思い付いたのか頬擦りを止め、自身のズボンの左ポケットをせかせかと漁り出した。
「『ミント』!」
ピッ…はい、ご用件はなんでしょうか?
「ヒールっ!」
ピッ…探索結果、こちらが表示されます。
スタホ、ミントの機械的な声のあと眩い光を放ち小屋内は目も開けられない程眩しくなり、咄嗟に目を閉じた。
3秒くらいして目を開けて見回して見るもさっきと何ら変わったことはないように見える。
が、涼が白い馬の足元にしゃがみ込み前足を確認、そして全身、黒い馬の方も同様に確認して安堵した表情を浮かべた。
まさか……
「ーーええぇ!?やれちゃうのッ!?」
「千紗が使ってるの今朝方見たからな。…もう大丈夫だ」
「えぇぇ…」
良かったな、と両馬をそれはもう嬉しそうに撫でる涼に改めて思う。
「ポテンシャルたっかッ!!」
馬も怪我が治り、上機嫌で涼に撫でられていたが、そのうち疲れていたのかゴロンと横になって寝始めた。さっき涼が馬の囲いを全て取っ払ってしまったので眠れるスペースが広くなり快適そうだ。
一方俺はというと
ブルルッルル…ブルッ
「ひぃッ!」
「…大丈夫か?」
「な、なんとか…」
ブルルッルル…ブルッ
「ひぃぃッ!!」
外も暗いし、馬も寝たことだし、俺達も緊張の連続で疲労困憊だし、今日はこの掘立て小屋で一泊して明日の朝、馬に乗ってこの国を出ることを涼と話して決めたが……馬達のいびきがうるさい。眠れない。
それに俺昔から駄目なんだよ、自分より大きい動物…。
中学生の時、馬の餌やりをして人参と一緒に手を食われて以来馬は特に苦手なんだよ。馬との相性が悪いのか乗馬体験ではことごとく振り落とされるし……
とにかく、怖い。同じ小屋の中から響く馬の寝息すらも怖い。とにかく馬達とは距離を取って襲って来たら逃げられるように扉の近くで体育座りで待機する。
小屋内には馬、外には殺意満々のうさぎ…逃げ場はない。2日間寝てないのと怒涛の珍事件ラッシュに元々ない体力はもう底を突き破っているがこの状況じゃ眠れない…。
動物使いの涼の背の後ろ側ではあるものの、涼はリラックスモードでその辺にあったシートに寝転がり、俺は体育座りでガッチガチ。体力の回復スピードは見ての通り桁違いに違うだろう。
…お家に帰りたい。せめて大型動物に怯えなくていい場所に行きたい…。
「優也…とりあえず俺も落ちつかねぇし横になれよ」
「そんなことしたら俺、今日のあの馬達の夜ご飯にされちゃうだろッ!」
「…されねぇしあの子達もいらねぇよ、こんなゲテモノ」
「なにおぅうッ!?」
この不毛な言い争いもあくまで2頭を刺激しないように小声で行っている。
大声で俺をゲテモノ扱いした涼を小1時間は問い詰めたいが…馬が怖くて出来ない。
「…とにかく、寝ろ。怖いなら俺の背中に隠れて横になればいいだろ?」
「…おう」
ほら、と馬側に少し移動してくれてシートの上に俺の寝るスペースを作ってくれた。
涼の背中に自分の背中をピッタリとつけ、涼を馬が起きて襲って来た際の防波堤にして自分はいつでも逃げられるようにドア側を向く。
動物使いの涼のことだ。きっと馬達が俺を人参と勘違いして突進して来てもよーしよし、の言葉1つで手懐け俺が食料になることを防いでくれるはずだ。
「信じてるぞ、涼」
続けてありがとう、とも言おうとしたが急激に襲って来た睡魔に抗えずそのまま深い眠りへと落ちてしまった。




